2002 International CES会場レポート
~ Dolby/DTS/SRS/THX、最新サラウンドフォーマット事情 ~


会期:1月8日~1月11日(現地時間)

会場:Las Vegas Convention Center
   Las Vegas Hilton Hotel
   Alexis Park Hotel


■ Dolby:米国初のドルビーヘッドフォン民生機のデモ

Xboxは、ハードウェアレベルでドルビーデジタルエンコードできる能力を持つ。Xboxは、サウンド機能に関して最強の家庭用ゲーム機である PCでは、NVIDIAの「nFORCE」チップセットが、ドルビーデジタルのリアルタイムエンコード機能をハードウェアで実装している。
 PCでは過去に発売された既存のマルチチャンネルサラウンド対応ゲームのほぼすべてが、そのままドルビーデジタル出力できてしまう

 Dolbyブースは、新フォーマットや、新テクノロジーのプレビューはなく、現行テクノロジーのお披露目がメインとなっていた。その中でも、来場者の注目を集めていたのが、ゲーム機関連のDolbyテクノロジーと、ドルビーヘッドフォンだ。

 現行のゲーム機で、最もレベルの高いドルビーテクノロジーが利用できるのがXbox。Xboxのサウンド関連機能を司る「MCPXチップ」は内部処理的に三次元定位させたサウンドを、リアルタイムにドルビーデジタルで5.1ch出力する機能を持っている。

 ブース内のXboxコーナーでは、小規模な5.1chセットを設置。サラウンドサウンドが楽しめるようになっていた。現時点では、以下のソフトが、完全にインタラクティブな、ドルビーデジタル5.1ch出力が可能になっている。


プロロジック(II)リアルタイムエンコーダを内蔵したゲームが楽しめるGCコーナー 現在はドルビーサラウンド対応作品ばかりのPS2だが、年内今後発売されるタイトルは徐々にプロロジック(II)対応になっていくとのこと

 一方そうした、ハードウェアのリアルタイム5.1chエンコーダ機能を持たない、プレイステーション 2や、ゲームキューブ。これらに関して、Dolbyとしては、基本的に時間軸上の加減算処理だけでエンコード処理が可能なマトリクスエンコード系のサラウンドシステムを提案しているとのこと。

 具体的にはソフトウェア処理でドルビーサランドや、プロロジック(II)信号へエンコードする開発キット(SDK)をゲームメーカーへライセンスしている。ブース内の担当者によれば「マトリクスエンコード手法は、クロスオーバーが発生するためチャンネル間のディスクリート感が損なわれる弱点はある。しかし、エンコード処理の軽さが最大の特長。ゲームシステム本体への負荷が少ないため、ベストなソリューションだ」と話していた。

 ブース内では、プレイステーション 2(PS2)コーナーでドルビーサラウンドのデモが、ゲームキューブ(GC)コーナーは、プロロジック IIのデモが行なわれていた。現時点で、PS2は以下の4タイトルがドルビーサラウンドに対応している。

 ゲームキューブのソフトでは、「StarWars:Rogue SquadronII/Lucasarts」がプロロジック(II)に対応している。

 なお、ドルビーサラウンドはセンターがなく3ch、プロロジック(II)はセンターがあり4chという違いがあるが、リアルタイムソフトウェアエンコーダのゲームに対する負荷率に差はほとんどないという。そのため、リアルタイムマトリクスエンコードタイプのインタラクティヴサラウンドの主流は、プロロジック(II)に移行していく見込みだという。

 そしてもう1つ、常に満席状態で、来場者に人気を呼んでいたのがブース内のステージで行なわれていた、「ドルビーヘッドフォン」のデモンストレーションだ。「ドルビーヘッドフォン」とは頭部伝達関数(HRTF)を応用した仮想音源技術で、一般的に市販されているヘッドフォンを用いてもサラウンドサウンドが聞こえるようにするもの。

ドルビーヘッドフォン機能を堪能する来場者。「パールハーバー」を買えば手持ちのAVセットでドルビーヘッドフォンが楽しめるので一度試してみては?

