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第13回:ワイドパネル採用でよりシアター向けに
~ “サイドショット”Cinezaの後継機「ソニー VPL-HS2」 ~


 「斜めからの投影が可能」という売り文句とコストパフォーマンスのよさで、2001年9月に「ホームシアター用低価格帯プロジェクタ」というジャンルを切り開いたソニーVPL-HS1。今回、その後継機にあたる「VPL-HS2」が登場した。すでに実勢価格が20万円前後、一部店舗では15万円台となっており、またまたホームシアターの需要喚起に一役買いそうな予感がある。


■ 設置性チェック~斜め投写は健在。さらに縦方向の自動台形補正も

ソニーVLP-HS2。大手量販店などでは20万円前後で販売されている
 ボディは前モデル「VPL-HS1」や、上位機種「VPL-HS10」に似た扇形。VPL-HS2のボディカラーは、バイオライクな青とグレーのツートンカラーだったが、VPL-HS2はホワイト基調となり、VPL-HS1と比べて「まじめ」な印象だ。ボディサイズはほとんど変わっていないように見えるが、体積が増えており、重量も500g強、重くなっている。「持ち運びしたいとは思わないが、出し入れは苦ではない」といったところ。

 本体下部には、VPL-HS1、HS10同様にチルトスタンドが備え付けられており、テーブル置きを意識した設計になっている。ただし投写映像は、光軸に対して若干下に広がる。

スタンド「SU-HS2」との組み合わせ例
 レンズシフト機能もないことを考えると、台(床)置き設置の際にはかなりの高さが要求される。本棚などに置くにしても、本体の奥行きが結構あるのでそれもなかなか難しいだろう。純正オプションとして設置スタンド「SU-HS2」(標準価格15,000円)があるので、常設を考えているならば、素直にこれを利用した方が良さそうだ。

 なお、パッケージにはチルトスタンドに取り付けるスペーサも付属しており、光軸を中心として1~2度の範囲で回転方向の傾きを調整できる。

 チルトスタンドは上下±10度、左右±30度への傾斜が可能で、この範囲の投影であれば本体側で台形補正が可能。VPL-HS1の最大の特徴となっていた斜め投影「サイドショット」機能は、VPL-HS2にも継承されている。さらに、VPL-HS2では上下左右同時の台形補正が可能になった。

 また、「自動Vキーストーン補正」と呼ぶ自動台形補正機能も搭載している。これは、台や床の傾きをセンシングして、最適な台形補正を自動で行なうというもの。ただし、補正は垂直方向のみとなる。

 ただし、サイドショットにしろ自動Vキーストーン補正にしろ、光学ではなくデジタルベースのため、補正角が大きければ大きいほど画素情報は欠落する。画質を重視する際には、なるべく「補正なし」の状態で利用したい。

 フォーカス調整用とズーム調整用のリングはレンズ側から離れた、本体側面に設置されている。レンズ側に取り付けられているタイプだと調整中に手や腕が映ってしまうことがあるが、本機ではそのようなことがない。細かい点だが嬉しい配慮だ。

 レンズは手動1.2倍ズームを採用するが、投写距離はこの価格帯の製品にしては長めで、100インチ(16:9)で最短約4mとなっている。VPL-HS1の約4.2mと比べれば若干短焦点化されてはいるが、競合機が軒並み3m台を達成していることを考えるとつらい。

VPL-HS1、HS10にも通じるチルトスタンドを採用。レンズにはシネマフィルターやコンバージョンレンズを装着できる 本体側の操作パネルは側面に配置されている。VPL-HS1に搭載されていたメモリースティックスロットは意外にも省略された フォーカスとズームを調整するリングが取り付けられている。この位置にあるのは珍しい

 その救済措置として、短焦点コンバージョンレンズ「VPLL-CW20」(標準価格15,000円)がオプションとして設定されており、これを装着すると100インチ(16:9)の投写距離を約3mにまで縮めることができる。できればこれを標準レンズ化するか、標準添付して欲しかった。

 投写モードはフロント、リア、天吊りの全組み合わせに対応するが、天吊り金具はオプションの中にない。また、光漏れはほとんど無く、本体上面のSONYロゴはイルミネーションとして光るが、気になる場合はメニュー設定で消すことも可能だ。

 排気ファンの動作音は、ランプ輝度状態によって大きさが変わる。具体的には、色調モードの選択やシネマブラックモードの有効/無効で変化する。ちなみに、色調モードがスタンダードもしくはシネマの時はプレイステーション 2よりも小さいが、色調モードをダイナミックにした時やシネマブラックモードをオフにすると、プレイステーション 2よりも大分大きくなる。


