■ ついに登場した究極版
収録するディスクは「コレクターズ・エディション」の倍となる4枚組み。ディスク2枚に渡って収録する本編には、まったく新しいエピソードを6個追加。さらに、既存のチャプタにも新シーンが追加され、再編集されている。その結果、本編の収録時間は208分となり、劇場公開と同じ内容の「コレクターズ・エディション」より30分も長くなっている。まさにボリューム満点だ。 しかし、驚くのはまだ早い。メイキングやインタビュー、原作「指輪物語」の解説などを大量に収めた特典ディスクの収録時間は、2枚で約6時間に及んでいる。あまりにも膨大な量なので、各ディスクの最初に「DVDツアー・ガイド」なるナビゲーションが収録されているくらいだ。 仕様が豪華になると、やはり価格も豪華になる。「コレクターズ・エディション」は4,700円だったが、「スペシャル・エクステンデッド・エディション」は約2倍の9,800円。公開から時間が経過し、既に「コレクターズ・エディション」も発売されているので、失礼ながら「爆発的には売れないだろう」と思っていた。しかし、新宿の大手量販店では、発売直後にどの店舗でも売り切れ状態。足を棒にして探し回りながら「ロード・オブ・ザ・リング」の人気の高さを改めて実感することになった。 レビューの前にお断りしておきたいのは、筆者は原作「指輪物語」のファンではないということだ。本の存在は以前から知っているが、読んだことはない。自己弁護になるが、私と同じように映画は見たが原作は読んだことがないという人は多いだろう。 そんなわけで、今回の「スペシャル・エクステンデッド・エディション」は、ロード・オブ・ザ・リングの世界に詳しくない人でも楽しめるのか? 9,800円という価格に見合うだけの価値があるのかどうか? そのあたりを中心に探ってみたい。
■ よりわかりやすく、丁寧に、身近になった本編 ご存知の通り「ロード・オブ・ザ・リング」は、J.R.R.トールキン原作のファンタジー小説「指輪物語」を映像化した作品だ。物語の舞台は、人間のほかに魔物やエルフ、ドワーフといった多くの種族が混在しする太古の世界。小柄なホビット族の少年フロドは、叔父のビルボから魔法の指輪を譲り受ける。それは闇の冥王サウロンが作り出した、世界を破滅に導く恐ろしい指輪だった。フロドは闇の勢力が指輪を手にするのを防ぐため、魔法使いのガンダルフに導かれ、仲間達と共に旅立つのだった……。 原作の「指輪物語」は、'36年から'48年に掛けて執筆され、「旅の仲間」、「二つの塔」、「王の帰還」の3部作となっている。ロールプレイング・ゲームの原点とも言われ、「ファイナル・ファンタジー」や「ドラゴン・クエスト」シリーズにも影響を与えたという。なお、映画も原作と同じ3部作構成で、「二つの塔」は2003年春に公開予定だ。 「スペシャル・エクステンデッド・エディション」で追加されたシーンは、主に物語をわかりやすくする役割を持っている。例えば序盤のシーン、通常版ではホビットの村から物語が始まっているが、特別版ではビルボが「ホビットの冒険」という本を執筆しているシーンが挿入されている。彼は執筆しながら「ホビットとはどんな種族なのか?」を詳しく説明し、そのモノローグに重なる形でホビットの村の映像が始まるのだ。 ホビットに対する知識のある人には蛇足とも思えるシーンだが、知識のない人にとってはスムーズに物語に入るための良くできた導入と言える。また、既存のシーンにも編集の過程で削られたセリフが多く復活しており、物語の展開が把握しやすくなっている。ストーリー展開のテンポが緩やかになったことも重要な違いの1つだ。 一般的に「特別版」は、原作を含めて既に「ロード・オブ・ザ・リング」の魅力を知っているファンが多く購入するソフトだと考えられる。しかし、丁寧な描写と追加されたシーンは、指輪物語について詳しく知らない人にこそ見て欲しいと感じた。実際、私も通常版より映画の世界に入り込みやすかった。 