■ 定着しそうな超小型カメラ 超小型デジタルカメラも、CASIOの「EXILIM」やSONYの「サイバーショットU」のおかげで、相当の市民権を得たようだ。画質も向上し、いまやもうオモチャとは言えないレベルにまで成長してきた。 今年1月にマルチカメラとしてデビューを果たし、以前Zooma! でも扱ったPanasonicのD-Snapは、本来はもっと話題になっていい製品だったはずだ。しかしD-SnapはどちらかというとMPEG-4のビデオカメラであり、やはり写真とビデオではユーザー層の厚みが違うのかなぁと思ったりもする。 そんなD-Snapの新型「SV-AV30」(オープンプライス、実売4万円程度)が12月2日にリリースされた。今回のモデルは電車の中吊りでも派手に広告されており、すでにご存じの方も多いことだろう。ご存じない方に一応D-Snapの概要をざっとまとめると、静止画記録、動画記録、音楽再生、ボイスレコーディングの4つの機能が1つにまとまったマルチデバイスである。 また今回のモデルは、多くの企業が参加している異業種合同プロジェクト「WiLL」ブランドを冠した製品でもある。デザインが大きく変わったこの新モデル、さっそくテストしてみよう。
■ かわいくなった本体 まずいつものようにボディチェックからだ。今回から横撮りがベースになったため、液晶画面は上に向かって開くようなスタイルとなった。それに合わせてボディの形状も、前モデルのような長方形ではなく、長さが短くなって正方形に近い形となっている。開き方からすると、女性の化粧品入れっぽい印象も受ける。
前モデルはビデオカメラをそのまま小さくしたようなスタイルだったので、何をするものだが一目でわかったものだが、今回のデザインは、割と正体不明っぽい感じがする。それが逆に、まったく新しいデバイスとして、普通の人にも抵抗なく受け入れられそうだ。 カラーバリエーションは、シルバー、ブルー、ホワイト、イエローの4色。筆者の手元にあるのは、イエローである。材質は樹脂製だが、塗装が厚いので安っぽい感じはない。写真ではわかりづらいかもしれないが、イエローは単色ではなく、レンズがある前面パネル部だけ少し暗めになっている。この部分だけ材質が違うようだ。 モニタ部は前モデルのようにツメで引っかけて固定していないので、ずいぶん開けやすくなった。普通に開けると90度で、それからさらに約30度ほど倒すことができる。また反対に回して自分撮りもできる。液晶モニタは2インチ、約20万画素のもので、かなり明るい。液晶を開けた内部に各種コントローラが配置されている。 右側面には、電源スイッチと、縦撮り兼モニタを閉じて使用する際の、2つ目の記録ボタンがある。さらに今回のモデルからはUSB端子が付いて、パソコンとの連携がより強化された。
付属品としては、クレードルが標準で付属するのは嬉しい配慮だ。D-Snapをセットし、クレードル後部を押し込むと、本体にコネクタが差し込まれ、ロックされる。クレードルでは、充電と、アナログ映像入出力を行なう。クレードル側でAD変換を行なうので、本体が前モデルより小さくできたのだろう。しかしUSB端子は残念ながらクレードル側にはなく、本体に直接挿す以外にない。
余談だが、一端本体をクレードルにセットしてしまうと、USBコネクタのフタが異様に開けにくくなってしまう。一応開けられるようにそれなりの窪みもあり、根性で引っ張り出せば開かないこともないのだが、かなり無理矢理な感じだ。そもそもクレードルに付けていなくてもこのUSBのフタは開けにくい。開けるときはフタを下に降ろすのに、フタのジョイントが横に付いているのには、尋常ならざる不条理を感じる。何度も開け閉めすると、いつかブチッとちぎっちゃいそうだ。
■ グレードアップした映像機能 では実際に使ってみよう。電源ボタンを「REC」にすると、Panasonicロゴが表示され、約7秒で撮影可能状態になる。前モデルでは、起動すると最初に4つの機能からどれを使うか選択しなければならなかったが、この新モデルでは最後に使っていたモードで立ち上がるようになった。実用的な変更だと言えよう。 まず静止画から試してみよう。デジタルカメラとしては、640×480ドットのVGAサイズでのみ撮影できる。画質モードはファイン、ノーマル、エコノミーの3種類があるが、撮れるサイズがVGA以上にはならないので、ファイルサイズは大したことはない。ファインでも128MBのSDメモリーカードで880枚も撮れるので、わざわざ画質を落とす必然性はあまりないだろう。とりあえず撮影サンプルを見ていただこう。
続いて動画モードだ。動画では以下の表のように、4つのモードがある。スーパーファインモードではコマ数が15fpsまでアップしたので、かなりなめらかな動画撮影が可能になった。
