■ 「マトリックス」の後をどうするか
キアヌ・リーブスの代表作と言えば、やはり「マトリックス」シリーズだろう。主人公・ネオはそれほどクセの強いキャラクターではないが、彼の顔を見るとどうしても黒いサングラスに黒い服。ストップモーションを多様した斬新なアクションシーンを連想してしまう。 桁外れの大ヒットシリーズとなったため、彼にとって、次に出演する映画は悩み所だっただろう。SFチックなアクション作品に出ればマトリックスと比較されるだろうし、大胆な方向転換を図れば「従来のイメージからの脱却を狙っている」などと評されるだろう。そんな立場の彼が選んだ次の大作映画は、オカルト・アクション・ムービー「コンスタンティン」だ。 日本では馴染みが薄いが、原作はDCコミックス社の雑誌「Vertigo」で連載された「ヘルブレイザー」というアメリカン・コミック。「コンスタンティン」というタイトルは、コミックの主人公ジョン・コンスタンティンの名前であり、悪魔と戦う“地獄のエージェント”の物語だ。 キアヌの最新作として日本でも話題となり、朝のワイドショーでも取り上げられた。予告編では白いシャツと黒いスーツというシンプルな装いのキアヌが、渋めの演技と華麗なアクションを披露しており、ブラウン管の中ではしゃぐキアヌ大ファンの女優・高木美保さんと一緒に「面白そうだなぁ」と感じた記憶がある。 DVDのリリースは9月2日と、1カ月以上前だが、大作のリリースが少ないこともあり、DVD売り場では「新作コーナー」で頑張っている店舗が多い。店の前を通るたびに気になっており、初回版のケース付き特別版の数が少なくなってきたこともあり、今回手にとってみた。 DVDは、本編ディスクのみの1枚組みと、特典ディスクを加えた2枚組み「特別版」の2種類を用意している。なお、1枚組みは10月28日までの期間限定出荷。特別版の初回版には、紙製のアウターケースが付属する。価格は1枚組みが2,980円、特別版が3,980円で、価格差はちょうど1,000円だ。
■ 世界を救うより煙草を救う ジョン・コンスタンティンは生まれながら強い霊感を備え、他人には見えない悪魔や天使の姿が見えるという能力を持っていた。その能力を活かし、彼が行なっているのは“悪魔祓い”だ。地獄と天国の間にある人間界には時折、悪魔が顔を出し、人間を通じて悪さを働く。善と悪のバランスを乱すハミダシ者を見つけ、地獄へ送り返すのが彼の役目だ。 いつものように、神父から依頼を受け、悪魔に取り憑かれた少女のもとへ赴いたコンスタンティン。だが、悪魔祓いの儀式の途中で、言い知れぬ恐怖と共に、悪魔が直接人間界に介入しようとしていることに気が付く。嫌な予感を感じながら調査を進める彼の元に、アンジェラという女刑事が尋ねて来る。自殺した双子の妹の死の真相を探って欲しいという彼女。当初は協力を拒否するコンスタンティン。だが、2つの事件の関連が浮かびあがるにつれ、それは世界の運命すら左右する大事件へと発展していく。 設定だけを聞くと映画や漫画、アニメで「ありがちな話」だ。「どうせヒーローのキアヌがカッコよく悪魔を退治して女刑事とイチャイチャして終わる映画だろう」と考えがちだ。しかしこのコンスタンティンという主人公が、実に良い意味でそうした予想を裏切ってくれる。 大前提として主人公はかなりどうしようもない男だ。実際目に見えているくせに神も悪魔も知ったことではない。信仰心は薄く「神は何も考えてないガキだ」と吐き捨てる。15歳から煙草を毎日30本も吸う超ヘビースモーカーで肺はドロドロ。進行性の肺ガンを患っており、医者から余命あとわずかと宣告されても「地獄に行くことはわかってる」と煙草をプカリ。何をするにも気だるそうで、すぐに咳き込んでは吐血。大丈夫かこの主人公。 コンスタンティンの乗ったエレベータのドアが閉まりそうで、ヒロインの女刑事が「待って!」と駆けて来ても運命の出会いにはならず「御免だね」と「閉まる」ボタンを押すようなタイプの人間だ。また、悪魔祓いをやっている理由も「点数稼いで神様に寿命延ばしてもらうか、地獄行きをナシにしてもらいたいから」という超個人的なもの。特典ディスクでスタッフの1人が彼の性格を「世界を救うより、吸いかけの煙草を救う男だ」と語っている。まさにその通りだ。 だが、嫌な部分をしっかりと持っているためか、妙に人間臭く、リアリティがある。カッコ良く言えば“ストイックでハードボイルド”と言えなくもないが、演じているのがキアヌなので妙な清潔感とナイーブさがあり、親近感を感じる。全てを悲観する大人の男というよりも、ちょっとヒネくれた悪ガキが大きくなったようなイメージ。憎めないキャラクターだ。 特殊な力と知識を持ってはいるが、強いわけではなく、かなり悪魔にボコボコにされる。そもそも吐血しまくりの末期ガン患者なので普通の人より悪魔とのバトルに向いていないとも言える。そんな彼をサポートするのが、各種オカルト・アイテムだ。聖水の入ったガラス球や、聖なる火を吐く火炎放射器「ドラゴンの息」など、見ているだけでワクワクしてくる小道具多数登場。これらのアイテムもこの映画の魅力の1つだろう。 一番気に入ったのは終盤に登場する「聖なるショットガン」。聖なるアイテムを溶かして作った金の弾丸を発射する銃なのだが、トンプソン短機関銃のような外観で、銃身の左右に棒状の突起が伸びており、上から見ると十字架に見えるというおバカな設定。ゲーム「サクラ大戦」でエリカという女の子が「ラファエル」という十字架風マシンガンを手にしていたが、あれと似たようなものだ。マトリックスばりのアクションでドカドカと悪魔を吹っ飛ばす様に、笑いながら拍手してしまった。 基本は謎解きのサスペンスだが、聖遺物やロンギヌスの槍など、宗教的な要素やオカルトチックな要素も入るため、多方面から楽しめる。悪魔の外観はグロテスクだが、ホラー映画という雰囲気ではない。宗教や精神世界的な要素が強くなりすぎて難解になることもなく、痛快なアクションも忘れない。各要素を微妙なバランスで取り入れた構成が好印象だ。
