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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第139回:スピーカー界に革命!? 東芝プライベート音枕
~アイデア次第でいろいろ使えるスピーカー~


■ 噂の骨伝導

 最近のこと。ツーカーの骨伝導を採用した携帯電話「TS41」の車内広告を見て女子高生が、「あれってどゆこと? 音がデカいってこと?」と言ってたのを聞いて、そうだよなーその歳じゃ骨伝導って知らないよなーと思うと同時に、うるさい場所でさらに通話音がデカかったら余計うるさいやんけと思ったりする今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

 さてこの骨伝導、頭蓋骨に直接振動を与えることで蝸牛を振動させ聴覚神経を刺激し、音として認識するという方法だ。古くはベートーベンが難聴になった後に作曲したり、エジソンが蓄音機を発明したりといった歴史的偉業を成し遂げている現象でもある。エジソンがもう少し長生きしたら、きっと骨伝導補聴器を発明したことだろう。ちなみにクジラも体表面に耳と言えるような器官がなく、骨伝導によって音を聞いていると言われている。

 骨伝導スピーカーは、以前から難聴対策や特殊用途として細々とした製品展開であったが、ツーカーの「TS41」によって一般用途でも役に立つのだという認識となりつつある。これを仕掛けたのは三洋電機で、TS41も三洋電機製。同社は2002年に家庭用電話機で初めて子機に骨伝導を採用した製品をリリースしていたりする

 さてこの骨伝導を、枕に仕込んだらどうなるか、という製品がリリースされた。それが今回とりあげる東芝プライベート音枕「RLX-P1」(以下音枕)である。音漏れで周りに迷惑をかけずに適度な音量で聴くことができるというこの音枕、いったいどんなものだろうか。早速試してみよう。


■ 枕としては薄いが……

 では製品パッケージに含まれるものを見てみよう。まず、本体の音枕に赤外線送信機。この送信機に音声入力して、音枕で受信する形が基本形となる。音枕は充電式バッテリで動作し、充電用ACアダプタが付属する。連続使用時間は約8時間で、充電時間は約5時間とある。一方送信機には常時ACアダプタが必要だ。あとは枕カバーと、ステレオミニのオーディオ接続コードが付属する。

 まず本体である音枕だが、枕としてはかなり薄型で、これそのものが枕として役に立つわけではない。通常は本物の枕の上に乗せて使うわけだ。振動ユニットは、中央部に2つ。ちゃんとステレオ仕様なのである。

これが音枕。枕としてはかなり薄型 専用枕カバーを装着するとこんな感じ

 左サイドには電源ボタンとボリューム、右サイドにはAC入力端子と音声入力端子がある。赤外線でも受けられるが、音枕に直接音源を繋ぐこともできるわけだ。赤外線受光部は、枕上端に2カ所設けられている。

左サイドの電源ボタンとボリューム。手探りで音量調整には慣れが必要 右サイドには端子類が集中する。手前のメッシュ地の部分が赤外線受光部

 送信機も見てみよう。卵形のボディ背面にAC入力端子と音声入力端子がある。AC端子は音枕と形状が異なっており、2つあるACアダプタを挿し間違えないようになっている。また内蔵マイクもあり、ラインで入力できないソースや人の声も飛ばせるようになっている。ただしこの場合は、モノラルとなる。

卵形の赤外線送信機。高さは約10cm 頂点部には細かい穴が空いており、マイクが仕込まれている

 製品としてはACアダプタが2つもあって煩雑な感じがするが、音枕のほうは充電さえ完了すればあとはフリーで使えるので、実用上はあまり問題にならないだろう。


■ 肝心の出音は……

後頭部に振動ユニットがあたるようにする

 では実際に音を聴いてみよう。まずは音枕に直接音源(iPodを使用)を繋ぎ、寝てみる。

 ……わはは聞こえる聞こえる。枕そのものからは蚊の鳴くような音しか出ていないが、後頭部を枕に乗せると音が聞こえる。ただし思ったより音量が小さいので、音枕のボリュームをMAXにするとともに、iPod側でもボリュームの調整が必要だ。

