【バックナンバーインデックス】



第163回:「大楽器祭」、「sonarsound tokyo」新製品レポート
M-AudioやKORGがUSBキーボードを展示、Linuxベースの楽器も



 10月9日と10日の2日間、東京の池袋で「2004大楽器祭」、恵比寿で「sonarsound tokyo 2004」が開催された。大楽器祭が日中のイベント、sonarsound tokyo 2004が夜から深夜にかけてのイベントだったが、共にデジタルレコーディング関連機材の展示ブースが出展し、いくつかの新製品のお披露目があったので、どんなものが出ていたのかを紹介しよう。


■ YMOのメンバーが11年ぶりにライブを披露

大楽器祭

 各ブースの紹介の前に、2つのイベントの概要から紹介しておこう。まず、大楽器祭は2年に一度開催される楽器の展示会であり、日本楽器フェア協会が主催している。大楽器祭の無い年は「楽器フェア」が開催されているが、最近の傾向でいくと、明らかに楽器フェアのほうが華やかで、多くのブースが参加し、多くの来場者が集まる。今年の大楽器祭は池袋サンシャインで開催されたが、実際昨年、パシフィコ横浜で行われた楽器フェアの1/3程度の規模といった印象であった。

 一方のsonarsound tokyo 2004はスペインのバルセロナで毎年開催されている音楽のイベント。'94年にスタート以来、11年の歴史を誇るもので、「最も進んだ音楽とマルチメディアの祭典」をコンセプトに続けている。テクノ系の音楽ライブがメインだが、テクノに限らず、いろいろなジャンルのサウンドが繰り広げられているのが面白いところ。

sonarsound tokyo 2004

 日本での開催は今年が初めてだが、一部では大きな話題となっていた。その理由は、この2日間のライブのトリを飾るのがHuman Audio Spongeだからだ。

 Human Audio Spongeとは、SKETCH SHOW+RYUICHI SAKAMOTO。細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一の3人のバンド、要するにYMOが11年ぶりのライブだ。このコラムは、その内容を語るものではないので、割愛するが、狭い会場ながら、非常に盛り上がっていた。


■ KORG

 台風の去った10日に2つのイベントを順に巡った。両方足しても、デジタルレコーディング関連の展示は昨年の楽器フェアほどの規模にならなかったように感じるが、それでも主だったメーカーやソフトハウス、ディストリビューターなどが参加し、いろいろな製品の展示が行なわれた。

 まず、大楽器祭側で出展していたのは、Roland/EDIROL、YAMAHA、KORG、IDECS、HookUp、AKAI Professional/AKAI Digital、Audio Technicaが主だったところ。

KORGの「KONTROL49」

 この中で目を引いたのがKORGの「KONTROL49」というUSBキーボード。これは、すでに発売されている「microKONTROL」をミニ鍵盤から49鍵の標準鍵盤にしたというもの。大きさは一回り大きくなっているが、もちろんUSBバスパワー駆動するので、DTM用途として便利に使えそうだ。

 ドラムをはじめとするさまざまなサウンドの打ち込みに活用できるベロシティー対応16トリガーパッドが目立つが、前後左右(X/Y)各方向にコントロール・チェンジをアサインできるベクター・ジョイスティックもなかなか便利。そのほかのホイールやスイッチを含め、40系統のコントローラ群を装備している。

 さらに、強力なのが「KORG Legacy Collection」にも入っている、WAVESTATIONソフトウェア・シンセサイザがバンドルされている。もちろん、Windows、Mac OS Xそれぞれに対応しているので、誰でも即活用できるのは嬉しいところだ。なお、発売は12月上旬の予定で、価格は49,875円。


■ HookUp

MUSE TECH社の「RECEPTOR」

 一方、展示としてはやや地味目ではあったが、ユニークな製品をいろいろ出していたのがHookUp。一般に広く売れるものではないと思うが、個人的に非常に興味を持ったのが、MUSE TECHの「RECEPTOR」という製品。

 2Uのラックサイズで、ディスプレイやキーボードに接続して使うというのだから、まさにPCそのものだが、実際、中はLinuxで動いている。何をするものかというと、ここにVSTiを入れて、楽器として使うという機材なのだ。もっとも、Linuxベースだから、一般のVSTiがそのまま利用できるわけではないが、専用のコンパイラを使うことで、RECEPTORで動くようになるという。実際、Native InsturumentsのB4、FM7、KOMPAKT、ArturiaのCS-80Vなどは、すでにできあがっているほか、フリーウェアやシェアウェアのライブラリが250~300程度揃っているとか。

