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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第245回:「DVDで高画質」に舵を取るキヤノン「DC40」
~ DVカメラと同等レベルを目指した意欲作 ~


■ 高画質化は当然の流れ?

 昨年11月に初のHDVモデル「XL H1」を発売したキヤノン。春商戦には低価格モデル発売かと期待していた方もいるだろうが、いつも新しいトレンドに対して慎重な姿勢を示す同社の戦略からすれば、リーズナブルモデルはこの春商戦はないだろう。

 勝手に予想するならば、これまでレンズや画質に対してのコダワリから、キヤノンのHDV次期モデルは3CCDのXV2クラス」のではないかと思うのだが、どうだろうか。

 そんなキヤノンこの春は、DVDカメラの高画質化に取り組んだ「DC40」が登場する。これまでDVDカメラというと、どちらかと言えば画質よりもメディアの利便性に注目が集まってきた。つまり本体で編集できるとか、上書きの心配がないとか、DVDレコーダですぐ見られるとかといった点がうけてきたのである。

 しかしビデオカメラの市場調査では、常に評価基準として「画質」がトップに来る。DVDカメラの高画質化というのは、カメラメーカーとしては避けては通れない道なのである。

 今回のDC40は、「写真DV」をDVDに持ち込んだ前作「DC20」をベースにしながら、さらに光学部分を大型化した上位モデルとなっている。店頭予想価格としては12万円とされているが、すでにネット上では9万円台の価格が付いているようだ。

 果たしてDVDと高画質は両立できるのだろうか。なお今回お借りしているモデルは量産前の試作機なので、細かい部分で製品版とは異なる可能性があることを、お断わりしておく。


■ 一回り大きくなったボディ

ボディは一回り大きいが、それを感じさせない

 前作DC20では、ドライブ部や本体を薄型に仕上げることで、DVDカメラ=デカイという図式の払拭に貢献した。今回のDC40は、DC20に比べると実際には一回り大きくなっている。だが単体で見ればそれと気付かなせないあたり、キヤノンのデザイン力もかなり上がってきている。

 デザイン的な特徴としては、カーバチャー デザイン(Curvature Design)というキーワードが上げられる。3DCGや3D CADの経験がある方はお分かりかと思うが、どんなモデルでも、最初に原型となるプリミティブから制作をスタートする。

 多くの工業製品は、四角い立方体をベースに削ったりベベルを付けたりして、形を作っていくというのが主流だ。なぜならば、工業製品のパーツには四角いものが多いため、容積の効率がいいからである。だがDVDという丸いメディア、レンズという丸いものを埋め込むカメラボディを作るということから、DC40のデザインはベースとなるプリミティブを「円柱」からスタートさせている。

普通なら継ぎ目ができる部分も滑らかに繋がっている 外装パーツの合わせ込みも難しそうだ

 全体的に直線部分がほとんどない柔らかな形状は、削っていって丸みを保たせたという方向ではなく、丸いものをベースにモデリングしていった結果というわけである。従って曲線同士が滑らかに接合された、綺麗なデザインとなっている。設計技術ももちろんだが、これを実際に量産するのにも高い技術が必要とされることだろう。

 注目の光学部だが、フィルター径37mmの大型キヤノンビデオレンズを搭載。光学ズーム10倍で、Fは解放で1.8。画角は動画では16:9の高解像度ワイドTVモード(手ブレ補正OFF)では45.4mm~456mmとなっており、DC20より若干狭い。また静止画では41.6mm~416mm。

撮影モードと焦点距離(35mm判換算)
モード ワイド端 テレ端
16:9
手ぶれ補正・OFF

45.4mm

454mm
16:9
手ぶれ補正・ON

47.4mm

474mm
4:3
44.5mm

445mm
静止画
41.6mm

416mm


もちろんLEDライトも装備

 前面にはお馴染みとなった、ムービー用白色LEDライトと静止画用フラッシュ。マイクも上部ではなく、正面に据えているところは好感が持てる。また今回は、電源と連動するレンズカバーも搭載している。

 CCDは1/2.8型という余裕のサイズで、総画素数約429万画素。静止画は最大で2,304×1,736ピクセルの写真が撮れる。フィルタはもちろん原色。

 液晶モニタは2.7インチで、キヤノンでは初のワイド液晶だ。画面下にはディスプレイに関するボタンがあるが、「ワイドTV」ボタンだけはモニタだけでなく、撮影モードも16:9と4:3に切り替わる。


ワイド液晶を搭載。バッテリは液晶内側に装着する モニタのフレームにもボタンを配置

 前作DC20では、モニタ格納部に整然とボタンが並んでいて好きなデザインだったが、今回はやや上部に丸っこいボタンが設えられている。液晶内部にはファイナライズボタンだけが独立して存在する恰好だ。

