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第126回:ついに出たmLAN製品の本命!
~ mLAN対応デジタルミキサー「ヤマハ 01X」を試す ~


 IEEE 1394を利用してオーディオやMIDIを転送することができるプロトコル「mLAN」。これを利用した本命製品ともいえる「01X」が発売された。本連載でも何度か紹介しているが、今回、01Xを実際に使用してテストすることができた。



■ ついに出たmLAN製品の本命

ヤマハ「01X」
 筆者がmLANのデモをはじめて見たのは'97年の夏だった。それから6年以上の時間を経てようやく本命といえる製品が登場した。ヤマハ製のmLAN対応製品自体は、1~2年前からポツポツと発表されていたので、今回が初というわけではない。しかし、PCと接続し、本格的なDAW環境を構築できる製品としては「01X」が初となる。

 もっとも、mLAN自体はオープンな規格となっているので、ヤマハ以外にも採用メーカーがあり、当コラムにおいても米Presonus Audio Electronicsの「FireStation」という製品を取り上げた。あのFireStationを触ったときの感覚は、性能としてはまずまずだが、mLANのドライバ周りが非常にわかりにくく、扱うのが難しいという印象だった。本家ヤマハの製品はどういうものなのだろうか?

 パッケージを見て最初に感じたのは「箱の大きさの割には、ずいぶん軽い」ということ。箱から空けてみると、展示場などで受けた印象よりはコンパクトで、机の上にも余裕で乗っかる。以前チェックしたTASCAMのFireWire対応コンソール「FW-1884」よりはだいぶ小さい。

 mLAN対応製品なので、PCやMacintoshと接続すれば可能性が大きく広がる製品だが、単独でもデジタルミキサーとしても使うことができる。まずは、単独で使用してみた。

 スペック的には44.1/48kHz時に28chのミキシング、96kHz時に18chのミキシングが可能となっているが、単独で利用する場合には、アナログ入力が8chとデジタル入力が2chとなっている。また、出力のほうは、マスター出力、モニター出力、デジタル出力がそれぞれ2ch装備されているほか、ヘッドフォン端子があるという構成だ。実際、単独で動かしたところ、ミキサーとしてはかなり高性能。

 アナログが8chしかないのがちょっと寂しいが、それでも各チャンネルにデジタルのEQとコンプが搭載されていたり(ステレオ入力の1ch/2chはEQのみ)、インサーションもしくはセンドエフェクトとして利用可能な内蔵マルチエフェクトが2系統搭載されているなど、スペック的には十分なもの。アナログミキサーと違って、EQのHi、Mid、Lowといったツマミがコンソール上にはなく、スイッチとLCDのディスプレイを使って設定するので、慣れないとちょっとわかりにくいが、とりあえずマニュアルなしでも、一通り使うことができたので、ユーザーインターフェイス的にも悪くない。

 EQの効き具合いもなかなかいいし、コンプもいい具合いに使える。1ch/2chはファンタム電源対応のキャノン端子になっているほか、8chはギターやベースを直接接続できるHiインピーダンス対応になっているので、一通り何でも接続することができる。


■ リモートコントロール用ソフトも付属

 次にIEEE 1394でPCと接続した。あらかじめドライバをインストールしておくわけだが、これに結構時間がかかった。基本的にはすべて自動で行なってくれるので、5~6分間、指示にしたがってOKを押していればいいだけなのだが、かなりいろいろなソフトがインストールされているようだ。また、この基本的なソフトであるドライバ以外にも、Studio Manager for 01Xというコントローラソフトや、VSTプラグインソフト、SQ01というシーケンスソフトなどいろいろなアプリケーションが用意されているので、必要に応じてインストールすることになる。

 とりあえず、ドライバのインストールが終わればすぐ使える状態かというと、そうではない。タスクトレイにある01Xのアイコンを右クリックしてオンにすると、はじめてPCとの接続が行なわれる。また、ここでmLAN Driver Setupという画面を開くと、ここでドライバをASIOにするか、WDMにするか、さらにはその混合(WDMとしては2ch)にするかを決めることができる。CubaseSXなどを使うのであれば、ここでASIOを、ASIO非対応の一般のアプリケーションを使うのであれば、WDMを設定する。

PCとの接続はタスクトレイのアイコンから行なう ドライバの設定 入出力の設定

 さらに、mLAN AutoConnecter for 01Xという画面で、サンプリングレートや01Xとやりとりする入出力チャンネル数などを設定する。ドライバの種類やサンプリングレートなどは一度設定すればいいが、接続をオンにするのは、PCの電源を入れるたびに行なわなければならない。

 無事接続されたところで、波形編集ソフトなどいくつかのアプリケーションを動かしてみたところ、WDMになっていれば、簡単に使うことができた。また、CubaseSXを起動し、ASIO mLANというドライバを選択すると、マルチチャンネルで01Xへ信号を送ることができ、01X側のフェーダーで音量調整が可能だ。

CubaseSXからも「ASIO mLAN」というドライバが指定できる(クリックするとダイアログ全てを表示)
 いずれの場合でも、01Xまで送るのがPC上のアプリケーションの仕事となるので、そこから先はすべて01X側での処理となる。つまり、それぞれの音量調整だけでなく、EQやコンプの設定、エフェクトの設定などが、すべてCubaseSXなどのソフトとはまったく独立して行なわれる。

 ただ、EQ、コンプ、エフェクトなどの操作をすべて01X上で行なうのは結構面倒。そこで、より便利にPC上の画面で操作できるソフトが同梱されている。それが、前出のStudio Manager for 01Xというものだ。起動すると、コンソール画面が現れ、01Xの状態がすべてリアルタイムで表示される。

