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■ エヴァ、再起動
ガイナックスによれば、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の企画がスタートしてから、2003年で10周年を迎えるという。それを記念して、2002年12月から2003年12月までの1年間、庵野秀明監督総指揮の「エヴァ リニューアルプロジェクト」が展開されている。 このプロジェクトには、キングレコードやガイナックス、角川書店、セガ、ムービック、バンダイが共同で参加しており、コミックやフィギュア、PC用ゲーム、イラスト集など、エヴァンゲリオン関連の新商品が今年に入って多数発売されている。 その中でも目玉と言えるのが「NEON GENESIS EVANGELION DVD-BOX」。アニメ作品としてのすべての「エヴァ」を1つのパッケージに収めた商品だ。標準価格39,800円と高価ながらも、6月26日付の弊誌のランキングで18位にランクインするなど、今だ冷めやらぬエヴァンゲリオン人気を感じさせる。 また、リニューアルプロジェクト関連として、ハリウッドでの実写映画化も決定するなど、2003年はまさにエヴァが「再起動した年」と言えるだろう。 しかしながら、このDVD-BOXを目の前にして、あまり気持ちが高ぶらない自分がいる。購入した、または購入を検討している人はどんな気持ちでいるのだろうか? 「まったく知らないので、この機会に購入しよう」という人を除いて、エヴァファンは、あの熱狂の日々から遠く離れ、少し複雑な気持ちを抱いているかもしれない。少なくとも私は、頭の片隅に何かモヤモヤしたものを感じながら「とりあえず押さえておくか、エヴァだし」という冷めた気持ちでBOXを手に取った。
■ エヴァンゲリオンって何だったんでしょうか? どういわけか、「新世紀エヴァンゲリオン」という言葉を聴くと、背中のあたりがムズムズするような、なんともいえない感覚に襲われる。イメージ的には、遥か昔に封印したまま忘れていた井戸の蓋が、少しずつ開いていくような感じだ。 「この感覚の元は何だろう?」と昔の事を思い返してみると、エヴァンゲリオンの人気が社会現象になった当時、自分がその中心に足を突っ込んでいたことに気付かされる。社会現象と言うと、ニュースなどでも取り上げられた「劇場前に徹夜で並ぶアニメファンの姿」を思い出す人も多いだろう。何を隠そう、かつて私は「徹夜で並ぶアニメファン」の1人だった。 背中のムズムズは、新宿の映画館の裏で、拾ってきたダンボールを敷いて前日から友人達と寝ながら並んでいた時の、ダンボール越しに伝わるアスファルトの感覚だ。それと同時に、眩いライトと共に撮影に来たテレビ局のカメラが思い出される。学校に登校したらクラスメイトに「ニュースに出てたね」と言われ、苦笑いで誤魔化した時の脂汗が今になって出てきた。これがトラウマというものなのだろうか。 我ながら「バカなことをしていたなぁ」と思うが、当時のアニメ業界はある種のお祭り騒ぎに突入しており、私も知らないうちに神輿を担いでいた。アニメ誌やサブカルチャー雑誌では先を争うように特集企画が組まれ、深夜のラジオ番組では連日のように特番が放送されていた。 当時はこの人気ぶりを、「宇宙戦艦ヤマト」、「機動戦士ガンダム」に続く、「アニメブーム第3の波」などと表現された。思い出すと脂汗が出るものの、ブームの波に巻き込まれたことに不思議と後悔はしていない。その後、エヴァほど盛り上がったアニメ作品は登場していないし、ブームを起こすに足る作品であったと考えているからだ。 では、いったいエヴァの人気とは何だったのだろうか? テレビ版の放送から8年。リニューアルDVD-BOXの発売を機に、ブームの熱気から冷めた頭で、あらためて鑑賞してみた。
