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第143回:観るときは携帯電話を切っておこう
新音声技術「PST」とは? 「着信アリ」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 夏といえばホラーの季節
着信アリ 通常版

(C)2004「着信アリ」製作委員会
価格:4,935円
発売日:2004年8月6日
品番:VPBT-15162
仕様:片面2層(本編)/片面1層(特典)
収録時間:本編117分
画面:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:ドルビーデジタル2ch
   ドルビーデジタル5.1ch
   DTS
   Personal Surround Technology
   ドルビーデジタル2ch(音声解説)
発売元:角川映画株式会社
販売元:株式会社バップ

 夏本番を向かえ、DVD売り場では今年も「ホラー特集」が組まれるようになった。家庭で観るホラー作品は、大勢の観客と一緒に観る劇場とは違った感覚が味わえる。特に、プロジェクタの大画面と大音響サラウンドで味わうホラーDVDは、ほかの家庭内エンターテイメントとは一線を画する衝撃を与えてくれる。

 たとえば私の場合、まだ見たことのないホラー作品は絶対にプロジェクタで観ない。まずはテレビ画面と小音量の環境で視聴し、恐怖シーンのタイミングを覚える。スクリーンで観るのはそれから。私自身、比較的怖がりな方だと認識しているが、心臓が弱いとは思っていない。それでも慎重になるのは、暗闇の中、1人で観る大画面ホラーがそれくらい刺激的だからだ。

 今回購入した「着信アリ」も今の季節にぴったりな作品。監督は「漂流街」や「DEAD OR ALIVE」シリーズの三池崇史氏ということもあり、酷暑に見合う刺激が期待できそうだ。また、映画DVDとして初めて松下電器開発の「Personal Surround Technology」(以下PST)なる音声形式を採用しており、どんなものか試すためもあり購入してみた。

 店頭には通常版と初回限定版が並べられ、そのうち通常版は本編ディスクと特典ディスクの2枚組み。価格は4,935円と、2003年のジャンル別平均単価(税込4,490円『邦画』JVA調べ)より高価だが、2枚組みだと考えると、邦画も廉価になったと思う。

 ジャケット左上には、TVスポットで頻繁に流されていた「逆さにあるく女」が。結構怖いので、売り場で棚挿ししてあるのを取り出すときは、思わず声を上げないよう注意してほしい。また、本編ディスク、特典ディスクともにピクチャーディスク仕様で、デザインはどちらも作中で印象深い「腕」を配したもの。これも不吉でまがまがしく、深夜に初めてパッケージを開けたときはショックで倒れるかと思った。

 一方、初回限定版には特典ディスクがもう1枚付くほか、「特製なつみちゃんゴム人形」が封入されている。価格は7,140円。特典ディスクの内容は、作家・戸梶圭太氏が撮影した約40分のメイキング映像「確信ナシ~戸梶圭太が見た『着信アリ』の舞台裏~」。同氏となつみ=吹石一恵のファンなら気になるパッケージだろう。


■ 柴咲コウがんばる

 女子大生・中村由美が参加した合コンの席で、友人・陽子の携帯電話が鳴った。「着信あり」のメッセージを確認すると、発信は陽子本人で、彼女のものと思われる悲鳴が録音されていた。着信時刻は3日後。そして3日後の同じ時刻、陽子はメッセージと同じ悲鳴を上げ、陸橋から落ちて絶命する。その後も合コンに参加した者が死んでいく中、ついに由美の電話が死の着信を告げた。

 携帯電話という現代的な小道具をフィーチャーし、逃れられない死の連鎖“チェーンホラー”が展開するなど、近くは韓国映画「ボイス」、古くは「リング」を思い出させる内容だ。三池氏の演出も、ジャパニーズホラーらしい、不吉で忌まわしい雰囲気をいやというほど表現。それでいて、終盤にはお約束の恐怖シーンがポンポンと噴き出し、「呪怨2」的なノリも再現。おいしいところをうまく集めた印象で、この手の作品が好きなら楽しめること間違いないだろう。

