■ 名作漫画/アニメの実写化、相次ぐ
タイトルの通り、原作は横山光輝の同名漫画。日本のSF漫画初期の傑作であり、「機動戦士ガンダム」などの巨大ロボットの先駆けとなった作品。アトムなどと同じく、昭和を代表するヒーローキャラクターと言っても過言ではないだろう。人気作だけあり、過去に何度も映像化されており、テレビドラマは‘60年に放送。アニメ第1弾はモノクロで‘63年に放送開始。その後も、‘80年、‘92年とアニメ化され、最近では2004年にもアニメ化されている。 映像化と聞いて思い浮かぶのは、なんといっても素晴らし過ぎる主題歌だ。「あ~る時は正義の味方、あ~るときは悪魔の手先、良いも悪いもリモコン次第、鉄人、鉄人どこへ行く~♪」という、ある意味身も蓋も無い歌詞が強いインパクトを持っていた。 しかし、今度の映像化はこれまでのものとは一味違う。なんといっても3DCGを使った実写化。しかも劇場用大作だ。CG技術の向上が名作の映像化ブームに拍車をかけているのだが「なぜ、今になって鉄人28号なのか?」という意見も多く聞かれた。また、前に挙げたように実写化された作品は、どれも微妙な出来で「これはヒットしたなぁ」という作品がない。そんな不安も合わさり「本当に大丈夫なのか?」、「予告編見たらヤバそうだった」などという評判が公開前に広まったことを覚えている。 公開後にも辛辣な意見を耳にしたが、酷評自体が話題になってしまった「デビルマン」ほどではなく、良い意味でも悪い意味でもあまり話題にのぼらずに収束していった印象がある。はたしてどんな作品に仕上がっているのか。 DVDの発売は11月25日。12月10日に秋葉原のヨドバシカメラで購入した。本編ディスクのみの「デラックス版」(GNBD-1128/3,990円)と、特典ディスク・特典グッズを同梱した「スペシャルBOX」(GNBD-1129/6,279円)の2種類が用意されている。発売から約2週間が経過していがが、初回限定生産のスペシャルBOXは豊富に在庫が残っていた。ジャケットの、傷ひとつない、磨き上げたようにピカピカの28号のCGイラストを前に、若干不安を感じながらレジへと持って行った。
■ 青空の下でどつきあい 舞台は現代のように見えて、なつかしさも残している街・東京。小学6年生の金田正太郎は、幼い頃に父を亡くし、母と2人暮らし。苦労が多いためか、大人びた性格だが、基本的には明るい少年。しかし、自分がどこか知らない場所にいて、死んだ父親が怖い顔で自分を突き飛ばす悪夢に悩まされている。 世間では、人工知能研究の権威で大手コンピュータ会社の社長・宅見零児が失踪した事が話題になっている。そして、彼の家から巨大な黒い手のようなものが空に向かって飛び去るという奇怪な事件が発生する。そして、その腕の持ち主である、黒い巨大ロボット「ブラックオックス」が突然来襲。東京タワーを破壊し、道路を背中のジェット噴射で暴走。巻き込まれた正太郎の母親も重症を負ってしまう。 圧倒的な力を持つブラックオックスを前に、どうすることもできない警察。そんな折、正太郎のもとに一本の電話がかかってくる。電話の主・綾部という老人は、正太郎の父と祖父、2代にわたって研究を手伝ってきたという。彼に導かれ、薄暗い研究所に案内された正太郎。そこには太平洋戦争末期、帝国の切り札として秘密裏に開発され、敗戦で闇に葬られた「鉄人」が眠っていた。 最大の見所はやはり「鉄人 VS ブラックオックス」の巨大ロボ対決だ。3DCGで作られた鉄人は、異様なほどツルツルテカテカしており、鋼鉄製のロボというよりも、巨大なステンレス製の魔法瓶のようなイメージだ。傷やホコリは1つもなく、巨大ロボのリアリティはカケラも感じられない。 しかし、「鉄人28号のイメージと違うか?」と言われると、答えはノー。リアルではないが、変でもない。背景との融合に違和感はなく、鉄人のツルテカボディにはきっちりと白い雲やビル群が写り込んでいる。街並みの描写はコントラストが強く、色が濃い目で絵画を見ているようだ。アニメや漫画の映像をそのまま実写化に置き換えたような、不思議なリアリティがある。原作のイメージに忠実な、古めかしいフォルムの鉄人も、懐かしさと安心感を与えてくれる。舞台も東京なので「あのホテル、よく発表会の取材で行くなぁ」など、妙な現実感を感じながら観賞していた。 それにしても、晴れ渡った青空の東京で、全高20メートルのツルテカ・ロボ2体が、飛び道具も無しにモッサリとした動作で殴り合っている絵はシュール以外の何者でもない。レーザービームもミサイルも何も無い。凄まじい質量の物体が拳で語り合うバトルは、原作のグッとくる“熱さ”を再現していると言って良いだろう。ただ、殴られても殴られても機体には傷ひとつつかず、へこみもしないため、“痛さ”が感じられないのが残念。