■ 低音重視宣言 先々週のZooma!では、iPodとZenの対決をお送りしたわけだが、結局筆者はiPodを買ったのである。付属のイヤフォンもエージングしていくうちにだんだんバランスが良くなり、納得できる音質となった。ただ現時点の不満点は、EQがあまり効かないので低域の不足感がなかなか補えないというところだ。 最近オーディオ全般の傾向として、低域を重視するようになってきている。以前はよほどのマニアでなければ揃えなかったサブウーファも、今ではパソコン用スピーカーセットにでさえ加えられるようになった。 かく言う筆者は、以前から重度の低音重視派である。ヘッドフォンを使って音楽を聴くという場合は、スピーカーではいろいろな条件(近所迷惑とか)で得られない低音を楽しむために使う、というケースが多い。そういう人間にとって、iPodのサラリとした低音は容認できないものがある。一説にはiPodの出力部分にあるコンデンサを交換すればいいという話もあるが、ハンダ仕事は別にしても、どうも筆者にはiPodがうまく開けられそうにない。 そうやって保証外のリスクを背負い込むよりも、札ビラでパンパーンと相手の頬を張るような手段で解決するというのが正しいオトナのやり方なのである。いやたぶんオレ間違ってるな。まそんなわけでiPodに合うヘッドフォンはないものか、と探してみることにした。もちろん低音重視である。 低域重視と言えば、外せないヘッドフォンがある。Zooma!でも以前ちょびっとご紹介したことがあるが、アメリカのKOSSというメーカーの製品群だ。もともとKOSSは50年代から続くヘッドフォン専門の老舗メーカーだが、日本ではほとんど手に入らない珍品と言われ続けてきた。一部のオーディオマニアの間で噂になった「The Plug」というやつも、以前は有志でUSからまとめ買いするといった方法でしか手に入らなかったものだ。 ところが最近はちょっと事情が変わってきて、国内代理店のTEACがようやく本腰を上げたのか、新宿のヨドバシカメラ西口本店マルチメディア館で大量に販売されるようになったのである。そこで今回のElectric Zooma!では、国内では長い間謎(?)とされてきたKOSSのヘッドフォンの全貌に迫ってみたい。
■ Home/Proシリーズ
ここにTEACがTASCAMブランドとして作成したKOSSの製品カタログがある。それによるとKOSSのヘッドフォンは、「Studio Professional」、「Home/Pro」、「Portable」という3シリーズに分けられている。
今回はTEACの分類に従って、Home/Pro、Portableシリーズの国内販売製品を全部買ってきた。オーディオソースは最初iPodを考えていたのだが、これは出力に癖があるので、パソコンでMP3を再生してその出力を聴いてみることにした。音質評価としてはベストなソースではないが、筆者は毎日聴いている音なので、違いを把握しやすいってことで勘弁してくれ。では上位モデルから順にやっていこう。 【TD/80】 Home/Proシリーズで一番高いのが、TD/80である。高いといっても希望小売価格12,000円なので、そんなに大したことはない。特徴といえば、左右別々に調整できるボリュームを装備しているところだろう。必要性があるかと言われれば疑問だが、昔のヘッドフォンにはよくあったような気がする。またケーブルはやや太めの、昔懐かしいカールコードである。たしかにジャマにはならないが、カールコードはノイズを拾いやすいということで、一時は衰退したものである。全体的にレトロな雰囲気全開、といったところだ。
【主な仕様】
ハウジング部は大きめだが、パッドが狭いので耳たぶが中に入らず、両側から押さえつける感じになる。長時間のリスニングはちょっと辛そうだ。密閉型なので、かなりの遮音性がある。 音は、中域が若干へこんだ感じの、堅めの音である。低音の出は、KOSSにしてはややおとなしめ。もうちょっとエージングしたほうがいいのかな? と思わせるフシもあるが、普及帯クラスのヘッドフォンがかなり低価格化が進んでいることを考えると、現時点では残念ながら値段分の音とは言い難い。 【TD/61】 価格がぐっと下がって希望小売価格5,000円也なのが、TD/61だ。オマケとしてステレオイヤフォンが付属する、お買い得パックといったところだろう。ケーブルはこのタイプにしてはかなり細めだ。
【主な仕様】
ハウジングのサイズはTD/80とあまり変わらないようだが、後ろに広くなっているので耳たぶがちょうど収まり、装着感はいい。左右からの締め付けも弱く、質量が軽いのも魅力だ。周波数特性をみると若干上下が狭いようだが、実際に聴いてみても高音部の突き抜けるような伸びはなく、高音主義な人には物足りないだろう。ただこれはこれで疲れにくい音なので、長時間のリスニングにはちょうどいい。テレビ向き、という感じもする。低音の出もほかの帯域に対してのバランスがいいが、重低音部となるとやはり出し切れないようだ。 オマケのイヤフォンだが、これはもうオマケとしての機能を十分全うしているというか、オマケ以外の何者でもない音で、特に評価すべき点はない。
