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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第29回:力ずくで4連射「Super Samplerを買う」
~ めちゃめちゃ楽しいフィルム遊び ~


■ 単純素朴な写真の楽しみ!

 写真という映像記録メディアほど、長いあいだ人に愛されてきたものはないだろう。人の姿や風景を捉えるのならば、本物と同じように動く動画でそのまんま記録したほうが良さそうである。なのに、映画やビデオの発明で、動く映像を記録することが可能になった現代においても、写真というメディアは廃れることなく存続し続けているのはなぜか。

 当たり前のことだが、写真は動いているものを止めて見せるからこそ面白く、たった一瞬の映像であるが故に永遠なのである。

そして写真を撮る、ということはほんのちょっと前まで、

撮って→現像に出して→見て→みんなで楽しんで→アルバムに貼る

という一連の流れすべてを含んでいた。ところがデジタルカメラの出現以来、

撮って→見る

 というところまで、圧縮されてしまったような気がするのである。

 もちろん仕事で使う分には、デジタルカメラは写真としてまさに革命的な便利さを提供してくれたわけだが、ことプライベートで撮ったデジタルカメラの写真は、撮ってその場で見て終わり、という感じになっていないだろうか? せっかく止めた永遠の時間が、一度ちらっと見ただけで電子の藻屑となって消えてゆく。それではあまりにも虚しい。

 プライベートで撮る写真は、極端に言えば「遊び」である。遊びだから、楽しくありたい。旧来のフィルムによる写真が持っていた、できあがった写真を袋から取りだす時のドキドキ感や、撮った写真を見るためにもう一度集まってお酒飲んだり、「この写真イイね。ちょうだい」と言われた時に感じる高揚感、そういった写真にまつわる楽しみって、このところとんと自分のまわりでもほとんどなくなってきているような気がするのである。

 もっと写真で遊んでいいんじゃないか? そういうものを物色していたところ、面白いものを見つけたのでご紹介しよう。ロシア製カメラ「LOMO」の販売を行なっているLomographic Societyから登場したユニークなカメラ、それが「Super Sampler」である。

 Super Samplerを語る前に、LOMOが一体なんなのかわかっていただけないとSuper Samplerの味もわかっていただけないと思うので、ちょっと簡単にご紹介しておこう。

不思議な魅力を持つコンパクトカメラ「LOMO LC-A」
 この左の写真のカメラ、通称「LOMO」で通っているが、正式な型番は「LC-A」という。もともとはロシアのカメラであるが、なぜかウィーンで人気が出たのをきっかけに、そこを中心として世界中にばらまかれることになったコンパクトカメラである。

 オート全盛の昨今としてはイタいぐらいに必要最小限の機能しかなく、ピントなんか目測だ。そして撮れる写真はというと、ピンぼけあり手ブレあり四隅は暗くなりと、一見いいとこなしのように思えるが、LOMOで撮った写真はどこか'60年代風のノスタルジックな味がある。素朴な安らぎを覚えるのだ。

 そしてたったこれだけの機構しかないくせに、この写真の雰囲気は他のカメラで狙っては作れないのである。

 こんなLOMOの何が面白いのかをしっかり飲み込んだ上で新たに作られたカメラが、今回紹介するSuper Samplerというわけだ。


■ 限りなく原始的

 あくまでも「コンパクトカメラ」であるLOMOと違って、「SuperSampler」はいわゆる「トイカメラ」というポジションにある。なんせ本体にフィルムが1本付いて5,800円なのである。色はシルバーと黄色の2色。

 そんなおもちゃのカメラのどこが面白いかというと、ボディにヤツメウナギのような4つのレンズが付いていて、これでフィルム1コマに対して、4分割で連射ができるところ。形もデザイン的に無理がなく、結構かわいい。おもちゃだとわかっていながらも、欲しくなる形をしているところがニクい。WEBで見て気に入ったので、早速購入。LOMOもそうだが、このカメラは普通のカメラ店に行ってもまず置いてない。東京近郊では青山ブックセンターで比較的簡単に手に入るという、まあちょっと妙な販売形態なのである。

 さて写真で見るとそうでもないかもしれないが、実物を目の当たりにするともうおもいっきりチープ。一瞬とてもガッカリする。絞りやフォーカス、シャッタースピード調整も何もない。ヘタすると5,800円でこれってどーよ的後悔さえ感じる。

 さらにビューファインダはゴムでできた割と情けなげな、ただの四角い穴である。もうカメラとしてはギリギリだ。こんなテキトーでほんと撮れんのか? という不安が脳裏をかすめる。

意外に大きなSuper Samplerのパッケージ カメラの構造としては、これ以上ないぐらいシンプル ファインダは単なるゴム穴。画角に合わせて横長である

Super Samlerの内部。4つのレンズ間に仕切りがある

 まあついでだから撮影する前にちょっとSuper Samplerの中身を覗いてみよう。フタを開けると、構造的にはカメラとしての最低限の要素は持っているのがわかる。つまりレンズがあり、フィルムを入れるところがあり、巻き上げ機構がある。

 小さいながらフィルムカウンターもある。4つのレンズは中できっちり仕切られ、お互いの光が干渉しないようになっている。

巻き上げは、下のひもを15cmほど引っ張る

 巻き上げ機構はユニークで、下に付いているひもをビューッと引っ張る。ひもを引っ張ることでフィルムが巻き上げられ、フィルムのパーフォレーションによってシャッターのバネというかゼンマイというか、そういうものが巻き上げられる。

 シャッターボタンを押すと、この力によって順番にシャッターが開く、というわけだ。ほとんど全身バネとゼンマイ仕掛け、電気的要素ゼロという、非常にプリミティブな構造である。