どことなくコミカルに感じてしまう理由の1つだろう。 映像はコミカルだが、噴き出したジェットの余波で周囲の自動車はゴミのように吹っ飛び、崩れたビルに人々は潰される。東京タワーをアメ細工のようにグンニャリまげてしまうブラックオックスも、展望台にいる人のことは無視。怪我人が運び込まれる病院や、ビルの下敷きになった警察官などは血だらけで、なかなかハードな描写。ロボの戦いとのギャップが激しい。 基本的な物語は、ブラックオックスに唯一対抗できる鉄人と、それを操縦する正太郎という図式。正太郎少年が勇気を振り絞って敵と戦い、成長していく真っ直ぐなストーリーだ。正太郎君は原作よりも幼いイメージで、少年探偵でなければ銃の達人でもない、ごく普通の少年。原作ファンは戸惑う設定かもしれないが、主人公の成長を主題とした映画なため、これは仕方の無いことだろう。 オリジナル・ストーリーとしては綺麗にまとまっているので、ゲテモノ映画を期待して観賞すると肩透かしを食うだろう。個人的には悪い方に覚悟を決めて観賞していたのだが、素直に楽しめてしまった。基本的には子供向けだが、最後には涙腺が危ういシーンも。どうも、少年が頑張る物語に弱いらしい。 主演の池松壮亮君は、「ラスト・サムライ」でハリウッドデビューも果たしている逸材。演技を意識しすぎて、若干挙動不審に見えるシーンもあるが、現代の子供らしくてリアルとも言える。敷島博士が登場しないのは寂しいが、大塚署長は健在。柄本明が期待通りの熱演を見せてくれる。また、悪役であり、どこか悲壮感の漂う宅見零児役の香川照之の怪演が光る。やはり悪役に存在感がないとこの手の映画は締まらない。 また、驚いたのは映画オリジナルのキャラクターとして登場する立花真美だ。16歳ながらマサチューセッツ工科大学でロボット工学を学ぶという超天才美少女博士。流石は21世紀の鉄人28号、萌えキャラまで登場だ。演じているのは元オハガールの蒼井優。ちょっと軍服チックなMITの制服もポイントが高い。すみませんオタクで。ちなみに、ブラックオックスの声は林原めぐみが担当していて妙な気分だった。 細かい点に突っ込みを入れると粗は出てくる。最大の疑問は「自衛隊は出てこないのか?」ということ。なまじ舞台設定が現代にアレンジされているため、戦車や戦闘機が束になってかかればブラックオックスごとき数分で鉄クズにしてしまいそうだが、待てど暮らせど誰も来ない。「奴の謎のEMP攻撃で電子回路が破壊されてしまうので現代の兵器は役に立たないんだ、アナログな鉄人じゃないと対抗できない」みたいな説明が一言あっても良さそうなものだ。 果敢にオックスの前に立ちはだかるのは無力な警官隊だけで、拳銃を発砲するも、傷すらつかずに「こっちにくるぞー!!」「うわーっ」でパトカーグシャン。あまりに見事なお約束的役まわりで感動すら覚えた。登場人物のファッションは昭和を感じさせるが、鉄人達がバトルを繰り広げる街並みはまぎれもなく現代。壊されるビルにはノートパソコンが散乱しているが、警察署の中は木の匂いが漂うようなレトロ調。監督によれば「現代と古き良き時代の懐かしさを両方取り入れた架空の時代」ということだが、どちらかに徹したほうが違和感は少なかったはず。設定をしっかり作ってもらわないと、映画の中に入り込みづらい。 こうした「古いものと新しいものの融合」というテーマは映画の中に多く見られ、鉄人そのものもブラックオックスに対抗するため、最新技術で作り変えられる。作業にはMITの天才博士と東京の下町の工場のおっちゃん達が参加するという具合だ。「そんな技術があるなら、最初からオリジナルの対抗ロボットを作れよ」と言いたくなるが、改良は美少女博士が担当しているのでよけいな突っ込みはやめておこう。
■ 鉄人の足元はかなりうるさい DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは7.47Mbps。映像はビスタサイズをスクイーズ収録。色は暖色寄りで、肌色が濃い独特の絵作りだ。解像度は低めで、建物や人物の髪の毛などの輪郭は甘い。全体的にざらついたノイズも乗っている。クリアな映像とは呼べないが、色が濃いめでコントラストも高いのでメリハリと清涼感はある。 音声はドルビーデジタル5.1chとDTSの2種類で収録。ビットレートはドルビーデジタルが448kbps、DTSが768kbps。サラウンドはリアチャンネルが大活躍。ブラックオックスの手が画面に合わせてスピーカー間を飛び回る。ジェットの噴射音も派手だ。高音が素晴らしく、ロボット同士の殴り合いのシーンでは、鉄ならではの金属音と適度な響きが、鉄人の巨大さと丸いフォルムをうまく音で表現している。歩行時の重低音は控えめで、地鳴りまでとはいかない。ただ、ズシャン、ジスャンという複雑な金属音の組み合わせで歩行音が構成されており、単に低音を響かすだけのサウンドデザインより好印象だ。 中高域がクリアなため、音像がシャープだ。圧巻なのは終盤(90分前後)のバトルシーン。2機の巨大ロボの足下で正太郎が操作しているのだが、カメラは正太郎の目線で固定されている。殴り合いでボディに響くグワングワンという共鳴音が部屋を満たし、なおかつ殴り合う直接的な堅い音が左上空から点音源として聞こえる。鉄人を見上げる正太郎の視線とあいまって、非常に臨場感のあるシーンだ。
