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第2回:低価格プロジェクタ4機種を試す
~ その3 EPSON「ELP-TS10」編 ~

今週は連載開始スペシャルウィークとして、30万円以下の低価格プロジェクタ4機種のレビューを1機種ずつ掲載します。

3機種目はセイコーエプソン株式会社のELP-TS10です。

「低価格プロジェクタ4機種を試す」その他のレビュー
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HE-3100(Piano)編

ELP-TS10

 データプロジェクタで高い国内シェアを誇るエプソンのホームシアター向けプロジェクタ。実売価格は28万円前後。
 コンポーネント端子がアナログRGBと兼用だったりと、データプロジェクタの仕様を引き継いでいる部分も多いが、絵作りや画質調整項目などは、ホームシアター向けにチューニングされている。


■ 設置性チェック~垂直、水平、同時に台形補正が可能

 白一色の直方体箱形ボディで、良くも悪くも「プロジェクタ」という感じのデザイン。ぱっと見、プレゼン用のデータプロジェクタという印象を持つかも知れないが、ELP-TS10はホームシアター向けに設計された液晶プロジェクターだ。

 本体底面の4本の足のうち、片側2本に高さ調整機能が付いており、投影時の本体の傾きをある程度は補正できる。この足で調整できるのはレンズを軸とした回転方向の傾きのみであり、上向き投影を行なう際の上下角度調整は設置台側の方で行なうことになる。

 台形補正機能は水平方向±10度、垂直方向±30度まで対応する。スクリーンに対して斜め横方向からの投影や、低い位置からの上向き投影の際の補正にも対応していることになる。特筆すべきは、この水平方向、垂直方向の台形補正機能を同時に併用できるという点。つまり、「横斜めからの上向き投影」でもELP-TS10ならば補正できる。

リモコン受光部は前面にも背面にもある 本体上面には簡易操作パネルが備え付けられており、リモコンなしでもメニュー操作を含む基本的な操作が行なえる コンポーネントビデオケーブルは本体に標準同梱されているので、使用上、実害はないのだが、コンポーネントビデオ端子は独立した端子としてレイアウトしてほしかった

 本機の台形補正機能もデジタルベースなので、補正の度合いが大きければ大きいほど情報の欠落度が多くなるが、設置条件の自由度は高いといえる。投影映像の最下部がレンズ位置に来るように投影されるため、台形補正機能を使わずに最良の映像を得るには、設置台にはある程度の高さを必要とする。

 天吊り投影にも対応。専用の天吊り金具(ELPMB07)もオプションとして用意されているので、常設を考えているならば天吊り設置が理想的だろう。

 ズームとフォーカスはマニュアル方式で、レンズ外枠の回転リングを回して調整するタイプ。ズームは光学方式で最大1.35倍の投影に対応する。焦点距離は短く、100インチ(4:3)の投影を3.1mで行なえる。小さな部屋でも大画面を得たい向きには適した機種だと言えよう。

 排気ファンの音は、今回紹介した機種のなかでは大きいが、それでもプレイステーション 2の排気ファンよりもやや大きい程度。よほどユーザーと近い位置に置かなければ、気になるレベルではない(メーカー公表値は31dB)。


■ 操作性、接続性チェック~コンポーネントビデオは変換ケーブルを使用

ほぼ全てのボタンが自発光。デザインにはデータ用プロジェクタのトップシェア、エプソンならではのノウハウが活かされている。今回紹介した4機種の中では最も扱いやすかった

 電源オンから実際の映像が出てくるまでの待ち時間は約40秒。今回紹介した機種のうちでは遅い部類だが、プロジェクタとしては標準的な速度だ。

 リモコン上のほぼ全てのボタンは自発光するので、暗闇での操作も行ないやすい。

 色調セットの切り換え、入力切り換え、アスペクト切り換えなどの使用頻度の高いボタンは全て独立ボタンの形でレイアウトされており、階層メニューをたどることなく直接的な操作が行なえるのも好印象だ。

 メニュー操作も、スティックタイプの方向キーと大きめの[ESC]ボタンで行なえ、扱いやすい。

 入力端子はビデオ系はコンポジット、S端子、PC系はD-Sub15ピンのアナログRGB端子と、DVI端子を備えており、各1系統ずつながら、必要とされる端子は本体背面パネルに一通り揃っている。音声入力端子はビデオ系、PC系の2系統しかないが、プロジェクタ側のスピーカーは簡易再生用途にしか使わないので、これに不満を覚えることはないだろう。

 ここで、多くの読者が「コンポーネントビデオやD端子の入力手段はないのか」という疑問を抱くことだろう。もちろんELP-TS10はこうした高品位ビデオ信号の入力にも対応している。アナログRGB端子にオプションで用意されている変換ケーブルを用いることで、コンポーネントビデオやD端子の入力が可能になる。

