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第7回:クローン人間が実現しそうな今だから
切なく美しい未来「ガタカ」

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 見逃した映画をDVDで見る幸せ

ガタカ
(GATTACA)
価格:3,800円
発売日:'98年12月24日
品番:SDD-25239
仕様:片面1層
収録時間:約106分(本編)
画面サイズ:シネスコサイズ(スクイーズ)
字幕:英語、日本語
音声:1.英語(ドルビーデジタル5.1ch)
   2.英語(ドルビーサラウンド)
   3.日本語(ステレオ)
発売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

 今回は、少々古め(?)の作品をご紹介。日本では'98年4月に恵比寿ガーデンシネマで封切られたので、既に劇場公開から3年半が経過している。DVDも、3年近く前の'98年12月24日クリスマスイブに発売された。移り変わりの激しいDVD業界で今さら感もあるのだが、やはりDVDを紹介していく中で個人的に絶対に外せないタイトルの1つなのだ。

 ガタカは、公開当時の評価も結構高かったように思うのだが、あまり世間的には話題にならないまま、1カ月程度でフェードアウトするように劇場公開が終了してしまった。なので、見逃してしまった人も多そうな映画。

 実は、この映画、個人的にも公開前の予告編とPR番組をTVで見て、その映像とストーリーに魅せられて、「絶対見るぞ!!」と思った。しかし、そのころ忙しくて、気づいたころにはすでに、劇場公開が終了していたという、悔しい体験がある。

 ということで、ガタカは、DVDが再生できる環境を手に入れて、2~3枚目に購入したディスク。こういった大作でなく、興行成績もそれほどよくなく、見逃してしまった映画を自宅で見られるのが、DVDの良いところ。

 体細胞クローン人間すら作ろうという人間が現われた現在だからこそ、もう一度見直したい作品である。


■ ストーリー

 “そう遠くない未来”。DNA繰作による優秀な遺伝子を持った「適正者」(Valid)が、自然な出産で生まれた人間を「不適正者」(In-Valid)として支配する世界。

 皆、子供は産む時には、当然のように、受精卵の段階で検査し、遺伝子を操作し、振り分け、なるべく“よい"受精卵を選んでいた。

 そんな時代に、ビンセント(イーサン・ホーク)は自然受精で生まれた。産後すぐに行なわれたDNA検査で、数々の欠陥の可能性を認められ「不適性者」の烙印を押される。そして、ビンセントの両親は、ビンセントの“失敗”に学び、受精卵の操作をして「適性者」の弟アントンを産む。

 ビンセントは幼い頃から宇宙に憧れ、宇宙飛行士を夢見ていた。しかし、「不適性者」ではかなわない夢。彼は自分の運命を変えるためDNAブローカーの紹介で、エリートの適性者でありながら、事故で両足の機能を失ったジェローム・ユージーン・モロー(ジュード・ロウ)と取引する。彼になりすまし、宇宙ロケットを飛ばす宇宙局ガタカ(GATTACA)の局員に潜り込む。

 ビンセントは、ガタカ内で行なわれる血液や尿などによるDNA検査をすり抜けながら、「適性者」の名に恥じない優秀な成績を保ち、タイタン探査船の航海士に選ばれる。しかし、その出発間近に上司が何者かに殺される事件が発生する。その捜査の中で、ささいな遺留品が見つかり、そのDNAからガタカにそこにいるはずのない「不適性者」のビンセントがいることが突き止められる。そして、ビンセントは、徐々に追いつめられていく……。


■ 美しく現実味のある未来の風景

 この映画の最大の特徴として、未来を描いているのに、登場する衣装や、建造物からある種のノスタルジーを感じることがある。スマートな宇宙時代風のデザインは避け、今の時代と明確に関連を待つ世界を描いている。

 監督・脚本は、CM出身でこれが映画監督デビューとなるアンドリュー・ニコル。ガタカを撮影するにあたって、監督は「未来を一から構築し、デザインできないのだったら、過去や現在のベストな部分を拝借して、それを未来に持ち込む方が良い。そうすれば、あまりに未来未来した社会にはならないと思う」と語っている。

 そして、ガタカのコンピュータルームと、メモリアルホールには、フランク・ロイド・ライトが'50年代にデザインしたマリン・カウンティ・シビック・センターが使われている。バラ色ではない未来世界を描くために必要な、舞台装置だったのだろう。

 音楽は「ピアノ・レッスン」などでも有名なマイケル・ナイマン。衣装は、「シザーハンズ」、「マーズ・アタック!」のコリーン・アトウッド。統一された世界観のガタカに、眼と耳の両方から入りこめる。

 また、登場人物の中でほとんど唯一の女性といっていい女性局員「アイリーン」を演じる、ユマ・サーマンが、非常に美しく撮られているのも印象的だ。(ちなみに、実生活ではイーサン・ホークと夫婦関係にある)。


■ SFサスペンスなのか?