 音質は条件によってかなり変わるが、全体的に中~高域に偏った音だ。音枕に強く頭を押しつけると、音のバランスは若干良くなる。下に敷く枕の硬さや、後頭部の髪の量なども関係しそうだ。意外にステレオ感は感じる。だがかなりハイ寄りの音なので、音楽の鑑賞などにはまったく向かない。

 筆者は音楽を聴きながら寝るのが昔からの楽しみなのだが、今までインナーイヤータイプのヘッドフォンを使っていた。だが耳に詰め込むイヤホンは長時間しているとストレスも溜まるし、横を向くと耳にイヤホンがめり込んで不快である。また寝返りを打つときなど、ケーブルが邪魔だ。

 あわよくば音枕がこれの代わりになるかと期待したのだが、音質の面ではちょっと厳しい。テレビやラジオなどの会話音を聞く、といった用途がベストだろう。また音の方向性は、やはり後ろから聞こえてくる感じになる。

横を向いて聞こえやすいポイントを探るのもいい

 いろいろ試してみたところ、まっすぐ上を向いて寝るよりも、少し顔を横に向けて、両ユニットの納まり所を探ってやると、音量的にもそこそこのポイントが見つかることがわかった。頭蓋骨の形など個人差はあるだろうが、試してみる価値はある。

 今度は赤外線送信機を間に挟んでみた。懸念したほど、音質的には変わらない。というか、元々違いがわかるほどの解像度がないとも言える。骨だけでちゃんとしたバランスの音を聴くのは、なかなか条件が難しい。やはり用途を限って使用するのが正しいだろう。

 用途としてはいろいろ考えられるが、ツーカーのケータイがうるさい場所で使うのに対して、逆に音枕は静かにしておかなければならない場所で使うのに適している。もっともオーソドックスなのは、ベッドに潜り込んでダラダラテレビを見るときなどにいいだろう。家人に迷惑をかけず、お笑い番組なども堪能することができる。もっとも自分が爆笑してしまったら何にもならないが。

 また応用としては、病院なんかに装備すると良さそうだ。入院施設には大部屋個室ともにテレビが置かれているが、通常はイヤフォンで聴くというのがルールである。

 だが音枕ならば身の回りにケーブルがまとわりつくこともないし、テレビからの距離も関係ない。どんな体勢でも音を聴くことができるし、周りの人にも迷惑をかけない。昨年筆者の妻が出産のため1週間ほど入院したが、そのときにこれがあれば便利だったろう。

 もちろん耳が遠いお年寄りがテレビを楽しむ時に使ってもいい。筆者の祖父母は既に他界しているが、晩年はやはり耳が遠くなって、テレビのボリュームが異様に大きかった。口に出しては言えなかったが、一緒に暮らす家族としてはやはり辛いものだ。

 自分のおじいちゃんおばあちゃんで心当たりのある人は、プレゼントしてみたらどうだろう。難聴にはいろいろなパターンがあって、すべての症状に対して必ず効果があるとは言い切れないが、一般的に骨伝導は高齢による難聴には効果があると言われている。うまく使えるようならば、赤外線送信機にマイクもあることだし、ちょっとした補聴器代わりにも使えるのではないだろうか。


■ 総論

 骨伝導を使ったスピーカーは、もっといろいろなアイデアで展開が可能だ。ユニットを頭部に押しつける形態として枕というのは確かにアリだと思うが、もうちょっとしっかり密着できる方法があると、音質も上がるだろう。

 既にそういう製品もあるが、ヘッドフォンのようにかけてコメカミのあたりに振動ユニットを当てるという方法もある。あるいは低周波治療器のように、粘着質のある素材で額に貼り付けるというのはどうだろうか。いずれにしても後頭部からだと、髪が邪魔して骨にまで伝わりにくいので、毛が生えていない部分に当てるような方法が理想的だ。

 とはいえ、現状ではもっとも装着感を感じさせないスタイルが、「枕」であることは間違いない。ネットワーク家電や最先端技術というわけではないが、音の不思議を実感できる、なかなか興味深い製品である

□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
□関連記事
【2003年12月11日】東芝CM、骨伝導を利用したワイヤレススピーカー内蔵枕
-ステレオ対応。枕でボリューム調整も可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031211/toshiba.htm

(2004年1月21日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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