【バックナンバーインデックス】


“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第44回:ソニーの新たな挑戦「VAIO W」
~膠着したデスクトップ業界に風穴を開けるか~


■ VAIOらしくない「VAIO W」? 登場

 年明けから早くも、パソコン春モデルの発表が相次いでいる。この時期発売されるモデルはやはり季節柄、新入学あるいは新社会人といったいわゆる「新生活の提案」を盛り込むといった手段が使えるため、比較的ターゲットを絞りやすい時期だと言える。

 これから、まだいくつかの会社から順次新モデルの発表があると思われるが、ユーザーの全体的な傾向として、AV機能強化といった方向性が望まれているようだ。まあ、あからさまに言ってしまえばここ数年来、ノートはともかくデスクトップに関しては、各社ともなんとかVAIOみたいになろうとしている、という印象はぬぐえない。

 一方で追われる立場となったSONY VAIOのデスクトップであるが、この春から挑戦的とも言える新モデルがラインナップに加わった。それが今回の「VAIO W」シリーズである。1,280×768ドットという特徴的な横長の液晶、本体と一体化したキーボードという、思い切った外観を持つ。またVAIOでは市販モデルで初の、白と黒のカラーバリエーションが存在するモデルでもある。(以前バイオノートSRにグリーンのモデルが存在したが、あれはソニースタイルオリジナルの限定モデルだった)

 これで30万、とか言われたら「ケッ」ってな感じだが、これだけ作り込みながら店頭予想価格は約16万円と案外安い。おっ! と今思ったでしょ? 思ったね? 思ったことにしてくれ話が進まないからナ。

 このような一体型デスクトップパソコンは、今まで数多くのメーカーが挑戦し、結果として惨敗してきたジャンルである。なぜ「今」、「VAIOで」、「そこ」なのか。実際に触ってみながら、その答えを探してみよう。


■ まずは外観チェック

キーボードを閉じると小さくまとまって、パソコンには見えない

 今回お借りしたのは黒モデル。まず最初に箱から出して机の上に置いてみたが、キーボードを畳んだ状態ではほとんどパソコンには見えない。まるで「Bang & Olufsen」あたりが出してそうな高級ミニコンポのようだ。横には広いが奥行きが狭く、19.1cmしかない。キーボードを出して液晶モニタをチルトさせた最大奥行きは33.4cmになる。

 現在パソコンの売り上げでは、デスクトップよりもノートパソコンのほうが上。しかも売れているのは小型B5クラスではなく、実はA4クラスのオールインワンが主流なのである。理由はいくつか考えられるが、やはり設置スペースの問題はあるだろう。キーボード、本体、モニタ、周辺機器が一体化した、「コンパクト・デスクトップ機」としての使い方なのである。以前であればこのような使い方は割とゼイタクであったのだが、近年のA4ノートの値下がりにより、現実的な選択として広く受け入れられている。

 そういう意味では、今このようなコンパクト・デスクトップ機の市場もあると見ていいだろう。使わないときにいかに片づけるか、ということではデスクトップ型VAIOはいろいろなアイデアを盛り込んできた。今回の設計ではちょうどノートパソコンの逆、つまりモニタを畳むのではなく、キーボードを畳むという方向に持ってきたということかもしれない。

 VAIO Wの本体は、液晶モニタの背面に隠れて正面からは全く見えない。ケーブル類は本体右横に刺さるようになっており、背面をなるべくすっきりさせて設置場所の可能性を広げようという工夫が見られる。接続が必要なケーブル類は、最低限で電源とマウスのみ。あとはTV用のアンテナ線とネットワークぐらいである。PCカードスロットが2つあるので、ネットワークは無線LANでもいい。アンテナ分が出っ張ってもいいように、スロットは横1列に並んでいる。

コネクタ類は本体右横に集中している 背面には突起部がなく、壁などにくっつけられる

左側にはボリューム類があり、設定を即いじれるようになっている

 本体側面は液晶よりも引っ込んでいて、これがコネクタ分のマージンとなり、コネクタがモニタ脇からびよんびよんはね出すという情けないルックスにもならない。その一方で、頻繁に抜き差しするDVD-ROM/CD-RWドライブおよびメモリースティックポートは、本体ではなく液晶モニタ横にスロットが設置されている。またモニタの輝度とスピーカー音量ダイヤルが付いて、ハードウェア的に即設定をいじれるのは、ある意味家電的でもある。

 このあたりの作りは、設置場所固定のマシンとしてなかなか気が利いている。ノートパソコンでこれをやった場合、電源やらネットワークやらUSBやらのコネクタが本体の左右や後に飛び出して、オマエはハリセンボンか状態になりがちである。

 そう考えると、ぱっと見奇抜に見えるこのVAIO Wだが、実に慎重に設計されているのが本体からにじにじと伝わってくる。本体からコンセプトが伝わってくるマシンというのは、非常に明快な印象を受ける。


