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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第62回:ビデオとネットワークの融合機
~ TransCube 10は生活のHubとなるか ~


■ 家電王国の新たな1ページ

 日本というのは、やっぱり家電王国なんだなぁと思う。国産のパソコンを考えてみると、家電メーカー製パソコンだからといってキワモノのような見方はされないし、信頼性の面でも高い評価を得ている。こういった現象は、他国ではまず見られない。

 PCのアーキテクチャを使ってテレビ録画が可能になった時点で、多くの家電メーカーがそのソリューションを自分の土俵に持ってこようと狙ってきた。パソコンが家電となり、インターネットがライフライン化してゆく中、パソコン事業部を持つ家電メーカーにとっては、PC家電はこれからおいしい分野に大化けする可能性を秘めている。

 そんな中、発表しましたー、気が付けばもう売ってますー、みたいな怒濤のイキオイで世の中に現われたのが、東芝のワイヤレス ホームメディアステーション「TransCube 10」(以下TransCube)である。スタンドアロンで録画機器として動き、LANでPCに映像配信、ルータとしてブロードバンド時代をサポート、ワイヤレスネットワークもできるよ、といった実に機能てんこ盛りのデバイスだ。OSにはLinuxを採用したという、久々の「中身はパソコン」な製品としても注目される。

 話だけ聞けばエラくややこしそうなこの機器、実際の使い勝手はどうなのだろう。さっそくチェックだ。


外見はすっきりしっかり

 まず外見だが、本体はちょうどMicroATX用ベアボーンキットの筐体ぐらい。PCと見ればかなり小型だが、HDDレコーダとしてみれば大型といったところ。TransCubeと言う割には形が全然Cubeじゃないじゃんというツッコミもあろうかと思うが、ソコはソレもうオトナなんだから聞き分けて行こう。

 フロントパネルは、AV機器で最近流行りの鏡面張り。ボタンのカバーはアルミ製で、なかなか高級感がある。ボタン類は小さいが手応えがしっかりしており、質の高いパーツを使っているようだ。また本体表示部はシアン単色のFL管を採用し、ミラーの奥からでもはっきり見やすい。

ミラー越しだが綺麗で見やすい本体表示部 アルミカバーを開けると、ビデオ入力2端子とコントロールボタンが現われる

背面端子の配置も綺麗にまとまっている
 背面にはWANとLANのネットワーク端子、ビデオの入出力、一番下にRF入力と、機能が多い割には端子類は整然としている。また外見からはわからないが、IEEE 802.11b対応のアクセスポイントも内蔵している。このあたり外観のデザインも含めて、突然現われたにしてはかなり前からじっくり練り込まれてきた製品という印象を受ける。市場投入のタイミングをじっくり見ていたということなのかもしれない。

 レコーダとして80GBのHDDを内蔵し、3種類の録画モードに対する録画時間は次の表のようになっている。なお、MPEG-2圧縮はすべてVBR。

【録画時間】
モード 解像度 ビットレート 最長録画時間
長時間 352×480ドット 約2Mbps 約72時間
標準 720×480ドット 約4Mbps 約36時間
高画質 720×480ドット 約6Mbps 約24時間

 付属のリモコンは、テレビ関連機器のわりには数字キーがなく、小型でシンプルなもの。テレビのザッピング用というよりは、ビデオのコントローラという感じだ。さらに製品にはお手持ちのノートPCにワイヤレス環境をということで、IEEE 802.11b用PCカードも付属する。まさに至れり尽くせりといった商品構成となっている。

リモコンは数字キーがないぶんシンプルに見える ワイヤレスLAN用PCカードも標準で付いてくる なんとアンテナ分配器まで同梱



■ 動作は3モード

 では実際の機能を見てみよう。TransCubeには大きく分けて以下の3つのモードがある。

 ルータ機能は基本的にどのモードであっても、ONのままである。すなわち、「リモコンビデオモード」とはスタンドアロンの録画機 + ルータ、「PCビデオモード」とはネットワーク上にあるビデオサーバー + ルータとして動作する。では残りの「ルータモード」とは何よ? というと、これはルータ機能を残してビデオ系の機能をすべてOFFにする、まあいってみればルータモード = スタンバイモードと考えて差し支えないだろう。そしてお約束が1つあって、リモコンビデオモードとPCビデオモードの間はダイレクトに切り替わらず、いったんルータモードを経由しないといけない。