■ 映画には忍耐力が必要
DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは6.36Mbps。片面2層で本編は121分ということを考えると平均的な値だ。音声は英語、日本語ともにドルビーデジタル5.1chで収録。ビットレートは英語が448kbps、日本語は384kbps。個人的に好きな声優である小山力也、田中敦子らが演じている日本語吹き替えもクオリティが高く、お勧めだ。 低音は控えめだが、音場の広さとサラウンド感は上々。夜や雨のシーンが多い作品だが、閑散とした夜の街に響く声や雨音の包囲感が良い。また、火の風が吹き荒れる地獄のシーンでは、風切り音がスピーカー間を飛び回り、恐怖感を演出してくれる。カーチェイスや大爆発のシーンが無いため、アクションシーンの低音不足が少し気になったが、映画そのものの魅力を削ぐほどではない。 ただ、全編を通じてコンスタンティンがボソボソと喋るので、思わずメインボリュームをあげたくなる。しかし、突然の大音量で観客をビックリさせるシーンがいくつかあるので、上げ過ぎには注意が必要だ。 映像はワーナーのお馴染み画質。解像感は低く、暗部は潰れ気味。彼のトレードマークである黒のスーツも闇に溶け込んでしまう。色調は彩度が高く、赤が強い印象。べっとりとした濃い色使いは独特のものだが、映画の雰囲気にはマッチしている。その中で純白と言える彼の白いシャツが印象的に浮かび上がる。よく考えられたカラーデザインだ。
外観的にはキアヌ・リーブスよりもブラッド・ピットやレオナルド・ディカプリオの方が近いのかもしれないが「あえてキアヌに髪を染めてもらったりせず、服装も黒のスーツにした」という。原作ファンには賛否両論あるかもしれないが、個人的にはビジュアル的なインパクトは黒スーツのキアヌの方が高いと感じた。 また、コミックス版との最大の違いは相棒のチャズだろう。漫画では年齢も近く、コンスタンティンと対等なパートナーらしいが、映画では彼に憧れる少年助手として登場する。大胆な変更だが、全体的なトーンが暗くなりがちなので、笑いの少ない主人公に代わってコメディ部分を担当しており、良いムードメーカーになっている。 監督のフランシス・ローレンスは、ウィル・スミスなど大物アーティストのミュージック・ビデオを数多く手掛けてきた人物だが、長編映画はコンスタンティンが初監督作品。オーディオコメンタリーやメイキングのインタビューでは、そのあたりの苦労話を聞かせてくれる。 「ミュージックビデオは次々と消費されていくが、映画は後に残る。また、歌詞やテンポなど、曲のイメージに縛られることなく全てが自由。好きなように自由にシーン撮れるんだ」とうれしそう。だが「映画には忍耐が必要だね。ビデオは約1週間で撮影できるが、映画は100日かかる。また、最初に撮ったシーンが評価されるまで2年かかる」と違いも多かったようだ。 また、前述の対悪魔用小道具の紹介も興味深い。悪魔を殴るための「聖なるナックル」など、「なんでも聖なるアイテムにすりゃ良いってもんじゃないだろ」と突っ込みたくなるが、ラテン語でそれっぽい言葉を掘り込むなど、スタッフはやる気満々。いずれのアイテムもあえて錆びつかせ、程よく薄汚れてた塗装を施しているため、妙なリアリティがある。また、最大のキーアイテムとして登場する「ロンギヌスの槍」も、ハプスブルク家が所有していた本物(?)の遺物を真似て作ったとのこと。 コメンタリーで興味深いのはコンスタンティンの人間性や、性格形成過程を紐解く会話。「おそらく自分の能力のせいで、これまで多くの友人を死なせてしまっているだろう。そうした罪悪感を背負いながら生きているから、他人と一定の距離をおいているんだ」という考察に、素直に関心してしまった。
■ シリーズ化を希望したい作品 基本的には気軽に楽しめるハリウッドの娯楽作品だが、最後まで観賞すると「そもそも善と悪とは何だ?」というメッセージが投げかけられていることに気が付く。さりげなく奥が深いので、“面白かったけれど一晩寝たら何も覚えていない”ということにはならないだろう。 グロテスクな悪魔は度々登場するが、ラブシーンはほとんど無いので家族で観賞するのも良いだろう。ただ、1点だけ気になったのは「自殺」に関する考え方。カトリックでは“自殺した者は地獄に行く”という考えが一般的のようだが、映画ではそのあたりの解説がほとんどない。宗教に疎い日本人だと「なんで自殺したら地獄に行ったの?」と首を捻る場面がいくつかあるので、予備知識として知っておくとより楽しめることだろう。 キアヌが演じたコンスタンティンというキャラクターは非常に魅力的なので、シリーズ化を期待したいところ。次はどんなアイテムを使って悪魔を倒してくれるのか楽しみだが、この映画の設定はゲームにも向いていると思うので、メディアミックス展開があっても面白いだろう。
□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ (2005年10月18日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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