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第173回:DTMにおけるハードとソフトの融合
~ ヤマハとSteinbergのSTUDIO CONNECTIONSとは ~



ヤマハのPPA・DMI事業部MP営業部営業課の石川主任

 ヤマハとSteinbergが「STUDIO CONNECTIONS」(スタジオ・コネクション)という共同開発プロジェクトを4月1日に発表した。「音楽・メディア制作ソフトウエアとハードウエアの融合を実現するシステム」の共同開発プロジェクトということであったが、当時のプレスリリースを読んでも、どうもハッキリそのイメージができなかった。

 しかし、CubaseSXの最新バージョン「CubaseSX3」において、そのSTUDIO CONNECTIONSが実現できているという。これはいったいどんなものなのだろうか? ヤマハ側の担当者であるPA・DMI事業部MP営業部営業課の石川秀明主任(以下、敬称略)に聞いた。


■ STUDIO CONNECTIONSとは?

藤本:ヤマハとSteinbergが共同で「STUDIO CONNECTIONS」というものを開発するというプレスリリースを4月に出していましたが、どうも具体的なことがよくわかりませんでした。このSTUDIO CONNECTIONSというのは、何なのでしょうか?

石川:我々は今、STUDIO CONNECTIONSに関するWebサイト、「STUDIO CONNECTIONS.ORG」を立ち上げており、ここで説明しているとおりなのですが、これはプロジェクトの名称なんです。従来、音楽制作をする上で別々に存在しているソフトとハードを有機的に融合できるような環境を作ることを目標としたプロジェクトです。これにより、柔軟で効率のいい制作システムのソリューションを開発したり、提供できると考えています。

藤本:なるほど、つまりSTUDIO CONNECTIONSという商品があるわけではなく、プロジェクトの名前なのですね。このプロジェクトはどのようにして始まったんですか?

石川:STUDIO CONNECTIONSについては今年3月にドイツで開催されたフランクフルト・メッセで発表されたのですが、そのちょっと前から話が始まったようです。私自身はその場にいたわけではないので具体的なことはわかりませんが、「ソフトとハードの融合」という点で、まずはヤマハとSteinbergの2社で何かできることはないだろうか……、と話が盛り上がったそうです。

藤本:ソフトとハードの融合というようなことは、いろいろなところで言われています。ここでいうソフトとハードの融合というのはどんなことなのでしょうか?

石川:世の中にソフトとハードがあって、従来はミキサー、エフェクト、シンセサイザなどの音源、つまりハードが中心の世の中だったと言っても過言ではないでしょう。しかし、DAWをはじめとしたソフトが飛躍的に進化してきたことにともない、これまでは考えられなかった様々なことができるようになりました。

 その結果、ソフト単独、ハード単独で使うのではなく、それぞれが共存している状態になってきました。ただ、使い勝手はハードとソフトで、それぞれ別の考え方で動いている。そこに不便さを感じているユーザーは多いはずです。もっと便利になれば、と。

藤本:確かにそうですよね。DAWで操作のすべてが完結するのならいいですが、音源は音源として設定したり、外部ミキサーを使えば、DAWとはまったく別の操作をしなくてはならないし、オーディオインターフェイスだって、本体で操作しなくてはならないことがよくあります。

石川:このままでは不便だから、ハードとソフトがうまく共存できる環境がこれからは必要だろうと考えるのは自然の流れです。だから、ハードメーカーとソフトメーカーで協力して、それぞれで得意なところを出し合って、そうした環境を作ろうという話になったわけです。そして、今回、そのSTUDIO CONNECTIONSの第1弾として「トータルリコール」というソリューションを実現することになったのです。

藤本:トータルリコール? それは、どういうものなのですか?