操作系のボタンはボディ上部に移動した メニュー操作はジョイスティック。ファイナライズボタンが独立した

 また今回は高画質機を意識してか、DVカメラ上位クラスと同様、モードダイヤルが搭載された。9つのプリセットモードに加え、さらにSCNモード内に6モードが選べる。ジョイスティックには4方向に滑り止めの突起が付けられたが、どうも指触りが痛い。この点はDC20のほうが良かった。

 前回側面にあったFUNC.とメニューボタンは、後部に移動した。動画静止画切り替えもここにあり、撮影に関する動作はこの周辺ですべて完結するようになっている。

FUNC. メニューボタンは後部に移動 ズームレバーの作りにも若干の改良が

 ズームレバーも若干改良された。レバーの付け根をセンターではなく、やや本体内側に付けることで、倒しやすくなった。また今回はズームレバーをバリアブルではなく、3スピードで固定することができる。小さいレバーストロークでの定速ズームに苦労することもなくなりそうだ。

 DVDドライブ部の変更はないが、今回は電源OFFの状態でもイジェクトが出来るようになっている。DVカメラでは当たり前の部分に、ようやくDVDカメラも追いついてきた感じがある。

固定ズームスピードが選べるようになった ドライブ部はミレニアムファルコン号というよりデンデンムシ似?


■ 綺麗な発色が楽しめる動画撮影


FUNC.メニュー内に多彩なカラーモード

 では実際に撮影してみよう。以前からキヤノンでは、手ブレ補正をOFFにしてワイド撮影を行なうときに、CCDの使用画素数を多く取る「高解像度ワイドTVモード」がウリだった。今回は液晶モニタもワイドになったことで、ワイド撮影が標準となった感じがある。

 絵作りとしてはFUNC.モード内にカラーモードを多数設けるなど、DVカメラ相当の機能が使えるようになっている。そういう面でも、使い勝手がDVカメラとほとんど同じになった。



モード サンプル
OFF
くっきりカラー
すっきりカラー
ソフト
美肌

 ただテープと違って、最後に撮影したカットをプレビューするボタンの存在は大きい。プレビューの再生中に映像の削除もできるので、メディア容量の管理にも役立つだろう。

 画質モードはXPを先頭に3段階だが、最高画質でも水面などの動きではブロックノイズが目立つ。海やプールなどのシーンは、ちょっと辛いかもしれない。高画質を謳うのであれば、MPEG-2エンコーダにももう少しチューニングが必要だろう。

動画サンプル
画質モード ビットレート メディア記録時間 サンプル
XP 約9Mbps 20分
ezsm01.mpg (10.5MB)
SP 約6Mbps 30分
ezsm02.mpg (11.7MB)
LP 約3Mbps 60分
ezsm03.mpg (13.4MB)

動画サンプル

ezsm04.mpg (62.8MB)
XPモードで撮影した動画サンプル

 光学部で気になったのは、ポートレートモードではボケの中に絞りの菱形が目立ってしまうことだ。CCDの感度が高いために、明るい場所ではなかなか絞りが開かないという事情もあるだろう。

 だがポートレートモードではもう少しNDを濃いめに入れるかゲインを落とすなどして、明るい場所でも開き気味で撮れてもいいのではないか。もっとも、より円形に近い絞りを採用するという解決策のほうが正論ではあるのだが。

 CCDの感度から、光源入れ込みの絵ではスミアは多少出るものの、フレアはだいぶ押さえられている。ノーマルな撮影条件では、問題になることはないだろう。


ボケの中に若干菱形絞りの形を感じる スミアは多少出るが、フレアは押さえられている


■ まさに写真画質の静止画

 動画と静止画の画像処理を変えて、静止画では写真らしい絵を撮るということを最初に推進したのは、キヤノンだった。もちろん今回もその路線は変わらないのだが、今は動画の方もかなり記憶色寄りの絵作りになってきたために、動画と静止画の絵の傾向が似てきている。

 もっとも、同じ条件で撮影しても、静止画の方は絞りを開きめでチューニングされていることもあって、ボケに絞りの形を感じることはない。

静止画では絞りが開き気味でバランスを取る シャッタースピード1/720まで対応

 また逆光や強い光源入れ込みの絵柄に対しても、今回は静止画でシャッタースピード1/720まで使用可能となっており、小絞りボケ対策にもなっている。

 静止画では自動的に4:3画角となる。本体にはプリンタと直結できる「イージーダイレクトボタン」を装備しており、プリンタに対する便宜を図っている。同社の持つ製品ラインナップから考えれば、ここにこだわる理由もわかる。

記憶色の再現で見栄えのいい色 毛並みの細かい部分の描写もいい 「くっきりカラー」では若干白飛び気味

 ただキヤノンとしても、今後SED方式のテレビの販売も予定していることから、今回のタイミングで静止画でも16:9画角をサポートしても良かったのではないだろうか。また16:9動画でDVDビデオを作成するときに、静止画のスライドショーも16:9画角のほうが、トータルで見栄えがする。静止画のテレビ対応は、今後の課題だろう。