また、特別版は登場人物への感情移入という点でも大きな違いを見せている。通常版では、主人公とその仲間達についての描写が少なく、歴史を辿るように出来事を紡いでいるといった印象を受けた。それ故、彼らの冒険を身近なものとして感じ難かった部分があった。劇場公開時の感想で「他人がプレイしてるRPGを横から覗いているみたいでつまらない」というのがあったが、私もそれと同じ意見だった。 その反面、特別版には主人公達が食事をしたり、語らったりするような、冒険の途中の何気ないシーンが追加されている。彼らがどんな性格なのか、どんな気持ちで旅をしているのか? そうした個人的な目線を取り入れたことで、より登場人物に感情移入することができた。 もちろん個人的な話に終始してしまうと、単なるアクション冒険映画になってしまい、指輪物語が持つ壮大な雰囲気を消してしまうだろう。そのあたりのバランスをとるのは難しいと思うが、今回の特別版は見事に映画としての魅力を伸ばすことに成功している。もちろん蛇足だと思う人もいるかもしれないが、私にとっては歓迎すべきボリュームアップだった。 また、追加シーンの中には、続編に繋がる伏線とおぼしきアイテムやセリフが含まれていることも忘れてはならない。続編を楽しむためにも、今回の特別版は必見の内容といえる。
■ 画質と音質も向上、特典は山盛り!! 特別版の本編ディスクは片面2層の2枚組み。映像はシネマスコープサイズをスクイーズ収録する。音声は英語をドルビーデジタルEXとDTS-ESで、日本語をドルビーデジタルEXで収録しており、実に豪華な仕様だ。なお「コレクターズ・エディション」は英語のDTS-ES音声を収録していない。 通常版と特別版を聞き比べると、DTS音声の追加はかなり魅力的だ。音に厚みがグッと加わり、武器がぶつかり合う硬く鋭い音もリアルに収録されている。この映画では、特にスケールの大きな物語を盛り上げる重低音と、音に包まれるサラウンド感が重要になってくるのでこの差は大きい。エンドロールで神々しく流れるエンヤの「May It Be」を聞きながら、「ホームシアターをやっててよかった」としみじみ感じてしまった。 「DVD Bit Rate Viewer」で見た特別版の平均ビットレートは、「ディスク1」が7.14Mbps、「ディスク2」が7.53Mbpsとなっており、比較的高い数値と言えるだろう。その反面、通常版のビットレートは5.28Mbpsと低い。収録時間とディスク枚数が異なるので簡単に比較はできないが、ビットレートの差は画質にも現れており、特別版はクリアで圧縮ノイズもほとんど見られない。 通常版も、圧縮を工夫しており、顔のアップや重要なシーンの画質は悪くない。しかし「モリアの洞窟」など、暗い場面では細部が潰れてしまう。それに対して、特別版は岩の暗部も細かく描写されており、画質のアラを気にせず映画に集中できた。個人的にはもう少し色に鮮やかさが欲しかったが、滑らかで、品のある色調のほうが映画の世界観に合っているのかもしれない。 【通常版と特別版のビットレート比較】
特典ディスクは2枚組み。ディスク1には、映画が制作された背景や、スタッフ達の作品への思い、原作についての解説などが収録されている。トールキンがどんな人物か知らない人は楽しめるだろうし、ファンならば頷きながら新しい発見があるかもしれない。特に「壮大な原作をいかにして映画にしていくか?」という点を、「脚本編」、「映像編」の2つに分けて詳しく説明しており、見応えたっぷりだった。 また、「ロード・オブ・ザ・リング」ならではの特典として、物語の舞台となる「中つ国」の大きな地図が表示され、主人公達の旅の軌跡をマップ上で辿りながら、劇中の該当場面にアクセスできるコンテンツを収録。さらに、映画のロケが行なわれたニュージーランドの地図も用意され、その土地での撮影風景を表示するおまけも入っている。 ディスク2では、撮影や合成、編集といった作業の裏側をメインに、キャストの素顔にも迫っている。