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第76回:DVDオーディオの作成が可能な「DigiOnAudio」
~ 24bit/192kHzに対応したオーディオ編集ソフトの実力を試す ~


 DVD-R/RWやDVD+R/RWドライブを用いてDVDオーディオを作成するソフトが登場した。国産のソフト「DigiOnAudio」がそれである。海外でもDVDオーディオを焼くソフトはほとんどなく、ごくわずかに業務用のものがある程度のところに、たった12,800円という価格で登場したのは驚きともいえる。あのDVDオーディオが、本当にそんな安いソフトで作れてしまうのだろうか? 実際にDigiOnAudioを用いて、DVDオーディオの制作を行なってみた。


■ 低価格編集ソフトの登場はDVDオーディオの起爆剤となるか?

 デジオンというソフトメーカーをご存知だろうか? 元々ジャストシステムでATOK開発部長などを務めた取締役、田浦寿敏氏が'99年に福岡で設立したソフトメーカーで、サウンド関連のソフトを中心にいろいろなソフトを開発してきている。たとえば波形エディットソフトであるDigiOnSoundシリーズやDVDビデオ作成ソフトであるDigiOnVideoシリーズ、また、CDライティングソフトであるDrag'n Drop CDといったものがある。また、ジャストシステムで発売しているMP3 BeatJamシリーズも開発元はこのデジオンだ。

DigiOnAudio

 そんなソフトメーカーが、DVDオーディオのライティングソフトを発売したのだ。まあ、これまで波形編集ソフト、DVD関連ソフト、CDライティングソフトなどを開発してきた流れはあるものの、これはちょっと衝撃的な製品といえるのではないだろうか?

 現在、PCを用いた音楽制作環境においては24bit/96kHzが当たり前になってきている。しかし、一般的には24bit/96kHzというデータを最終的に使うケースはほとんどなく、たいていは16bit/44.1kHzにダウンコンバートし、CDに焼いて聴いている。このことについては、多くの人がもったいないと思っているのではないだろうか?

 24bit/96kHzをそのまま利用するにはDVDオーディオが必要になる。しかし、DVDオーディオを作成するためのソフトはこれまでほとんどなく、CDを利用するしかなかったのだ。もっとも、DVDビデオも非圧縮の状態で24bit/96kHzのサウンドを扱うことができるので、これで十分といえる。とはいえ、DVDライティングソフトで、こうしたハイビット・ハイサンプリングのデータに対応しているものはあまりなく、あまり注目されていなかったというのが実際のところではないだろうか?


 その一方で、ソフトの数も最近になって増えてきており、2002年8月現在で120タイトル以上がリリースされている。中級以上のDVDビデオプレーヤーにDVDオーディオ再生機能が搭載される例も多くなっている。そんな中、誰もが手軽にDVDオーディオを作成できてしまうDigiOnAudioが登場したのだ。


■ 簡単にDVDオーディオの作成が可能

 ご存知の通り、DVDオーディオで扱えるのは最高24bit/192kHzのデータ。さすがに、これだけのデータを作成できる環境を持っている人は少ないと思われるが、DigiOnAudioは、この24bit/192kHzまで扱える本格派なのである。

リストウィンドウ

 とりあえずソフトを起動させると比較的シンプルなリストウィンドウが起動する。これは、音楽データのプレーヤーソフトともいえるもので、プレイリストを作ったり、ライブラリを作ったりといったことが簡単にできるものだ。

 また必要に応じてノーマルウィンドウ、ミニウィンドウにも切り替え可能となっており、ごく普通のプレーヤーとして利用できるのだ。ここで面白いのは、再生可能なのがWAVファイルのみではなく、MP3やWMAはもちろん、mp3PROからOggVorbisまで、さまざまな圧縮オーディオデータも直接再生できるということだろう。そして、このことがDVDオーディオを制作することにも関係してくる。そう、WAVファイル以外にMP3やWMAなどを元にDVDオーディオを作ることができるのだ。


ノーマルウィンドウ ミニウィンドウ

 まあ、24bit/96kHzや24bit/192kHzという高音質のものを作るのに、圧縮オーディオをソースにして何の意味があるのか、といわれると疑問がないでもないが、とりあえずDVDオーディオを気軽に作成できるというのがこの製品のコンセプトのようなので、あまり深く追求することもないだろう。

 ただ、それだけいろいろなフォーマットに対応するのであれば、AIFFファイルには対応してもらいたかった。筆者の手元のハードディスク内にも24bit/96kHzのものは結構あるが、そのうち半分近くがAIFFであった。やはり音楽制作の世界ではMacとのやりとりが頻繁であるため、AIFFを使うケースが多いためだ。

 では、そのDVDオーディオの作り方について、もう少し具体的に見てみよう。この制作工程はいたって簡単。まずは、DVDライティングモードにし、焼きたいファイルをドラッグ&ドロップして並べる。デフォルトでは焼くフォーマットがDVDオーディオとなっているが、必要あれば、DVDビデオ、MP3-DVDにも設定することができる。このDVDビデオで焼けば、一般のDVDプレーヤーで再生することが可能で、非常に便利。またMP3-DVDはMP3ファイル形式で、DVD-ROMに収録するというもの。1枚のメディアに数多くの曲を収録できるので、便利ではある。