 一見ややこしそうだが実際に使ってみると、リモコンビデオモードとPCビデオモードに行くときは、ユーザーの動作に合わせて勝手に切り替わるので、ユーザーはそれほど意識する必要はない。使い終わったらルータモード、というルールさえ覚えれば、なんちゅうこともない。

DHCPを前提にすれば、デフォルトの設定ですぐにルータとして使える
 TransCubeの場合、まず最初にネットワークを設定しないことには手も足も出ないので、ルータの設定なんかを覗いてみよう。設定は最近のルータがほとんどそうであるように、TransCubeに接続したPCのWEBブラウザ経由で行なう。デフォルトでDHCPを使用するようになっているので、Adminでログオンしたら、WAN側のアドレスの「再取得」ボタンを押す程度でとりあえず使えるようになる。

 この程度ならば、初心者でもマニュアルを見ながらやれば、難しくはない。しかしブロードバンドが当たり前になりつつある現状では、すでにルータを入れている人も少なくないことだろう。その場合はルータをTransCubeに代えるか、現状のルータの下にTransCubeを繋ぐことになる。いずれにしてもTransCubeをコントロールするPCは、TransCubeの下に接続する必要がある。


■ メインはPCからの利用

 TransCubeをPCから利用するには、「LIVE MEDIA for TransCube」というアプリケーション群を利用する。中心となるのはその中の「TVアプリケーション」というテレビ視聴ソフトで、ここから録画管理アプリ「ナビパネル」を呼び出すことができる。

 番組予約はPCによるiEPG予約が利用できる。さらにTransCube自体が常時インターネットに接続しているので、外出先からの予約も、ネットやiモードを使って行なうことができる。従来の録画機では、このためにわざわざ電話線を繋ぐとかPCを繋いでおくといった手間があったものだが、ネットワーク機能まで込みの製品なので、この手の機能が利用しやすいというのは利点の1つ。

映像視聴の中心「TVアプリケーション」 iEPGによる録画予約情報は、TransCube側に保存される

 録画した番組管理は、カレンダー表示や詳細表示などいろいろな表示法が可能。またPCに番組を転送することもできる。転送した番組のMPEG-2ファイルを使って、録画されたシーンのインデックスを作成することもできるというのは、いままでにない機能だ。また転送したMPEG-2を編集して保存したいと思ったら、PowerDirector 2.0が付属しているので、存分にチョキチョキすればいい。

詳細表示の例。サムネイル画像は自分で選んで付けられる シーンのインデックスを自動的に作る機能もある

 PCで映像を見るということは当然ネットワーク経由で見ることになるのだが、100Base-TXならば非常に快適である。高画質モード(6Mbps)での視聴も何ら問題はない。しかしワイヤレス環境だと、どうしても転送速度による制限が細かくつきまとう。IEEE 802.11b環境下では、基本的に長時間モード(2Mbps)で視聴することになる。標準モード(4Mbps)で録画された番組は、TransCube内部で長時間モードに変換されて送信される。さらに録画中はダメだとか、その30秒前もダメだとか録画画質を標準以上に設定するとダメだとか、腹が痛えの尻がかゆいのと、なかなかテレビを見るだけでもままならない。

 それをうまいことすり抜けたあとは、IEEE 802.11bという遅い帯域伝送での録画品質が製品の落としどころだと思うのだが、TransCubeの長時間モードは意外に悪くない。横の解像度が半分なのでどうしても絵は甘くなるが、動きのおとなしい映像や文字、ベタ色部分は結構綺麗だ。従ってスポーツやハンディカメラのロケもの以外なら、目立ったノイズも少なくそこそこイケる。またビットレート上限が6Mbpsとあまりが高く取れないのだが、クオリティ的にはまずまず納得の画質だ。いつものように編集部がキャプチャしてくれた映像サンプルをご覧いただこう。