デノン「AVR-5803」。国内メーカー製の中で、対応機能が最も多いAVアンプ

 すでに「WinDVD」、「PowerDVD」といったメジャーなソフトウェアDVDプレーヤーに組み込まれ、パソコン上でこれを楽しめるようになって久しい。今回コンシューマ機器として初めて、ドルビーヘッドフォン機能を標準実装した、DENONのフラグシップAVアンプ「AVR-5803」が発表されて注目を集めている。

 DVR-5803は、ドルビーデジタルサラウンドEXまでを、リアルタイムにドルビーヘッドフォン信号にエンコードでき、ブース内のステージ前でこれが体験できるようになっていた。

 念のために言っておくが、ドルビーヘッドフォンとは「特別なヘッドフォン」のことではなく、「市販のヘッドフォンでサラウンドが楽しめるような音声信号にエンコードする技術」である。つまり、あらかじめドルビーヘッドフォン信号に変換してメディアに録音しておくことで、一般的なオーディオ機器とヘッドフォンでも、ドルビーヘッドフォンが体験できる。

 この点に着目したコンテンツメーカーは、ドルビーヘッドフォン音声信号を記録したDVDソフトのリリースを開始している。その第1号が先日リリースされたばかりの劇場映画「パールハーバー」のDVDビデオソフトだ。ドルビーヘッドフォンがどのような機能なのかを知りたいユーザーは、まずはこのソフトで体験してみるといいだろう。

□Dolby Laboratoriesのホームページ(英文)
http://www.dolby.com/


■ DTS:dts InteractiveはPCバージョンの予定もあり

最新版のdtsデモディスクは最新映画クリップにくわえ、24ビット/96kHzのdtsオーディオも収録されている

 DTSブースは、ラスベガスコンベンションセンター(LVCC)のメイン会場にはなく、同会場のミーティングルームにひっそりと構えていた。

 すべての展示を見て説明員の解説を受けると、dts DVDデモディスクの最新版No.6がもらえる仕組みになっており、コアなファンには絶対見逃せないブースとなってる。とはいえ、その展示内容は既存テクノロジーのみで大きなアップデートはなし。

 しかし、2001年後半に発表になったばかりのコンピュータゲーム用サウンドの新テクノロジ「dts Interactive」について、DTSのライセンシーマネージャのグレン・アレンゾフ氏に、かなり突っ込んだ話を聞くことができたのでここで紹介したいと思う。

 dts Interactiveとは、ゲームサウンドを5.1chベースで管理し、これをディスクリートなまま、DTSにリアルタイムエンコードして出力するシステムのことだ。正面で鳴っている効果音も、プレイヤーが左を向けば右から鳴る。簡単に言えばこうした仕組みを、DTS信号で出力できるようにしようと言うことになる。

 DTSのエンコードは、前述のドルビーサラウンドや、プロロジック(II)のマトリクスエンコードとは異なり、5.1ch分のオーディオストリームをリアルタイムで不可逆の音声圧縮処理しなければならない。

 現在、dts Interactiveの開発キットが提供されているのはPS2のみ。PS2はXboxとは異なり、ハードウェアレベルでのオーディオアクセラレーション機能はないので、dts Interactiveのエンコード処理はすべてソフトウェアレベルで行なわれることになる。仮にdts Interactiveのエンコード処理がリアルタイムにできたとしても、この処理の負荷がゲーム本体の処理に影響がおよんでしまっては意味がない。

 この点について聞いてみると「PS2のCPUアーキテクチャに最適化したエンコードエンジンの開発に成功したために、システムに対する負荷率は平均10%以下と思ってもらっていい」とのこと。また、「5.1chをエンコードしていたのではゲーム処理に影響が出てしまう」タイトルでは、サポートするチャンネル数を少なくするソリューションもあるという。

 dts Interactive対応のゲームとしてはEAのアイスホッケーゲーム「NHL2002」と、同じくEAのスノーボードゲーム「SSX Tricky」が発売されたばかり。そのうち前者は、演算処理に余裕があったため、5.1ch分エンコードしているのに対し、後者はその余裕がないと判断され、センターとサブウーファを省いた4ch分のエンコード処理にとどめたという。