石川:簡単にいうとこれまでDAW側では管理できなかったハードの設定情報、つまりミキサーのシーンメモリや音源の音色データ、またエフェクトの設定データ……といった情報をDAWの曲データとともに保存するというものです。地味といえば非常に地味ですが、まずはここを実現しようということなんです。

藤本:確かに地味な話ですね(笑)。しかし、そこがこれまで非常に面倒でした。例えば「SAMPLE」という名前の曲だとしたら、DAW側でSAMPLEという名前で保存するとともに、音源やミキサーなどもそれぞれSAMPLEという名前を付けて保存していました。そして、ちょっと曲をいじったら「SAMPLE1」とか「SAMPLE2」とか名前を変えて保存する。その時に、各機器で状況に合わせて設定を保存しなくてはならない……。

石川:そうです。作っている時はまだしも、しばらくしたら、どういう名前でどのように保存したのだか忘れてしまったりと、とても煩雑です。そんな問題を解決し、すべての設定情報も含めた状態で曲データファイルとして保存できる、それがトータルリコールの世界なんです。

藤本:具体的にはどんな機材がSTUDIO CONNECTIONSのトータルリコールの対象となっているんですか?

DM2000

石川:現時点においてはソフト側はSteinbergの「CubaseSX3」および「Nuendo」が対象で、ハード側はヤマハの「DM2000 V2」、「DM1000 V2」、「O2R96 V2」、「O1V96 V2」そして、「SPX2000」のそれぞれVが対応済みで、それぞれ用のSTUDIO CONNECTIONSに対応したエディタがリリースされています。

 さらに、「O1X」、「MOTIF RACK-ES」、「MOTIF-ES」、「MOTIF-RACK」のそれぞれに対して対応していく予定になっています。エディタはWeb上で無償公開しているので、ダウンロードして利用することができます。Windows版、Mac版ともに対応していきますが、まずはWindows版が先行する形になっています。

藤本:これらをインストールするとどうなるんですか?

石川:エディタをインストールすると、CubaseSX3やNuendoのDeviceメニューに「YAMAHA Studio Manager」というメニューが出てきます。これを選ぶとダイアログが出てくるのですが、初期起動時には、どのデバイスを利用するかを選択する画面が登場します。つまり、現在インストールされているエディタが表示されるので、CubaseSX3で利用したいものをあらかじめ選択しておくわけです。設定を終えるの、選択したデバイスがアイコンとして表示されるようになっています。

エディタをインストールすると「YAMAHA Studio Manager」というメニューが現れる 初期起動時に利用するデバイスが選択できる 選択したデバイスがアイコンとして表示される

藤本:なるほど、アイコンといってもかなりしっかりしたビジュアルでメニュー表示されるんですね。このアイコンをクリックすれば、エディタが起動すると。「MOTIF-RACK ES」や「SXP2000」のエディタ画面も簡単に立ち上がりますね。でも、この「O1V96」の画面、以前見たことがあるような気がしますが?

MOTIF-RACK ES SXP2000 O1V96

石川:そうなんです。これまで専用のエディタということで「Studio Manager」という呼んでいたものを、「エディタ」という呼び方に変えました。STUDIO CONNECTIONに対応したということを除くと機能的には、従来のものとほとんど同じです。今回のものは「Yamaha Studio Manager Ver.2」というバージョンになっています。もっとも、Cubaseからの見え方はVer.2とは書かれていませんが。

藤本:ところで、ちょっと気になるのは、先ほどの設定画面で、PLG150-ANってありましたよね。先ほどの説明ではSTUDIO CONNECTIONSに対応する機種の中に含まれていなかったと思いますが……。

PLG150-ANはSTUDIO CONNECTIONSに対応していないため、エディタは起動できるが、パラメータをCubaseSX側で一緒に保存することはできない

石川:実は、ここにはひとつ技術的な理由があるんです。このSTUDIO CONNECTIONSはOPT(Open Plug-in Technology)の技術を用いているため、OPT対応であるPLG150-ANなどが見えるんです。

 話が複雑になるので、詳細説明は省きますが、OPTとはヤマハが作ったプラグインで、モジュールを追加していく技術です。「OL2」や「XG WORKS ST」などが対応しています。そしてこのSTUDIO CONNECTIONSもOPTがベースになっているので、見えてしまうのですが、PLG150-ANはSTUDIO CONNECTIONS対応ではないので、エディタを起動することはできても、そのパラメータをCubaseSX側で一緒に保存することはできません。

 つまりトータルリコールには対応していないんです。ちなみに、STUDIO CONNECTIONSで使われている技術は「OPT2」というバージョンになっています。実際にPLG150-ANのパラメータを変えてから保存してみましょう。再起動して読み込むと、ほらMOTIF-RACKは出てくるけれど、出てこないんですよ。

藤本:なるほど、CubaseSXのメニューから起動するStudio ManagerがOPTのテクノロジーを利用して、各エディタとの橋渡しをしているということですね。ちなみに、この保存するパラメータのハードとのやりとりにはMIDIを使っているんですか?

