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第71回:Windows Media Audio 9の実力
~ WMA最新版のエンコード能力を探る ~


 9月16日、23日と月曜日が2回連続休日となったため、月曜日連載のDigital Audio Laboratoryもお休みさせていただいた。現在、Digital Audio Laboratoryでは波形編集ソフトの比較を行なっているが、このお休みの間、この一連のシリーズとは別に特別編として、Windows Media Audioの最新版である「Windows Media Audio 9」についてレビューしてみたいと思う。


■Windows Media Player 9を試す

 すでに報道されているとおり、米Microsoftは9月4日、次世代Windows Mediaプラットフォームである「Windows Media Player 9 Series」(以下Windows Media Player 9)のβ版をリリースし、同社サイトよりダウンロードが可能となった。また、同時にWindows Media 9 Series用プラットフォームの主要コンポーネントも発表されている。

 プレスリリースによると、Windows Media Audio 9は、旧バージョンと比べて20%以上品質が向上しているとのこと。また、新しくVBR(Variable Bit Rate:可変ビットレート)モードを搭載し、オーディオ音質をさらに高めているという。さらに、Windows Media Audio 9 Professionalの進歩により、最低128kbpsの帯域があれば、96kHz/24bitのオーディオ品質や、Webベースでの5.1chサラウンドを楽しめるようになった。

 これら、WMA9のエンコーダ機能もWindows Media Player 9のβ版に搭載されているので、実際にこれをダウンロードし、インストールした上で試してみることにした。

 テストは、比較することも考えてWindows Media Audio 8を試した際と同じ手法を使った。まず素材は、これまでDigital Audio Laboratoryで扱ってきたのと同じ3素材。TINGARAというアーティストの夜間飛行という曲の45秒分と、20Hz~20kHzのスイープ信号、1kHzのサイン波の信号。これらがWAVファイルとして手元にあるのだが、Windows Media PlayerではWAVからの直接エンコーディングができない。そのため、一旦これらのデータをCD-RにCD-DAとして焼いた上で、Windows Media Playerが搭載しているリッピング&エンコーディング機能を利用して、WMA化している。

 また、これをefu氏制作のWaveSpectraというソフトを用いて周波数分析にかけているが、WAVファイルしかサポートしていない。WMAファイルを一旦Windows Media Playerで再生すると同時に、「Total Recorder」でWAVファイル化してから、WaveSpectraにかけるという手順をとっている。

 かなり複雑で面倒な手法ではあるが、WMA9のエンコーダおよびデコーダがこのWindows Media Playerしかない現時点においては、選択の余地がないだろう。

 では、まずMicrosoftのサイトからWindows Media Player 9のβ版をダウンロードして、インストール。英語版で、かつβ版となっている。また、Windows XPやWinows Meではアンインストールができないので、注意が必要だ。

 さて、起動したところ、最初の画面から受ける印象に大きな差異はない。ユーザーインターフェイスや操作性など、違いは色々ありそうだが、今回はすべて無視して、WMA9でのエンコード結果だけに着目することにする。

 CDからリッピングしてWMAファイルを生成するという手順だけを見れば、従来のバージョンとまったく変わらない。メニュー中のCopy from CDでリッピングしたいデータにチェックを入れ、Copy Musicというボタンをクリックするだけで、リッピングからエンコードまでが行なわれる。

現バージョンと雰囲気が似通うインターフェイス リッピングからエンコードまで簡単に行なえる 選択可能なビットレートは、48kbps、64kbps、96kbps、128kbps、160kbps、192kbpsの6種類

 ただし、これだけではどんなフォーマットのデータが生成されているのかわからない。確認や変更は、ToolsメニューのOptionsで行なえる。プロパティ画面のCopy Musicタブを選択すると、各種設定の画面が出現。デフォルトではFile formatにおいてWindows Media Audioが選択されているのとともに、ビットレートは64kbpsとなっている。このビットレートを設定するスライダーを動かしてみたところ、48kbps、64kbps、96kbps、128kbps、160kbps、192kbpsの計6種類の中から選べるようになっている。

 従来のWindows Media Player 8では、64~160kbpsまでの4種類しかなかったので、48kbpsと192kbpsが追加された形だ。とはいえ、従来のバージョンとの比較も今回の大きな目的であるので、やはり64kbps、96kbps、128kbps、160kbpsでテストしてみることにした。

 最初は、いつものように夜間飛行という曲を用いた結果をご覧いただきたい。64kbpsでは14kHzあたりを軸にそれ以上高い音が完全に消しされられていることがわかるだろう。同様に、96kbpsでは15kHzあたりで、128kbpsでは19kHzあたりで切れていることが確認できる。