 主役の由美を演じるのは、いまやセカチュー(劇場版)律子役のイメージが濃い柴咲コウ。AVファンならエプソン液晶プロジェクタのCMでも馴染み深い存在だろう。

 企画・原作は秋元康氏。そういえば、携帯電話、都市伝説、幼児虐待など、世相を反映したキーワードの使い方に、「なるほど」と思わせる同氏ならではの切り口が見えてくる。携帯電話サイトを活用したメディアミックス展開や「女子高生限定試写会」など、話題性の高いプロモーションもさすがといったところ。

 ただ、このジャンルで不動の地位を占める「リング」と比べてしまうと、世界や登場人物の設定に「軽いかな」と感じる部分も見受けられる。このあたりは現代の時代感覚に合わせたためだろう。死の連鎖を予感させるラストも「リング」的だが、今ひとつすっきりしないし、新味も薄いかもしれない。

 それよりも「電源を切っているのに着信はありえない」とか、「学生なのにカニすき食うとは贅沢な」など、くだらないことばかりを気にしてストーリーに入り込めなかった自分が悲しい。



■ 音響が強烈。音量設定に注意

 収録時間が117分と短いこともあってか、DVD Bit Rate Viewerでみた本編の平均ビットレートは8.47Mbps(音声を含む)と比較的高い。ただし、このジャンルらしく画面平均輝度が低く、ねっとりした画なので、高画質には感じづらい。全体的な解像感も低くどろりとした描写だが、作風と考えればこれもありだろう。

 また、暗部はつぶれていないものの、ブロックノイズが邪魔して影の内側の描写がはっきりしない。それが逆に怖さを煽る場合も多い。もっとも、私にとっては、暗部が崩れているくらいがちょうど良いのかもしれない。あまりも鋭い描写だとさらに怖くなりそう。

DVD Bit Rate Viewer 1.4でみた平均ビットレート

 画質はぱっとしないが、音声は秀逸だ。まず、DTSとドルビーデジタル5.1chは、この種の作品らしく、ダイナミックレンジが広い。静寂の中、いきなり大音量で鳴るおどかし系のオーケストラヒットに、毎回血の気が引くほどびっくりさせれられる。低音も効いているので、サブウーファの出力を大きくしているとかなりびびる。

 次に、包囲音がリアル。居酒屋、病院、校舎内など、日常空間の再現がすばらしい。その一方で、「何かが来る」ことを暗示させる効果音も、サラウンドを生かしたデザインでとても怖い。最も特徴的なのは、前後左右のさまざまな方向から聴こえる着信音だろう。主人公よろしくパニック手前になりそうだ。ただし一番びっくりしたのは、視聴中に自分の携帯電話が鳴ったときだが……。音声ビットレートは、ドルビーデジタル5.1chが448kbps、DTSが768kbps。

 注目のPSTは、ビットレート192kbpsのドルビーデジタル2chで記録されている。映画のDVDビデオで利用されるのは今回が初めてとのことで、既に一部の音楽CDや、Windows Media 9を使ったブロードバンド配信などに活用されているという。

 PSTの仕組みは、ヘッドフォン装着時の耳の音響特性変化を補正することで、ヘッドフォン独特の圧迫感を低減。開放感のある頭外定位を実現し、3次元的なサラウンド音声に聴こえるというもの。一種のヘッドフォンバーチャルサラウンドといえ、パッケージではステレオヘッドフォンで聴くよう勧めている。AVアンプではエフェクト関連をOFFにして、2chステレオで出力すれば良い。

 その効果は、いわゆるヘッドフォンバーチャルサラウンドと似た印象。頭内定位はある程度解消され、空間が広がったように感じる。さすがに背後から音が聴こえるようなことはないが、通常の2ch再生に比べると、確かに独特の臨場感がうまく再現されている。ただし、逆位相感が強く、ダイナミックレンジが狭く、Hi-Fiとはいいがたい。ただ、程度の差こそあれ、ほかのバーチャル系も現状では同じようなクオリティだ。

