【バックナンバーインデックス】


第19回:デジタル時代のノイズリダクション


~ その3: 安価なパッケージソフト3本を試す ~


 ソフトウェアで実現するノイズリダクションのシリーズの3回目。今回は市販の比較的安価なパッケージソフトを用いて、どの程度ノイズが除去できるのかを試してみたいと思う。今回とりあげるのは「MP3 Magical Washer」、「Clean! 1.5」、「EasyCD Creator 5 Platinum」の3本だ。

 今回も素材として用いるのはAreareaの「愛のあかし」という曲に、ヒスノイズ、ハムノイズ、クラックルノイズのそれぞれを合成したもの。

 【Arearea】マキシシングル:唄わなきゃ
 AreareaはRINO(ボーカル)、YUKI(ピアノ)の2人からなるポップスユニット。7月1日に2枚目となるCD『唄わなきゃ』をリリースした。3曲入りの、このマキシシングルは全曲ピアノ、ボーカルのみのシンプルな構成ながら心に染みる作品に仕上がっている。

Arearea (C)REALROX
http://www.arearea.net/

【今回実験に使ったサンプル】
【オリジナル】
約469KB(original.mp3)
【オリジナル+ヒスノイズ】
約472KB(hiss.mp3)
【オリジナル+ハムノイズ】
約472KB(hum.mp3)
【オリジナル+クラックルノイズ】
約472KB(cracle.mp3)

 前回は新井清嗣さん作のシェアウェア「WAVclean」、「WAVhum」を用いてそれぞれヒスノイズ、ハムノイズを除去する実験を行なった。その結果、微妙にノイズが残ったり、音質に若干の変化が生じることはあったものの、かなりきれいにノイズを取り除くことができた。

 その結果は、カセットテープにDolby Bをかけて行なうノイズリダクションは当然のことながら、Dodby Cやdbxをかけるよりも遥かに効果的。アナログ時代と、デジタル時代のオーディオの違いをはっきりと見せつけられるものだった。


■ WAVclean/humのパッケージ版!?「MP3 Magical Washer」

MP3 Magical Washer
標準価格:6,800円
 今回取り上げる1つ目は、アンリアル開発の「MP3 Magical Washer」だ。アンリアルは、以前MP3のエンコーダのシリーズで取り上げた「THE LEGEND of MP3」のメーカーでもあり、MP3に関していろいろと取り組んでいる国内のソフトハウス。

 このソフトもやはりMP3のエンコーダソフトなのだが、単なるエンコーダではなくノイズリダクション機能を装備している。パッケージを見ると「汚れたMP3、WMA、WAVなどのサウンドファイルを、ボタン一発でキレイに洗濯します。洗濯前、洗濯後のサウンドを聞き比べて、微調整も可能です。また洗濯最中にリアルタイムで洗濯後の音を聞くことができ、洗濯の失敗を防ぎます」とある。

 ここで、おやっ? と感じるのがノイズリダクションを洗濯という言葉で表現していること。そう、前回のWAVcleanやWAVhumと同じ表現だ。また、洗濯できるノイズの例を見ると、以下のようになっている。

 で、パッケージをよく見てみると、「技術提供:有限会社イクスクラ」とある。やはりWAVclean、WAVhumを開発した新井さんが絡んでいたわけだ。新井さん本人に確認してみたところ、「WAVclean、WAVhumのDLLをMP3 Magical Washerに提供しています。ただDLLのバージョンが微妙に異なるので、WAVcleanやWAVhumと完全に同じ結果になるわけではありません」とのこと。

 なお、今回は取り上げないが「MP3 Magical Washer」ではノイズリダクション機能のほかに、サウンド加工機能としてフェードイン、フェードアウト、重低音強調(バスブースト)、ノーマライズといったものも装備。MP3に加えてWMAへのエンコード機能も持っている。

 というわけで、実際に試してみることにした。起動してみると、なんともシンプルな構造。洗濯のところはヒスノイズ用の「アナログモード」というパラメータと、ハムノイズ用の「デジタルモード」という2つのパラメータが並んでいるだけだ。