焼きたいファイルをドラッグ&ドロップして並べる DVDオーディオのほか、DVDビデオ、MP3-DVDの設定も可能

44.1/48/88.2/96/176.4/192kHzの選択が可能

 DVDオーディオまたはDVDビデオを選択した場合はサンプリング周波数とサンプリングビット数の設定を行なう。

 DVDオーディオの場合のサンプリング周波数は44.1kHz~192kHzまでの6通りで、サンプリングビット数は16bit、20bit、24bitの3通り。DVDビデオの場合はサンプリング周波数が48kHzか96kHz、サンプリングビット数はDVDオーディオと同じく16/20/24bitの3通りとなっている。

 ここで気づいた方もいると思うが、DigiOnAudioで焼く際は、ソースのファイルが16bit/44.1kHzでも24bit/192kHzでも、またWAVファイルを使おうが、MP3ファイルを使おうが、ここで設定したフォーマットに自動的に変換されるようになっている。

 DVDオーディオの規格では、各曲ごとにサンプリングビット数やサンプリング周波数が違ってもいいことになっているが、DigiOnAudioでは、全曲同じフォーマットになってしまう。

 さて、ここで開始ボタンを押すと、指定のフォーマットへのコンバートがはじまり、しばらくするとメニュー画面が表示される。そう、たったこれだけの操作であったが、DVDオーディオをプレーヤーにかけた際に表示されるメニュー画面が自動的に生成されるのだ。トップメニューはプレイリストごとにでき、そのメニューの下にサブメニューとして各曲名が並ぶのだ。

メニュー画面が自動的に生成される トップメニューはプレイリストごとにできる メニュー用のテンプレートも用意されている

 必要あれば、画面のデザインはバックの絵を変更したり、色を変えたり、文字やフォントを変えるなど、いろいろと変更することもできる。またテンプレートも用意されているから、これを利用するのもいいだろう。

 以上の作業を終えたら、WRITEボタンを押すと、DVDドライブにおいて、DVDの焼きこみがスタートし、しばらくしたら、完成だ。市販されているほとんどのDVD-R/RW、DVD+R/RWドライブが対応しているので、ドライブとメディアさえあれば誰でも簡単に焼けるはずだ。

 このようにしてできたDVDオーディオを手元のプレーヤー(VictorのXV-D721)で再生させたところ、先ほど作ったメニュー画面が表示され、何の問題もなく再生することができた。DVDビデオで焼いてみたものも結果的にはまったく同じであった。これだけ手軽にDVDオーディオができてしまうと、音楽制作の世界も大きく変わりそうだ。

 ただ、DVD-RWメディア、DVD+RWメディアを使ってみて1つ気になることがあった。それはメディアを買ってきた状態で焼く場合はいいが、一度書き込んだものを消去したメディアに再度書き込むことができないのだ。そもそも、DigiOnAudioにはこれらのメディアをフォーマットする機能がなく、これらをWinCDRやB's Recoderを用いてフォーマットした後、DigiOnAudioで焼こうとしたが、「書き込み済みのメディアです」という表示が出て、書き込むことができなかった。まだ、メディア価格が高い現在、試しに焼いてみたいというニーズも多いと思うので、ここについてはぜひ改善していただきたいところだ。


■ 機能は少ないが価格は驚異的

レコーディング機能を搭載している

 ここまでが、DigiOnAudioでのDVDオーディオ作成の流れだが、これとは別にいくつかの機能が用意されている。DVDメディアだけでなく、音楽CD作成機能を持っているのはもちろんとして、レコーディング機能を装備しているのも1つの特徴だろう。

 24bit/96kHzとか24bit/192kHzでレコーディングするためには、それに対応したオーディオカードが必要になるが、とにかく、これを利用することで、最高で32bit/192kHzまでのレコーディングが可能なのだ(32bitでのDVDオーディオへの書き込みは不可能)。ごく一般の波形編集ソフトで、ここまでのハイビット、ハイサンプリングレートをサポートしているものは少ないので、とりあえず使うのにはなかなか便利だ。

 レコーディングしたデータにマーカーを入れていくことにより、複数にトラック分割することができ、必要な部分のみをDVDオーディオへ焼くように設定することができる。ただし、編集機能はほとんどないため、あまり多くを期待してはいけない。オマケ機能としてノーマライズとノイズリダクションという機能は用意されているが、カット&ペーストといった機能も用意されていないくらいである。

ノーマライズやノイズリダクションなどの編集機能を装備 ラベル印刷機能を備えている

 もう1つの機能として、ラベル印刷機能が用意されている。テンプレートもいろいろと用意されているから、すぐに印刷ができてなかなか便利。またDVD用だけでなく、VHSビデオテープ用やMD用のラベルまで作成できるので、この機能単独でも利用できる。

 以上、DVDオーディオ作成ソフトのDigiOnAudioについて紹介してみたがいかがだっただろうか? それほど高機能とはいえないものの、DVDオーディオを作成するという面では十分であるし、とにかくこれまでなかったものが登場した意義は大きい。そんなすごいものが、この価格で発売されてしまったのは不思議ではあるが、とりあえず買ってみる価値は十分あるのではないだろうか?


□デジオンのホームページ
http://www.digion.com/
□製品情報
http://www.digion.com/pro/dau_main.htm
□関連記事
【9月6日】デジオン、国内初のDVDオーディオ対応マスタリングソフト
―24bit/192kHz録音対応で12,800円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020906/digion.htm

(2002年10月28日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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