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第43回:ケタ外れの大ヒット作、ついに登場!!
“生きる力”を呼び覚ませ! 「千と千尋の神隠し」

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 2001年の話題を独占した、モンスター映画

千と千尋の神隠し

(c)2001 二馬力・TGNDDTM
価格:4,700円(通常版)
    15,000円(コレクターズ・エディション)
    19,800円(ジブリDVDプレーヤーバンドル版)
発売日:2002年7月19日
品番:VWDZ-8036(通常版)
    VWDZ-8038(コレクターズ・エディション)
    BVHE-SG1(ジブリDVDプレーヤーバンドル版)
仕様:片面2層×2枚
収録時間:約124分(Disc1本編)
      約155分(Disc2本編+特典)
画面サイズ:16:9ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:日本語(ドルビーデジタル2ch)
    日本語(DTS-ES 6.1ch)
    フランス語(ドルビーデジタル2ch)
字幕:日本語/フランス語/英語(Disc1本編)
制作:スタジオジブリ
発売元:ブエナ ビスタ ホーム エンターテインメント

 今回取り上げるタイトルは「千と千尋の神隠し」。昨年公開されて大ヒットを記録した、ご存知宮崎駿監督作品が送る、スタジオジブリのアニメーション映画である。

 国内での観客動員数は2,000万人以上。日本の映画賞はもちろんのこと、ベルリン国際映画祭の金熊賞受賞というニュースも話題となった。その結果、最終的な興行収入はタイタニックの持つ約260億円という記録を抜き、300億円以上を記録。まさにモンスター映画だ。

 その人気を反映して、既にお伝えした通り、DVDも初回出荷で300万本の過去最高記録を樹立。VHSも合わせると、計550万本というとんでもない数である。個人的にも、久しぶりに「エンターテイメントの宮崎駿」を見せてくれたこの作品への評価は高い。

 DVDは、通常版のほか「油屋のフィギュア 」などを同梱した「コレクターズ・エディション」、「ジブリDVDプレーヤーバンドル版」の3種類をラインナップ。

 物語の主人公は10歳の少女、千尋。彼女は典型的な現代っ子で、両親にべったりで、文句ばかりいう素直じゃない女の子。そんな彼女はある日、家族で引越し先に向かう途中、人間が入ってはいけない不思議な町に迷い込んでしまう。わけのわからないまま両親は豚にされてしまい、取り残された千尋は自分1人で生きていかねばならなくなる。

 登場するキャラクター達は、顔の大きな魔女や喋るカエル、巨大な赤ちゃんなど、実に個性的。神様や妖怪がひしめく世界を抜け、はたして千尋は自分の世界に戻ることができるのだろうか……。

 宮崎アニメに登場するヒロインは、人間を超越してしまったような女性が多い。彼女達は無垢で美しい心の持ち主で、どんな逆境にもくじけない。そんな作風の中で、今回の主人公「千尋」は、わがままで文句ばかり。顔だって決して美人とはいえない、どこにでもいる今どきの女の子だ。

 しかし、この映画で1番大切なのは、そんな彼女が主人公であることだ。現代の子供が、たった1人で知らない場所に放り出されたとしたら……。空想の世界を舞台に、映画はある種のリアリズムを持ってシミュレートする。


■ 生きるということは、どういうことなのか?

 この作品のDVDには、先着順、あるいは抽選で「ハクのおにぎりフィギュア」が付属する。おまけとしてはかなり特殊で「なぜおにぎり?」と首をかしげてしまうだろう。さらに、各地で行なわれるDVD発売記念のイベントでは、巨大な「おにぎり気球」まで登場するなど、おにぎりには「千と千尋」という作品の重要なメッセージが隠されている。

 おにぎりが登場するのは物語の序盤。見知らぬ世界に迷い込み、初めての経験の連続で、お腹がすいていることも忘れていた千尋が、おにぎりをもらって食べているうちに泣き出してしまうシーンだ。彼女は手にした塩だけのおにぎりを必死に食べ、大粒の涙をこぼす。

 アニメのキャラクターが「そこで生きている」という実感を出すために、宮崎監督は必ず食事をするシーンを作品中に入れるという話を聞いた。確かに「おにぎりのシーン」は、それまで彼女が感じていた「不安」と、ようやく手に入れた「安堵」をリアルに描く、巧みな手法といえるだろう。しかし、おにぎりが持つ意味は、演出上のものだけではない。