 もう一つ気になるのが、ライセンシーにまつわるコストの問題だ。具体的に言えばdts Interactive対応のゲームソフトが、通常サウンドのゲームソフトより高くなることはないか、ということだ。

 この点に関して聞くとアレンゾフ氏は「非常にリーズナブルなライセンスプログラムになっている。実際、EAから今後リリースされるDTS対応ゲームは、すべてこれまでのソフトと価格的に同じになる予定だ。dts Interactive対応により、ゲームソフトの価格が上がることはまずないはず」と返答。これが事実であれば、今後、より多くのゲームベンダーから対応タイトルがででくる可能性がある。

 それならば、PS2以外のプラットフォーム用のゲームにおいてもこれを適用したいと考えるゲームベンダーも出てくることだろう。この点について問いかけてみたところ、「PCプラットフォームのdts Interactiveの提供も予定されている」との回答が得られた。登場時期は全く未定だが、Pentium 4などに対応した高度なものになるらしい。

 「普通に考えれば、プロセッサ速度に余裕があるPC向けから提供していくのが順当ではなかったのか?」という質問に対しては、「PS2は世界で最初のdtsマーク入りのゲーム機なので(笑)、PS2である必要があったのだ」と回答。なるほど。納得のできる(?)話である。

dts Interactiveの体験コーナー。dts Interactiveも、DVDビデオのDTSと同等のクオリティでサウンド出力が行なわれているとのこと。ゲームごとにも異なるが16bit/48kHzで1.5Mbps程度のビットレートになっているという マトリクスエンコードされたオーディオソースや、通常の2chステレオのオーディオソースまでを、6.0chにエンハンスして再生するテクノロジ「NEO:6」の体験コーナー。ご想像の通り、これはドルビープロロジック IIへの対抗技術である

□Digital Theater Systemsのホームページ(英文)
http://www.dtsonline.com/


■ SRS:CircleSurroundの新バージョンCircleSurround IIをデモ

 SRSブースでは、2001年12月に発表されたばかりの新サラウンドテクノロジー「CircleSurround II」(CSII)と、サイバーリンクのPowerDVD XP Proなどに実装された、バーチャルサラウンド技術「TruSurround XT」のデモンストレーションを行なっていた。

 CircleSurround(CS)は、マトリクスエンコードされたサラウンドサウンドを、5.1chへ拡張再生するテクノロジ。ちょうどドルビープロロジック II、NEO:6と競合する技術といえる。

 CSIIは、CSの拡張版に相当し、主に以下のようなフィーチャーが追加されている。

  1. 6.1chシステムへの対応
  2. リアチャンネル、フロントチャンネルとのセパレーションの強化
  3. 台詞音声の明瞭性向上と低音強調機能
 (1)については、CSエンコードされたものに対して有効となる新機能。今後、衛星放送やネット経由のストリーミング配信サービスなどで、6.1chマルチサウンドを2chステレオへマトリックスエンコードしてユーザーへ送信できるようになる。CS IIの新機能のうち、最もホットな機能ではあるが、これを有効活用する機会は現時点ではあまりなさそうだ。なお、すでにCS IIデコーダチップとしては、ADIのSHARC ADSST-21x6x系、CirrusLogic CS49300などが発表されている。

 現在、「ディスクリート感重視のプロロジック II」に対し、「アンビエント感重視のCS」という評価が定着しつつあるが、(2)は、CSにプロロジック IIのような、より明確な定位感を与える、というイメージのようだ。

 (3)はドルビーデジタルや、DTSなどのオーディオ再生時にも、適用できる汎用性の高い機能。

 CSIIは、(1)の要素はともかくとして、これまでSRSが開発した既存のオーディオテクノロジである「Focus」と「TruBass」を、CSに組み合わせたものと捉えるとイメージしやすいかもしれない。

