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第34回:MP3の新規格「MP3PRO」を検証する Part2

~ 「nero5.5 特別限定版」でフルスペックの実力をチェック ~



 マニアユーザーに人気のあるCD-R/RWライティングソフト「nero」。このnero5.5に特別限定版というものが登場した。これはDVD書き込みに対応するとともに、MP3PROに完全対応したのだ。

 パッケージには「世界初」とあるが、確かにCD-R/RWライティングソフトでMP3PROに対応したものは他に見当たらないし、そもそも一般のプレーヤーやエンコーダーでもMP3PRO対応のものはほとんど見かけない。

 ようやく登場したMP3PRO対応製品ということで、これを利用しMP3PROとはどれだけの実力を持った製品なのか検証してみることにした。


■ MP3PROエンコーディングに関する各種設定項目

エンコーディング設定ウィンドウ

 neroでのエンコードは「追加機能」メニューから「ファイルエンコーディング」という項目を選ぶことで行なう。すると、ファイルエンコーディングのウィンドウが開くので、ここで追加ボタンをクリックし、WAVファイルなどを選択する。

 特別限定版のこのneroはMP3PROのライセンスチケットがついているが、これを登録しないで利用すると、ファイル選択時に30回までしか利用できない旨のメッセージが表示される。とりあえず、ここではそのまま使ってみた。

エンコード前に回数制限を知らせるメッセージが出た

 すると、このウィンドウ上に、各種情報が表示される。これを見ると、デフォルトで拡張子mp3のMP3PROエンコードする設定になっていることがわかるが、この出力ファイル形式としてはほかにもAIFFやTwinVQなどが選択できるようになっている。

自動的にMP3PRO形式が選ばれている

 さて、次にその横にある設定ボタンを押すと、MP3PROのロゴの入ったダイアログが表示された。

MP3PROエンコードを選ぶと(左)可変ビットレートが選べない

MP3PROのビットレート設定。32kbpsはモノラルだ

 この画面を見るとわかるようにデフォルトでは80kbps、44.1kHz、ステレオという設定になっており、エンコーディングクォリティーは、速い、普通、最高とある中の速いに設定されている。

 また、固定ビットレートが選ばれており、可変ビットレートはそもそも設定できないようになっている。しかし、Enable mp3PROのチェックを外し、普通のMP3へのエンコーディング設定にすると可変ビットレートが選べるようになる。

 つまり、MP3PROで、可変ビットレートエンコードという設定は存在しないわけである。

 さて、次にビットレートの設定のプルダウンメニューを見てみると、32kbpsから96kbpsまでが選択可能となっている。またステレオになるのは40kbps以上となっており、実質音楽をエンコードする際に使い物になるのが40kbps以上であるということが見てとれる。

CRC書き込みやダウンミックスの設定も行なえる

 さらに、Expertボタンを押すと、各種設定項目が現れるが、今回はすべてデフォルトの状態で試してみることにした。


■ 周波数分析で帯域を検証

 今回行なうテストは、ほかのMP3エンコーダーなどとも比較できるように、今までと同じ方法を用いることにする。具体的には、CDからリッピングした16ビット/44.1kHzのWAVファイルを元に各種ビットレートにてMP3PROに変換。これをefu氏開発のフリーウェアWaveSpectraを用いて周波数分析する。

 題材は以前使ったものと同じTingaraの夜間飛行という曲の中の45秒。ただし、WaveSpectraで分析するためには、予めWAVファイル化しておく必要がある。しかし、neroにはMP3PROをWAVに変換する機能は装備されていない。

Total Recorder

 確かに一旦CDに焼いたものをリッピングするという手もあるのだが、ほかの要因で音質が変化する可能性がゼロではないし、そもそも面倒。

 そこで、Thomson multimediaのプレーヤーで再生させたものを「Total Recorder」というソフトを用いてキャプチャし、WAVファイル化することにした。

 まず、オリジナルCDをで分析したものが【図1】だ。赤い線がピーク、青い線がアベレージを示している。また、【図2】はFraunhofer IISのエンコーダを搭載したジャストシステムのMP3 BeatJam XX-TREMEで128kbps(高速モード)でエンコードした結果である。

【図1】オリジナルのプレスCD
【図2】MP3 BeatJam XX-TREMEの128kbps時

 ではMP3PROを用いた結果はどうなるだろうか? デフォルトの80kbpsに加え、最低ビットレートの40kbps、以前実験したことのある64kbps、そして最高の96kbpsでそれぞれ試してみることにした。またエンコードクォリティーは「速い」の設定にしておいたが、64kbpsのみは「最高」も試してみた。その結果が図3図7である。