■ 操作性チェック~電源投入後11秒で起動

リモコンは上位機種であるVPL-HS10とほぼ同じデザインのものを採用。HS10とは機能の割り当てが若干異なる

 電源オンにすると実測で約11秒後には投写映像が現れる。競合機種と比べてもトップレベルの早さだ。

 リモコンのボタンは[LIGHT]、[INPUT]、[電源]の3つが蓄光式で、そのほかは[LIGHT]ボタンを押すことで自発光する。入力切り換えは順送り方式を採用。Sビデオ入力→コンポーネントビデオ入力の切り換えを実測してみたところ、約3秒かかった。頻繁に切り換える場合は気になるが、一般的な使用で不満が出るほどではないだろう。

 [WIDE MODE]ボタンはアスペクト比の切り替えを行なうもので、操作系は順送り方式。切り替え時間は実測で約1秒と早い。

 なお、アスペクトモードの種類は多く、以下の7種類がある。

  • フル……16:9をパネル一杯に表示
  • ノーマル……4:3のアスペクト比を維持しつつ、パネル中央に最大表示
  • ワイドズーム……4:3を拡大表示し、上下にはみ出た領域を詰めて表示する
  • ズーム……4:3を拡大し、16:9の画面いっぱいに表示する
  • 字幕入り……字幕表示領域を圧縮して画面内に収めて表示する
  • フルスルー……16:9を拡大縮小処理せずにそのまま表示する
  • ノーマルスルー……4:3を拡大縮小処理せずにそのまま表示する
 このほか、操作系でユニークなのは、リモコンの[DDE]ボタン一発で、プログレッシブ化処理動作モードが切り換えられるところ。

 VPL-HS1は入力ソースの種類を、通常のインタレース映像か映画ソースかを自動で判断してプログレッシブ化アルゴリズムを切り換える。しかし、DDE(Dynamic Detail Enhancer)ボタンを押すと、入力ソースの種類を無視して強制的に通常のプログレッシブ化処理を行なったり、ただのラインダブラ的な動作に切り換えたりできる。表示に違和感を感じた時や、ゲーム機などの特殊な映像機器を接続したときに利用すると便利な機能だ。


■ 接続性チェック~パソコン入力は冷遇、コンポーネントビデオも変換ケーブルを経由

 VPL-HS1もそうだったが、VPL-HS2も「エントリー向けのビデオプロジェクター」としているためか、本体の入力端子はS端子、コンポジットを1系統ずつ実装するのみだ。VPL-HS1を評価した時にも書いたが、ローエンドのDVDプレーヤーがコンポーネントビデオ端子を搭載している現在、コンポーネントビデオ入力端子くらいは本体に実装していてもよいと思うのだが……。

 ただしVPL-HS1同様、PJ MULTI端子経由でコンポーネントビデオ入力が可能だ。パッケージにはPJ MULTI INPUT端子に接続するコンポーネントビデオ/Sビデオ変換ケーブル(5m)が付属しているので、変換による損失を気にしなければ問題なく使用できる。

 なお、パソコン接続用のケーブルは付属してはおらず、パソコンの映像を投写するためにはオプションのパソコン入力用接続ケーブル「SIC-HD30(5m)」(標準価格9,000円)を購入する必要がある。しかし、PJ MULTI端子は1系統しか実装されていないため、標準付属のコンポーネントビデオ端子変換ケーブルを接続している限りはパソコン入力はできないことになる。

 また、VPL-HS1登場時にリリースされたPJ MULTI端子に接続するインターフェイスボックス「IFU-HS1」も利用可能。ただし、これにはパソコン入力端子は実装されていない。結局、コンポーネントビデオ入力とパソコン入力は同時には行えない……ということになる。

 このほかの接続端子としては音声入力端子がある。入力はステレオになっているが出力はVPL-HS2本体内蔵のモノラルスピーカーで再生される。音質は簡易再生用といったレベル。AV用途の機器だと考えるとモノラルスピーカーも不要と思え、変わりにD端子の1つも付けた方がユーザーには喜ばれたのではないだろうか。

コンポジットビデオ端子、Sビデオ端子のほか、PJ MULTI端子を備える。音声入力端子は2つあるが再生はモノラル 付属のコンポーネント/Sビデオ→PJ MULTIケーブル


■ 画質チェック(1)~シネマフィルター標準添付で「血色のよい」肌色

メニューの一部を拡大したところ。画素間の隙間はかなり広い
 公称光出力は、シネマブラックオフ時で850ANSIルーメン、オン時で750ANSIルーメン。遮光した部屋での明るさは、1,000ANSIクラスの上級機に引けを取っていない。