 おそらく、今までの千尋は、毎日お母さんが作ってくれたご飯を当然のものとして、何の疑いもなく食べていただろう。ましてや塩だけのおにぎりを見たら、頬を膨らませて文句を言ったに違いない。

 映画を見ていると、普段何気なくしている「食事を手に入れること」、「食べるということ」の持つ意味を考えさせられる。それは「生きていくこと」についても同じだ。宣伝広報プロデューサーである糸井重里氏が、おにぎりをおまけとして配布したのは、現代を生きる人々に「“貴重な素朴”が持つ意味を思い出して欲しい」(フィギュアのパッケージより)というメッセージと考えてよいだろう。

 生きていくことは大変だ。働くことも大変である。千尋が迷い込んだ湯屋は、子供達の目には「怖い妖怪のいる世界」に見えるだろう。しかし、映画を見ている大人達は気付いているはずだ。厳しい上司がいて、面倒をみてくれる先輩がいて、破ってはいけないルールがある。つまり、湯屋は子供が迷い込んだ「大人の世界」であり、実社会そのものである。

 そんなことを思いながら見ていると、この映画の中心にあるものが見えてくる。異世界に迷い込んだ千尋には自分の居場所がない。その状況は、初めて社会に出て、周囲から認められ、自分が「いてもいい」椅子と机を手にいれるまでの過程と、よく似ているように思える。

 数々の困難を乗り越えて、千尋はどんどん成長していく。物語が進むにつれ、宮崎監督が「ぶちゃむくれ」と評した千尋の顔も変化する。普通の女の子だった千尋が、宮崎アニメのヒロインとして輝くのだ。べつに絵柄が変わったわけではないのだが、映画が終わる頃には本当に可愛く見えてきて、不思議なくらいである。

 すぐ人に頼らず、自分のことは自分でする。ちゃんと挨拶できるようになる。誰かのために一生懸命頑張ることだってできる。ぶちゃむくれていた女の子はもういない。この映画は「主人公の成長過程を描く」という意味でも、非常に完成度が高い。


■ 気になるDVDの画質、音質は?

 本編ディスクは片面2層を採用している。映像はビスタサイズでスクイーズ収録。平均ビットレートは7.44Mbps。音声をDTS-ESで収録しているので、収録時間を考えると妥当なところだろう。

 画質は、少し輪郭を強調し過ぎているきらいもあるが、ノイズも少なく高画質といえる。しかし、一番気になるのは色温度の低さである。劇場で見た色を思い出しながらの比較していたのだが、全体的に画面が赤っぽくなっており、「ここは夕暮れのシーンだっけ?」と思えるシーンもあった。本来白いはずのタイトル文字まで赤味がかっているので、劇場版と色が違うのは間違いないだろう。

 決定的なのは、特典ディスクに収録されている予告編の画像だ。鮮やかな色抜けで、赤味がかることもなく、本編と比較してみるとその差は一目瞭然である。音質と画質そのものは良いので、この点はとても残念でならない。

 この件に関してブエナ・ビスタに話を聞いたところ、DVDの製作には「劇場のDLPシネマで使用されたデータを流用するのではなく、DVDのために新たに色合いなどを調整した」とのこと。液晶テレビやプラズマなど、再生機の能力や色調の格差が大きい状況を考慮して、宮崎監督や撮影監督も参加してこの色調は決定したそうである。

 つまり、DVD版「千と千尋の神隠し」として割り切った新しい気分で楽しむのがいいらしい。どうしても気に入らないという場合の解決策としては、テレビやDVDプレーヤーの色合いを調節し、コントラストで色を飛ばしめに調節すると良くなると思うのだが、収録されている元々の色が薄いので、環境によっては多少難しいところ。

Bit Rate Viewerで見た本編のビットレート

 音声はドルビーデジタルステレオとDTS-ESの2種類を収録。DTS-ESはDTSと互換性を持つフォーマットなので、私のようにDTSデコーダしか搭載していない機器の場合でも、マルチチャンネルの再生に問題はない。その場合、リアチャンネルの中央が1つ足りないことになってしまうが、私が視聴した限り違和感はなかった。

 音質は非常に良い。重いものが落ちる硬い音や鋭い音もクリアに収録されている。個人的に1番好きなシーンは、千尋が乗った列車が水の上を走るシーンなのだが、後方へ消えていく音の移動感も良く、独特の雰囲気に浸ることができた。DTS-ESに関しては、現時点で対応機器を所有している人が少ないかもしれないが、このソフトを今後の機材グレードアップの原動力にしてはいかがだろうか。