 Focusとは、画面下に置いたセンターチャンネルの音を、仮想音源技術を駆使して作り出したバーチャルスピーカーを画面中央付近に作り出すことで、画面中央から鳴っているように聞こえるようにするもの。このFocusを、ドルビーデジタルやDTS再生時に有効にすると、環境音が大きいシーンでも台詞が明瞭に聞こえるという副次的な効果が得られる。当日行なったデモでは劇場映画「パールハーバー」の銃撃戦の中の会話シーンを、Focus機能をオン、オフして聞こえ方の違いを来場者に示していた。

 そしてCS IIでは、フロントの左右チャンネルに、TruBassを適用しているという。これによりワイド感あふれる重低音が再生されるようになる。こちらはサブウーファのパワーが少ない場合や、ヘッドフォン再生時に効果を発揮するという。

 さて、SRSが売り出し中のもう1つの新テクノロジ「TruSurround XT」は、仮想音源技術を駆使して2ch再生環境でサラウンド再生を行なう同社の技術「TruSurround」の改良版。実はちょうどCSとCSIIの関係に似ており、TruSurroundにFocusとTruBassを追加したものが、TruSurround XTに相当する。

KENWOODのCS II対応AVアンプ「VR-6060」 その背面。この他、マランツからも対応AVアンプがリリースされる予定とのこと

□SRSのホームページ(英文)
http://www.srslabs.com/


■ ルーカスフィルムTHXブース、THX Ultra2とはなにか?

THX Ultra2シアター

 ルーカスフィルムTHXは、CESのメイン展示会場となるLVCCの他にもう1つ、ヒルトンホテルのスイートルームにも場所を確保しており、再生環境にこだわる同社は、ここでのみ視聴デモを行なっていた。

 この視聴ルームで行なわれていたのは、2001年8月に発表されたTHXシステムの最新最上位規格「THX Ultra2」の視聴デモ。

 THXはドルビーデジタルや、DTSのようなサラウンドフォーマットではなく、1つ上のアプリケーション層の規格になる。つまりドルビーデジタルや、DTSをどう再生するとすばらしいのか、という規格や基準を示すものと考えるとわかりやすい。

 THX Ultra2は、以下のソースを、7個のサテライトスピーカと、1個のサブウーファ、合計7.1chで再生する1つの模範例と基準を示すもの、ということになる。

 映画製作会社であるルーカスフィルムは、「劇場(シアター)」というキーワードにこだわっており、基本コンセプトは「家庭内における劇場相当の音響空間の構築」にある。

 THX Ultra2の基本スピーカーレイアウトは以下の写真のようになっており、特徴的なのはそのサラウンドバックスピーカ(6.1chで言うところのリアセンター)の配置だ。これをTHX Ultra2では特に「THX ASA(Adaptable Surround Array)」と呼んでいる。

これがTHX Ultra2の基本スピーカー配置 THX ASAという、特徴的なバックサラウンドスピーカーの配置

 壁や天井からの著しい反射音は、音響効果においてはいい結果を生み出さない。そこで聴者に向けてリア方向のサウンドをダイポール効果で直接的に送り込むためにこのような配置になっているという。また、従来のリアサラウンドスピーカーとの相乗効果は、リア方向からのスイートスポットを広げる効果もあるという。

 すでにTHX Ultra2システムに対応したAVアンプとしては、デノン「AVR-5803」(日本名AVC-A11SR-N)がリリースされている。

 一口に7.1chシステムはといっても、各AV機器メーカーも独自のスタイルを打ち出しており、単純に5.1chシステム、6.1chシステムの延長線上にあるものではない。製品選びの際には、混同しないように気をつけたい。

デモルームのプロジェクタは、シャープのDLPプロジェクタ「XV-Z9000U」が使用されていた・ 再生メインシステム。上はMonsterPower製パワーユニットHTS5100、最下段はDVDプレイヤー、デノン製AVアンプAVR5803

□2002 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/

(2002年1月11日)

[Reported by トライゼット西川善司]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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