 あらすじをだけだと、なんとなく推理モノのサスペンスのようでもあるが、はっきりいって殺人事件の話しは、かなりどうでもいい感じの展開で犯人が捕まる。また、遺伝子差別といったテーマも、ガタカが初めてというわけではなく、目新しさは少ない。

 ではガタカの何がいいのか? 作品としては、「こんな社会になってはダメだ」というメッセージを伝えたいのだと思うのだが、あえてそういったセリフをほとんど織り込んでいない。声高に叫ばず、その抑制したセリフ、展開が心地よい。

 それぞれの登場人物は、「何かが間違えている」と思いながら、懸命に与えられた社会状況を受け入れ、社会を変えようという人はいない。きっと、差別というのは、そうやって定着していくのだろう。人間は、区別を含む差別が好きな生き物だと再確認する。

 そういった状況の中で、ビンセントと、ビンセントに協力し自分の将来を売ったモローとの間に、友情ともいえないような連帯感が芽生える。そして、モローが選択した自分の人生の決着。実際のところ、この映画の中で最終的に幸せになった人がいるのだろうか……。

 この映画では、説明的な部分が省かれているところが多い。それは映像特典のカットシーンを見てもわかる。だからこそ106分に収まり、小気味好く展開する。


■ よくできた5.1ch

 DVDとしては、画面サイズが16:9よりさらにワイドなシネスコ。画質は無茶苦茶キレイというわけでもないけれど、必要十分なもの。今回、改めてフロントプロジェクタのワイド80インチで観なおしたら、やはり大画面でみる映画だと思った。4:3の直視管で見るとシネスコープなのでかなり小さくなるので、できる限り大画面で見てほしい。

 音声は、英語についてはドルビーデジタル5.1chと、ドルビーデジタル2chのドルビーサラウンド収録。ただ、日本語吹き替えがステレオなので、吹き替え派の人にはチョット残念かも。ストーリーからもわかるように元々ハデハデな音響がたくさん入っているような映画でもないので……。と、思ったら、5.1chでは海のシーンの波の音、電気自動車が高速で行き交う音、宇宙船の打ち上げシーンなど、ちゃんと音に取り囲まれる雰囲気がでていいて気持ちいい。意外にもサラウンド効果の高いソフトだった。

 DVDならではの特典として未収録シーンや、メイキングが入っている。それはいいのだが、特典には吹き替え音声はもちろん、日本語字幕も入っていないし、英語字幕すらもない。なので、私の英語力では1回見ただけでは、内容が理解できませんでした。せめて、英語字幕が入っていれば……。それに、未収録シーンの画質がものすごく悪い。本編より特典の画質が悪いのは普通だが、これは一瞬DVDプレーヤーが壊れたのかと思うぐらいにひどい。ここまでひどいのは初めて見た。

 しかし、この未収録シーンにも、なぜカットしたのかと思うような印象的なシーンが多いので必見。特に、最後のシーンの後に入れる予定だったであろう、コーダ(終結)のメッセージ性は高い。これを最後につなげば、きっと一般受けはしたんだろうけど、個人的にはあえてカットした監督の英断に拍手したい。どんな内容かは、自分の目で確認して欲しい。

 こういったカットされてよかったというシーンも、DVDとなって映像特典としてみることができて初めてわかること。DVD万歳!! である。


■ どうでもいい話しを最後に

 新聞やTVでも混同されることが多いのが遺伝子とDNA。遺伝子とは、概念的には遺伝形質を発現させる因子、または遺伝情報を伝える1つの単位。要は、タンパク質(アミノ酸)を作るために使われる区画のDNA配列ということになる。

 で、DNA(デオキシリボ核酸)は、A(アミン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)の4種類の塩基で構成される。なお、RNAではTの代わりにU(ウラシル)が使用される。つまり、人間ではDNAとは、23対の染色体に入っている塩基対全体または、個別の配列をさし、その全体の塩基対の中で機能しているものを限定して「遺伝子」と呼んでいる。「遺伝子 = DNA」ではない。ちなみに、DNA全体にしめる遺伝子の領域は約5%で、残りの95%は機能してない(その領域をジャンクと呼ぶ)といわれている。

 まあ、それはそれとして、この作品のタイトルGATTACAは、DNA配列からきていることは安易に想像がつく。そこで、この配列から作られるアミノ酸を考えてみるが、塩基は3つで1セット(コドン)として翻訳されるので、7文字のGATTACAを翻訳してもあまり意味がなさそう。とりあえず、GATはアスパラギン酸、TACがチロシンとなる。

 ガタカで描かれている世界は、「DNA配列あるいは遺伝子で、それほどまでに未来を特定できるのか」という点でかなりの疑問はある。それに、遺伝子を研究している人のほとんどが、遺伝子がその人の人生に影響を与える割合はかなり低いと考えている。

 しかし、現実社会でも遺伝子差別はすでにハンチントン舞踏病などで問題化している。もちろん、差別はダメという認識をほとんどの人がしていると思うが、ガタカの描く世界でも遺伝子差別は違法、だけど実際には行なわれていると設定されている。

 現在の差別問題を見ていても、違法となったとしても、遺伝子で差別されないとう保証はどこにもないだろう。そして、遺伝子診断は特定の疾患ではすでに実用化されており、その技術はものすごい速度で進歩している。ガタカが、遺伝子分野の学術誌「Nature Genetics」(Volume 17, Number 3 - November 1997)でも評価されているように、人間がもう一度立ち止まって考えるのに適した素材だと思う。


□ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのホームページ
http://www.spe.co.jp/
□製品紹介
http://www.spe.co.jp/video/dvd/9905/SDD-25239.html
□「GATTACA」のホームページ (英文)
http://www.spe.sony.com/Pictures/SonyMovies/movies/Gattaca/home.html

(2001年9月25日)

[furukawa@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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