■ 特典はお馴染みの絵コンテ、ユニークなジブリDVDプレーヤーも

 特典ディスクには、ジブリ作品のDVDでお馴染みとなった絵コンテが収録されている。マルチアングルで本編と切り替えて視聴でき、アニメーションの製作過程の一部を知ることができるコンテンツだ。

 しかし、今回の特典ディスクでは1つ、気になる点があった。それは、チャプタ16がなぜか欠番となっていることである。チャプタ一覧では表示されず、メニューからアクセスすることはできない。連続で視聴してみると、チャプタ16では数秒間の真っ黒な画面が表示されるだけである。メーカーによると、これは製作工程でのミスではなく、「発売前から認識していた」とのこと。

 しかし、一部のメーカーの専用プレーヤーでは、チャプタ16から17に切り替わる際、17の最初の音声が一瞬欠けるという情報もある。これはソフトとプレーヤーの相性で生じる問題で、ブエナ・ビスタでは「その症状が確認された場合、プレーヤーメーカーの相談窓口へ連絡してほしい」としている。

 なお、この問題があるのは特典ディスクのみ。もちろん本編ディスクは問題なく再生できる。そのほかの特典として、予告映像やプロモーションビデオ、TVスポットなどが収録されている。

 「コレクターズ・エディション」には、油屋のフィギュアと、劇場版B2ポスター3枚セット、ベルリン映画祭のプレスブックレットが付属。「ジブリDVDプレーヤーバンドル版」には、木目調の本体にドングリ型のリモコンを搭載した「ジブリDVDプレーヤー」がセットになっている。

ベルリン映画祭のプレスブックレット 千尋が働くことになる「油屋」のフィギュア ドングリ型のリモコンを搭載した、ジブリDVDプレーヤー


■ 誰にでも楽しめる作品、という凄さ

 ストーリーは波乱に富み、冒険あり、ラブロマンスありの作品になっている。大ヒットした事実を外して考えても、老若男女が楽しめるDVDタイトルの代表になるだろう。特に 子供達には何度も繰り返し見て、新たな発見をして欲しい。

 また、内容だけでなく、映像の美しさも特筆すべきだろう。空や水や建物といった、ふとしたシーンが1枚の絵画のように美しく、いつまでも印象に残る。DVDとしても、色合いさえ気にならなければ、高音質・高画質の優良ソフトといっていい。

 また、AV Watchとしても、音声にDTS-ESを採用したり、DLP上映を行なったりと、積極的に新技術を取り入れるスタジオジブリの姿勢を評価したい。アニメーションとCGの融合にもチャレンジしてきた同スタジオだが、今回の作品では、その努力の集大成を見せてもらった気分である。

 そして、個人的に何より嬉しかったのがパッケージデザインだ。今までの「ジブリがいっぱいシリーズ」のデザインはあまり好きではなかったのだが、今回は清涼感もあり、暑い夏に適した良いデザインだと思う。内側には半透明のケースを生かして、青い色が綺麗な夜空が透けて見えるようになっている。

 今回、DVDを見終えて、アニメーションならではのワクワクする気持ちや、爽快な後味を味わうことができた。同時に、エンターテイメントの中にメッセージを折り込む宮崎監督のテクニックの凄さを見せつけられた気分だ。

 個人的に宮崎アニメの中では、「天空の城ラピュタ」や「カリオストロの城」など、比較的初期に分類される作品が好きなのだが、「千と千尋」はあの頃の宮崎アニメの良さをもう一度感じさせてくれる作品だと思っている。

 そんなわけで、何度か「引退」を口にしている宮崎監督なのだが、私としては「そんなこと言わずに、まだまだ沢山作ってくださいませ」と、お願いしたいところである。

●このDVDについて
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前回の「新スタートレック コンプリートシーズン1 完全限定スペシャルプレミアムボックス」のアンケート結果
総投票数1,021票
[購入済み]
528票
51%
[買いたくなった]
397票
38%
[買う気はない]
96票
9%

□ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテインメントのホームページ
http://club.buenavista.co.jp/index.cfm
□製品情報
http://club.buenavista.co.jp/search/title-info.cfm?p_movie_id=409
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(2002年7月19日)

[yamaza-k@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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