 これらを第43回で掲載したWMA8での結果と比較してみると、明らかに波形が異なっていることが確認できる。単に何kHzあたりまで出ているのかに着目すれば、WMA 8のほうがよかったように見えるが、平均を示す青い線を見てみると、こちらのほうがより元データに近いようにも感じられる。

  元ファイル
64kbps
夜間飛行
96kbps
128kbps
160kbps
Windows Media Audio 8 160kbps
Windows Media Player 7.1

 実際に音を聞いてみると、64kbpsではややにごりを感じたが、それでもMP3の128kbps程度といった雰囲気。96kbps以上であれば、結構オリジナルに近い。WMA8でもそうだったが、グラフで見るよりも聴感上はかなりいい音なのだ。WMA8と比較してどうかといわれると難しいところだが、若干改善されているようにも思える。

 さらに、周波数特性を確認するためにスイープ信号の状況を見てみた。するとどうだろうか、夜間飛行での見たのと同じ結果がよりハッキリ見える。明らかにローパスフィルターが効いており、高域がまったく出ていない。これを見る限り、WMA8のほうが良さそうそうだ。

  元ファイル
64kbps
スイープ信号
96kbps
128kbps
160kbps
Windows Media Audio 8 160kbps
Windows Media Player 7.1

 もう一方の1kHzのサイン波についてはどうだろうか? こちらも特性が異なっていることは確認いただけるだろう。

  元ファイル
64kbps
1kHzのサイン波
96kbps
128kbps
160kbps
Windows Media Audio 8 160kbps
Windows Media Player 7.1


■VBRとProfessionalモードを試す

 さて、プレスリリースによれば、新しくVBRをサポートしたのと同時に、Windows Media Audio 9 Professionalというモードも存在するという。WMAとしてはともに初対応だが、これらは先ほどのOptionsで設定できる。

 さっそくVBRを選択して、エンコードを行なってみた。エンコードまでは問題なく進み、WMAファイルが生成された。しかし、いざWindows Media Player 9で再生しようとしたら、エラーが表示されて、どうにも再生することができない。まだβ版ということでコーデックが搭載されていなかったということなのだろうか?

Options画面からVBRを選択 しかし、Windows Media Player 9では再生できなかった

 そしてもう1つ、メニューにはWindows Media Audio Losslessというものが選択できる。 ヘルプを読んでみたところ、これこそがWindows Media Audio Professionalだそうだ。名前を見るからに、高音質という気がしないでもない。さっそく、同様の実験を行なってみた。グラフを見て驚いたのは、「Lossless」の名の通り、もうこれはオリジナルソックリであるということ。

オリジナルデータのスペクトラム Windows Media Audio Professional

オリジナルデータのスイープ信号 Windows Media Audio Professional

オリジナルデータの1kHzのサイン波 Windows Media Audio Professional

WMA Proの設定画面には470~940kbpsと書かれている

 実際に音を聞いても、ほぼオリジナルに近いサウンドを実現している。これは、すごいものが誕生したと思い、再度先ほどの設定画面を見たところ、470~940kbpsとある。なるほど、ファイルサイズがこれまで見てきたものとは比較にならないほど大きい。5.1chや24bit/96kHzに対応するのは、このWMA Proだということなので、音楽CDのエンコードには適したものではいないのかもしれない。

 とりあえず、β版ということで試してみたがいかがだっただろうか? 正式版でコーデック内容が大きく変化することがあれば、再度レポートしてみたいと思う。

□米Microsoftのホームページ
http://www.microsoft.com/
□ニュースリリース
http://www.microsoft.com/japan/presspass/releases02/nl_090502mediaplayer9.asp
□ダウンロードページ(WMA関連)
http://www.microsoft.com/windows/windowsmedia/
□関連記事
【9月5日】Microsoft、Windows Media Player 9のβ版を公開(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0905/ms.htm
【6月6日】Microsoft、Windows Media「Corona」のデモを公開
―720pや5.1ch再生をデモ、96kHz/24bitも可能に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020606/ms.htm
【3月25日】【DAL】第48回:圧縮音楽フォーマットを比較する
~ その7:可逆圧縮フォーマットと、これまでのまとめ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020325/dal48.htm
【2月4日】【DAL】第43回:圧縮音楽フォーマットを比較する
~ その2:マイクロソフトの「Windows Media Audio」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020204/dal43.htm

(2002年9月24日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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