■ 機能的にはどうなのよ

 では次に機能面を見てみよう。デスクトップ機に期待される条件として、やはりAV機能がどうなっているのかは気になるところだ。

● 音楽再生

 まず他のデスクトップとの大きな差として、VAIO W用にカスタマイズされた「SonicStage」がある。この冬モデルからバージョンが上がり、1.1が搭載された。SonicStageはVAIOでの音楽鑑賞のターミナルとなるソフトで、CDからのリッピングやジュークボックス機能がメインである。

 新バージョン最大の特徴は、CD情報検索手段にMusic Naviが追加されたこと。Music Naviは基本的にオンラインCDショップであるが、そこの膨大なCD情報を引っ張ってくることができるようになった。これにより、今まで検索に引っかからなかったCDも曲名などを自動で入力できる可能性が広がった。

SonicStageの新バージョン。外見はほとんど変わらないが…… 新たにMusic Naviでのキーワード検索が可能になった

 VAIO W用SonicStageではさらに、再生中にキーボードを閉じると、はみ出したモニタ部分のみにきっかり収まるようなスタイルに自動的に変化する。この状態でマウス操作も可能で、マウスカーソルがキーボードに隠された下部分まで行かないようになっているため、カーソルを見失うこともない。

キーボードを閉じると、VAIO Wオリジナルスタイルに変化する

VAIO Wのスピーカー部。かなり小型のユニットのように見える

 搭載されたスピーカーユニットは細かい穴の開いた金属板に覆われているため、中身をうかがい知ることはできないが、推測するにだいたい直径約3.5cm程度のもののようだ。デスクトップ付属スピーカーとしてはかなり小型だが、音は思ったほど悪くない。スピーカーユニットのサイズからして低域が不足しているのは仕方がないが、聞き流しに使うにはまずまずの解像度を持っている。低域補強のために、USBで接続できるかっこいいサブウーファなどがあったら繋いでみたいところだ。

● テレビ録画

 VAIO W独自のアプリケーションとして、テレビ視聴と録画ができる「GigaPocket LE」もある。従来のデスクトップ型では、録画のMPEG-2エンコードは独自カードに搭載されたハードウェアで行なっていたのだが、VAIO Wではコストダウンのため、TV録画時のMPEG-2エンコードをソフトウェアで行なう。つまりソフトウェアエンコード版GigaPocketが、LEというわけである。これは純粋にコストダウンのためだろう。

 GigaPocket LEを起動すると、ほとんど通常のGigaPocketと変わりない。最大の違いは、画質設定が「標準」1種類しかない点だ。またフル画面表示を行なうと横長液晶の特性を活かして、横に潰して画面いっぱいに表示するFullモード、アスペクト比固定(画面両脇が黒くなる)のNormalモード、アスペクト比固定で画面いっぱいに拡大するZoomモードが選択できる点は新しい。

従来のGigaPocketと基本機能は変わらない ただし録画モードには選択肢が1つのみ

 肝心の画質であるが、リアルタイムの番組オーバーレイに関しては、品質は従来のVAIOと同等である。しかし録画画質は、Celeron 1.2MHzでのMPEG-2のリアルタイムエンコードの限界ということで、解像度352×240ドットの3Mbps CBR固定である。ブロックノイズなどはあまり感じられないが、いかんせん解像度が低いので、フル画面表示を行なうとさすがに辛い。通常使用時では、パソコンと目との距離はだいたい1m弱だと思うが、その距離ではアラが目立つ。2~3m離れて見るならなんとか、といった感じだ。

 また録画中はソフトウェアエンコードでCPUがいっぱいいっぱいになるため、他の重たいタスクと平行には行なえない。例えば頻繁に使用するであろうSonicStageで音楽再生しながらバックグラウンドではタイマー録画、という使い方がきびしいのは残念だ。

 このあたりの使い勝手を含めて、GigaPocket LEは今後、いろいろと議論を呼びそうなところである。例えばC1MXR搭載のエンコーダチップをどこかに積めなかったのか、といった話もあるだろう。

 TVチューナの画質評価も同時にするためRF入力からの録画を行なった。

 素材にはカノープス株式会社の、プロ向け高画質動画素材集「CREATIVECAST Professional」をDVテープに書き出して使用。なお、サンプル版なので、画面右端にロゴが焼きこまれている。