 実は、MUSE TECHはプラグインサイトとして有名なKvRを傘下に持っているため、ここと関連してライブラリを増やしていけるそうだ。発売は11月末でオープン価格、20万円前後の予定だ。

 また、HookUpとしては初のFireWireオーディオインターフェイスもお披露目。これはHERCULESの16in12outのデバイス「16/12FW」。HERCULESはビデオカードやサウンドカードなども発売しているPC系デバイスメーカー。ここの製品を扱うことになったとのことだ。11月末発売でオープン価格(予想価格98,000円前後)。かなり高めの設定であるが、後発としてどこまで競争力を持てるのか見ものである。

 そして、もうひとつも同じくHERCULESの「DJ CONSOL」というDJ機器とソフトウェアのセットのMacintosh版。Windows版はすでに5月にリリースされていたが、Macintosh版のTRAKTOR DJ STUDIOのDJ CONSOLE版をバンドルして、新登場する。10月29日発売で、標準価格49,350円の予定だ。

HookUp初のFireWireオーディオインターフェイス「16/12FW」 「DJ CONSOL」のMac版は10月29日発売


■ IDECS

Arturiaの「Moogmodular V 2.0」

 IDECSのブースには目新しいものは出ていなかったが、先日発表したArturiaの「Moogmodular V 2.0」を中心に、「minimoog V」、「CS-80V」、「STORM」などを展示していた。このうちminimoog Vは先週Ver1.1に、またCS-80Vは1.2へアップデートされ、それぞれのソフト間での連携を高めている。

 具体的には、これらの新パッチをインストールすると、スタンドアロン版において、画面上部に新たなツールバーが現れ、これを利用することで、各ソフトシンセを相互にコントロールできるようになる。連携するのは上記3つと、初代「Moovmodular V」を加えた計4個のことである。


■ AKAI

上段が「Boreas」、下段がサンプラーの「PS1000」

 またAKAIはAKAI Professional、AKAI Digitalブランドでそれぞれ1つずつ新製品を出している。まず、AKAI Professionalが出したのは「Boreas」という24bit/96kHzに対応したサウンドモジュール。内部にHDDを持っているため、ギガサイズのライブラリーを搭載している。またUSBやSCSIとの接続端子も装備しており、PCを使ったバックアップやファイル管理、外部メディアとの接続も行なえるようになっている。発売は年内で、オープンプライス。予想実売価格は16万円前後の見込み。

 AKAI Digitalブランドのほうは、参考出品ではあるが、MPC3000XLの後継となる業務用サンプラー「PS1000」を展示していた。おそらく50万円以上の製品となりそうだが、大容量のHDDを搭載し、試作機にはPlextorのドライブを搭載するなど、かなり気合の入ったモデルだ。登場は来年になる見込みである。


■ Roland/EDIROL

Fantom-Xa

 Roland/EDIROLブースの展示は、先日の発表会で発表され、大楽器祭と同時に情報公開となったのが「Fantom-Xa」。これは従来からあるFantomシリーズの廉価版で、Fantom-X6が現在210,000円前後するのに対して、店頭価格で155,000円になるとのこと。

 基本的なエンジンはX6と同じだが、液晶をカラーから小さいサイズのモノクロに変更、音色数を一部減らすなどしてコストダウンを実現している。ただ液晶が小さくなった分、ボタン類を増やして対応しているため、人によっては使いやすくなったと感じるかもしない。

□関連記事
【10月5日】【DAL】Roland/EDIROLが計6種類の新製品を発表
24bit/44.1kHz対応CFレコーダや、デジタルアコーディオンなど
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041005/dal162.htm


■ M-Audio

 さて、この大楽器祭の会場を後にして向かったのがsonarsound tokyo 2004の会場。以前「sonarだからうちも出展しなくては」と冗談めかして話をしていたRolandをはじめ、YAMAHA、M-Audio、Digidesign、Crypton Furture Media、Landport、High Resolutionの各社がブースを出していた。全体的に非常に狭い会場であったため、かなり人がごった返していた。

 7月に新横浜で開催された「WIRE 04」というイベントにも行ったが、ここで集まっていた人よりもやや年齢層が上で、テクノ系のリスナーというよりもプレーヤー系のほうが多い印象だった。実際、各ブースでも、真剣に製品内容について聞いている人がかなりいた。