石川:はい、そうです。それはこれまで通りで、MIDIを使ったバルクデータのやりとりとなっています。


■ 今後の展開

藤本:これで、トータルリコールを実現した第1弾としてのSTUDIO CONNECTIONSの概要はわかりましたが、ユーザーの立場で考えると、これがCubaseSX3とヤマハの一部の機種の対応だけでいいのかという疑問があります。この辺はどのように考えていらっしゃるのでしょうか?

石川:STUDIO CONNECTIONSは完全にオープンなものとなっています。やはりユーザーの理想としては、自分の使っている機材すべてにおいてトータルリコールが実現することだと思います。そのため、SDKも無償で公開しており、数社から、これに対しての動きも出てきています。具体的な企業名などはまだオープンにできませんが、今後色々なところが対応してくれるものと期待しています。とにかくユーザビリティの向上というのが大命題ですからね。

藤本:数多くのメーカーが賛同し、広がってくれることを期待したいところですね。さて、先ほどからトータルリコールというのが第1弾であるとおっしゃっていましたが、第2弾、第3弾というものも予定されているのでしょうか?

石川:これについても、まだお話できる段階にはなっていませんが、STUDIO CONNECTIONSのコンセプトはソフトとハードの垣根をなくすことです。トータルリコールでそれが全て実現できているわけでは決してありませんので、よりユーザーが便利に使えるようにしていきたいと思っています。

藤本:たとえば、エフェクトやシンセなどをVSTプラグインのように扱うということでしょうか?

石川:そうですね。現在のところ、どうなるかはなんとも言えませんが、そうした方向性もあるでしょう。

藤本:できる、できないは別にして想像すると、まだまだいろいろ考えられそうですね。単純にいえば、外部音源の音色選択をソフトシンセように簡単にできるようにしたり、オートメーションを書いたものが、ハードのほうで使えるようにするとか、オーディオミキサー上にMOTIF-RACKが出てくるとか……。

石川:そうしたことすべてが簡単にできるというわけではないので、できるだけユーザーにとって使いやすいシステムが構築できるよう頑張っていきたいと思っています。

藤本:もうひとつ根本的な質問なんですが、さきほどのO1V96などのミキサーをCubaseSX3からコントロールできるのは便利で良いのですが、CubaseSX3自体もミキサーを装備しているわけですから、それぞれがどんな役割を担うのか、その分担をどうするのかなど、考えているとわけがわからなくなるということはないのでしょうか?

石川:それは考え方、使い方の問題ですね。確かに両方を使ってミックスするとグチャグチャになってしまいますが、ユーザーがどちらか好きなほうを使えばいいだけです。たとえばCubaseSXのソフトミキサーを中心に使うのであれば、とくにO1V96側のミキサーはいじらなければ、普通のオーディオインターフェイスとして機能します。

 もちろん、O1V96のサーフェイスはフィジカルコントローラとして使えますから、O1V96を操作することがそのままソフトミキサーをコントロールすることになります。もうひとつは、ソフトミキサーを使わないという方法です。つまり、O1V96側から見てCubaseSX3をDAWというよりも、マルチチャンネルの単なるレコーダーとして扱うわけです。ユーザーによっては、ソフトミキサーは「混ざりが悪い」とか「音の抜けが悪い」なんていう人もいますが、逆にソフトミキサーのほうが良いという人もいます。もちろん、どちらが慣れていて使いやすいといったこともあるでしょう。ですから、ユーザーの志向に合わせてどちらかのミキサーを選択して使えばいいわけです。

藤本:なるほど、両方を同時に使う必要はないわけですね。

石川:どちらにしても、トータルリコールというコンセプトはそのまま使えますから、どちらの方法でも自由に利用できます。

藤本:よくわかりました。まずは、これからSTUDIO CONNECTIONSで実現されたトータルリコールの世界を使ってみたいですね。次の展開を期待しています。

□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□steinbergのホームページ
http://www.japan.steinberg.net/
□STUDIO CONNECTIONS.ORGのホームページ
http://www.studioconnections.org/jp/

(2004年12月20日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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