 そのDVテープをDVデッキ「ソニー WV-DR5」で再生し、内蔵のRFコンバータで2chのTV信号として出力。それをVAIO Wでキャプチャした。

 右の画像は、左上の赤枠内を実寸で表示したもの。クリックするとキャプチャしたMPEG-2ファイルの再生を行なう。

(c)CREATIVECAST Professional


【MPEG-2形式】

sample.mpg(4.17MB)
352×240ドット

編集部でいつもの画像をキャプチャした。パソコン上では352×240ドットで再生されると思うが、実際には縦横それぞれ2倍に拡大されて再生される

MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

● DVD視聴

DVD再生には「Media Bar DVD Player」が付属

 表面アクリルはめ込みの高精細度液晶モニタ、しかも横長の画面サイズから連想するのは、16:9Wideで記録されたDVDをぴったりフル画面表示で見てみたい、ということだろう。VAIO WではソフトウェアDVDプレーヤーとして、SONYオリジナルの「Media Bar DVD Player」が付属している。

 思えばこのMedia Barというソフト、最初は音楽CD再生や動画ファイル再生用のいわゆるバー型に常駐するマルチメディアなんでもプレーヤーであった。それが各メディアごとに独自プレーヤーが別プロジェクトで成長し、結局残ったところを引き受けた結果DVDプレーヤーになった、という経緯を辿っている。

 またMedia Bar DVD Playerは市販のソフトウエアDVDプレーヤーに比べても、ドルビーヘッドホンやDTS非対応といった点で、すでに見劣りし始めている。VAIOにはWinDVDが付属のモデルもあるのだが、このあたりもVAIO Wならではのライセンスコスト削減の現われなのかもしれない。

 1,280×768ドットのフル画面表示で見るDVDは、実際にはピクセルを拡大しているわけだが、それほど気にならない。面積の無駄がないので、その分の満足度のほうが高いのである。またモニタの輝度がバシーンと高いので、テレビモニタ的な発色が得られ、映画特有の暗く沈んだ感じはあまりない。1人でDVDを楽しむ分には、ちょうどいいサイズでもある。

 映像面ではまったく問題ないのだが、やはりオーディオ面がもう一息である。テレビのような音声では違和感はないのだが、映画となるとサウンドのテイストが変わる分、物足りなさを感じる。なーんか映画特有のゴージャスさに欠けるのでる。言うなればテレビで放送されている映画を見ている感じといえばわかるだろうか。やはりこのクラスのスピーカーだと、映画はヘッドホンがお勧め、ということになるだろう。


■ 総論

 VAIO Wを触っていて感じたのは、これをサブマシンとして使ったら面白いだろうな、ということ。メインマシンの定義はユーザーによって様々だが、ある人はAV機能重視の高機能デスクトップだろうし、ある人は持ち出し中心の快適ノートマシンだろう。VAIO Wは、そういうダイレクトな目的重視マシンがすでにあって、サブとしてなんか変わったマシンが欲しいかな、と思い始めた人のためのマシンなのである。

 デスクトップ機を好んで使う人から見れば、キーボードが固定されることの不満、というのも実際にはあるだろう。キータッチは、ノートパソコン搭載の比較的良質のものに似ている。さらにピッチが十分広いことで、そこそこ快適に入力できる。個人的にはもうちょっとチルトしたほうが好みではあるが、まあこのあたりは実際にブツを触ってみて欲しい。一方A4ノートでの入力に慣れている人であれば、大きな不満はないであろう。また10キーも装備することで、家計簿や伝票打ちなどの数字入力にも有利だ。

 VAIO W搭載の横長で高精細度の液晶モニタも、ちょっと前まではモニタだけで16万ぐらいはしたもの。それにAV機能搭載のVAIOが付いていると考えれば、そのまま使っても汎用AVパソコンとしてのコストパフォーマンスは高い。しかし筆者が興味を持ったのは、このマシンの潜在能力というか潜在価値をどうやって引き出していくか、というところだ。こういう特殊なメーカー製パソコンをいかにいじっていくかという、自作パソコンとはまた違った興味をミョーにそそらせるマシンでもある。

 こういうアクの強いマシンの良さが認知されるまでには、しばらく時間がかかるかもしれない。そういえば最初にVAIO QRが出たときも、「変なの~」と思ったものだ。しかし実際の性能と価格比、そしてカタログを見ただけではわからない芸の細かい部分など、1年ほどのちにその本質を理解してからは、VAIOらしくはないが非常にSONYらしい野心的な製品だと思ったし、実際購入もした。VAIO Wはある意味、デスクトップ開発チームが繰り出すVAIO QRなのかもしれない。

 デスクトップなのかノートなのか、一見中途半端な感じもするVAIO Wだが、お仕着せの定義の中に入りきれないその中途半端な部分が、逆にいろいろに使い回すサブマシンにとって必要なスペックだったりすることもある。安いけどつまらないパソコンをもう1台買うぐらいなら、VAIO Wは数段面白い選択のように思える。

□SONYのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報
http://www.sony.co.jp/sd/products/Consumer/PCOM/PCV-W101/
□関連記事
【1月10日】ソニー、液晶とキーボード一体型の新デスクトップPC「バイオ W」(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0110/sony1.htm

(2002年1月23日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 impress corporation All rights reserved.