 このシャッターが順番に開くスピードは、全体で2秒か全体で0.2秒の2種類が切り替えられる。全体で2秒ってことは平均すると0.5秒だが、もちろんそんなものは人間が勝手に考えた平均値に過ぎず、実際には「ペキン、ポキン、ンッペキン、ペキ」みたいにものすごく適当である。

 SuperSamplerの撮影は、基本的に日中の屋外に限られる。露出などがまったく決められないし、ストロボがつけられるわけでもないので、晴れの日、曇りの日など、状況に合わせて使うフィルムの感度を選ぶことで調整するのだ。マニュアルのカメラというと露出計で綿密に測定してから絞りを決めないと心配で心配でしょうがないような人には、Super Samplerは全然向いてないのである。

 フィルムは普通の35mmのものが使えるので、入手にはそれほどの苦労はない。ただマニュアルなどを読むと、割と感度が高めのフィルムを選んだ方が良さそうだ。晴れた屋外では最近一般的になってきたISO 400、曇りの日は高感度のISO 800が推奨されている。ちなみに付属するフィルムは、ISO 200のものであった。


■ とにかく撮ってみる

 撮影日はあいにくの曇天であったため、フィルムはISO 800を装填することにした。絞りもフォーカスも何にもないので、とにかく気を付けることといったら、シャッターを押したら2秒の間、被写体の動きをフォローするのみ。
ペットボトルを放り投げてテスト撮影。ファインダを使ってようやく撮れた


 2秒ぐらいならカンで追いかけられると思ったのだが、テストで撮影してみた結果を見ると、結構狙いを外していた。普通の写真と違い1ショットの幅が狭いので、普通のカメラではフレームに入っているケースでも、Super Samplerではダメなのだ。

 最初は公園でハトなど撮ってみたのだが、このぐらいの小さい被写体だと、結構狙いを外しやすい。被写体は小さいものではなく、人間ぐらい大きめのものを近くで撮ったほうがいいようだ。

 また意外にも、あのただ四角い穴が開いているだけという情けないファインダを覗きながら撮ると、ちゃんとフレーム内に入っている。最初はハナから信用していなかったのだが、痩せても枯れてもファインダはファインダ。ちゃんと機能する。

 2度目の撮影では、モデルとして2頭のゴールデンリトリバーを用意。大人の2/3ぐらいのサイズで動きもあり、被写体としてちょうどいいと考えた。そして、撮影してみてわかったのだが、犬のような動きの激しい被写体でも、0.2秒ではほとんど動きらしい動きは見られない。よほどスポーティなシーンでは効果があるかもしれないが、それほど早い被写体をこのカメラで追いかけるのはちょっと無理だろう。

 だいたいどのようなシーンでも2秒連射ぐらいでしっかり動きをフォローするほうがいいようだ。しかし2秒連射の場合は、シャッターを押して最初のコマが撮れるまで一拍ある感じになる。もうこうなってくるとちゃんとした写真を撮ろうというのが無理なんじゃねえのって話になってくるのだが、まあ撮れる写真は面白いので勘弁してやろう。

 どのような写真になるかは、見て貰った方が早い。1枚で横割りの4枚写真がフィルム1コマに撮れるのである。今回は紙焼きしたものを、フラットベッドスキャナ CanoScan FB636Uでスキャンし、パソコンに取り込んだ。写真のテイストをそのままお伝えするために、設定は敢えてデフォルトのままである。

 ついでに「Macromedia Fireworks4」を使って4つのコマ切り取り、GIFアニメにもしてみた。こうやって動かしてみると、ビデオとはまた違った、とぼけた面白さがある。

2秒で4ショットの撮影。写真と動画の中間のような感じだ

0.2秒で4ショットの撮影。もっと動きの激しい被写体では面白いかも

 フィルム巻き上げのひもは、シャッターチャンスを逃すまいと急いで引っ張りがちだが、あわてて引っ張ると途中でスタックしてしまって身動き取れなくなりそうなことがたびたびあった。その場合は、少しずつちょいちょいと引っ張ってやるといい。スタックせずにうまく巻き上げるには、少し慣れる必要がある。

 またカメラのホールドは、指先で浅く持つようにしたほうがいいだろう。というのも、結構ボディを持った指がレンズにかかってしまっているケースが多かった。いちおう指がかからないよう、レンズ回りには土手のような盛り上がりがあるのだが、夢中で撮っている時ほどついつい深く握ってしまうので、そこはしっかり意識しておいたほうがいい。


■ 総評

 フィルムというメディアはものすごく懐が深く、かなり適当なカメラでもそれなりに絵になっちゃうというところがある。また現像技術も以前に比べれば格段に進歩し、その辺のカメラ店にスピード仕上げで頼んでも、そこそこのクオリティで上がってくる。

 そしてカメラ自体もピンぼけや手ブレなど、いわゆる撮影失敗を徹底的に追放する方向で進化しており、それはもちろん正常な進化である。しかし、昔の写真にあった「失敗だけどいい写真」みたいなおもしろさは、それはそれでまた残っていってもいいのではないかと思う。

 今、あまりにも世の中にピンぼけや手ブレ写真というのがなさ過ぎる。LOMOやSuper Samplerのような、プリミティブなカメラならではのチープ感やノスタルジックな色合いといったものが、あまりにもカキッカキッとした「上手い写真」に疲れた現代人の目に優しく映るということなのかもしれない。

 これから秋が深まってゆくにつれて、行楽シーズン到来となる。野外でスポーティに遊ぶときには、どんな写真になるかドキドキしながらSuper Samplerで遊んでみてはどうだろうか。

□ロモのホームページ
http://www.lomojapan.com/
□「Super Sampler」の製品情報
http://www.lomojapan.com/supersampler/super_frame.html

(2001年10月3日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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