【バックナンバーインデックス】


第14回:迷信だらけのデジタルオーディオ[特別編]


〜ドライブメーカー「プレクスター」に聞く、CD-Rの変化〜


今回、ご協力をいただいた、浅野氏、小林氏、植松氏(写真左から)
 Digital Audio Laboratoryの初回から第7回にわたり、音楽CDをCD-Rにコピーしたら音質は劣化するのかというテーマで記事を書き、読者の方々からも大きな反響をいただいた。その記事の中では、私の手元にある機材を使った実験結果を紹介していったわけだが、メーカー側はどのように捉えているのだろうか? CD-Rドライブメーカーとして評価も高いプレクスターに伺い、直接お話を聞いてみた。

 当日は、プレクスター株式会社 周辺機器部 販売促進室 植松 直人氏、またプレクスターの親会社であり、実際のドライブの開発を担当しているシナノケンシ株式会社の電子機器事業部 マーケティング部 浅野 浩寿氏、技術部 製品技術課 小林 照幸氏の3名にお話しをお伺いした。(以下、敬称略)。


■ CD-Rに焼くと、やはり音は“変化する”

藤本:AV WatchのDigital Audio Laboratoryにおいて音楽CDをCD-Rにコピーすると音質は劣化するのかというテーマで何回か連載してきました。この点について、ドライブメーカーであるプレクスターとしては、どのようにとらえていらっしゃるのでしょうか?

植松:基本的には、音質は“劣化する”ということではなく、“変化する”というのが正しいと思います。やはりマスターどおりに記録できるわけではないというのが要因でしょう。もちろん劣化は起きないというのが大前提です。記録の品位などによって性質が変わってくるというのはあると見ているのです。

 データそのものは劣化していないのですが、音楽のCDの場合、最終的にアナログに変換する必要があります。その変換の仕方によって品位が変わってくることがあるのです。個々の詳細については、これからお話しますが、いろいろな要素があり、1つ1つの条件が異なることで音質が変化と捉えています。

 つまり音は変化するが、データはエラー訂正などで、同じデータにはなるため、劣化はしないといえます。



■ 40倍速リッピングで15万秒以上エラーの出ないドライブ

浅野:まず、その要素を考えるポイントとして、CDを作るプロセスを3段階に分けて整理します。まず第1段階は音楽CDをCD-ROMドライブを通じてキャプチャし、WAVファイルへと変換すること。第2段階はそれをCD-Rドライブでライティングし、CDを作ること。そして第3段階はそのCDをプレーヤーを通じて再生し、音を鳴らすということです。

藤本:では、順を追ってお話いただけますか?

浅野:現在、私どものCD-Rドライブでは16倍速の製品が最高速となっています。この16倍速で音楽CDをオンザフライで正確にバックアップできるドライブは、プレクスターのドライブに勝るものはないと見ています。その要因の1つが第1段階のキャプチャについてです。

 読み出し時においてビットbyビットでピッタリ合う正確性と、ズレが生じないという2つがポイントとなります。

藤本:ここでいうズレというのは、先頭に入るスペースということですよね?

浅野:その通りです。この読み出し性能のテストについては、社内において他社のドライブを含めいろいろとやってきました。高速で吸い出した場合に、ちゃんとできるものはほとんどなかったんですよ。実際にテストを行なうために、独自にテストプログラムを作りました。

藤本:テストプログラムというのはどんなものなんですか?

浅野:DAE(Digital Audio Extraction)テストというもので、CD-Rドライブから音楽トラックを長時間、連続的に読み出すものです。読み出しはそのドライブの最高速度で行ない、読み出した結果、エラーが発生するまでどのくらいの時間がかかるかを測定するプログラムなんです。そのプログラムを使った結果、プレクスターの「PX-W1610TA」という読み出し速度40倍速CAVのドライブでは15万秒でした。

植松:正確にいうと、15万秒やってもエラーが出なかったので、そこでもう止めました。

藤本:PX-W1610TAということは、最近行なった実験なんですか?

浅野:ええ、これは今年の2月ごろに行なった実験です。名前を出すと問題がありますので伏せますが、某国内メーカーA社の書き込み16倍速、読み出し40倍速のCD-Rドライブと、某国内メーカーのB社の書き込み12倍速、読み出し32倍速のドライブで試したところ、短いと16秒とか30秒で落ちてしまったんです。

藤本:プレクスターの15万秒に対して、他社のドライブは16秒とか30秒っていうことなんですか?

浅野:そういうことです。詳しくいうと、A社のドライブは最短で16秒、最高で7,200秒、B社のドライドライブでは最低で30秒、最高で1,800秒という結果です。

藤本:ものすごい違いですね。でもここでいうエラーというのはどういうエラーを指しているんでしょうか?

