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第138回:オリンピックイヤーに登場の超大作
アテネの前に40年前を振り返る「東京オリンピック」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 40年前、オリンピックは東京で開催された
東京オリンピック

(C)財団法人 日本オリンピック委員会
価格:6,300円
発売日:2004年6月25日
品番:TDV2861D
仕様:片面2層(DC版)
    片面2層(オリジナル版)
本編収録時間:DC版 約148分
         オリジナル版 170分
画面:シネマスコープ(スクイーズ)
音声:
 DC版:日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
 オリジナル版:日本語(ドルビーデジタル モノラル)
発売元:東宝

 2004年8月アテネオリンピックが開幕する。DVDレコーダやフラットパネルテレビなどのデジタル家電製品は、アテネに向けて商戦真っ盛りで、松下のブルーレイレコーダのように“アテネに間に合わせること”を目標に市場投入される製品も現れている。

 2004年のAV機器市場は完全にアテネシフトといった趣で、発表会でも“アテネを録る”だとか、“アテネを見る”などと連呼され、アテネ以後はどうなってしまうのか不安なぐらいの盛り上げようだ。要するに、AV機器販促のキラーコンテンツとして“アテネオリンピック”が大々的に利用されているわけだが、「皆本当にオリンピック好きなんですね~」などと素朴な感想を抱いてしまったりする。

 そんな“アテネシフト”の昨今だが、今回紹介するのは今から40年前に開催された東京オリンピックの模様を収録した「東京オリンピック」。監督は市川崑で、脚本は和田夏十/白坂依志夫/谷川俊太郎/市川崑、音楽監督を黛敏郎が務めるなど、そうそうたるメンバーが製作に名を連ねている。1,800万人の観客動員をマークし、長く日本映画界の動員記録を保持してきた作品でもある。また、当時の河野一郎 オリンピック担当大臣が「記録性を全く無視した、ひどい映画」などと酷評し、議論を呼んだことも有名だ。

 東京オリンピックでは史上初のカラーテレビ中継が実施されるなど、日本の放送技術の進歩にも、大きなチャレンジがなされた場でもある。この東京オリンピックでも、100台を超えるカメラや超望遠レンズなど、当時の最高水準の技術、スタッフを投入した映画となっている。

 今回のDVDは当時公開された「劇場公開オリジナル版」に加え、新たに市川監督の当初の構想に沿った形に編集しなおされた「ディレクターズ・カット版(以下DC版)」も収録されている。“ディレクターズ・カット”というと、シーンの追加などで長くなるもの、と考えがちだが、本作では逆にオリジナル版より20分以上短くなっている。

 これについては、製作時にはすべての競技を必ず1度は入れなくてはいけないという条件が設けられていたため。そのため劇場公開時には、インターミッションを含む170分の長編となっていたが、それが148分まで縮められている。また、DC版では音声も新たに5.1chのドルビーデジタルとした“5.1ch Remix 2004版”となっている。

 とりあえず、アテネを目前にオリンピックの熱気を体感するにはベストタイミング。ということで早速購入してみた。DC版とオリジナル版の2枚収録で、価格は6,300円とやや高めではあるが、パッケージはクリアーケースに2枚のディスクを封入しており、大きな日の丸があしらわれたデザインはなかなか格好いい。



■ 競技の記録性は無し

 舞台はもちろん'64年の東京オリンピックの会場だ。今日、東京オリンピックは、日本の高度経済成長の象徴的な存在としても認識されているが、映画のオープニングはオリンピックを前に鉄球で壊されるビルと、新設された国立競技場や建設中の高速道路などを俯瞰した後、東京の雑踏のロングショットにタイトルロールが入るというもの。これだけで作品世界に一発で引きこまれる、魅力的なオープニングだ。

 一見してわかるのは、オリンピックの競技記録的な側面はほとんど有していないこと。冒頭の聖火台への階段を駆け上がる聖火ランナーの姿から、点火までをワンショットで捕らえたシーンの荘厳さなどからして、「単なる記録映画ではない」という印象を強くする。

 実際に競技のシーンも、超望遠撮影による選手のクローズアップや、スローモーション、超広角撮影などを大々的に取り入れており、筋肉の動きや表情を追従し、そのアスリートの動きの最も美しい表情や動作、そして感情の起伏を丹念に描いていくというスタイル。そのため選手の名前が視聴者に知らされることもなく、唯一実況の音声が、競技の進行状況を教えてくれる。

 たとえば、それは脚本を見ても確認できる。オリジナル版の特典として収録されている男子100m決勝の脚本から引用すると、

 カメラは時間をさかのぼり、100m決勝の選手たちがスタートする直前を捕らえる(高速度撮影を望む)。

スタートラインに並ぶ選手たち(縦構図一直線に並んだ顔がほしい)。100mを10秒で走ろうとする男たちの表情はあまりにもきびしすぎて無表情であろう。

スタート!