撮影の使い勝手だが、横に持っての撮影は、思いの外やりにくい。なんか持ち方というかホームポジションというか、持って構えるのがしっくり来ないのである。右手だけで持とうとすると、どうしても指がボディの前に行なってしまって、ついレンズを触ってしてしまう。気が付くといつもレンズが指紋だらけなのである。 いろいろ試した結果、筆者が行き着いたのは、ハンバーガーを食べる時のような両手持ちで撮影するという方法だ。このような横に構えるスタイルは、以前リコーのデジタルカメラにたくさんあったものだが、やはり慣れないとちょっと違和感がある。 同じ動画でも、カメラではなくAVライン入力によるビデオ録画が可能なのもD-Snapの特徴の1つだ。前モデルでは本体に直接AVケーブルを挿してビデオ録画を行なっていたが、新モデルではすべてクレードル経由で行なうよう変更された。電源も同時に供給されるため、録画してすぐに持ち出す場合にも都合がいい。 AV入力の録画では、カメラで撮影した画質とは違って、ブロックノイズの少ない良好な画質。普通の番組ならばファインかノーマルあたりならば視聴に耐えそうだ。もちろんスーパーファインなら言うことはないが、これで1時間番組を録ろうものなら、問答無用に512MBのSDメモリーカードが必要になる。今は上記2つのモードで我慢した方がいいだろう。また前モデルではできなかった映像の早送り、巻き戻しも可能になるなど、細かい点での改良点は多い。
■ 強化されたPC連係機能 今回から本体にUSB端子が付いたことで、PC側のサポートソフトが付属するようになった。SD-MovieStageは、USB接続したD-Snapに対する画像管理ソフトだ。 撮影したものの読み込みやコピーだけでなく、ファイルコンバートや編集機能まで付いている。編集と言っても簡単なカット編集とプレイリスト作成機能のみだが、動画からOKカットを切り出してまとめたり、静止画でスライドショーを作ったりできる。そのほかにも画像のプリントアウトや、DVカメラからのキャプチャ機能もあり、使い込めばなかなかおもしろいことができそうだ。
また、縦向きに撮ったビデオは、90度回転させて、縦長のビデオとして再生する機能がある。従来ビデオってのは、写真と違って縦には撮らないもの、という暗黙の了解があったわけだが、視聴環境がパソコンなどであれば関係ないわけで、ある意味画期的な発想である。しかし縦で再生できるのはSD-MovieStage上だけで、ファイルとして縦向きで書き出すことはできない。縦への書き出し機能があればおもしろかっただろう。
一方音声ファイルの方だが、ボイス録音したファイルは、SD-MovieStageで再生はできるものの、HDDなどへコピーすることができない。会議録音などしても、それがどこかへ保存できなければ辛いと思うのだが。あまりセキュアにやるすぎるのも、使い勝手が悪いものだ。
音質に関しては、前のモデルから結構良かったのだが、今回はさらにEQが付いたことで、付属のイヤホンでもそこそこ聴ける音になった。EQは付属リモコンからのみ操作でき、ノーマル→S-XBS→TRAIN→ノーマルとローテーションする。マニュアルには画面にEQのモード表示が出ると書いてあるのだが、うちのは表示出ないんだよなぁ。
■ 総論 D-Snapの新モデルSV-AV30は、前モデルで筆者が気になっていたポイントがことごとく改善されており、製品としての完成度が格段にアップした。言い換えれば、前モデルではまだまだ「広がるSDワールド」みたいなことのデモンストレーション機といった意味合いが強かったわけだが、この新モデルでは、それぞれの機能がちゃんと使える、実用的なものになったと言えるだろう。 ボディ横向き、というスタイルは、撮影よりもむしろ視聴スタイルとしてのメリットの方が大きい。撮影というのはそうそう頻繁に行なうものでもないが、録ったものを鑑賞するのは、通勤などの時間が利用できる。そういった意味でSV-AV30は、「撮る」よりも「見る」という傾向を強く打ち出しているようにも思える。 しかしこのマルチな機能を定着させるためには、やはり映像のデジタルコピーを本格化させなければならないだろう。せっかく自社製HDD/DVD-RAMレコーダのDMR-HS2にPCスロットを用意したのに、動画のデジタル転送という方法がないのは惜しい。 とにかく、あまりセキュアなことばっかり気にしすぎると、せっかくのコンセプトが台無しになってしまうのではないか、というところが筆者の懸念するところだ。例えば現在はオーディオのほうが非常に扱いが厳しいわけだが、例えばムービーを撮っていてメモリ足りなくなっちゃった、そうだ入れてきた音楽を消して容量を空けよう、と思っても、本体では音楽を消すことすら許されない。 自分で買ってきたCDで原盤はしっかり持っているのに、このような管理はあきらかに行き過ぎている。これが音楽専用デバイスなら話は別だが、こういうマルチな可能性のあるものに、不便のしわ寄せが出てきているのである。 映像のデジタル圧縮技術も、だんだんいい具合に進化してきている。D-Snapもマルチレコーダ/プレーヤーとして非常に注目されるジャンルの製品だ。今後もし映像にセキュリティ技術を盛り込むのであれば、音楽が歩んできた道とは違ってもう少し柔軟な考え方をしていかないと、せっかく芽生え始めた市場そのものを潰してしまう結果になるだろう。
□松下電器のホームページ (2002年12月11日)
[Reported by 小寺信良]
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