■ ATRAC3/ATRAC3plusに対応したCDプレーヤー 今回取り上げるのは、ソニーのポータブルMP3 CDプレーヤー「D-NE1」。MP3だけでなく、MDでお馴染みのATRAC3や、低ビットレートでも音質が良いという新フォーマット「ATRAC3plus」にも対応している話題の製品だ。 また、ATRAC3/ATRAC3plus対応のCDウォークマンということだけでなく、漢字表示に対応したソニー初のポータブルMP3 CDプレーヤーでもある。海外製品の多いMP3 CDプレーヤー業界で、国産メーカー、しかもソニー製ということで注目している人も多いだろう。 発売日は量販店のWebサイトによると4月21日前後という話だったが、19日に新宿の量販店に出掛けると、既に販売されていた。購入価格は20,800円で、消費税を入れると21,840円。10%のポイントが付いた。 なお、「D-NE1」の下位モデル「D-NE9」は、3千円ほど安い18,000円前後で販売されている。再生対応フォーマットや、付属ソフトなどの基本的な仕様は同じだが、連続再生時間が短くなり、リモコンの液晶が漢字表示に対応しないなどの違いがある。 ポータブルCDプレーヤーは1万円以下から販売されているが、主流の価格帯は15,000円前後。「D-NE1」の2万円を超える価格は、ポータブルプレーヤーの中では高級と言えるだろう。それに見合うだけの機能や操作性を持っているかどうか、早速レポートしたい。
■ クールなデザインの本体と、お馴染みのリモコン 本体を見て、まず印象に残るのはシンプルでクールなデザインだ。決して派手な色使いではないが、売り場では一際目立っていた。このあたりのセンスは流石ソニーと言ったところだろう。 本体のカラーはシルバーのみ。基本的なデザインは、前モデル「D-CJ01」を踏襲している。写真で見ると金属的なイメージを受けるが、上蓋の一部を除いてプラスティック製だ。見た目は良いのだが、手に取るとあまり高級感はない。ちなみに、重量は前モデルの218gから179gと、39g軽くなっている。 上蓋の周囲は半透明で、中のディスクが透けて見える。外で持ち歩くことを考えると、これからの夏にかけて涼しげで良いデザインだと感じた。また、「D-CJ01」では蓋の上にあった操作ボタンが、すべて外側の縁、または下部に配置され、上蓋はフラットになった。そのため、外観は薄さを強調するものになっている。 数値的に見ても、D-CJ01の29.3mmから15.8mmと、13.5mmも薄くなっており、iRiverの「SlimX」(iMP-400、iMP-350)シリーズの16.7mmと比べても約1cm薄い。このサイズならば、鞄の書類の隙間などにも難なく入るだろう。
本体のデザインはシンプルで良くまとまってっているが、充電時に使用するクレードルも格好良い。接続すると、まるで本体をディスプレイするようなスタイルになり、思わず部屋の目立つ所に置きたくなる。本体デザインに対する自信がないと、できない仕様だろう。
リモコンは、音量の調整用のジョグダイヤルと一体化したスティックタイプ。「D-CJ01」と比べると高級感が増しているが、スタイルはソニーお馴染みの形状だ。細身なので胸ポケットにつけても邪魔にならない。また、頻繁に使う再生/早送り/巻き戻しボタンが1つになっていて使いやすい。ボタンには指をかける突起がついており、プッシュ動作のほかに、スライド動作が可能。突起のおかげで、ポケットの中で手探りで操作する場合も迷わないといった利点がある。 リモコンの操作性に不満はないが、液晶が1行表示のため、表示できる情報量が少ないのが残念だ。最近のMP3 CDプレーヤーの液晶は2行、3行表示と文字列が多くなり、再生している曲の情報だけでなく、フォルダの情報やファイルフォーマット、ビットレートなども表示できる機種が増えている。デザイン上仕方のないことかもしれないが、寂しい印象を受けた。ちなみに、文字のスクロール速度のカスタマイズもできない。