 また、この01Xはミキサーやオーディオインターフェイスとして動作するだけでなく、リモートコントローラとしても使えるようになっており、モータードライブを内蔵したムービングフェーダーが搭載されている。そのため、フェーダーやパンなど01Xを操作すれば、画面が動くし、逆にこのStudio Manager for 01X上で操作すれば、それがそのまま01Xにも反映される。

 もちろん、Studio Manager for 01Xは単にフェーダーなどを表示させるツールではない。具体的には、8chあるアナログ入力をmLAN側のどのチャンネルに送るかを設定するパッチ設定の画面が用意されていたり、EQやコンプをグラフィカルに表示させる画面があったり、2系統あるエフェクトを選択し、そのパラメータを設定するEffect Editorなどが用意されているのだ。当然のことながら、これらを使うことで、01X単体で設定するのと比較して、はるかに効率よく操作できるようになっている。

Studio Manager for 01X Patch Editor
Selected Channel Effect Editor

 ちなみに、01Xでは1ch、2chがXLRでの入力、3ch~8chがバランスフォーンでの入力となっており、8chのみHiインピーダンス対応となっており、デフォルトでは、それらがそのままmLANの1ch~8chの入力へと流れてくる。しかし、ASIO非対応の2chの波形編集ソフトなどの場合、このままではXLRの入力しか受け付けないことになる。しかし、上記のパッチの設定を行なうことで、さまざまな組み合わせが可能となる。


■ DAWソフトとの連携は簡単。SOLではプラグイン扱いにも

 ここで、いくつかのDAWソフトを01Xと接続して動かしてみた。まずは、前述のCubaseSX。この場合、オーディオはASIO mLANを選んだが、ASIOコントロールパネルを開くと、ここではmLANのパッチ設定画面が登場してくる。

 これは以前見たFireStationのときと同様だが、基本的にはいじらなくていいようだ。レイテンシーに関しては、この画面ではなく、タスクトレイから起動する設定画面で行なうのだが、その結果最高で3msec程度にまで短くすることができた。

 またリモートコントローラとして機能させるためには、Mackie Controlとして動作させることになる。これを設定し、01X側をリモートモードにすると、完全にリモートコントローラとして動作する。この際、01XのディスプレイにはCubaseSX上で設定したトラック名などが表示されるのもポイントだ。

CubaseSXでの設定。パッチ設定画面(左)とMackie Controlの設定(右)

 SONARについては、正式対応していないが、SONAR3で試してみたところ、オーディオデバイスとしてもフィジカルコントローラとしても基本的には問題なく動作させることができた。

 マニュアルなどによると、フィジカルコントローラとした際、01X上のディスプレイに表示される文字が化けることがあるので、日本語版は非対応となっていたが、特に不具合は感じられなかった。確かにトラック名を漢字にすると、転送されないのだが、英数字にしていれば問題はない状態だ。

SONARでの設定。左はオーディオでバイスとして、右はフィジカルコントローラとして設定している

 一方、ヤマハのSOLの場合は、オーディオ設定はASIOでもWDMでも動作する。また、フィジカルコントローラとしては、Mackie Controlとしてではなくネイティブの01Xとしてサポートしているようだった。さらに、面白いのは、Studio Manager for 01Xとの関係。実は、これOPT(Open Plug-in Technology)というものに対応しており、SOLからはStudio Manager for 01Xをプラグインとして連動して起動させることができる。こうなると、さらにDAWと01Xを有機的に接続することができるわけだ。

SOLでのASIO設定(左)。プラグイン登録もできる(右)

 そのほか、01Xの付属ソフトとして面白いのがVSTプラグイン/AudioUnitsプラグインが4種類同梱されていること。このうちの3つ、Pitch Fix、Vocal Rack、Final MasterについてはSOL2にもバンドルされているもので、とくに01Xと直接的な関係はないものだし、以前にも紹介しているので、ここでは割愛する。

01X Channel Module
 しかし、もう1つの01X Channel Moduleというのがユニーク。というのは、これ自体は完全にソフトウェアとして動作するもので、EQとコンプを組み合わせたもの。01Xの設定画面とそっくりになっている。

 パラメータ自体まったく同じもので、アルゴリズム的にも同じになっているとのことだ。つまり、01Xで処理しきれない分をソフト側で行なうことができ、そのパラメータを保存すれば、相互にやりとりが可能となっている。


■ 出力波形は優秀な結果に。ノイズレベルは小さい

ノイズレベル
 最後に恒例の実験を行なった。入出力を直結した際のオーディオ性能を計るものだ。まず、入出力でレベルを合わせた上で、無音状態でどれだけのノイズが乗るかという実験。この結果を見ると、なかなか良好で、ノイズレベルは非常に小さい。

 設置状態の問題なのか、若干バイアスがかかっていて、中心線がズレてしまっているが、DCオフセットで取り除けば、最大で-95dB程度のノイズとなっていた。

 また、1kHzのサイン波でがどのように戻ってくるかを見ても、とてもキレイな線になっているのが確認できる。参考値であるS/Nとしても81.73となっているので、良い感じではないだろううか。さらにスウィープ信号の結果も非常にフラットとなっていた。この結果を見る限り、オーディオ性能的にもとてもいい製品といえそうである。

1kHzサイン波 スウィープ信号

 今回、こうして使ってみても非常に欲しくなる製品だった。標準価格で179,000円という価格は、オーディオインターフェイスとして、またリモートコントローラとして見た時に安い価格ではない。せめて数万下げてくれると、手ごろ感も出てくるのだが、これだけ機能満載であることを考えると仕方ないところなのかもしれない。あとは、今後もっとmLAN対応の製品がいろいろと出てくることを願うばかりだ。

□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□製品情報
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/mlan/01x/

(2003年12月15日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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