【バックナンバーインデックス】



第153回:ショーン・ペン×ベニチオ・デル・トロ×ナオミ・ワッツ
映画館に行くより安いDVD?「21グラム」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 映画館に行くより安いDVD
21グラム

価格:2,100円(初回出荷特別価格)
発売日:2004年11月5日
品番:TBD-1098
仕様:片面2層
収録時間:本編約124分
画面:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:ドルビーデジタル5.1ch(英語)
    DTS(英語)
    ドルビーデジタル5.1ch(日本語)
発売元:株式会社東北新社/株式会社アーティストフィルム
販売元:株式会社東北新社
提供:ギャガ・コミュニケーションズ

 いつものように量販店で、このコーナーで紹介するDVDを探し、最初から目星をつけていた何本か手に取った後、棚を眺めていると、「21グラム(21g)」というDVDが目に入った。店頭で見るまでは候補に入れてなかったDVDだが、弊誌でもニュース記事として掲載したことを思い出し、価格がタイトルにちなんで初回限定で2,100円と、安価なところに惹かれる。

 そこのショップは1割引 + 10%還元なので、実質1,700円程度。他のショップでも新作DVDの販売価格は2割引程度なところが多いので、一般的な映画館の入場料金より安く新作DVDを購入できる。

 低価格DVDといえばワーナーが有名だが、ワーナーのほとんどのDVDにはDTS音声が入っていない。一方、21グラムにはDTS音声も収録されている。その点でも、コストパーフォマンスは高い。

 21グラムという映画自体は未見で、作品についての知識も弊誌のニュース記事に書いてある程度しかない。日本での公開時にもそれほどヒットしたという記憶はない。しかしメインキャストを見ると、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、ナオミ・ワッツとやたらと豪勢。

 特にショーン・ペンは、「俺たちは天使じゃない」('89年)以来、個人的に好きな俳優の1人。そういったこともあって、この価格なら、あまり面白くなくても損害は少ないと思った。

 結局、購入を決定した決め手は価格の安さだったが、実際にこの映画を観ると、心にグサリとくる良作。思わぬ掘り出し物だった。この価格のおかげで、見逃さずに済んだことを感謝した。



■ 1つの心臓でつながり交錯する3人の人生

 2003年に劇場公開された「21グラム」は、「アモーレス・ペロス」で高い評価を得たメキシコの新鋭アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督のハリウッド・デビュー作。ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、ナオミ・ワッツの大スター3人が、この監督の映画なら是非とも出たいということで製作されたという。

 余命1カ月と宣告され、唯一の治療法である心臓移植の順番を待っている大学教授のポール(ショーン・ペン)。前科者だが、信仰に没頭する事で心の平穏を保ち、妻と2人の子供と質素ながらも平和に暮らすジャック(ベニチオ・デル・トロ)。そして、ドラッグへの依存から脱して、夫と2人の娘と幸せに暮らしているクリスティーナ(ナオミ・ワッツ)。

 まったく交わりのない3人の人生が、ジャックが起こしたひき逃げ事故により結びついていく。ジャックは神への信仰により更生し、真面目に働いていた矢先の不注意による事故だった。この事故でクリスティーナは愛する家族を失い、ジャックは神への信仰を疑い無くしていく。事故により脳死に陥ったクリスティーナの夫の心臓は、心臓移植を待ち望んでいたポールの命を救う。そして、この心臓が3人の運命を引き寄せていく……。

 ポール、ジャック、クリスティーナの3人の人生が錯綜し、時間軸すら行き来しながら描かれていく。説明的なセリフや、情景描写もかなり省かれ、最初の数十分は混沌として、今見ているシーンが、前のシーンの後の時間なのか、前の時間なのか、何の関連性があるのか、まったくわからない。最終的にストーリーが理解できるのかさえ、不安になっていく。

 しかし、脚本と演出、なによりショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、ナオミ・ワッツの3人の圧倒的な演技で、30分もすればその世界に入り込み、ストーリーに引き込まれていく。時間軸を切り貼りしていく映画といえば「メメント」が代表作だが、メメントは設定自体がそういった編集しか成立し得ない作品だが、21グラムは脚本的にはその必然性はほとんどない。ストレートに進めても、まったく問題ないストーリーだ。

 このDVDの収録されているインタビューで監督は、「こういう映画の構造が一番、効果的でいいと思った。人の話し方は、話がいつも断片的で、話の順序にも一貫性がない。時系列に並べるのではなく、人間らしく感情のおもむくまま伝えたいと思った。情報の穴があっても、穴埋めをするように観客は積極的でないとダメだ。自分が参加することで、真のエンターティメントになる」と、この映画の構造について語っている。

 奇をてらった手法にも思えるが、最後まで見終えると「それぞれの人生を少しでも理解するには、バラバラに進むそれぞれの人生を拾い集め、観客が隙間を補間し、再構築する必要があった」。エンドロールを眺めながら、そう思った。

 また、カメラもほとんどが手持ちで微妙にブレている。パンなども乱暴にレンズが振られ、通常の映画ではありえない画面の動きをする。そのぶれ方は人間が呼吸しているようでもあり、人間の視点で捉えられているように感じる。手ぶれ画面で有名な映画といえば「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」だが、ブレア・ウィッチのような意図的に不自然な画面作りでなく、もっと生々しくそれでいて下品にならないぎりぎりのところでバランスさせている。

