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第175回:製作7年、ロケ地200カ所、撮影フィルム7,000時間
高画質で圧巻の海の真実「ディープ・ブルー」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 興収11億円を達成した、海洋ドキュメンタリー映画
ディープ・ブルー
スペシャル・エディション

価格:4,935円
発売日:2005年5月27日
品番:TBD-1104
仕様:片面2層×2枚組み
収録時間:約91分(本編)
画面サイズ:16:9ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:1.英語(ドルビーデジタル5.1ch)
     2.日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
     3.音楽 + 効果音(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語/英語
発・販売元:株式会社東北新社

 2004年7月17日にヴァージンシネマズ六本木ヒルズで封切られた、海洋ドキュメンタリー映画「ディープ・ブルー」。単館系での公開ではあるが、上映館はピーク時には150館を数え、動員数は80万人、興行収入は11億円に達したという。配給元の東北新社では、「1億円を超えればヒットといわれる単館系興行においても、ドキュメンタリー作品の興行成績としても歴史的ヒット」と説明する。

 特にストーリーがあるわけではなく、ドキュメンタリーにありがちなあからさまなメッセージ性もほとんどない。ひたすら海とそこに棲む生物の営みだけで構成された映画なのだが、異例のヒットを記録したというのは、人の心に訴えかける何かが、そこにあったという証拠だろう。

 そんな映像的には夏向きの映画が、梅雨時期の5月27日にスペシャル・エディションとしてDVD化された。内容的に、何度も見返したくなるような映画なので、DVD化を期待していた人も多いだろう。

 最近のDVDとしては珍しく、本編ディスのみのパッケージは用意されず、特典ディスクを加えた2枚組みの「スペシャル・エディション」のみのラインナップで、価格は4,935円。年内生産分限定でBOX仕様で、カラー56ページの小冊子「ディープ・ブルーパーフェクトガイド」や、特製ロケ地MAPが封入されている。

 パッケージはデジパック仕様で、当然のことながらBOXもデジパックもすべて海の画像がデザインされ、深い青から、淡い青まで青一色となっており、質感も高い。

 店頭では、売り切れ続出というほどではないが、平積みされていた。発・販売元の東北新社では、「ドキュメンタリー映画としては異例の5月26日付オリコンDVDチャートで初登場第1位を記録した」とニュースリリースまで出して喜んでおり、好調のようだ。


■ BBC自然史部門の初映画。驚きの映像の連続

 英国のTV局BBC(British Broadcasting Corporation)は、日本のNHKと同じ受信料で運営されている放送局だ。そもそも、NHKはBBCをモデルに設立されたといわれている。日本に住んでいるとNHKのような公共放送局の存在は当たり前の様に感じるが、多くの国が国営放送を持っているのに対し、法律で定めて国民の受信料で運営されているBBCやNHKのよう放送局がある国は、かなり珍しい存在だ。

 政府に運営や放送内容に介入させないという意味も大きいい(実際に機能しているかどうか別として)が、映像制作の面では、受信料という安定した収入があるため、視聴率にあまり左右されず、民放では出来ないようなことが出来るというメリットがある。

 特に自然を相手にしたドキュメンタリーは、高視聴率は望み薄な上、自然が相手なため撮影に時間もかかり過酷だ。こうしたドキュメンタリーは、民放に比べ、BBCやNHKに良質な番組が多いことは間違いない。BBCは良質な番組を制作することでも世界的に知られており、日本でもNHKなどでBBCの番組が放映されることも結構ある。

 そんなBBCの自然史部門(NHU)が、初めて製作した映画が「ディープ・ブルー」だ。「ディープ・ブルー」プロジェクトは、'95年に始動。まず最初の1年間は、何百人もの科学者に会い、リサーチに費やされた。製作に7年、ロケ地200カ所、撮影フィルムは7,000時間に及ぶという。それが、わずか91分に映画にとなっているのだ。そこからも、この映画の濃度の高さがわかる。