また、標準で外付け乾電池ケースが付属するが、紐のついた小型マイクのような形状で、本体に繋ぐとブラブラと揺れてしまう。格好悪くて閉口していたのだが、本体を付属のポーチに入れた時、ポーチの内側に乾電池ケースを収納すると思われるスペースを発見した。ここに収納すれば、乾電池ケースが本体を傷つけることなく、ブラブラもしない。些細な点だが「よく考えられてるなぁ」と関心してしまった。 連続再生時間は、音楽CDで約35時間、ATRAC3plusで約55時間、MP3は約50時間。単3アルカリ電池と併用すると、CDが約90時間、ATRAC3plusで約150時間、MP3で約135時間という長時間再生が可能。スタミナの面では申し分ない。 情報量の少ないリモコンや、カスタマイズ性の低さなど、今まで海外製のMP3 CDプレーヤーを使ってきた人には引っ掛かる要素かもしれない。しかし、初めてMP3 CDプレーヤーを購入する人や、国産のプレーヤーを待っていた人には、逆にこのシンプルさが魅力になるだろう。
■ シンプルな操作でATRAC3/ATRAC3plusディスクを作成
最大の特徴であるATRAC3/ATRAC3plusディスクの作成は、付属の専用ソフト「SonicStage Simple Burner」を使用する。その名の通りシンプルなソフトで、できる操作はパソコン上で音楽CDやMP3ファイルをATRAC3、もしくはATRAC3plus形式に変換してCD-R/RWに焼くだけ。「SonicStage」と同じく、著作権保護技術「OpenMG」を搭載しているが、取り込んだ音楽データを管理する機能などは付いていない。
起動して、あまりにシンプルなインターフェースに面食らったが、逆に何も悩まずに操作できた。ATRAC化したい音楽CD、もしくはMP3ファイルを選択し、「ADD」ボタンを押すと、右側のライティンググループへとファイルがコピーされる。好きなだけファイルを選択したら、あとは「BURN」をクリックするだけ。実に簡単だ。
ATRAC3/ATRAC3plusのビットレートは、設定メニューから選択できる。選べるレートはATRAC3が66、105、132kbpsの3種類、ATRAC3plusが48、64kbpsの2種類。ビットレートは「ADD」ボタンを押した際の設定が適用されるため、異なるビットレートのファイルを混在させたい場合は、その都度設定を変えてからADDボタンを押す必要がある。 なお、「Simple Burner」はMP3のエンコーダを搭載していない。また、MP3ファイルをソースに選択しても、必ずATRAC3/ATRAC3Plusで再エンコードしてしまうので、MP3ファイルをMP3ファイルとして、そのまま焼くことはできない。あくまで作成できるディスクは「ATRAC CD」のみだ。
また、「OpenMG Jukebox」や「SonicStage」のOpenMG(ATRAC3plus/ATRAC3)形式のファイルからATRAC CDは作成することはできない。「Simple Burner」で扱えるのは、音楽CDとMP3ファイルのみとなる。
ATRAC CDは、内部に最大1階層、255個のグループを作成でき、ファイル数は999個までサポートする。なお、MP3 CDの場合は、最大8階層、100個のフォルダまで対応する。 音楽CDの情報は、ディスクを入れるだけで自動的にCDDB経由で取得してくれるが、各情報をユーザーが編集することも可能。ATRAC CDに記録できる音楽情報は、タイトル名、アーティスト名、アルバム名それぞれ62文字(全角、半角とも)。MP3ファイルの場合はID3タグ(1.1/2.2/2.3)をインポートすることもできる。
MP3 CDプレーヤーの難点ともいえるディスクの認識時間は、MP3ファイルのみのディスクで平均30~32秒程度、ATRAC3/ATRAC3plusのディスクも、同じく平均30秒前後。ディスクの容量やフォルダを目一杯詰め込むと40秒近くかかる場合もあった。容量70MB~640MB、ファイル数20~300個の範囲で5枚のディスクを試したが、認識時間は標準的といえるだろう。 なお、通常の音楽CDは10秒もたたずに認識した。また、レーベルゲートCDやコピーコントロールCDの再生は保証されていないが、手持ちのソフトで確認したところ、どちらも問題なく再生できた。 動作音は、ディスク投入直後にかなり大きなシーク音が出るが、回転が始まってしまうと極めて静かだ。耳をぴったりと本体につけない限り、無音といって良いだろう。さらに、CD-DA以外のディスクはデータを一旦メモリに読み込んでしまうため、音楽が流れている最中でもディスクの回転は止まっている。時折シーク音は出るが、騒音の面での不満は少ない。