■ 変なアニメだけど、やっぱり面白いです 私がエヴァを知ったのは、月刊「Newtype」というアニメ雑誌だ。放送数カ月前から大々的な特集を組んでおり、「ついに始まるぞ」という雰囲気で誌面が満ちていた。「ガイナックス」や「庵野秀明」という名前は、当時からアニメファンの中では有名だったが「それにしても随分と力が入っているなぁ」と首を傾げた記憶がある。 今回のDVD-BOXでリニューアルされたオープニングは見違えるほど発色が良くなり、ノイズや傷も消えている。5.1chのサラウンドになった「残酷な天使のテーゼ」を聴きながら、第1話が放送された日のことを思い出した。テンポの良いオープニングに関心し、少年が巨大ロボットに乗るまでのガンダムのそれを彷彿とさせる軌跡、作品全体から立ち上る作り手の熱気のようなものに心動かされた。第1話と2話の連続したストーリー構成はシリーズ全体を見ても特に素晴らしく、当時の私は放送開始と同時にすっかりハマってしまった。 ストーリーをあらためて説明する必要はないと思われるが、近未来の日本を舞台に、突如襲来した「使徒」と呼ばれる謎の存在と戦う、14歳の少年少女を描いた作品だ。細かく解説するときりがないほど複雑な物語だが、メインテーマは「主人公・碇シンジの成長を描くこと」で一貫しており、その姿勢は最後の劇場版まで揺らいでいない。 今回のリニューアル版を見返して、作品としてのクオリティの高さに関心する。見違えるほど高画質になったことで、作画の良さにも改めて気付かされる。また、ストーリーのテンションの高さや、演出の上手さも秀逸だ。先がわかっていながら、グイグイと引き込まれてしまう。8年経っても色あせない、作品の持つパワーをあらためて感じることだろう。 謎が謎を呼ぶストーリー展開。目的、動機、何処から来たのか? などがまったくわらかない「使徒」という敵。「アダム」、「リリス」、「S2機関」、「A.T.フィールド」、「ゼーレ」など、意味深な言葉が飛び交い、キリスト教やユダヤ教を連想させるストーリー展開が好奇心をくすぐる。雑誌では謎に迫る特集が組まれ、エヴァファンの友人と会うと、今後のストーリーの予測で深夜まで語り明かしてしまうことも多々あった。 第1話から13話あたりまでは、普通のロボット(?)アニメーションとして面白い。個人的には9話で最高潮に達していると思う。だが、物語が後半に進むに連れ、「良くできた面白いアニメ」としての像は徐々に崩壊。「前代未聞のアニメ」としての姿が現れる。具体的には、登場人物の心理を描写した抽象的なシーンが多くなり、26話(最終話)では、台本をそのまま画面に映したり、登場するキャラクターを使ったまったく別の物語を挿入するなど、アニメーションという形や、物語という形態すら捨ててしまう。 このあたりの展開については賛否両論あるだろうが、個人的には、まるでボードゲームに興じていたら、机ごとひっくり返されたようなラストは気に入らなかった。だが、その型破りなラストが、作品そのものを話題にする起爆剤になったことは確かだ。 また、この作品を社会現象たらしめた魅力的なキャラクターの存在も忘れてはならない。登場人物はいずれも自閉的で、必ずと言っていいほど心に傷を負っている。アニメのキャラクターだが、言動には不思議なリアリティがあり、嫌悪すべき欠点まで持っている。そして、そうしたキャラクターの“厚み”を支える日常生活の描写も細かく、生活感に溢れ、匂いすら感じさせるほどだ。 キャラクターの人気は最高潮に達し、ある種のスタンダードと化した感さえある。特にエヴァの代名詞とも言える「綾波レイ」の人気は凄まじく、エヴァンゲリオン後に登場したアニメや漫画、ゲームなどの作品には必ずと言っていいほど銀/青/白髪で無口無表情、たまにポツリとしか喋らない謎の美少女が登場した。まさに「なんちゃってレイ」、「なんちゃってアスカ」の氾濫状態。視聴者だけでなく、その後の制作者達にも大きな影響を与えた作品だった。 笑ってしまう話だが、主人公が自己の存在意義を模索する作品も急増した。視聴者に「にわか心理学者」が急増したのも、エヴァ人気の特徴の1つだろう。学生時代、心理学の本を片手に延々とキャラクターの内面を語ってくれた友人と、先日電話する機会に恵まれたが「あの頃を思い出すと顔から火が出そうだ」と言っていた。まさに青春である。 