 地球の表面積の70%を占めるといわれる海。深海5,000mを超える水域に入った人間は、宇宙飛行士より少ないという。深海だけでなく、お腹をすかした子供のために、自分より大きなイルカを狙って氷の海に飛び込むホッキョクグマ、氷点下50度の氷上で3カ月間絶食して卵を守るコウテイペンギン、危険を察知して巨大な竜巻となって泳ぐイワシの群れ、獲物を群れで追い立てるサメとイルカ、海上からダイブするカツオドリ、イワシを丸飲みするクジラなどなど……。ロケ地は地球中に広がり、様々な生き物が登場する。

深海生物だけでなく、ペンギンやシャチなどの生態も収録している
(c)BBC Worldwide 2003

 監督・脚本はアラステア・フォザーギルとアンディ・バイヤット。音楽はジョージ・フェントンが作曲し、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が初めて映画音楽を手掛けた。ナレーションは、「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」でダンブルドア校長役を演じた、マイケル・ガンボンが担当している。

 欧州では劇場公開時に、超大作と並んで興行トップテンに名を連ね、フランスでは350館を超える劇場で公開。ドイツでは、「WATARIDORI」、「ボウリング・フォー・コロンバイン」といった ドキュメンタリーの興行記録を塗り替えるヒットを打ち出したという。

 WATARIDORIのような物語性も、ボウリング・フォー・コロンバインのような強烈なメッセージ性もなく、ただただそこにある事実を映像として伝えている映画が、これほどまでに鮮烈な印象を与えるのかと驚かされる。ナレーションは必要最小限。科学番組の様に、解説されることもほとんどない。あるのは映像と、その場の音と、音楽のみ。

 シャチの狩りの迫力や、コウテイペンギンが海中を飛び、陸に跳びだす姿の可愛らしさといった映像もすばらしいが、サンゴの縄張り争いの映像や、潜水艇の光を反射して輝く深海生物など静かで地味な映像も、息を呑むほど美しい。

 映像特典のメイキングの中で、これらの映像を撮るために、「200日探した挙句なにも撮れない。5分の映像を撮るのに200日以上かかった」と明かされ、「3,000日間カメラを回し続けた最後の日に、群れを襲うイワシクジラの姿を撮影することができた」と語られる。つまり、わずか数分の映像に、何百日もの時間が凝縮されているわけだ。

 撮影のリック・ローゼンタールは、「この仕事の9割は辛抱強く待ち、探し続けること。目標が現れるまで」と話しているが、1シーンのために費やす数百日という辛抱は、凡人には想像を絶するものがある。



■ 美しさに酔いしれる。ハイビジョン化に期待

 DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た平均ビットレートは7.41Mbpsで、実写映画としては高め。本編ディスクには本編以外は、オリジナル予告編(約2分)と、日本版予告編(約2分30秒)のみ収録とすることで、高ビットレートを確保している。チャプタ数は20で、チャプターリストのサムネールはアニメーションする。

 メイキング映像でもどんな機材を使用したか詳細は明かされないが、映像を見ている限り様々な環境で撮影しているため、色々なカメラを使用しているようだ。そこからHD24Pマスターが制作され、スクイーズマスターを使用してDVD化されている。

 画質はクリアかつ解像感高く、シャープ。ただ、ほとんどの映像が海や空などコントラストが低い背景なので、そこに鳥などが画面の中でたくさん飛び回るシーンでは、どうしてもMPEG特有のノイズが出現する。そこは、DVDの限界と思うしかないだろう。また撮影時の条件が悪かったのかザラついた画質になるシーンもあるが、全体的には撮影時にアングルや、画角、距離、ライティングが計算されているので、DVD化しても彩度や、色調も申し分なくリアルに感じられる。

 DVDとしてはすばらしいがゆえに、「これをハイビジョンで見ることができたなら、どれほどすごいのだろう」と思ってしまうのだが……。

 音声は、英語と日本語に加え、音楽+効果音のみの計3トラックを収録。3トラックとも、ドルビーデジタル5.1chで、ビットレートは448kbpsとなっている。日本語は、津嘉山正種が吹き替えを担当している。そもそもナレーション自体が少なく、津嘉山正種の吹き替えも落ち着いた雰囲気なので、日本語吹き替えで観たほうが、字幕で画面を塞ぐこともなく、映像に没入できるだろう。