スターターのピストルとスターティングブロックを蹴る選手たちのスパイクシューズのタイミングを同時に捉えたい(数回のカットバックになるか) --スタートの瞬間の捕らえ方、反射的に飛び出すタイミングが、各選手によって違うと思われるからトラック上 ---記録の壁にいどむ男たちのフォーム(或いは肉体)。

 といった具合。脚本で非常に緻密に具体的なイメージが定められており、あらかじめ設定したイメージに沿った撮影が行なわれているため、競技の結果を伝えるというような記録性はほとんど感じれられない。しかし、脚本がかなり綿密に計算されている中でも、競技中のアスリートのふとした表情の変化や、力尽きて倒れこんだ様などをきちんと盛り込んでいるあたりが、競技の厳しさ、選手の真剣さを伝えてくれる。

 “誰が何の競技で、何位になった”的な側面をこの映画から推測するのはほぼ不可能だ。そうした意味では「記録映画として酷すぎる」という批判は、わからないでもないが、もしシンプルな記録映画だったら、40年後の今見直して、競技的な興味を抜きに、鑑賞に堪えうるものとなったであろうか?

 また、時折挿入される東京の風景、おそらく初めて日本訪れたであろう外国人の驚きや感動、戸惑いも描かれており、当時の日本/東京の世界における位置づけから、人々の生活なども垣間見えるようで面白い。さらに、最後のマラソンのシーンなどでは、当時の甲州街道や新宿周辺の風景などを見ているだけでも、時代の違いを感じられて趣き深い。



■ 画質は良好。60年台の東京を最体験

 DC版ではオリジナル版から、ボクシングやヨット、近代5種などの競技を削除し、22分短くなっている。また、音声がDC版は5.1chドルビーデジタルとなっているのに対し、オリジナル版はドルビーデジタルモノラル収録となっている。

 DVD BitRate Viewer 1.4でみた平均ビットレートは、DC版が6.18Mbps。オリジナル版が5.76Mbps。大きな画質差は感じなかった。

 画質は、40年前の作品とあって、決して解像感の高さは望めないが、ノイズはしっかり抑えられており、フィルムの質感を生かした温かみのある色調が、時代の雰囲気を伝える。もちろんコントラストや彩度は低めで、最新の大作映画のようなクッキリとした映像になれた人には不満かもしれないが、大きな破綻のない丁寧なMPEGエンコードと相まって、好感の持てる画質だ。'60年代東京の映像としては、かなり高画質な部類に入るのは間違いない。

ディレクターズカット版

オリジナル版

 DC版の音声はドルビーデジタル 5.1ch。元のソースがおそらくモノラルであることからか、かなり控えめな音響設計となっており、LFEが唸るようなシーンはほとんどない。

 しかし、砲丸投げの選手を見つめる張り詰めた静寂から、投擲後の歓声が上がるシーンなど、会場の興奮をきちんと伝えるような包囲感が得られている。また、スタンドからフィールド競技を観戦するシーンなども、競技場内の臨場感はモノラルのオリジナル版とは格段の違いが感じられる。

 特典は、DC版(DISC-1)に脚本全文を収録。オリジナル版(DISC-2)に「特報」とトレーラを収録するというシンプルなもの。特に脚本全文は、この作品の製作意図をあますことなく記しており、資料性は非常に高いといえるだろう。しかし、残念なのは、撮影機材や撮影時のエピソードなどを紹介するコンテンツがないこと。

 本作では、超望遠レンズなどの最新機材や、超広角撮影などの当時の最新技術が取り入れられており、その後の撮影技術の発展に多いに貢献したはずなのだが、そのあたりの解説がないのは寂しい限り。また、河野一郎 オリンピック担当大臣のエピソードに代表されるように、当時のトピックや後世からみた本作の評価を知らせるようなコンテンツも入っていない。5,000円を価格ということもあり、そうした資料性を高めるようなコンテンツがほしかったところだ。



■ オリンピックの原点を思い出す?

 40年前の東京オリンピックの熱気が溢れんばかりに収録された大作だ。アスリートの情熱はもちろんのこと、かつての東京の風景を記録し、この40年間の進歩を振り返る意味でも非常に貴重な作品だ。

 また、本作で描かれるオリンピックの姿も現在とはだいぶ異なっている。短距離走の走者のフォームなど、競技者から感じ取れるものもあれば、たとえば、マラソンの給水場で、立ち止まりながら何杯もドリンクを飲んでいる選手もいる。いい意味でアマチュアの世界大会らしさが本作には確かに記録されている。

 さらに、テレビの実況も今とは趣を異にしており、「32才、ポーランドの婦人警官。2つになる坊やがいます」など、牧歌的な時代の空気を伝えてくれる。やれ、メダルが幾つといった、現代のオリンピックを取り巻く風潮と照らし合わせると、その違いに愕然としていしまう。

 オリジナル版とディレクターズカット版の2枚組みで、6,300円という価格は正直やや高価に感じるが、東京オリンピックに思い入れがある人にとっては魅力的なタイトルではあると思う。また、アテネオリンピックを40年前の光景と比較して見るというのもなかなか面白いだろう。

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□東宝のホームページ
http://www.toho-a-park.com/
□製品情報
http://www.toho-a-park.com/video/new/orympiad/d_index.html

(2004年7月6日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]



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