浅野:まあ、正確にはエラーではないですね。C2フラグがたつまでの時間です。これはベリファイエラーがおきることを意味しています。


■ なぜか、標準速の音がいい

藤本:なるほど、では次の書き込みのフェーズに関してはどうなんでしょうか?

浅野:ライト性能については、まずライトしたものをCDテスターにかける、ということをしています。ここでC1、C2エラーとジッターがどれだけあるかをテストしました。A社の16倍速と、プレクスターの16倍速をテストした結果、C1、C2およびジッターともにPX-W1610TAのほうがよく、音も結果として、うちのもののほうがよかったのです。これはいったいどういうことなんだろうか、と考えてみたんです。

 実は、我々も音については、C1/C2エラーやジッターを減らすことで、結果的に音質が上がるという認識でした。そのため、書き込み速度や、メディアの違いによる音質の違いについては、今までそれほど真剣に意識してはいませんでした。

 実際、今年の第1四半期までは、音楽CDも高速で書いたほうが音がいいと思っていたましたし、そのように説明してきました。というのも、現在販売されているメディアも、高速での書き込みに最適化されています。ドライブ側も高速での書き込みに重点をあててきたからです。ところが、社内にいる音楽好きのメンバーは、標準速と16倍で書き込んだメディアでは、標準速のほうが音がいいというのです。

 それは、なんで? ということになったのです。いろいろと突き詰めていくと、「ライトの品質が音に左右しているようだ」と。もちろん、まだ確定的な結論がでているわけではないのですが、そんなことが見えてきたのがここ2、3ヶ月のことなんですよ。

藤本:ということは、音がいいという評判のプレクスターさんも、これまで書き込みという点においては、音に対して特別な基準とか規定を作っていたわけではないんですね?

浅野:社内の製造における段階では、ジッターとかオーディオキャプチャについては非常に厳しい規定を設けてきました。他社がどうしているかはわかりませんが、オレンジブックの基準内に入るというだけでなく、それ超える厳しいものとなっています。それが結果として音がいいということになったんじゃないかなと思っています。

藤本:とはいえ、各社さんともエラーが起こらないドライブを作るというのは大前提になっていますよね。では、最初にもおしゃっていたように、データは変わらないのに音が変わってしまうとういのはなぜなんでしょう?

浅野:C1エラー、C2エラーというけど、CDにおいてはエラーは出て当たり前です。いずれの場合もC1エラー訂正、C2エラー訂正が行われてデータ的には正しいものになるのです。もしC2エラー訂正でだめだったら、はじめてCUという形でデータエラーとなります。

植松:まあ、C1ですべて訂正できるべきだというのが、一般的な考え方になっています。でもC2エラーが出たらいけないかというと決してそうではない。C2ポインタで修正できれば基本的にOKであり、データ上問題はないんです。

藤本:もう一方のジッターについてはどうなんでしょうか?

浅野:ご存じの通り、書き込んだ結果にピットとランドがありますよね。3T〜11Tといわれていますが、そこでのジッター値が35nsec以下というのがレッドブックの規定です。3Tジャストでればジッターゼロといういことになりますが、そうはいかない。

 では、これが35nsec以下であればいいのかというと、そうでもないらしいのです。この値によって音がだいぶ変わるようなんです。正確な数字は公表できませんが、ある数値以下になるととほとんど音の違いがわからなくなってくる。この辺を我々の経験値からある値を導きだして、自社基準にしています。ただ、マスタリングをしている人たちにいわせると、もっと小さい値がいいともいうのですが……。

 では、ジッターが大きいとどうなるか? もしくはC1が多いとどうなるか。これについては小林から話をしてもらいましょう。


■ なぜ、音がかわるのか?

小林:C1、C2もエラー訂正されるので、データ的にはなんら問題になりませんし、ジッターも同様です。ジッターが大きい結果、C1やC2というエラーにつながっていくものですからね。最終的にエラー訂正できなかったときに、CDプレーヤーは補正するようになっています。こうなれば音に影響を与えてくることはあるでしょう。

 藤本さんも記事の中でいろいろと実験をされていましたが、データとしては劣化はしていなかったですよね。それでも音が違って聴こえるということはあったのではないでしょうか?

