■ DivXってトレンド? 先週のカノープスの新製品発表は、正直言って驚いた。グラフィックス系製品では高品質を売りにするカノープスが、DivXのエンコードを正式にサポートするという。2002年夏からMTVシリーズ用の録画ソフトとなった「FEATHER」では、AVIでのキャプチャが可能になり、より高画質にという方向性を打ち出して話題になったことがある。 今回の発表は、そういった高画質路線とは逆のベクトルとも言える、高圧縮路線への方向転換とも取れる動きだ。もっとも件のFEATHERでは、AVI形式ならばOSに入っているビデオコーデックは何でも使えるということで、非公式ながらもコーデックにDivXが選択できたという経緯はある。しかし今回発表された製品は、DivX Proの正規版と、オーディオ用にMP3コーデックまでバンドルとなる。 今回Electric Zooma! では、従来のMTVシリーズをDivX対応にアップグレードする「MTV X Pack with DivX」のβ版を入手できたので、さっそくMTV2000との組み合わせて試してみよう。「MTV3000FX」のような新製品ではないが、同等の使い勝手が再現できるはずだ。 なお今回はβ版ということで、リリースされる製品とは仕様が異なる可能性もあるということをお断わりしておく。
■ シンプルで軽快な「FEATHER X」 「MTV X Pack with DivX」は、いくつかのソフトウェアの詰め合わせパックとなっている。まずMTVシリーズのドライバ、録画コントローラの「FEATHER X」、DivXのエンコードプラットフォームとなる「X-TransCorder」、リモート予約を可能にする「CiRAgent」、そしてDivXコーデックだ。そのほかにもビデオ出力カード「VideoGate」のドライバを始め、MTVシリーズ環境クリーナーといったユーティリティも含まれている。旧ドライバやソフトウェアの代わりにこれらをインストールすると、新製品の「MTVxxxxFX」と同じになるというわけだ。 DivX Proのライセンスは、インストール時にシリアルナンバーを入力すると、ネットワーク経由でアクティベーションが行なわれるようになっている。 録画コントロールソフト、FEATHER XにはDivX特有の設定はない。だが録画予約設定のウィザード内に関連する部分が出てくる。録画形式を選択するところに、MPEG、AVI、DivXの3種類が現われる。
ここでDivXを選択すると、DivXによる録画ができるわけだが、MTV X Packの本領はそこではない。本チャンの映像がMPEGで録画しながら、おっかけでDivXへ自動エンコードできるのが売りなのである。 MPEG圧縮のところには、[BackGround Transcodeを行なう]のチェックがある。さらに[詳細]には、録画開始時に変換を開始するか、終了時に変換を開始するか選択できる。録画開始時を選んだときは、ハードウェアエンコーダがMPEGに録画しながら、DivXのソフトウェアエンコーダが走ることになるわけだ。
■ キモは「X-TransCorder」 実際にDivXのエンコードの面倒を見ているのが、X-TransCorderというソフトだ。一見してバッチエンコーダとわかる風情だ。オプション設定では、トランスコードが動き出すタイミングを設定できる。
変換開始のタイミング設定は予約録画時と同じだが、注目はその下の[FEATHERが録画をしている間は、トランスコードを行なわない]というチェックだ。一見すると変換開始のタイミングと同じようなものに思えるが、ちょっと意味が違う。 例えば予約録画で、AとBという番組が5分の間をおいて連続している場合のことを考えてみよう。面白い番組が続いている時間帯では、よくある状態だ。番組Aの録画が終わった時点で、X-TransCorderはDivXへのエンコードを開始する。当然エンコードは5分やそこらじゃ終わらないので、エンコード中に次の番組Bの録画がスタートしてしまうことになる。 このとき、この設定にチェックを付けていると、番組Bの録画中はX-TransCorderのエンコードはポーズ状態で待機している。番組Bの録画が終わると、X-TransCorderは番組Aのエンコードを再開する。このとき番組Bのエンコードは次のタスクに組み入れられており、順番に処理される、というわけだ。PCの負荷を減らす設定ができるよう、なかなか細かいところまでよく考えられている。 次に[コーデック設定]を見てみよう。ここは何らかの映像ファイルを追加してやらないと、設定できないようになっている。いきなり予約録画から使い始める人もいると思うので、ファイルがなくてもとりあえず設定だけはできるようにしてほしいものだ。
ビデオコーデックのデフォルトは当然ながらDivXになっており、オーディオはInterVideo MP3 Encoderとなっている。InterVideo MP3 Encoderは元々プレーンなOSには入っておらず、MTV X Packに含まれるものだ。OS標準のMP3コーデックでは、24kHz 56kbpsがせいぜいだが、InterVideoのコーデックでは、最高で48kHz 320kbpsまで選択できる。 実際に予約録画設定をして、動作を確認してみた。最初は録画開始と同時にエンコードする設定にしていたのだが、これは負荷の面ではかなり厳しいようだ。Pentium 4 1.7GHz メモリ512MBというマシンでWindows XPをクリーンインストールて実験していたのだが、うっかりスクリーンセーバを切り忘れていたところ、スクリーンセーバー画面のままハングアップしてしまっていた。まだβということで、安定性はこれから改善されるだろうが、1度しかない録画チャンスを大事に考えるならば、終了時に変換を選択しておいた方が無難かもしれない。
今度は録画形式の設定を変えて、最初からDivXのみで録画してみた。このタスクはX-TransCorderには登録されずに動いている。できあがったファイルを再生してみると、音声の方が大幅に先に進んでいて、映像と同期が全然取れていない。いくらなんでもこれが見てわからないわけはないので、バグというよりはまだこのへんの機能には手を入れていない状態なのだろう。
■ 総論 音楽の世界では、MP3の登場がハードウェア的にもソフトウェア的にも、製品市場にも多大な影響を与えた。映像の世界でも、DivXによってそのような道を歩むのであろうか。少なくともその足固めとして、カノープス製品のDivX正式対応は、大きな意味を持つことになる。 また現在MTVユーザーで、FEATHERのアップデートを見送っており、DivXもついでに正規版を買おうかな、エンコードプラットフォームもあるし、という人にはアップグレードキットは3,800円なんで、かなりお買い得だ。筆者もMTV2000ユーザーなので、一応コレは押さえとこうかなと思っている。 ただ素朴な疑問として、「製品としてこれは便利なのか?」という部分が引っかかる。確かになんにもしなくても、DivXのファイルができるというのはわかる。しかしこれは録画したものを右から左へエンコードするだけなので、ここからCMをカットしてDivXで保存したいという人には、ほとんど意味がない。 どうもこのベースには、根本的に「映像を残す」というモチベーションが誤解されているのではないか、と思われる。ユーザーは、単に録画したものがそのまんまちっちゃくなりゃいいと思っているわけではない。コトはDVDライティングでもDivXでもなんでもいいが、CMカットして「市販DVD並みの完パケを作る」ことに意義を見いだしているのである。
そういう意味ではむしろ、MPEG編集ソフト「MpegCraft」にX-TransCorderとDivXProのバンドル、の方がむしろアリなんじゃないかと思うんだが、どうだろうか。
□カノープスのホームページ (2003年6月25日)
[Reported by 小寺信良]
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