■ ブロードウェイミュージカルの傑作を映画化
「シカゴ」は、ボブ・フォッシーが作り上げたブロードウェイミュージカルの傑作を、ロブ・マーシャル監督が映画化した作品。2003年度のアカデミー賞で、最優秀作品賞ほか6部門を受賞した。 日本でもかなりのプロモーションが行なわれていたと思うが、公開時には、「爆発的なヒット」には至らなかったように記憶している。個人的にはミュージカルにほとんど興味がなかったりするのだが、舞台は'20年代のシカゴのショービズ界で、トレーラなどでステージなどの雰囲気などを見ると、なかなか魅力的に感じる。ということで、購入してみた。 シカゴDVDには、本編ディスクのほか、特典ディスクが付属する「Special Edition」のほか、Special Editionに「映画の世界感を意識したクラッシーなグッズを同梱した」というボックスセット「Premium Box」も用意されている。 Premium Boxには、ブックレットや、システム手帳、パフューム・ボトル(香水入れ)、シガレットケース、網タイツなどが同梱されており、価格は9,800円。10%OFFの店頭でも実売9,000円と、ちょっと手が出ないお値段。ということで、ディスクの内容自体は同じなので、Special Editionを選んだ。 パッケージには、紙のケースも付属。また、And All That Jazzなど、劇中で歌われる歌の歌詞/対訳を収めた歌詞カードも封入されているあたりが、いかにもミュージカル作品らしい。
■ '20年のシカゴ。舞台スターらの浮沈を描く
物語の舞台は、'20年代のシカゴ。舞台スターを夢見るロキシー・ハート(レニー・ゼルウィガー)は、愛人を殺した罪で留置場へ送られる。しかし、そこで彼女は憧れのスター、ヴェルマ・ケリー(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)と出会う。 ヴェルマはコンビを組んでいた妹を射殺した罪で服役しているが、看守のママ・モートン(クイーン・ラティファ)に取り入り、謝礼を払うことで高待遇を受け、外部との接触も盛んに行なっている。殺人犯の彼女は、復帰後の契約の話まで進めているが、彼女が出所を確信している理由は、敏腕弁護士のビリー・フリン(リチャード・ギア)を雇っているため。 ビリーは、弁舌の妙と、マスコミ操作で絶対的な力を持つ弁護士で、過去に手がけた女性容疑者は、ことごとく刑を免れている。所内から彼に電話で連絡するだけで、ママに100ドル支払う必要があるほか、ビリーを雇うには5,000ドルという高額の費用が必要となる。 夫の協力により、なんとかビリーを雇うことが出来たロキシーは、さまざまな手を用いて、メディアの注目と同情を集めていく。その人気は、やがて、ヴェルマをもしのぎ、所内での両者の関係も露骨な変化を見せていく……。 ストーリーとしてはシンプルだが、重要な場面は、必ずミュージカル仕立となっている。特に、ヴェルマ演ずる元ダンサーのキャサリン・ゼタ=ジョーンズの演技は圧巻で、ミュージカルシーンでの存在感は主演のロキシーを超えている。ダイナミックなヴェルマと、高音が擦れた歌声とはすっぱなダンスのロキシーとの対比も面白い。 また、ある意味もっとも興味深いのが、ビリー演ずるリチャード・ギアのダンスと歌。特にラスト間際のタップダンスは珍しい。決してうまいというわけではないのだが、微妙なたどたとしさが、ビリーの「あやしさ」をうまく表現しているように感じられた。 ミュージカルシーンの迫力は十分で、ミュージカルに興味のない人でも十分楽しめるだろう。また、看守のママとのやり取りに見られるような、刑務所内の腐敗や、感情に流されやすく、常に新しいニュースを求め、古い話題を忘れていくメディアの体質への皮肉めいた描き方も印象深い。
■ 画質は良好。日本語音声にはやや違和感も
DVD Bitrate viewer 1.4で見た本編のビットレートは、7.99Mbps。画質は良好で明確な破綻などは見当たらないが、舞台や監獄内など、暗く輝度差の大きいシーンが多いため、時折ややノイズを感じることもあった。ダークで霞がかったような、独特の映像の雰囲気は、'20年代のアンダーグランドな雰囲気を感じられて、ストーリーに引き込まれる。 音声はドルビーデジタル 5.1ch(384kbps、英語/日本語)と、DTS(768kbps)が用意されるが、音の密度など結構な差があり、DTSでの視聴をお勧めしたい。また、オーディオコメンタリ(192kbps)も収録されている。 主にDTSで試聴したが、リアチャンネルから独立した音が鳴ることは稀で、基本的にはホールのアンビエンスや、包囲感をしっかり出す方向で音作りされている。LFE成分もさほど多くなく、ステージの音響をきっちり再現しようという意図が感じられる。 なお、日本語音声では、ミュージカルシーンでもセリフは日本語で、歌に入ると突然英語になるのがやや気になった。
本編ディスクには、特典としてカットされたミュージカルシーン「Class」を収録。特典ディスクは、メイキングや、「シカゴの全て」と題された解説映像、スタッフ/出演者へのインタビュー、「ビハインドシーン」と題されたトレーニング/レコーディング/撮影風景、トレーラなどが収録されている。 メイキングでは、監督のロブ・マーシャルが「基本的には風刺作品」とし、「悪人を英雄扱いするわれわれへの皮肉でもあり、名声を求める人々への皮肉でもある」などと解説。誰もが楽しめるエンターテインメント作品として、個人的には楽しめたが、監督以外の出演者やスタッフの多くが、風刺の要素を強調しているのはやや意外だった。 インタビューでは、振付家でもある監督のロブ・マーシャルが、「名声と有名人がテーマ」とし、「ロキシーのスターになりたいという気持ちをストーリーの中心に添え、感情移入しやすくした」という。また、振付家としては、「映画を怖いとは思わない。肩の動きなど、体の動きを見せるという意味では同じで、快適に振り付けができた」と話す。 また、脚本のビル・コンドンは、記者会見でビリーが記者を扇動するシーンなどは、「舞台ではボードビルとして曲とともに表現されているが、これらはボブ・フォッシーのオリジナルの優れたところ」とし、映画化においても、これらを尊重して「ボードビル形式の舞台とともに楽曲を使った」など、映画化にあたり、オリジナルのよさを残すよう心がけたという。 「シカゴの全て」は、メイキングやインタービュー、本編映像などを編集し、時代背景や状況解説、出演者のプロフィールなどを簡単にまとめている。ストーリーや出演者を知るためには一番良くまとまっているが、メイキングやインタビューとの重複も多いのがやや残念だ。
■ エンターテインメント好きなら楽しめる良作
メイキングでは、監督自身も'20年代後半のダークで、過剰な雰囲気を再現することに重きを置いたと述べていたが、名声を求める主人公達の姿も、タフな時代背景を覗かせて興味深い。 個人的にはエンターテインメントとして非常に楽しめる映画だった。描かれる'20年代の風俗や、衣装、セットなどの雰囲気も抜群で、音と映像のクオリティも満足いくもの。ストーリー的には勧善懲悪といった具合ではないので、親子で見るような作品ではないかもしれないが、ミュージカルに興味がないという人でも楽しめる内容だと思う。
□ハピネット・ピクチャーズのホームページ (2003年11月4日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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