 音響効果も大音量の効果音はもとより、シーンを盛り上げるようなBGMすらほとんどない。出演者も少なく、非常に地味な映画だが、俳優の演技がすべてを押し切ってしまう。特に、ベニチオ・デル・トロは圧巻だった。  登場する人には、悪人は1人もいないのだが、誰一人としても幸福ではない。その状況が描かれていくことで、観客の心に棘を刺し、ラストシーンを迎えてもその棘を抜いてくれるようなハッピーエンドはやってこない。もしかすると映画の中では、最後に21グラム軽くなった人が唯一、救われているのかもしれない。



■ 画質はあまりよくないが、作品世界には合致

 DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは7.18Mbps。本編が124分で、特典も本編ディスクに収録ということを考えれば、実写映画としては妥当なところ。しかし、このDVDの画質を評価するのは難しい。というのも、シーンによって画質(画調)が大きく変わるのだ。銀残しのようなザラついたシーンがあるかと思えば、彩度が高くクッキリしたシーンがある。おそらく、撮影しているカメラ、フィルム、レンズが異なっているのだろうと思う。それぐらい、画調に変化がある。

 MPEG-2エンコードで発生したと思われるノイズは、無数の鳥が飛び立つシーンで、この時ばかりはMPEGノイズがしっかりと確認できる。それ以外は、ザラついた画面も、作品世界と合致しているため、違和感を感じることはなかった。

 音声は英語がドルビーデジタル 5.1chとDTSの2種類、日本語がドルビーデジタル2.0ch。ビットレートは、英語のドルビーデジタル 5.1chが448kbps、DTSが1,536kbps、日本語が192kbps。前述のように、作品内容的に派手な音響は皆無で、BGMすら必要最小限、サラウンドである必要すらあまりないと思うのだが、DTSがフルレートで収録されている。最近はDTSを収録していても、ハーフレート(768kbps)を採用しているDVDが多いだけに、意外に感じた。

 実際に聞いてみると、ドルビーデジタル5.1chよりDTSの方が、セリフも含めて音声のキレが多少よい。が、聞き比べればわかる程度で、その差はほとんど感じられなかった。

DVD Bit Ratge Viewerでみたの平均ビットレート

 映像特典は本編ディスクに収録しており、特典内容は「イントロダクション」(作品紹介、テキスト)、「キャスト&スタッフ」(テキスト)、メイキング(約19分30秒)、オリジナル予告編(約1分40秒)、インタビュー(合計約5分50秒)。トータルで30分弱なので、最近のDVDとしては少なめだが、多くの裏話を語られると興ざめしてしまいそうな作品内容といういこともあり、これぐらいが過不足ないところではないだろうか。

 メインコンテンツとなるメイキングは、冒頭で監督が「この映画で、人生のテーマを探求したいと思った。単に物語を伝えるのではなく、叙情的な作品を目指した」と語り、監督の作品に対する思いを中心に構成されている。また、ショーン・ペーン、ナオミ・ワッツ、ベニチア・デル・トロが監督を尊敬していることも伝わってくる内容となっている。

 インタビューはショーン・ペーン(約1分30秒)、ナオミ・ワッツ(約2分30秒)、ベニチア・デル・トロ(約1分50秒)と、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(約2分55秒)の4人を収録。多少、メイキングの映像とダブっているところもある。

 監督はインタビューの中で、「感情の浄化(カタルシス)が、この映画の役割。メッセージを伝えようとする映画など信用できない」と話しているのだが、この映画でカタルシスを得られるかは疑問に思う。より深いところに落ち込んでしまいそうだ……。



■ 2,100円なら観ておいて損はない

 宣伝コピーなどではタイトルの「21グラム」を命の重さとして象徴的に使われおり、内容を見るまでは、宗教的なものも感じて敬遠していた部分もあった。しかし、実際には21グラムの意味の答えは観客に預けられ、映画の中でも宗教的な概念はほとんど使われない。もっと人間の根源的なところに迫ろうとしているが、最終的にはメッセージ性はほとんどなく、ただ3人の人生が描かれているだけである。

 個人的にはかなり好きな作品だが、観終わっても何も解決していないストーリー、じっくり観ていないと置いていかれる複雑な構成と、はっきりと好き嫌いが分かれる映画であることは容易に想像できる。

 しかし、2,100円という価格ならば、ショーン・ペーン、ナオミ・ワッツ、ベニチア・デル・トロの三人の演技を見るだけでも、その価値は十分にあると思う。

●このDVDについて
 購入済み
 買いたくなった
 買う気はない

前回の「トロイ 特別版」のアンケート結果
総投票数525票
購入済み
201票
38%
買いたくなった
136票
26%
買う気はない
188票
36%

□東北新社のホームページ
http://www.tfc.co.jp/
□製品情報
http://www.tfc-dvd.net/dvd/form.html?p_id=TBD%201098
□映画の公式サイト
http://www.21grams.jp/
□関連記事
【8月2日】東北新社、DVD「21グラム」を2,100円で発売
-ショーン・ペンら主演。「命の重さ = 21g」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040802/tfc.htm

(2004年11月9日)

[AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

Copyright (c) 2004 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.