もちろんCGなどの解説も収録しており、ホビットなど、大きさの違う種族を同時に登場させるテクニックも披露されている。 また、絵コンテと本編を比較するコンテンツや、マルチアングルを使用して、異なるカメラの映像を1つにまとめる編集作業の工程を見るコンテンツなど、DVDならではの特典も用意されている。とにかくボリュームが豊富で、物足りないと思う人はまずいないだろう。 なお、通常版にも特典ディスクは付属しており、作品紹介やメイキングなど、コンテンツの趣向は似ているが、特別版と同じ内容ではない。なお、エンヤのミュージックビデオや、TVスポット、ゲーム版のプレビューなど、特別版には無いコンテンツも収録している。特別版と比較すると、言葉は悪いが「俗っぽい」内容になっている。 また、この特別版の特徴として「本」を意識した作りになっていることが挙げられる。まず、外箱からして異質だ。ハードカバーの古い洋書を模したパッケージになっており、素材の質感も良い。手にするとわかるのだが、DVDソフトを買ったというよりも、屋敷の書斎でホコリまみれの分厚い本を手に入れたというイメージだ。 背表紙のデザインも本のそれと同じで、本棚に入れたら見分けがつかないだろう。所々色あせていたり、破けているイラスト的演出も心憎い。見慣れたデジパックのケースを開く時も、思わず本を広げるような錯覚を覚えてしまった。指輪物語の原作と一緒に並べておくと、結構お洒落かもしれない。 このデザインコンセプトは、DVDの中身についても共通している。特別版のメニュー画面は本を広げるアニメーションで始まり、目次のように観たいチャプターを選択する。通常版はリングを意識した円形のメニューだが、個人的には特別版に軍配を挙げたい。「ファンタジーとはこういうものだ」という製作者の声が聞こえてきそうなこだわりを感じた。なお、チャプタ選択時も特別版はサムネイル画像が動画になっているなど、細かい変更が加えられている。
■ “にわか”ですが、ファンになりました とにかく、先に述べたように「ロード・オブ・ザ・リング」にあまり興味のない人にこそ見て欲しいソフトだ。その点で、9,800円という価格はネックであろう。購入後の満足度からすれば決して高すぎる価格ではないのだが、店頭で「購入しても良いな」と思わせなければ意味はない。せめて6、7千円台で発売して欲しかった。 また、フィギュアやブックレットなど、形として目に見える付属の特典がないことも残念だ。パッケージや中身については満足しているが、店頭で見た際には地味に感じてしまう。今後公開される映画や、発売されるであろう続編のDVDでも効果を発揮する予定の「中つ国パスポート」も付属しているが、現時点ではおまけとして少し弱い。 原作の「指輪物語」ファンには、もちろん文句なくお勧めできる。というより、特別版を見ずにファンを自称するのは辛いかもしれない。また、画質や音質にこだわる人にもお勧めできる。DVDとして見た場合でも、単に所有することが嬉しいソフトは貴重である。さらに、映画はまだ見ていないけれど、「ファンタジー」という言葉に弱いという人は、通常版ではなく、一気に特別版を購入した方が幸せになれるだろう。通常版を購入してから特別版の内容が気になってしまっては、精神衛生上よろしくない。 原作すら読んでいない私だが、観賞後はすっかり「ロード・オブ・ザ・リング」の“にわか”ファンになってしまった。わかりもしないのに指輪物語に関するWebサイトを巡っては「ふむふむ」などと頷いたりしている。壮大な指輪物語の世界に興味を持つ、いわゆる入門手段としても、このDVDは適しているだろう。ファンの人も、そうでない人も、このソフトで第2作目の公開に備えて欲しい。
□ポニーキャニオンのホームページ (2002年12月10日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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