 映像を見ればわかるが、撮影現場でサラウンド録音するのはかなり難しい。そのためぐるぐる回るような派手な包囲感はなく、どちらかというと環境音より音楽の方が主役になっている。音楽もサブウーファががんがん鳴らすような元気のよい感じではないが、しっとりと聞かせる。ただ、せっかくのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏なので、DTSでも収録してほしかった。

 DVDならではの機能として、音楽+効果音のみのトラックを収録しているのは、すばらしいのだが、できれば音楽のみ、効果音のみの別々のトラックも欲しかった。というのも、映像とシンクロした音楽で盛り上がるのだが、自然の営みに人間が音楽で勝手に意味付けをしている、という違和感をどうしても感じてしまう。そう感じるほどに、映像と音楽を組み上げた映画として完成度が高いともいえるが。

 生物たちの生き様の映像の前では、音楽すら邪魔に思えてしまう。何度も見ることができるDVDだからこそ、環境音のみで再生できれば、よりドップリとその世界に入り込めるだろう。

DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート

 特典ディスクには、「もうひとつのディープ・ブルー」(約52分)、「スタッフインタビュー」(約66分)、フランス語版予告(ジャック・ペランによるナレーション、約1分10秒)/ドイツ語版予告(約2分10秒)/スペイン語(約2分10秒)/ヘブライ語版予告(約2分)/日本語版TVスポット(約50秒)に加え、アラステア・フォザーギル、アンディ・バイヤット監督によるコメンタリ付き本編の一部(約58分)も収録する。

 特典ディスクの音声はすべて英語のみで、ドルビーデジタルステレオで収録されている。また、映像はビスタサイズの非スクイーズ(コメンタリ付き本編のみスクイーズ)となっている。字幕は日本語のみ。

 もうひとつのディープ・ブルーは、メイキング映像となっており、実際に撮影している風景を垣間見ることができる。「広大な海では、生き物を探すことすら難しい」ということの一端がうかがえ、いい映像を撮影できたカメラマンが、おもちゃを与えられた子供のように興奮していることも理解できる。

 また、サメのすぐそばまで近づいて撮影している様子には驚かされる。その映像を撮るために、20日間毎日潜っていたという。ホッキョクグマは、数週間かけて徐々に近づいて、信頼関係を築くなど、どのシーンでも気の遠くなる時間が費やされていることがわかる。

 実際の撮影は、「まるで軍隊のよう」と表現され、40人のカメラマンを含む20の撮影チームを組み、3,000日をかけて、200カ所で撮影を行なったため、多くの機材や人を管理して移動するのが一苦労だったと語られる。南極の撮影ではイタリアの科学者チームと合流するなど、どの撮影も専門家の協力を得て、生態や近寄り方を学んだ上で行なわれている。

 なかでも、一番苦労したのは、深海撮影撮影だという。撮影前の研究に1年を費やし、撮影隊は深海潜水艇の数十万ドルもの高額な使用料をはらう代わりに、撮影した映像を提供している。「撮影期間中に幾度も新種の生物を発見した」と明かされる。

 監督は、「他の野生生物のドキュメンタリーと違うのは、ロケに要する期間を通常の2倍に設定。失敗を繰り返すことも計算に入れていたし、なにより海の全貌を捕らえたかった」と熱く語っている。

 スタッフインタビューでは、各スタッフがこの映画についての思い入れが語られる。また、インタビューには。作曲のジョージ・フェントンのロングインタビュー(約22分)も収録されている。なお、映像の一部は、もうひとつのディープ・ブルーとダブっていた。

 監督のアラステア・フォザーギルとアンディ・バイヤットの2人はTV界では実績があるが、映画の制作は初めて。興味深いのは、製作のソフォクルス・タシュリスは編集室で、科学的な解説を加えようとする二人に「余計な情報は不要」と押しとどめたというエピソード。また、「ドキュメンタリーも娯楽であるべきだ」とする。

 特典ディスクには、なぜかアラステア・フォザーギル、アンディ・バイヤット監督によるオーディオコメンタリが収録されている。本編ディスクの映像のビットレートを確保するために、コメンタリトラックを増やさなかったのだろうか?