 もちろんコンポーネントビデオ端子変換ケーブルを利用すると、アナログRGB端子は利用できなくなるが、ELP-TS10側のDVI端子はアナログRGBも入力可能なDVI-I仕様になっているため、市販のDVI-VGA変換ケーブル(コネクタ)を利用することでDVI端子を持たないパソコンとの接続も行なえる。

 ELP-TS10はホームシアター向けの製品だが、プレゼン用プロジェクタメーカーとしてのエプソンらしい端子が1つある。それがモニタ出力(Monitor Out)端子だ。これはVGA端子に入力されたPC映像をパススルーするもので、ここにPCディスプレイを接続すれば投影している映像と同じものをPCディスプレイ側に映し出すことが出来る。相手には投影映像を見せ、プレゼンタは手元に置いたディスプレイ側の映像を見ながら発表するといった活用が出来るわけだ。

 まぁ、この端子の存在価値自体は否定しないが、ホームシアター用であれば、こういった端子よりもコンポーネントやD端子を優先して実装して欲しかったと思う。


■ 画質チェック~精度の高い解像度変換

各画素の形状はほぼ正方形。各画素は液晶であることを証明するように隙間がある

 光出力は700ANSIルーメン。今回紹介した4機種の中ではパソニックのTH-AE100と同じだが、並べて投影するとELP-TS10の方が大部明るく見える(もちろんランプの使用時間は、ほぼ同程度の状態での比較)。

 液晶パネルの解像度は800×600ドット、アスペクト比は4:3となる。16:9の映像ソースを投影したときは上下を使わない方式だ。

 画素はほぼ完全な正方形で、ドット間には「いかにも液晶パネルらしい」隙間が見える。ただ、パネル解像度が高いこともあり、パナソニックTH-AE10よりは隙間は目立たない。とはいっても、セルアニメのような単色で塗りつぶされたような領域を多く含む映像では、液晶特有の粒状感を感じる。

●映像系ソース~色深度も高く、画質はこの価格帯、最高レベル

 デフォルトの色調セットが「ダイナミック」となっており、若干色温度が高めの画作りとなっている。色調セットには、このダイナミックの他「シアター」、「ナチュラル」、「PC」、「sRGB」の4つがあり、リモコンにてダイレクトに切り替えが可能。

 「ダイナミック」は全体的にハイコントラストなチューニングになっており、暗いところは暗く、明るいところはより明るく見えるようになっている。部屋が明るくてもパリッとした手応えの感じられる映像になるので、バラエティやスポーツ中継などのテレビソースを見るのに適していそうだ。

 「シアター」は暗い階調までがしっかり出るように工夫された色調セットで、全体的には暗くなる。モード名のイメージ通り、映像鑑賞向きだといえる。

 「ナチュラル」は上2つの中間的なイメージの画作りで、上記以外の一般的な映像ソースを楽しむにはこのモードで事足りる。

 「PC」は全体的に白が青っぽく出るようになるので、色温度はかなり高目の設定だ。全体的に明るいが黒も白っぽくなるので映像鑑賞向きではない。

 「sRGB」とは、マイクロソフトなどが策定したディスプレイデバイス用色表現の標準仕様。ELP-TS10はホームシアター向けとしては珍しくこの規格に準拠した色調セットを持っている。いかにもエプソンの製品らしいフィーチャーだ。色合いはナチュラルに非常に近いものになるが、色温度はやや引き下げられた感があり、やや赤みを帯びた柔らかい画作りになる。

 いくつかの映像ソースを見てみた感じでは、今回取りあげた4製品の中では最も色深度が高いようで、微妙なグラデーション表現もマッハバンドを出さずに映し出せていた。

 インタレースのビデオソースを入れたときは、若干のちらつき感は残るものの、コム(櫛状)ノイズなどは殆ど無く、このクラスの画質としては文句ないレベル。プログレッシブ化ロジックもなかなか優秀なものが搭載されているようだ。

 ハイビジョンソースもコンポーネントビデオ経由、あるいはD端子経由で入力可能となっている。対応フォーマットは480i、480p、1080i、720pまでで、BSデジタル放送などのハイビジョン番組はもちろん、DVDプレーヤーなどのプログレッシブ出力にも対応する。

 最も美しく表示できていたのはパネル解像度的にもリアル表示できる480pだったが、1080i、720pの映像も、解像感こそ失われるものの特に潰れた感じもなく違和感ない画質で表示できていた。「簡易表示である」というこをユーザーがあらかじめ認識していれば、十分満足できるレベルになっていると思う。

【DVDビデオ『ダイナソー』での投影画像】
 コンポーネント接続の投影画像をデジタルカメラ「COOLPIX995」で撮影した。ソースはDVDビデオの「ダイナソー」(国内版)。モードは初期状態の「ダイナミック」を選択した。
 COOLPIX995の設定はオートで、撮影後に1,024×557ドットにリサイズし、下に掲載している部分画像を切り出した。部分画像をクリックすると全体(640×348ドット)を表示する。

(c)Disney Enterprises,Inc.