 液晶パネルは解像度858×484ドットの16:9ワイドパネルを採用する。VPL-HS1が800×600ドットだったことを考えると、VPL-HS2は、よりホームシアター向けにモディファイされたようだ。表示画素は透過型液晶特有の格子感が強く出ており、明色や単色領域で特に粒状感を感じる。各画素の形状はほぼ正方形で、各画素の左上にTFTの影のようなものがみえるが、各画素がホームベース型に見えたVPL-HS1よりは表示品質が向上している。

 色深度は深めで、グラデーションなどの表現でマッハバンドは出ていない。暗色の階調表現も丁寧かつ正確で、暗がりの人の頬の階調も自然に描写している。ただし、全体的な画作りは、この価格帯らしく、やはりブラウン管テレビを意識したチューニングが施されているため、全体的に色再現性よりもコントラスト重視に振られている感じがする。

 色調モードは「ダイナミック」、「スタンダード」、「シネマ」の3種類をプリセット。このほか、ユーザーメモリを3個、各入力系統毎に記憶させることができる。色調モードの切り替えは順送りではなく、リモコンの専用ボタンでダイレクトに切り替える方式。切り換えにかかる時間は約1秒(実測)と早い。

 そして、VPL-HS10同様、VPL-HS2にも「シネマフィルター」が標準付属する。ワンタッチで着脱可能なこのフィルターは、黒を引き締め、なおかつ緑成分を意識的に低減させ、肌色の発色を鮮やかに調整するというものだ。実際に使用してみると、なるほど、確かに肌色が「血色のいい」色合いになる。ほかの色への影響が心配されるところだが、それほどの違和感は無かった。

 以下に、シネマフィルター装着時の各色調モードのインプレッションを述べておく。

▼ダイナミック
 ランプ輝度が最大出力になり、明るい色はより明るく発色し、非常にハイコントラストな映像になる。黒は若干浮き気味になるものの、相対的な階調は保たれており、意外にもDVDビデオなどの映像鑑賞にも使えそうだ。

▼スタンダード
 ダイナミックと比べて輝度こそ抑さえ気味になるが、逆に色温度は高くなり全体的に青みがかる。階調はリニアに表現され、グラデーションもなめらか。そのため、ダイナミックよりも全体的に柔らかな映像になる。通常はこのモードで不満はないだろう。

▼シネマ
 スタンダードと比べると色温度はぐっと下がり、シネマフィルターの肌色演出が強調されて全体的に赤みがかった発色になる。階調表現はこのモードでも正確だが、色そのものの発色はやや地味になる。思ったより使いどころが難しそうだ。

メニュー画面。右から画質モードの選択、画質調整、設置設定 (c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS


■ 画質チェック(2)~DDE機能がインタレース映像も美しくプログレッシブ化

 各映像ソースを見た際の印象を以下に示す。なお、今回はパソコン接続ケーブルが入手できなかったので、パソコン接続関連の評価は行なっていない。

●DVDビデオ(コンポーネントビデオ入力)
 DVDプレーヤーのインタレース出力の映像も、プログレッシブ対応DVDプレーヤーの映像を映したときとほぼ変わらないレベルで出力できていた。ジャギーもうまくアンチエリアスされている。DDE機能の2-3プルダウンロジックは優秀なようだ。色調モードは、一般的な映画ソースならば「スタンダード」や「ダイナミック」で問題なし。人肌にもっと暖かみがほしい場合にのみ「シネマ」モードを使えばいいと思う。

●S-VHSビデオ(Sビデオ入力)
 DDE機能が働くためだろう、ジャギーもなくフレーム単位で美しいプログレッシブ映像が得られる。色調モードは最もブラウン管の感覚に近い「ダイナミック」がお勧めだ。

●プレイステーション 2(コンポーネントビデオ入力)
 アクションゲームやレースゲームをプレイしても残像は一切なし。ブラウン管テレビと同じ感覚でプレイできる。DDEを有効にすると解像感が増すが、ジャギーが目立つようになる。逆に、DDEを無効にすると解像感はなくなるが、滑らかになりジャギーが軽減される。一長一短なので、どちらでプレイするかはお好み次第といったところ。色調モードはメリハリの利いた画調の「ダイナミック」がお勧め。

DVDビデオ『モンスターズ・インク』の投影画像
 コンポーネント接続時の投影画像を、デジタルカメラ「D100」で撮影した。ソースはDVDビデオの「モンスターズ・インク」(国内盤)。