 それぞれで試してみた結果、クラックルノイズにはまったく効かなかったので、対象をヒスノイズとハムノイズに絞った。ヒスノイズはアナログモードの強さを50に、ハムノイズはデジタルモードの強さを35に設定している。結果を聞いてみてどうだろうか? WAVclean、WAVhumでの実験と若干パラメータは異なるが、比較的近い結果になっていることがわかる。WAVhumがバージョンアップ中で新規ユーザー登録中止中である現在、MP3 Magical Washerを購入するというのも1つの解決方法だろう。

【MP3 Magical Washerの効果】
【オリジナル+ヒスノイズ】
約472KB(hiss.mp3)
【アナログモード 強さ50】
約472KB(w_hi_50.mp3)
【オリジナル+ハムノイズ】
約472KB(hum.mp3)
【デジタルモード 強さ35】
約472KB(w_hu_35.mp3)

 なお、私の手元での作業はすべて44.1kHz、16bit、ステレオのWAVファイルで行なっている。しかし、結果を簡単に聞くことができるようにMP3に変換している。そのため、若干音質が変わっている面もあるが、雰囲気はこれでだいたい伝わると思う。なお、MP3へのエンコードは他のソフトと揃えるためFraunhofer IIS製のものを用いており、MP3 Magical Washerのものは使用していない。


■ ヨーロッパで人気の音楽CDライティングソフトClean!を使ってみる

Clean!1.5
標準価格:9,800円
 さて、次に試してみたのはドイツSteinbergのCDライティングソフト「Clean!1.5」。Steinbergはコンピュータで音楽制作をしている人なら誰でも知っている「CubaseVST」という、MIDI&オーディオシーケンスソフトを開発しているメーカーであり、Clean!もそのCubaseVSTの開発で培われた技術が使われている。

 このソフトは「B's Recoder GOLD」や「WinCDR」といった汎用のCDライティングソフトとは異なり、音楽専用のソフトとなっており、特にヨーロッパでのシェアは高い。できることはWAVファイルやMP3ファイルを取り込み、リアルタイムでのノイズ除去、イコライザなどの各種エフェクト処理をしながらの再生、CDライティングをすること。またFraunhofer IISのエンコーダを搭載しているので、最終生成をCDではなくMP3にすることも可能だ。

 イコライザは8バンドのものが搭載されているのだが、気になるノイズリダクションはというと、下記の8つのパラメータが用意されている。それぞれオン/オフの設定ができるほか、0~100の強さ設定が可能となっている。

 上から4つのノイズリダクション機能について、マニュアルを見ると次のようにある。

 それぞれの音源に対して、どのような値を設定すればいいのか、ちょっと難しそうだが、自動設定というボタンも用意されている。これは入力したデータを自動的に判定し、最適な設定を探し出してくれるというもの。「強く」、「中位」、「弱く」の3つが選べるので、とりあえずデフォルトの弱くの状態で、ヒスノイズ入りの音源を入れてみたところ、音飛び/帯電ノイズ除去が15、レコードノイズ除去が45、テープノイズ除去が9という設定となった。しかし、その状態で生成してみると、さっぱりノイズは取れていない。そこで「強く」に設定してみたところ、それぞれ25、55、20となり、だいぶきれいになった。

 しかし、試したファイルは基本的にヒスノイズ。そこで手動でテープノイズのみ80の設定で処理を行なってみたところ、よりよい音になったように思う。

 一方、ハムノイズに関しては自動設定で行なっても、手動で行なってもほとんど除去することはできなかった。つまりClean!はハムノイズには対応していないと考えていいだろう。では、WAVclean、WAVhum、MP3 Magical Washerでは対応していなかったレコードのクラックルノイズはどうだろうか? このパラメータを見る限りは対応していそうだ。