【図3】MP3PRO 40kbps(速い)
【mp3形式】40k.mp3
【図4】MP3PRO 64kbps(速い)
【mp3形式】64k.mp3
【図5】MP3PRO 64kbps(最高)
【mp3形式】64khi.mp3
【図6】MP3PRO 80kbps(速い)
【mp3形式】80k.mp3
【図7】MP3PRO 96kbps(速い)
【mp3形式】96k.mp3

(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)
□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/

注意MP3ファイルはMP3PRO形式です。THOMSON mp3PRO Audio Player(無料ダウンロード可)、またはnero5.5特別限定版をご使用ください。なお、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 高域に注目してこれを見るとその違いがはっきりわかるだろう。96kbpsにおいては22.05kHzまでしっかり出ているし、80kbpsでも20kHz付近まで出ている。また40kbps、64kbpsだと他のMP3エンコーダーと同様に16kHzあたりまでしか出ていないという結果だ。

 ただ、これまでの経験上高域さえ出ていれば、必ずしも音質がいいというわけではない。実際細かいところを聞きながらチェックしてみると、いろいろなことが見えてきた。

 まず40kbpsと64kbpsではグラフ上かなり近いが、音は40kbpsは明らかに悪く、こうした聞き分けをした経験のない人でも、すぐに違いがわかると思う。しかし64kbpsにおけるエンコードクォリティーの違いは、私にはほとんど感じない程度のものだった。グラフ上違いはあるが、聴感上は差が出てこないのだ。

 次に80kbpsと96kbpsであるが、確かにこれはかなりいい音だ。これまでいろいろと試したMP3のエンコーダーよりも確実に原音に近い。これは単に高域が出ているというだけでなく、かなり聴感上での再現性も高い。とくに96kbpsでは原音との違いがほとんどないほどであった。

 なお、ここで参考までにMP3PROのデータを一般のMP3プレーヤーで再生するとどうなるかを試してみた。その結果が【図8】だ。

【図8】MP3PROデータを一般のプレーヤーで再生してみた

 これは64kbpsのデータを再生させたものだが、どうだろうか? 確かに再生はできるが、音質的にはあまり使い物にならないことがわかるだろう。もっとも64kbpsの場合は22.05kHzとしてしか再生できないため、高域が出ないのは当然ともいえるのだが……。


■ 1kHzの信号でS/N、THDもチェック

 最後に、もうひとつ1kHzの信号をエンコードした際の結果もチェックしてみることにした。これも以前に行なったテストであるが、【図9】が元となる1kHzのサイン波を分析した結果、【図10】がそれをMP3 BeatJam XX-TREMEで128kbps(高速モード)でエンコードした結果である。

【図9】元の1kHzサイン波 【図10】MP3 BeatJam XX-TREMEでのエンコード後

 それに対し【図11】【図15】がMP3PROで行った結果である。40kbpsや64kbpsの場合に、ちょっと歪みが出てきているのと、96kbpsも含め全般的に高域にノイズが出ていることがわかる。

【図11】MP3PRO 40kbps(速い)
【図12】MP3PRO 64kbps(速い) 【図13】MP3PRO 64kbps(最高)
【図14】MP3PRO 80kbps(速い) 【図15】MP3PRO 96kbps(速い)

 これはMP3PROがMP3に比べて高域がよく出ていることとも関係しているのかもしれない。エンコードアルゴリズムの詳細までわからなかいが、MP3PROは80kbps、96kbpsで大きな威力を発揮することがわかった。

 近いうちにWMAやTwinVQ、ATRAC3、AACなどとも結果を比較してみたいと思うが、再生環境の普及率を置いておくとしても、現時点ではかなり高いクォリティーのエンコード手段であることは間違いない。


□プロジーグループのホームページ
http://www.pro-g.com/
□nero5.5の製品情報
http://www.nero2000.com/
□関連記事
【9月17日】プロジー、mp3PROエンコーダを追加した「nero5.5」特別限定版
-DVD-R/RWライティングにも対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010917/prog.htm
【6月25日】【DAL】第16回:MP3の新規格「MP3PRO」を検証する
~ 互換性はあるし、確かに音はいい!! ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010625/dal16.htm

(2001年11月12日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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