 かつて国内DVD市場でも、ドルビーヘッドフォンでエンコードしたタイトルがあったというが、特別な再生環境なしでバーチャルサラウンドを実現したのは面白い試みといえる。本来ならハードウェアのバーチャルヘッドフォンや、AVアンプやPC内蔵のヘッドフォン用プログラムが必要となるところを、PSTならテレビやミニコンポのヘッドフォン端子で実現できる。

 ホラー作品はSN比の良い環境で大音量で聴きたいものなので、こうした環境を得られない場合はヘッドフォンに頼るしかなく、その際に擬似サラウンドを提供する意図は意義あるものに感じる。依然としてリアルサラウンドとのクオリティ差はあるものの、ヘッドフォン派にはうれしい試みだろう。今後の展開にも期待したい。


■ 特典メニューさえ怖い

 特典は、本編ディスクに「特報」(2バージョン)、「予告編」、「秋元康が語る『着信アリ2』情報」を収録。特典ディスクには、「三池崇史監督撮り下ろし『着信アリ Ver.1.2』」、「メイキング『着信履歴』」、「未公開映像」、「インタビュー」、「イベント映像」、「TVスポット」、「ラジオスポット」、「フォト・ギャラリー」、「スタッフ・キャストプロフィール」を収めている。

 また、本編ディスクに三池監督と秋元氏による音声解説を収録している。基本的に秋元氏がインタビュアー、三池氏がインタビュイーという構成で、語らいの中、三池氏の演出を秋元氏が分析するという内容。「スクリプターは使わず、自分でカットチェックをする」、「役者に込み入った演技指導はしない」など、三池氏の製作スタイルを垣間見ることができる。

 特典ディスクで最も気になるのは、「三池崇史監督撮り下ろし『着信アリ Ver.1.2』」だろう。「着信アリ」のその後を描いた作品で、劇中のあのキャラクターの日常がのぞける。ここでは内容は伏せておこう。同じく「未公開映像」も作品のファンなら必見だ。

 「メイキング『着信履歴』」は、撮影風景をたどった内容。基本的には、三池監督、柴咲コウ、堤真一、吹石一恵を追った俳優中心のもので、プリやポストの作業風景はない。「インタビュー」は、同じく4人を対象とし、内容はメイキングに出たものとかぶっており残念。

 DVDジャケットに記されている特典は以上だが、特典ディスクのメインメニューを流しっぱなしにすると(これが結構怖い)、しばらくして「水沼家のとある一日」というメニューが現われる。これは……各自で確認してほしい。



■ ジャパニーズホラー好きなら買い。納涼度は高い

 「ホラーは初めて」という三池監督だが、ツボを押さえた演出はさすがプロ。最近のホラーらしく、ケレン味やあざとさに加え、伝統的な後を引く恐怖も両立している印象だ。「リング」や「呪怨」シリーズが好きな方なら楽しめるだろう。また、映画初主演の柴咲コウも堂々とした演技で、単に騒ぐだけのホラーヒロインとは異なる魅力を見せている。

 なんとなくしっくりこないラストや総合的な画質の低さが気になるものの、とりあえず今夏の新作ホラーとしては「買い」のタイトルだろう。2枚組みで4,935円という価格も邦画にしては比較的安い。また、ヘッドフォンによるバーチャルサラウンドを試してみたい方にもお勧めだ。

●このDVDについて
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前回の「マスターアンドコマンダー」のアンケート結果
総投票数501票
購入済み
183票
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買いたくなった
232票
46%
買う気はない
86票
17%

□バップのホームページ
http://www.vap.co.jp/
□製品情報
http://www.vap.co.jp/shop/goods/goods.asp?goods=VPBT-1516
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【5月1日】バップ、柴咲コウの初主演映画「着信アリ」をDVD化
-松下開発のバーチャルヘッドフォン音声を世界初収録
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040414/vap.htm

(2004年8月10日)

[AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]



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