■ Portableシリーズ 次はラインナップの多いPortableシリーズを聴いてみよう。MP3プレーヤーなどのポータブル機で聴くには、このクラスから選択することになるだろう。 【PortaPro】 The Plugと並んでKOSSの中では有名なのがPortaProだ。'84年デビュー以来変わらないデザインが、今となってはいいんだか悪いんだか、ビミョーな古くささを演出している。携帯時にはヘッドフォン部を内側に折り曲げてたたむことができ、専用キャリングポーチも付属する。希望小売価格は9,800円。
【主な仕様】
一般的にKOSSの音として認識されているのがこの音である。異様なほどブリブリに出る重低音は、独自のインピーダンス設計から来ているといわれている。聴き方によっては品のない音という評価もできるが、これだけ低音部のパワーで圧倒するヘッドフォンは希である。ロック~テクノ系には最高だろう。耳たぶにあてる感じの装着感だが、締め付けが弱いのでそれほど不快ではない。またジョイント部にあるスイッチで若干フィット感を調整できる。 【SportaPro】 名前が似ているとおり、PortaProの姉妹機とも言えるのが、SportaProである。ヘッドバンド部が後ろに倒れ、ネック式にもできるというのがウリではあるが、実際にはこうすると左右の締め付けを強めないとずり下がってしまうので、あまり使えない感じだ。むしろこれを利用して2WAYの折りたたみができるというところがメリットだろう。同じく専用キャリングポーチも付属し、希望小売価格は6,800円。
【主な仕様】
PortaProと名前も似ているが、音も似ている。というか同じだ。イヤーパッドを外してスピーカユニットを覗いてみたが、PortaProもSportaProも同じものを採用しているようだ。コードの中央部にミュートスイッチがあるのも便利だ。 【KSC50】 イヤークリップ式の新モデルがこれである。以前はKSC/35というモデルがあったのだが、これがなくなりKSC50が後継機となったようだ。前モデルに比べてハウジング部が堅牢になり、同時に高級感も出た。ケーブルはイヤークリップ型には珍しいセンター分岐式。このタイプがやっかいなのは、ケーブルの収納だ。うっかり鞄のサイドポケットなどに突っ込もうものなら、次に聴くときにはケーブルをほどくのに5分ぐらい格闘するハメになる。クリップ部のアームにケーブルが引っかかって、余計こんがらがるのである。 KOSS製品ではないが、これを解決した製品もある。PanasonicのRP-HS101というのがそれだ。ヘッドフォンプラグをハウジング横の穴に差し込むと、ケーブルが巻き取られるという構造である。 KOSSには同ユニットを使用していると思われるネックバンド式のKSC55というモデルもあるが、まだ国内には入ってきていないようだ。筆者としてはぜひ欲しいのだが、入れませんか? > TEACのヒト
【主な仕様】
スペックを見れば想像がつくと思うが、このスピーカーユニットもPortaProと同じものである。従って音の傾向も同じだ。ただイヤークリップ式なので、ヘッドフォンタイプよりもフィット感が緩く、そのため低音部の迫力は若干後退する。しかし音に開放感を感じるので、かえって全体的にはいいバランスとなるようだ。音漏れが大きいので、公共の場のリスニングではボリュームに注意してほしい。 【KSC15】 ネックバンド式のスマートなデザインが特徴。コードは片出しで、途中にボリュームがある。KOSSのサイトには同じようなデザインのKSC10というモデルもあるが、国内には入ってきていないようだ。価格はオープンプライスだが、ヨドバシでは2,280円であった。
【主な仕様】
装着に関する調整箇所はどこにもないが、フィット感はなかなかいい。だが周波数特性を見てもおわかりのように、低音がほとんど出ない、あまりKOSSらしくない音である。ユニットをみると、PortaProに採用されているものとは全然別物であった。ハウジング部に比較して、口径の小さいものだ。ねえだからKSC55入れましょうよ。> TEACのヒト 編注:紹介する製品が多いため、The Plugをはじめとした残り6製品と、総評については10月17日(木)に「後編」として掲載します。
□KOSSのホームページ(英文) (2002年10月16日)
[Reported by 小寺信良]
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