■ 映画としての「ビューティフル・ドリーマー」
「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」は'84年に公開された押井守監督の劇場用作品だ。この年は実はアニメファンにとっては夢のような年だった。なにせ、2月にこの「ビューティフル・ドリーマー」が公開されたあと、春には「風の谷のナウシカ」、夏には「超時空要塞マクロス 愛おぼえていますか」が公開されたから、大作がこれだけ続く年は後にも先にもないといってもいいだろう。事実これらの作品を作り上げた人たちは今もってアニメ業界を支えている人たちばかりだ。 そんな中にあってこの「ビューティフル・ドリーマー」はもっとも得体の知れない作品だった。事前に掲載された雑誌には「よくはわからないが、せつない作品のようだ」といったような書かれかたをしていた。「うる星やつら」といえばやはりドタバタ喜劇という印象が強い。劇場第1作の「うる星やつら オンリー・ユー」にしてもオールスターキャストでワイワイと進んでいく。そういった意味ではどんな作品になるか今ひとつわからなかったし、テレビシリーズで押井守氏が注目を集めていたとはいえ、「せつない作品」というのが全く想像がつかなかったわけだ。 ところが実際に劇場に入り見始めたとたん……個人的には給湯室でしのぶとラム、さくらが会話をするシーンから席を立てなくなった。劇場にギリギリに駆け込んだため、すっごくトイレに行きたかったのだが、席を立つことをあきらめたのだ。特にこの映画の前半の緊張感はすさまじい。押井守の妄想大爆発で、ぐいぐい引っ張っていく。さくらと“温泉マーク”先生の行き詰まる会話、友引町から出られないメガネとパーマが電車から降りホームの電気が消えていくシーン、チビがボンネットバスの中から真っ暗な町を眺めるシーン、しのぶの幻想的な風鈴のシーン……そんな悪夢のような、幻想的なシーンがドンドン緊張感を高め、あの“亀”のシーンで頂点に達する。 1回ストーリーとして頂点に達し切れた緊張感が収束し、ラムの劇的な言葉とともに、あたるによってストーリーは閉じられる。「胡蝶の夢」を題材に夢がテーマになっているだけにその余韻もハンパではない。この作品で映画に目覚め人生が狂ったアニメファンも多いだろう。押井守監督にとってもこの映画は「ビューティフル・ドリーマー以降の作品」に大きな影響を与えたといっても過言ではなかろう。逆にこの映画がなければ今の押井守はなかったかもしれない。個人的には「マクロス」も好きだったのだが、この年の一番のアニメは「ビューティフル・ドリーマー」となった。
「ビューティフル・ドリーマー」はビデオ化、LD化、そして米国においてDVD化されている(リージョンフリーだったので、日本のプレーヤーでも視聴可能)。大変わかりやすいオタク像で恐縮だが、「ブレードランナー」、同じく東宝の「ゴジラ」、そしてこの「ビューティフル・ドリーマー」がLD化されたのをきっかけに細々としたバイト代を全額LDプレーヤーとソフトにつぎ込んだのを思い出す。ちなみに「ビューティフル・ドリーマー」のLDは9,500円ですよ。今回ご紹介しているDVDは6,000円。いや安い値段で傑作を楽しめるとはデフレ万歳! 幸せな時代になりましたなぁ……と締めくくろうと思ったが、高いなぁ相変わらず。東宝のソフトは他ソフトの相場に比べて高いんだよね。
■ 映像ソフトとしてみた時、やはり注目は音声か? そして「日本語5.1チャンネル:Remix版」だが、残念ながらあんまり効果は認められない。わりと台詞でストーリーが進行するところがあるため、あまり5.1チャンネルの見せ場がないのだ。そんな中でも、青亀交通のタクシー内でのさくらと夢邪鬼の会話シーン(最後の効果音のみ)、しのぶの風鈴のシーン、プールに入ったレオパルドがラムの電撃で爆発するシーン(こちらも最後の爆発音のみ)、友引高校突入シーン、ハリアーでの友引町探索などなど、やはりアクションシーンが中心となっている。これは実際のところ仕方がないだろう。 5.1チャンネルとともに大きいのがオーディオ・コメンタリーだ。ここは押井守氏の独壇場と言っていい。はじめは「思い出せる範囲で……」なんて言ってるが、もうしゃべりっぱなしだ。話題は絵作りに関する苦労話が中心になっている。そんな中でおもしろいのが夢邪鬼があたるの偽物になりすますシーンでのコメント。コレが思いつきというのがスゴイ。コメントを聞いていて思うのはこの映画が順撮りなこと。頭から思いつきをつなぎ合わせつじつまを合わす形で作り上げている。まるで実写映画の作り方で、コレがアニメという予定調和の世界で成り立っているのは奇跡にちかい。そういった裏側をかいま見れるといった点では非常に興味深いコメントとなっている。残念なのは千葉繁氏のコメントが少ない点。基本的に池田憲章氏の司会によるものだが、もうちょっと話をふってほしかった気がする。ま、それもこれも押井守氏がしゃべりすぎな気もするのだが。
■ やはり映像は美しい……が、ビスタサイズ化に疑問が残る 映像的には特に問題ないように思える。あたると面堂が牛丼の買い出しでチンドン屋に出会うシーンで、夕闇のグラデーションがLD版に比べブロックノイズが目立つかなといった程度。再生レートもおおむね8から9、10と推移しているので、総じて高画質だ。LD版と比べて解像度は上がっているが、色は落ち着いた感じになっている。これは好みが分かれるところかもしれない。ただひとつ重要な問題がある。それはビスタサイズ化だ。LD版はテレビサイズに合わせ「4:3」だが、DVD版は「劇場サイズと同じ、ビスタサイズ」となっている。それはそれで納得するのだが、基本的に左右幅は同じで単純にLDの上下が削られている感じだ。見比べてみると実に重要なところで上下が切れているのだ。友引高校への突入シーン、ファンの間では山下将仁氏の作画としてメガネの手の演技が有名だが、これが少々切れている。こういった少しのことがファンとしてはストレスとして残る。できれば両バージョン収録してほしかったところだが、そうすれば再生レートは落とさざるを得ないだろうから、難しいところだ。ちなみにジブリのDVDは2枚組で4,700円である。東宝として価格を含めた努力をもう少ししてもよさそうなものだとも思う。買う人が決まっているから、値段は高めに設定せざるを得ないといった話があるかもしれないのだが。 一方で、フィルムの再生についてはかなり行き届いている。古いフィルムだしかなりキズの多いフィルムだが、相当修正されているようだ。さらにフィルムを換える時のパンチもきれいに修正されている(昔のフィルムは、上映時にフィルムを換えるときを合図する丸い合図が右上に出ていた。LD版は当然そのまま)。 また、LD版には収録されていなかった映画終了後のビデオ発売告知がDVD版にはついている。海外版DVDとの違いについて少々書けば、そのフィルムの美しさの違いは圧倒的だし、音声についても同じだ。また、海外版は映画のラストのスタッフロールが英語になっているが、これも当然オリジナルのほうがいいに決まっている。リージョンフリーの海外版を持っているから今回は買わなくていいと思っている人はいないと思うが、絶対に買いなおしたほうがいい。
■ やっぱり買っちゃうでしょ、ファンは……いや、もう買ってるでしょ?
□東宝のホームページ
[funatsu@impress.co.jp]
|
|