コンポーネント接続
DVI接続
使用機材
 ・スクリーン:オーロラ「VCE-100」
 ・DVDプレーヤー:パイオニア「DV-S747A
 ・コンポーネントケーブル:カナレ「3VS05-5C-RCAP-SB」(5m)
 ・アナログRGBケーブル:カナレ「5VDC05-1.5C」(5m)

●ゲーム機、パソコン~640×480ドットから1,280×1,024ドットまで表示可能

 ELP-TS10はコンポーネントビデオ信号を入力させるには変換ケーブルを利用する関係で、プレイステーション2などのコンポーネントビデオ出力に対応した最新ゲーム機を直接接続することが出来ない。市販の「RCAメス-RCAメス」中継プラグを3個利用して、ELP-TS10側の変換ケーブルとゲーム機側のコンポーネントビデオケーブルを接続する必要がある。

 実際にゲームの映像を投影したときの表示レスポンス自体には全く不満はない。動きの速いゲームでも残像などは一切無し。

 PCの映像入力に対しても幅広い適応能力を持っており、パネル解像度である800×600ドット以外の、640×480ドット,1,024×768ドット、1,152×864ドット、1,280×1,024ドットといった画面モードを表示できる。

 拡大縮小ロジックが優秀なためだろう、640×480ドット、1,024×768ドットでは文字形状に破綻もなく美しい。しかし、1,152×864ドット以上では「とりあえず映る」といった感じでさすがに常用するには辛いものがあるが、データプロジェクタメーカーのエプソンらしさを感じる。

画質の調整項目は一般的なものが一通り揃っている(左)。中央は各種設定メニュー。「縦/横キーストーン」とは垂直/水平台形補正のこと。投影方式は天吊りの他、リアにも対応(右)。(c)Disney Enterprises,Inc.


■ その他特殊機能~ピクチャー・イン・ピクチャー機能対応

投射距離と画面サイズ(16:9)
 ELP-TS10には、投影中の任意の箇所を拡大表示できる「E-ZOOM」機能と呼ばれる特殊機能が備わっている。拡大倍率は0.125倍刻みで最大4倍まで、静止画、動画の区別なく、投影中の映像の任意の箇所が拡大表示できる。

 また、現在投影している映像に対し、別の入力ソースからの映像をサブ画面としてウィンドウ表示できる「ピクチャー・イン・ピクチャー(PinP)」モードを備えているのも、このクラスの製品としては珍しい。

 ただし、「大画面側の方はかならずプログレッシブ画面でなければならない」という制約があるので、「PC画面を大画面で、ビデオ画面を小画面で」あるいは「プログレッシブのコンポーネントビデオ画面を大画面で、ビデオ画面を小画面で」という組み合わせに限られるが、実用度は高い。

 DVD鑑賞中に衛星放送のスポーツ中継を時々チェックしたり、といった使い方はもちろん、PC画面のスライドを見せつつ、ビデオ資料を再生といった、プレゼン用途にも流用できそうだ。

【ELP-TS10の主な仕様】
液晶パネル0.9型800×600ドット
レンズ光学1.35倍ズーム
光源150W UHEランプ
明るさ700ANSIルーメン
投影サイズ30~300インチ
対応走査周波数水平19~72kHz、垂直48~92Hz
対応ビデオ信号480i、480p、1080i、720p
映像入力DVI-I、アナログRGB(コンポーネント兼用)、S映像、コンポジット
消費電力240W
外形寸法348×274×104mm(幅×奥行き×高さ、レンズ、セット脚含む)
重量約4.2kg

□エプソンのホームページ
http://www.epson.co.jp/
□製品情報
http://www.i-love-epson.co.jp/products/elp/elp_ts10/ts101.htm
□関連記事
【2001年8月1日】エプソン、ワイドSXGA液晶でホームシアター市場に参入
―ファロージャDCDi搭載、実売は50万円弱
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020121/epson.htm

(2002年5月15日)


= 西川善司 =  ビクターの反射型液晶プロジェクタDLA-G10(1,000ANSIルーメン、1,365×1,024リアル)を中核にした10スピーカー、100インチシステムを4年前に構築。迫力の映像とサウンドに本人はご満悦のようだが、残された借金もサラウンド級(!?)らしい。
 本誌では1月の2002 International CESをレポート。山のような米国盤DVDとともに帰国した。僚誌「GAME Watch」でもPCゲームや海外イベントを中心にレポートしている。

[Reported by トライゼット西川善司]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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