 オーディオ・コメンタリー付き本編は約58分で、本編から抜粋されている。映画本編の方では、説明的なナレーションが意図的に抑えられていたため、コメンタリが付いた方が、普通のドキュメンタリーらしくなる。

 コメントは、生物の生態の説明や、メイキングでもあまり触れられていなかった、実際の撮影方法の詳細やライティングについても明かされる、非常に興味深い内容になっている。コメンタリの中で驚いたのが、地球上で最も深いマリアナ海溝をワイドショットで見せるシーンがCGであるということ。

 映画の中で、唯一CGに頼ったという。これほど壮大な場所を照らすライトはないため、代わりにCGアーティストを起用して、潜水艇で観測したデータを利用して、もし海底を照らせたら見えるであろう光景を、構築したと明かされる。「ほとんどの観客は、実際に撮影した映像とCGとの境目に気付かないようだった」という。

 深海の映像は、半分は初めて撮影に成功した生物で、2種の新種を発見したという。海底はいまだ2%しか探索されていない。「まだ生物は見つかっていない宇宙に比べ、割かれる予算はあまりに少ない、他の星より、自分たちの星の方を探索するべきだという声はあるはずだ」、と現状を憂えていた。

 また、「慎重に検討した上で、人間による環境破壊は訴えなかった。我々の使命は誰も見たことのない海の世界に関心を向けてもらうことだった。美しい姿をみて考えて欲しかった。海に目を向けようと決意するきっかけになればと願う」と、この映画にかけた思いが語られる。

 映画本編の中では、撮影についてはほとんど語られていないので、エンターティメントとしては映画本編のみでも成立するものの、全体を理解するためには、特典ディスクと小冊子は欠かせないだろう。ただ、どんなカメラを使ったかなど、機材紹介がないのが惜しまれる。


■ 接客にも最適。お買い得感ありな内容

 年内生産分限定のBOX仕様に同梱されている「ディープ・ブルーパーフェクトガイド」には、宇宙飛行士 毛利衛さんの解説、MAKING OF DEEP BLUE、東京海洋大学名誉教授大森信さんの解説が収録されている。MAKING OF DEEP BLUEでは、潜水艇が「ジョンソン・シーリンク」であることと、この映画では映像を提供することで免除された、一回の潜行あたりの使用料が25,000ドルであることなどが明らかにされている。

 また、各チャプタの解説と、登場する生物がカラー写真入りで紹介される。もう一度これを見ながら本編を観直すと、より理解が深まる。

 価格は4,935円と2枚組み仕様としても、最近のハリウッド映画のDVDに比べれば若干高め。だが、内容的には何度でも観直す度に発見がある。来客にも最適だろう。ディープ・ブルーパーフェクトガイドなどが同梱されている、年内生産分限定のBOX仕様であれば、決して高くはない。こういった地道に制作された、良質な映画が評価されることは、次につながるともいえる。

 「TVではなく、いかに大スクリーンに映えるか考えて制作された」とのことなので、是非とも部屋を暗くして出来る限りの大画面で見てほしい。


●このDVDについて
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前回の「デビルマン プレミアムセット」のアンケート結果
総投票数4,018票
購入済み
68票
2%
買いたくなった
811票
20%
買う気はない
3,139票
78%

□東北新社のホームページ
http://www.tfc.co.jp/
□映画の公式サイト
http://www.deep-blue.jp/
□製品情報
http://www.tfc-dvd.net/dvd/form.html?p_id=TBD%201104
□「5月26日付オリコン・DVDチャート初登場第1位」のニュースりリース
http://www.tfc.co.jp/news/050530.html
□関連記事
【2月18日】東北新社、DVD「ディープ・ブルー」を5月27日発売
-ベルリンフィルによるBGMを5.1chで収録
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050218/tfc.htm

(2005年5月31日)

[AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]


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