■ 細かい使い勝手が向上

 ここでトータルの使い勝手に言及してみたい。筆者は普段から三脚を使って撮影しているのだが、DC40の作りには、三脚使用時の細かい配慮が伺える。例えば液晶モニタの開閉では、ハンディ撮影時はボディ下の切れ込みに指を入れて簡単に開くわけだが、三脚セット時にはこの部分が使えない。だがボディが液晶モニタの下に滑り込むようにえぐれているので、ここに指を入れて開くことができる。

液晶開閉とバッテリ取り外し用の底部切れ込み ボディが滑らかにえぐられて、背面からもモニタが開けられる

 また本体底部に小さな足があり、三脚のフネから少し浮かせる役目を果たしている。この隙間があるために、フネを付けたままの液晶の開閉もスムーズになるわけだ。さらにバッテリの交換にしても、リリースボタンをスライドさせると若干バッテリが飛び出すので、フネを装着したまま取り外すことができる。

 三脚使用時の不便さは、他メーカーのカメラにも見られる。筆者もカメラの開発の方にお会いするたびにこの問題を訴えるのだが、三脚を使うユーザーが少ないということから、なかなか改善して貰えないのが実情だ。だがキヤノンは何か撮影時の不都合があった場合、必ず次期モデルで直してくる。一つ一つの工夫は小さいが、撮影そのものが好きな人には、たまらないカメラになっている。

 また今回から、モニタ上に水平マーカーを表示する機能が付いた。ワイド撮影では特に水平の傾きが少しでもズレていると絵的な影響が大きいため、このマーカーは便利だ。ただドセンターにくっきりというのは、構図を作るときに邪魔になる。もう少し薄く表示するなどの工夫が必要だろう。またON/OFFがメニュー内部にあるため、必要なときだけ表示、という使い方は難しい。

撮影時に水平マーカーを表示できる マーカーの表示はメニュー内で設定

 前モデルでも感じられたが、ズームレバーの反応には、ワンテンポ遅れがある。ちょっと構図を調整したいときになかなか思うように動かず、手間取った。

 一方で以前問題となっていた放熱の問題はクリアしたようで、ハンディでの撮影でもドライブ部が熱くなることはない。

 キヤノンのビデオカメラには、時々オマケが付いてくる。過去にはリングライトアダプタやワイドアタッチメントレンズが付属した例があるが、今回のオマケは予備バッテリだ。つまり製品にバッテリが2個付属するのである。どっちみちバッテリの予備は必要になるわけだから、かなり現実的なオマケであろう。


■ 総論

 圧縮記録であるDVDメディアと高画質を両立させるという、一見矛盾した命題に挑んだDC40。確かに光学系のスペックアップというのは正攻法ではあるのだが、明るくなったぶんの絞りや、MPEG-2エンコーダのチューニングなどの部分では、若干バランスを欠いている印象を受ける。

 特にMPEG-2エンコーダは、技術的には枯れてきているとは言え、他社家電メーカーではDVDレコーダで散々叩かれて築き上げてきたノウハウがあるのに対し、キヤノンとしては弱点となりうる部分である。このあたりのチューニングは、量産品出荷までに多少なりとも改善されることを期待したい。

 使い勝手の面では、他社DVDカメラが機能をどんどん削ってフルオート化していくのに対し、DVカメラ上位機種並みにモード類を装備した点はオリジナリティが高い。また絵作りの面でも非常に個性が強く、撮影そのものを楽しめるカメラとなっている。

 ただコンシューマ市場では、今はハイビジョンに大きな注目が集まっており、せっかくここまで来たDVDビデオカメラもこの先どれぐらいまで成長が期待できるのか、微妙な線になってきている。特に今年はBlu-layとHD DVDのリリースが予定されており、状況によってはDVDメディアがかつてのCD-R並みに価値を失っていく可能性も否定できない。

 おそらくあと数年はハイエンドがHD、ローエンドがSDという棲み分けの中で、DVDビデオカメラが存続していくだろう。だがその場合は、現在のDVカメラ並みの低価格消耗戦が待っている。

 高画質を謳ったDVDビデオカメラというのは、今だから市場に出せる機材と言えるかもしれない。


□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□ニュースリリース
http://cweb.canon.jp/newsrelease/2006-02/pr-dc40.html
□製品情報
http://cweb.canon.jp/dv/lineup/dc40/index.html
□関連記事
【2005年3月16日】キヤノン、429万画素CCD搭載のDVDカム最上位モデル
-2.7型ワイドモニタ搭載。バッテリ2個付属
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060201/canon1.htm
【2005年9月14日】【EZ】こういうヤツを待っていた。キヤノン「DC20」 ~ 「写真DV」を実現したDVDビデオカメラ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050914/zooma220.htm
【2005年7月28日】キヤノン、DVDカメラに参入。DVD-R/RW対応の2機種
-miniSDスロットも装備。「DIGIC DV」搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050728/canon1.htm

(2006年2月22日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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