 D100の設定は、コントラストLow、色温度「晴天」(約5,200K)にしている。

 撮影後、1,024×570ドットにリサイズし、画像の一部分を切り出した。部分画像をクリックすると全体(640×356ドット)を表示する。

(c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS

スタンダード
(シネマフィルターON)
スタンダード
(シネマフィルターOFF)
シネマ
(シネマフィルターON)
シネマ
(シネマフィルターOFF)

視聴機材
 ・スクリーン:オーロラ「VCE-100」
 ・DVDプレーヤー:パイオニア「DV-S747A
 ・コンポーネントケーブル:カナレ「3VS05-5C-RCAP-SB」(5m)

 最後に、VPL-HS2の機能としてややわかりにくい、「黒補正」、「シネマブラック」という、似たような名前の調整項目についても簡単に解説しておこう。

 「黒補正」は黒の沈み込み具合を意識的に加減するもので、「シネマブラック」はランプ輝度そのものを下げて黒浮きを抑えるものだ。黒補正はコントラストを稼ぐため、暗部階調を一層暗くし、潰しがちな傾向がある。そのため、有効にするとしても「弱」設定が望ましい。黒や暗部の正確な再現性を重視するならば、シネマブラックの方を有効にした方が良さそうだ。


■ まとめ~HS1から画質が向上、しかし接続性は相変わらず弱い

 インタレース出力のDVDプレーヤーをつないでも、その表示はなかなかの高品質。全体的に色深度は深めで、この価格帯としては十分な画質性能を持っていると思う。前モデルVPL-HS1と比べても、画質はかなり洗練されたといっていい。しかし接続性の低さから、様々な機器を接続したいという中級以上のユーザーにとって、魅力の薄い機種に映るかもしれない。

 パソコン入力に関しては「カジュアルユーザー向けのビデオプロジェクターだから」ということで、標準サポートされていないのかもしれない。しかし、「I'm with VAIO」のキャッチコピーでパソコンと家電AV機器との相互接続性をTVCMで訴えているソニーにしては、ちょっと冷たすぎる待遇である。

 同価格帯のライバル機としては三洋電機「LP-Z1」、松下電器「TH-AE200」、エプソン「ELP-30」辺りになるだろうか。VPL-HS2を含めた4機種において、画質に関していえばVPL-HS2は競合機種に対して優るとも劣っていないレベルだと感じたが、ことに接続性にかけては一歩も二歩も及ばないという印象だ。今後はこの点に期待したい。

VLP-HS2の投写距離(16:9)
標準レンズ
短焦点コンバージョンレンズ装着時
※どちらも台形補正機能は使用せず、ズーム最短の状態

【VPL-HS2の主な仕様】
投影デバイス 0.62型TFTパネル(858×484ドット)
レンズ 光学1.2倍手動ズーム
ランプ 150W UHP
明るさ 800ANSIルーメン
コントラスト比 600:1
入力ビデオ信号 480i/480p/720p/1080i
映像入力 S映像、コンポジット、PJ MULTI×各1
消費電力 190W
動作音 30dB
外形寸法 304×321×168mm(幅×奥行き×高さ)
重量 約4.5kg

□ソニーのホームページ
http://www.sony.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200209/02-0926/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Models/Library/VPL-HS2.html
□関連記事
【10月10日】【大マ】カジュアル路線のCinezaながら本格派
~ 高解像度ワイドパネルの「ソニー VPL-HS10」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20021010/dg09.htm
【9月26日】ソニー、ワイドパネル採用の「シネザ」新モデル
―シネマフィルターを同梱、上下左右の同時補正が可能に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020926/sony.htm
【8月7日】ソニー、ワイドXGA液晶搭載ホームシアター用プロジェクタ
―Cinezaの上位モデル、天吊り対応、縦横同時に台形補正可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020807/sony.htm
【5月14日】【大マ】低価格プロジェクタ4機種を試す
~ その2 SONY「VPL-HS1」(Cineza)編 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020514/dg02_2.htm
【2001年8月1日】【大マ】ソニー、斜め投写が可能なホームシアター用液晶プロジェクタ
―ハイビジョン対応、メモリースティックスロットも装備
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010801/sony.htm

(2002年12月6日)


= 西川善司 =  ビクターの反射型液晶プロジェクタDLA-G10(1,000ANSIルーメン、1,365×1,024リアル)を中核にした10スピーカー、100インチシステムを4年前に構築。迫力の映像とサウンドに本人はご満悦のようだが、残された借金もサラウンド級(!?)らしい。
 本誌では1月の2002 International CESをレポート。山のような米国盤DVDとともに帰国した。僚誌「GAME Watch」でもPCゲームや海外イベントを中心にレポートしている。

[Reported by トライゼット西川善司]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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