■ 音質はニュートラル、ATRAC3plusの優位性も確認 作成したATRAC CDは、シャッフル演奏やグループシャッフル、プログラム再生、ブックマーク再生など、通常のMP3 CDと同じように再生できる。なお、MP3 CDではm3u形式のプレイリストもサポートしている。再生機能に大きな不満はないが、MP3とATRAC CDのどちらも、曲間の読み込みで、2~3秒程度のブランクがあるのが気になった。 全体的な音質は極めてニュートラル。余計な味付けがなく、実に素直な音だ。ソニーらしい音と言って良いだろう。個人的な感想だが、今まで聴いた海外製MP3 CDプレーヤーと比べると、分解能が高く、乾いた音調。初めは素っ気ないと感じるかもしれないが、良く聴くと音に芯がある。 私は、どちらかというと艶やかな音色を好むが、妙な色づけをされるより好感が持てた。ただ、音質のカスタマイズは低音増強を2段階用意するのみで、最近のオーディオ機器としては寂しい印象だ。SRSの「WOW」を搭載したり、イコライザを搭載するなど、もう少し音質面での機能を充実させてほしかった。 ATRAC3にエンコードした音質は、解像度が甘くなり、音が丸くなる傾向がある。薄いベールを目の前にかけられたような感じだ。MP3では、音が痩せ、音場が狭くなることが多い。どちらが良いかと聞かれると「聴く人の好みによる」と答えたくなるが、同程度のビットレートで比べた時、中音をメインとする“音楽の美味しいところ”を残しているのは、ATRAC3だろう。 また、低ビットレートで威力を発揮するというATRAC3plusの64kbpsを、ATRAC3の66kbps、MP3の64kbpsなどと聴き比べてみると、音場や解像度、分解能など、ほとんどの面でATRAC3plusがトップだった。また、ATRAC3の132kbpsなどと比べても、シビアな聞き方をしなければ満足できる音と言って良い。まあ、「ATRAC3plusだけですべて満足か?」と聞かれると、結局ATRAC3やMP3の高ビットレートを選んでしまいそうだが……。 なお、音質の面では、付属イヤフォンの使用はあまりお勧めしない。レビューにあたっては付属のイヤフォンを基準に判断しようと思っていたが、聞き始めて数分で別のものに付け替えてしまった。本体の音質から考えても、上質なイヤフォン、ヘッドフォンをあてがっても損はしないだろう。
■ 音質は良いが、汎用性に疑問が…… 以上のように、ATRAC CDの作成も手軽にでき、音質も良好。MP3 CDプレーヤーとしても手堅くまとまっている。MP3作成ソフトは同梱していないが、初めてMP3 CDプレーヤーを購入する人にもお勧めできる製品になっている。ただ、根本的な話になってしまうのだが、「音楽ファイルをATRAC CDにする必要があるか?」という漠然とした疑問が頭から離れることはなかった。確かにMP3とは異なる圧縮フォーマットとして、音質面での利点は感じられる。 だが、作成したATRAC CDが再生できるプレーヤーは現在のところ「D-NE1」と「D-NE9」しかなく、汎用性はまったくない。もちろん、今後ATRAC CDの再生に対応したプレーヤーが発売されると思うが、音質を考慮しても、現時点で所有する音楽データをATRAC CDとして保存する必要性が高いとは感じられなかった。 これは、付属の「Simple Burner」が音楽ファイル管理ソフトではなく、ATRAC3/ATRAC3plusエンコーダ、CD-R/RWライティング機能しか持っていないことから受ける印象でもある。よって、現時点で「D-NE1」はATRAC CDプレーヤーというよりも、“ATRAC CDも聞ける”MP3 CDプレーヤーと言わざるをえないだろう。 ただし、ATRAC3plusのビットレート・音質比の良さは特筆すべきものがある。音質にもこだわりつつ、1枚のCDに大量の音楽データを入れて持ち歩きたいといった要望には最適の製品だ。また、音楽だけでなく、英会話や落語、録音したラジオ番組などをATRAC3plusにしても面白いだろう。 MP3 CDプレーヤーとしての機能にも何ら問題はない。個人的には、ATRAC3だけではなく、WMAフォーマットにも対応して欲しかったところだが、それは次期モデルに期待したい。これからのシーズンは、旅行などで出掛ける機会も多くなる。部屋のCDラックを丸ごと1枚のディスクに入れて、外に連れ出せるプレーヤーとして、旅先でもきっと活躍してくれるだろう。
□ソニーのホームページ (2003年4月25日)
[yamaza-k@impress.co.jp]
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