 TVチューナの性能評価を同時にするため、RF入力からの録画を行なった。

 素材にはカノープス株式会社の、プロ向け高画質動画素材集「CREATIVECAST Professional」をDVテープに書き出して使用。そのDVテープをDVデッキ「ソニー WV-DR5」で再生し、内蔵のRFコンバータで2chのTV信号として出力。それをTransCubeで録画し、PCへ転送した。

 下の各サムネイルは、左の画像の赤枠内を拡大したもの。各画像をクリックすると再生を開始する。

モード
XP
SP
LP
ビットレート 6Mbps 4Mbps 2Mbps
サンプル動画
解像度
ファイル容量
【MPEG-2】
720×480ドット
16.5MB
【MPEG-2】
720×480ドット
12.2MB
【MPEG-2】
352×480ドット
6.80MB
最大録画時間 約24時間 約36時間 約72時間

MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

「リモコンビデオモード」でのライブラリ表示。機能らしい機能はこれしかない
 一方でちょっと機能的に寂しいのが、単体動作である「リモコンビデオモード」だ。予約入力はできず、放送中の番組をぷちっと録画するか、タイムスリップ機能用の録画しかできない。録画した番組のサムネイル表示もなし、さらに録画された番組が高画質なのか長時間なのかといった情報もわからない。

 単純にテレビに出して見るだけ、といったシンプルな形である。このあたりはいくらPCと繋がるからとはいえ、使い方はユーザーに下駄を預けるわけだから、もう少し自由度がほしいところだ。


■ 総論

 我々パソコンユーザーからしてみれば、PCにTVキャプチャカードとTV出力カードを入れたらいろいろできるようになるよな、ということは簡単に想像できる。つまりそういうのをクローズドなマシンとしてまとめてみました、というのがTransCube 10だと言える。

 もちろんこれはこれでメリットがある。オープンなPCだと調子に乗っていろいろなデバイスくっつけたりしているうちに、スタンバイはおろか再起動にも失敗するようなマシンになってしまいがちだが(うちのマシンだよトホホホ)、TransCube 10ならそういうことにもならず、家電ライクな安定した動作を続けてくれる。

 一方で、中身の割には拡張性がないという見方もある。例えばワイヤレスが11aや11gだったらなぁ、HDDが倍ぐらいあったらなぁ、という欲求も今後出てくるだろう。とりあえず今のところHDD増設サービスなどは考えていないらしいから、勝手な憶測だが東芝さんとしては、「そういうご用命でしたら是非この次もTransCube 20、いや30いやいや50をヨロシク(ニヤ)」ということなのかもしれぬ。

 今からADSL申し込むんでルータが必要、さらにワイヤレスLANもこれからと言う人には、TransCubeはまさに一石三鳥四鳥ぐらいの便利デバイスだ。しかしそう都合よく、ジグソーパズルの最後の1ピースのように条件がピタリとハマる人がどのぐらいいるのだろうか。どれかの機能が手持ち機材とダブることもあり得るだろう。購入を検討するとしたら、その辺が悩みどころだ。

 また多機能ゆえに製品としてこれはいったい何なのか、売るほうと買うほうで認識がちがうという可能性もある。東芝のサイトでは、個人向けノートPCのページからTransCubeのページに行けるようになっているが、筆者の認識としてはこれはビデオ関連商品でいいんじゃないかと思う。そして同様の混乱は売り場でも起こるような気がする。中小パソコンショップに置く分にはいいかもしれないが、大手量販店ではパソコン買いに来た人に勧めてもちょっと値段的にアレだし、家電コーナーに置かれてもルータってなんですかみたいな話から始まったら結構長い道のりだ。どこのコーナーに置けばいいのか、実にビミョーな製品なのである。

 そういう意味では、まさに「AV Watchの読者層」というニッチな人々が、この製品の性質を一番理解できるポジションにいるということになるかもしれない。


□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
□製品情報
http://www3.toshiba.co.jp/pc/catalog/whms/020520t1/index_j.htm
□関連記事
【5月20日】東芝、有線/無線LAN対応80GB HDD内蔵ビデオレコーダ
―単体でも使用可、パソコンにも転送でき、iEPG対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020520/toshiba.htm

(2002年6月5日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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