 そこで、まずは自動設定で行なってみたが、あまりいい結果にはならなかった。しかたないので、音飛び/帯電ノイズを除去、レコードノイズを除去、レコード低域ノイズを除去の3つのパラメータを試行錯誤した結果、音飛び/帯電ノイズを除去90、レコードノイズを除去60という設定で、そこそこの結果を得られた。

 やはり、素材データを作る際に、クラックルノイズの入れ方を激しくしてしまったので、除去が難しかったのかもしれない。普通にレコードから録音した音ならば、もう少しいい結果になったと思う。

【Clean!1.5の効果】
【オリジナル+ヒスノイズ】
約472KB(hiss.mp3)
【デフォルト 強く】
約472KB(c_hi_au.mp3)
【テープノイズ除去 80】
約472KB(c_hi_80.mp3)
【オリジナル+クラックルノイズ】
約472KB(cracle.mp3)
【音飛び/帯電ノイズ除去90、レコードノイズ除去60】
約472KB(c_cl_96.mp3)


■ Easy CD Creator 5 PlatinumのSoundStream Ver2.01を使う

Easy CD Creator 5 Platinum
標準価格:11,800円
 そして、今回最後のソフトは、Adaptecの子会社として新たに誕生したroxioからリリースされた「Easy CD Creator 5 Platinum」だ。ご存知のように、このソフトは汎用のCDライティングソフトであり、長い歴史を持つソフトだが、強力な音楽関連の機能も備えている。

 最新のバージョンであるEasy CD Creator 5 Platinumでは、各機能を分離独立させた統合ソフトの形に仕上がっていおり、その中のサウンド処理機能が「SoundStream」というソフト。なお、Webにあったアップデータを用いて、アップデートを行なった結果、Ver2.01となった。

 このソフトには、イコライザとエフェクトという2つのサウンド処理機能が装備されており、エフェクトとしては、以下の3つがある。

 特に、「クリーニングレベル」、「ポップ音の除去レベル」にはその設定レベルの調整が可能になっており、「ノーマライザ」はチェックボックスによるオン/オフのみができるあ。

 また、ヘルプを見ると「クリーニングレベル」、「ポップ音の除去レベル」に関して次のように書かれている。

 そこで、多少手探りながら、3種類のノイズの入ったデータを読み込ませて、処理させてみることにした。結論からいうと、まずハムノイズはどのように設定してもダメで除去することはできなかった。ヒスノイズはクリーニングレベルを70%程度の設定にしたところ、かなりクリアになったが、出だしのところのノイズが残ってしまうのがちょっと気になった。

 一方、クラックルノイズはやはり強すぎたためなのか、なかなかきれいにはとれなかった。が、ポップ音の除去レベルを80%程度に設定した結果、まあまあ満足できるものになった。

 実は、「Easy CD Crator 3」の頃にこのエフェクトを用いてLPレコードからレコーディングしたものをノイズ除去したことがあるのだが、その時はかなりうまくいった。12インチシングルでしか発売されていない曲だったので、それをCDに焼く際に用いたのだが、これは今でもときどき聞いている。これが、元がレコードとは思えないほどいい音になっているので、実際のレコードをキャプチャした場合にはもっといい結果になると思う。

【Easy CD Creator 5 Platinumの効果】
【オリジナル+ヒスノイズ】
約472KB(hiss.mp3)
【クリーニングレベル 70%】
約472KB(ec_hi.mp3)
【オリジナル+クラックルノイズ】
約472KB(cracle.mp3)
【ポップ音の除去レベル 80%】
約472KB(ec_cl.mp3)



 以上、今回は3つのソフトを試してみたがいかがだっただろうか? ヒスノイズはいずれも処理できたが、ハムノイズ、クラックルノイズはソフトによって対応はマチマチ。やはりどんなノイズであるかを確認した上でソフトを選択することが不可欠だ。

 今回は、比較的安価なソフトを取り上げたが、次回はもう少し高価なソフトを取り上げ、その差を見てみたい。

(2001年7月16日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.