物語としての形式を放棄し、キャラクター達の内面、精神の変化に終始したテレビシリーズのラストに変わって、劇場版が製作された。作品の最大の謎である「人類補完計画」と呼ばれるハルマゲドン的な事変を表現した映画で、内容はまさにこの世の終わりという感じだ。その終末描写には情け容赦がない。 観客が愛着を持っていたキャラクターたちは無残に殺され、容姿端麗なヒロインは常軌を逸したような鬼気迫る顔で「殺してやる」を連呼し、主人公はそのヒロインの首に手をかける。まさに狂気のフィルムだ。だいたい冒頭が主人公の手淫シーンで始まるアニメ映画がどこの世界にあるというのだろうか? ラストシーンを含め、賛否両論を呼んだ劇場版。DVDではスクイーズ収録された映像と、5.1chのサラウンド効果でインパクトもより強烈になった。グロテスクな映画は苦手なので、見返したくない映画のTOP3に入っていたのだが、今回は意外と冷静に鑑賞できた。劇場公開時、徹夜明けの眠い頭で見た時は「崩壊している映画だなぁ」と思っていたが、今回あらためて観てみると、監督が訴えたかったメッセージがストレートに胸に入って来た。時間が過ぎたから改めて気付くことも多いだろう。
■ 現実のミサト、レイ、アスカが登場する特典ディスク DVD-BOXには特典として、LDの各巻に封入された「EVA友の会」という会報誌が全号封入されている。副監督を務めた鶴巻和哉氏の日記や、作品の裏話、スタッフの連載や、読者の論文、4コマ漫画などで構成されている。両面印刷のモノクロ1枚だが、読み応えのある特典だ。 特典ディスクは、以下の6つのコンテンツで構成されており、発表済みの映像の再収録が2つ、初収録のコンテンツが4つとなっている。コアなエヴァファンなら、ほとんど見たことがある映像だと思うので、注目は初公開の「実写パート 特別編集版」だろう。 ■ AR用定尺ラッシュビデオ AR(アフレコ)時などに使われる映像で、原画や、断片的な動画などを組み合わせて構成されている。アニメの下書きとも言えるものだ。キャラクターが喋る部分では、映像の中に漫画のように拭き出しが描かれている。どのようにアニメーションが作られるのかが垣間見える、面白いコンテンツだ。 本編ディスクの各話にはAR用の台本が静止画で収録されているので、それを参考にして、このラッシュビデオに自分で声を入れてみるのも面白いだろう。効果音や音楽なども挿入されているので、声優気分が味わえること受けあいだ。試しに深夜、部屋に1人きりであることを確認して声優気分を味わってみたが、自分が役者に向いていないことを痛感した。 ■ 番組宣伝スポット テレビシリーズ放送前や、放送中にCMとして流れた宣伝スポット。 ■ ノンテロップオープニング&エンディング テレビシリーズのオープニング、エンディングのノンテロップバージョン。映像はリマスターされたものだが、音声は5.1chサラウンドではなく、放送と同じステレオで収録されている。 ■ NEON GENESIS EVANGELION Genesis 0:0 IN THE BEGINNING ビデオやLD版のリリースに先駆けて、'95年12月21日に発売された先行ビデオの内容を収めている。筆者はVHS版を所有しているが、内容に変化はない。簡単な作品紹介、キャラクターの説明、スタッフへのインタビューを収めている。特にキャラクター・デザイナーの貞本義行氏と、庵野監督のインタビューは作品の根幹に触れる部分もあり、興味深い内容だ。 ■ 各種スポット集 テレビで放送されたCMなどを抜粋したコンテンツ。アニメ誌「Newtype」や、エヴァを連載中のコミック誌「少年A(エース)」、セガサターン版ゲームのCMなどが次々に登場する。テレビシリーズ放送中、その合間に流れたものばかりなので、リアルタイムで見ていた人は強烈な懐かしさを感じるだろう。また、劇場版の特報、予告も含まれている。 ■ NEON GENESIS EVANGELION Genesis 0:0' THE LIGHT FROM THE DARKNESS 映画「DEATH AND REBIRTH」のビデオ付特別鑑賞券のために制作された映像。