USBキーボード「O2

 さて、この会場でちょっと目立っていたのが、M-Audioが初お披露目した「O2」というUSBキーボード。これはEDIROLの「PCR-1」と良く似た薄型キーボードだが、PCR-1よりも1cm厚いそうだ。また、オーディオ機能がないため、EDIROL新製品の「PCR-M1」と真っ向勝負の製品となる。

 キーボードそのものはOxgenと同じ工場で作っているとのことで、キータッチはPCR-1/M1よりも軽め。実際にソフトシンセが繋がっていなかったため、その雰囲気を試すことはできなかったが、価格的にはPCR-M1より安い実売20,000円前後で10月15日発売の予定となっている。


■ Crypton Future Media

「VOCALIOD MEIKO」

 YAMAHAの技術を元に新パッケージソフトを出したのが、Crypton Future Media。「VOCALIOD MEIKO」というソフトは同社としては初のパッケージソフトだが、バーチャル・ボーカリストというサブタイトルのとおり、メロディーと歌詞を入力すると歌ってくれるというソフトなのだ。

 専用のVOCALOIDエディターというピアノロール風のソフトで、音程とひらがなでの歌詞を入力すると最大16パートまでのボーカルトラックで歌ってくれる。MIDIファイルのインポートやWAVファイルのエクスポートが可能なほか、ReWire対応やVSTiでホストアプリケーションからのコントロールも可能となっている。11月5日発売で、標準価格19,950円となっている。


■ MI7

BORNMARK MUSIC Software社の「BROOMSTICK BASS」

 一方、こうしたイベントでは初のブース出展となったのがMI7。同社はカメオインタラクティブの創設者などがスピンアウトして設立した会社で、Propellerheadやスウェーデンの流通会社であるMI7が出資している。当然Propellerhead製品の扱いはMI7に移っているが、ReasonやReCycleなど大物ソフトの新バージョンの話はなかった。

 とはいえ、新製品としてReFillのひとつとして「Reason Drum Kit」が10月16日にオープンプライス(予想実売価格17,000円前後)で発売されるほか、ちょっとユニークな製品も紹介していた。

 それは、スウェーデンにあるBORNMARK MUSIC Software社の「BROOMSTICK BASS」というソフト。Steinbergが出しているVirtual GuitaristとGrooveAgentの中間のような存在で、ベースにターゲットを絞ったもの。つまり、VSTiとしてコードなどの情報を与えるだけで、かなり本格的なフレーズを作り出してくれるソフトなのだ。実際、Virtual Guitarist、GrooveAgentと開発陣は同様とのことで、楽しみな製品であった。

 そしてもうひとつタイトルだけの展示でデモはしていなかったが、Landportがまもなくバージョンアップする「TRACTOR 2.6」をアナウンスしていた。既存ユーザーには無償でアップグレードできるとのことだが、WMA、AACに対応するようになるとともに、リアルタイムでのAIFF、WAVへの書き出しが可能になる。また、ファイナルスクラッチ2用のFireWire対応コントローラが利用できるようになるのも特徴のひとつだという。

 以上が、今回の会場で見つけた主な新製品群である。両方にブースを出していたYAMAHAはとくに新しいものを出していなかったが、今年4月にSteinbergと共同で発表した「STUDIO CONNECTIONS」について聞いてみたところ、先日Steinbergが発表した「CubaseSX3」にようやくその技術が搭載されるので、その発売後、詳細な説明会を開催したいという話が伺えた。

 要は「01V96V2」や「DM2000V2」といったヤマハのハードウェア機材を、ソフトウェアの感覚でDAWでシームレスに扱うための技術。ただ、実際どんな使い勝手になるのか、ソフトでのミキサーとハードでのミキサーは本当にうまく繋がっているのかなど気になることもいっぱいある。その時期がきたら、また詳しくお伝えしたい。

□2004 大楽器祭のホームページ
http://www.musicfair.jp/
□sonarsound tokyo 2004のホームページ
http://www.sonarsound.jp/
□関連記事
【2003年10月27日】【DAL】各社の新製品が登場した「2003楽器フェア」
~ YAMAHAの「O1X」や、Rolandの「SONAR3」などに注目~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031027/dal120.htm

(2004年10月12日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

Copyright (c) 2004 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.