藤本:先日の実験では、私自身ほとんど違いはわかりませんでしたが、今までには確かに違って聴こえることはありました。

小林:我々もいろいろ実験をしていて、データでやれば1ビットの狂いもない。でも音で聞くとかなり違いがでる。標準速か16倍か、どのドライブメーカーか、古いレコーダーで作ったものと新しいもの……、データでみると同じなのにどうしてか音が違う。やっぱり最後はアナログ段に原因があるのかな、と。

 プレーヤーの構造を考えると、まずデジタルの信号をディスクから読み出します。この際、サーボなどのメカを通じて行ない、取りだした信号をデコードしてデータ化し、DAコンバータにより、最終的なアナログ回路へたどりつくという構成になっています。この中で、C1やC2というエラー訂正をしたりするわけです。

 ここにいろいろな要素がでてきます。まずディスクがそのものどうなっているか。たとえばディスクの偏心であったり面ブレがあると、データで読み出すときのパターンの見え方が違ってきます。それによって、消費量電力が異なり、サーボにも影響を与えてくると思うのです。

 サーボと一言でいってもスピンドルのためのサーボ、フォーカスサーボ、トラッキングサーボとあり、それぞれのモーターに、電源から駆動電流を与えることになります。またデコード時にも電流の消費量に違いが出てきます。C1が少なければ、電流は食わないのでC1が少ないほうがいいとなります。

 最終的に信号はアナログになっていくわけですが、通常のプレーヤーには電源が1つしかなく、それぞれの回路に電流を流している。要はサーボ側で電流をいっぱい使うと、アナログに影響を与えることになります。

藤本:ということはC1、C2エラーやジッターが直接音に影響を与えているわけではなく、それが原因でサーボの動作が頻繁になり、結果としてアナログ回路に影響が出てくるというわけですね?

小林:その通りです。品質の悪いディスクだとサーボがいろいろと動き、電流を食うというか、電流の変化が激しくなる。面ブレなど物理的におかしいディスクだとやはり電流を食いますね。ほとんどのCDプレーヤーでは電源が1つなので、それがアナログ部に影響するのでしょう。

藤本:では、電源を切り分けて、DAコンバーター以降を切り離したら問題ないということでしょうか?

小林:そうですね。これでほとんどが解決すると思われますが、それでも違いが出てくるようです。その理由ははっきりしないのですが……。ただ標準速と16倍での違いの原因は、やはりサーボからアナログ回路へ与える問題が大きいようです。

 ではライターによってどうして音が変わるのか。記録品位が同じところで、書き込みの品位をどうやって高めていくかということです。そこでうちが突き詰めていったのが、書く側のスピンドルサーボです。ここで、いかにジッターを揃えるか、あるいはジッターをなくすか。ピットの形成をしっかりさせることによって、再生でのジッターがなくなるだろう、と考えています。


■ それでも、音は変化する!

藤本:それでも標準速と16倍では音が違ってくるわけですよね。標準速の場合、どんな違いが出てくるんですか?

浅野:書き込みジッターは標準速だと小さくなることがわかっています。ただ、ゆっくり回すので、書き込みはなかなか難しいのです。ジッターは減るが、安定度が悪くなり、C1エラーが多くなる。したがって、モーターのトルクから見て、8倍速あたりがおいしいところで、今年のはじめまでは、音楽CDでもこのおいしいポイントがいいと思っていたんです。

藤本:つまり、C1、C2エラーが音質に影響を与えるすべてではないということですね。

浅野:その通りです。これはドライブ側だけでなく、メディアに対してもいえることです。C1の数が多いもの、少ないものでは、少ないものがいいように思えますが、CD-Rの品質が影響を及ぼすこともあります。

 たとえば業務用のプリマスタリング用のあるディスクではC1が1,600個、一般のあるディスクではC1は1,100個でした。ところが聞いてみると、プリマスタリング用のほうが音がいいのです。これはウォブル(溝)を強化し、より精密なものになっているためだろうと思われます。つまり、C1やC2が少ないことが即、音がいいとはならないのです。

藤本:やはり、本当に奥が深いんですね。しかも、作っているメーカー自身も、なぜ音が変わるのか100%解明できているわけではないというのも、不思議なところです。


 というところで、聞きたいことはすべて聞き終わってから、他社のドライブで書き込んだものや、書き込み速度を変えたもの。さらには市販されていない非常に高価なマスタリング用ディスクに書き込んだものなどを聴かせてもらった。

 そうしたところ、確かに違いがある。ここで使った機材は超高級機というわけではなく、中級程度のCDプレーヤーとヘッドフォンの組み合わせ。もっとも、この違いもウォークマンタイプのプレーヤーやラジカセで聴いていたのではわからない程度ではあるのだが……。

 当初1時間程度の取材のつもりだったが、こうした試聴時間も含めると結局3時間近くも話込んでしまった。メーカーですらも、ユーザーと同じ視線で悩んでいることがわかり、非常に有意義なインタビューとなった。

□プレクスターのホームページ
http://www.plextor.co.jp/home.html

(2001年6月11日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.