内容はテレビシリーズのダイジェストで、劇場版への期待を高めるような編集が行なわれている。 また、主要女性キャラクターの声を演じた、三石琴乃、林原めぐみ、宮村優子の3人のインタビュー、映画の主題歌「魂のルフラン」のプロモーションビデオなども収録している。 ■ 劇場版26話 実写パート (特別ラッシュ編集版) 上記の女性声優3人が出演している実写短編映像。劇場版の第26話に「実写パート」として挿入される予定で制作されたが、そのプランはオミットになり、劇場版の予告などに数カットが使用された。また、劇場版の26話にも極一部が挿入されている。 今回収録された映像は、DVD-BOXのために新たに編集されたもので、収録時間は約10分。3人の女性声優達が、それぞれのキャラクターの名前で登場し、ありふれた生活を送る。特にストーリーがあるわけではなく、あくまで日常の1シーンを切り取ったという内容。現実感を表現するためか、異様に生活観溢れる映像になっている。 そのため、アニメーションと連続して視聴すると、かなり違和感を感じるだろう。個人的な感想としては、もしこの実写映像が劇場で延々と流れていたら、かなり冷めてしまっただろうなと思った。もっとも、それが監督の狙いだったのかもしれないが……。
■ 再起動したエヴァは何処へ向かうのか? DVD-BOXを観終えた感想は、正直言って後味の良いものではない。これは、登場人物が幸せだったのか、不幸だったのかを明言しにくいことから来るのだろう。劇中に「現実と真実は人の数だけある」という風な言葉があるが、まさに感想は人それぞれ。好きなように解釈できるストーリーでもある。 そのためか、エヴァを題材とした同人漫画や同人小説などは、当時、恐ろしいほどの数が制作され、そこかしこで独自の続編やリメイクストーリーが作られるという面白い現象が起こった。流石に放送から8年が過ぎたため紙媒体は鎮火したようだが、インターネット上では現在もファンフィクションが根強く制作され続けている。このあたりのことを語り始めると、また違った脂汗が出そうなので割愛するが、エヴァンゲリオンが現在進行形の作品であることは強調しておきたい。 DVD-BOXの39,800円という価格については、内容の密度を考えると妥当なところだろう。以前のDVDを所有している人は複雑な気分かもしれないが、映像、音響面でストレスなく鑑賞できる意義は大きいと考える。また、「エヴァンゲリオンが話題になったことは知っているが、観たことがない」という人は、この機会にぜひ購入を検討してほしい。万人が気に入る作品ではないかもしれないが、一見に値する作品であることは間違いない。 もちろん「描き下ろしのジャケットが気になる」というコアなファンは単品を狙うというのも良いだろう。特典ディスクの内容はそれほど固執するものではないし、BOXケースの見栄えは良いものの、ラックのどこに並べたらいいか悩んでしまう大きさだ。 以上、世紀末の日本を騒がした「エヴァ」について、DVD-BOXを観ながら個人的な思い出話を書き連ねてみた。新世紀になって思い返してみても、自己愛と自己嫌悪が交差する、俗に言うオタク文化(私はこのオタクという言葉が嫌いだが)と、そこに沈殿するたまらない閉塞感、不安感など、そういう漠然とした空気を表現した作品として、私はこれ以上のものを知らない。そして、現在はこの閉塞感が8年前より悪化していると感じている。 リニューアルプロジェクトはまだ半分を過ぎたところだ。ハリウッドでの実写映画化や、PC用ゲームの第2弾、そして連載が続く漫画版と、今後も新しい展開が発表されるだろう。「再起動したエヴァはどこへ行くのだろうか?」。何かの記念碑のようにそびえ立つ赤いケースを見ながら、そんな感慨にふけってしまった。
□キングレコードホームページ (2003年7月3日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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