注目は特撮やCGシーンのメイキングだ。押しつぶされる車や瓦礫の山など、ほとんどCGだと考えていたが、岩が当たる車や降り注ぐ石だけはミニチュアで撮影するなど、CGと実写の組み合わせで作られていることがわかる。 また、驚いたのは鉄人とブラックオックスの動きに、モーションキャプチャを利用していること。鉄人らの動きは“なめらか”とはほど遠かったため、人間の動きをベースにしているとは思えなかった。「わざとロボットっぽく動く人間」を使うことで、何か利点があるのだろうか? 解説がないのでよくわからなかった。 基本的には、舞台裏を見せたあとで、完成シーンを流すという構成。スタッフの解説が少ないのが残念だ。解説込みで興味深かったのは、鉄人やブラックオックスの機体表面への写り込みを再現するシーン。全てのシーンで、アクリル板のようなものに2体の色を塗った道具を用意。スタッフが空にむけて構え、ゆっくりと下の地面に向けておろすという映像を撮影している。つまり、この場所では雲やビルやアスファルトが、どのようにロボットの機体に写り込むかというリファレンス素材にしているわけだ。 封入特典として、「月刊・少年」の別冊付録として刊行された漫画版「鉄人28号」の復刻本を2冊同梱している。DVD-BOXでしか入手できないレアアイテムとのことで、当時の装丁や内容も忠実に再現されている。巻末には「鉄人28号の人形がすごい人気です ぜひ、きみの机の上にかざろう!」という、28号のオモチャの広告も入っていて非常に楽しい。 しかし、読んでいて、1冊目と2冊目で話が繋がらないことに気が付いた。よく見てみると、同梱されていたのは第5巻と第7巻。「なぜこんな中途半端な巻数が!?」と首をかしげたが、どうやら映画と同じブラックオックスが登場した巻を選んだもののようだ。話が繋がらなくて気持ちが悪い部分もあるが、映画との違いを見比べるだけでも楽しいおまけだ。
■ 鉄人の持つ意味 冨樫森監督もインタビューで口にしていることだが、原作との最大の違いは正太郎少年の内面にスポットを当てたこと。「特撮の経験はないが、人間ドラマを丁寧に撮れる」という理由で冨樫監督が抜擢されたそうだ。目立つロボットバトルに振り回されず、少年の成長物語に軸足を置き続けることで、監督の持ち味がしっかり発揮されたと思う。 逆の意味では、正太郎の気持ちに感情移入して鑑賞しないと、フル3DCGで作られたツルテカな丸い物体が、ゆったりしたモーションで殴り合うだけのつまらない映画と感じてしまう。そのため、原作やアニメ版を知らなかったり、鉄人28号自体にあまり思い入れが無い人のほうが楽しめる映画かもしれない。 ただ、「小奇麗にまとまってしまった感」は否めない。箱庭的なCG映像と合わさって、「まあまあ面白かったけど、どんな作品か忘れてしまった」と言われる危険性は高い。あやふやな時代設定も含め、誰に見せたくてこの映画を作ったのかが良くわからない。「昔を懐かしみたい大人」なのか「鉄人を知らない子供達」なのか。製作者のメッセージが薄いことと、傷ひとつつかない鉄人達の拳の“軽さ”は無関係ではなかろう。 鉄人はリモコンを持つ者に従う“純粋な力”であり、それ自体には善も悪もない。持つ者が正しい気持ちを持たなければ、最悪の兵器にもなってしまう。それが戦争の遺物として残され、親から子に託されること。それこそが「鉄人28号」という物語の最大の魅力であり、陳腐なロボットヒーローで終わらない理由でもある。そんな重厚なテーマをヒラリとかわし、少年の成長物語に置き換えてコンパクトにまとめる。本来ならば腹を立てることなのかもしれないが、昨今の名作漫画/アニメの実写化作品を思い返すと「チャレンジして玉砕するより、身の丈に合った映画を作ったほうがいいのかなぁ」と寂しい気持ちになってしまった。
□ジェネオンのホームページ
(2005年12月13日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2005 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|