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第209回:ヒーローになったら女房が逃げました
笑って泣ける「ファンタスティック・フォー」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ アメコミの映画化にハズレ無し?

ファンタスティック・フォー
[超能力ユニット]
2枚組特別編
価格:4,179円
発売日:2006年3月3日
品番:FXBF-28667
仕様:2枚組み
収録時間:本編約106分
画面サイズ:シネマスコープ(スクイーズ)
音声:1.英語(DTS)
   2.英語(ドルビーデジタル5.1ch)
   3.日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
発売元:20世紀フォックス
     ホーム エンターテイメント ジャパン株式会社

 ハリウッド映画の「ネタ不足」が話題となって久しい。日本のホラー映画のリメイク化権を取得するなど、アジアに新作の活路を見出す活動も活発化している。そんな中、革新的とは言えない内容でも、安定的なヒットを飛ばしているジャンルがある。それは、アメリカンコミックの実写映画だ。

 完全オリジナル作品とは異なり、公開前から知名度は抜群。超人的な能力を持ったヒーローが活躍するアメコミの設定は、CGを多様できるハリウッド映画が得意とするジャンルと言えるだろう。また、アメコミは日本のコミックと比べると写実的な絵が多いので、実写映像化した際でも、日本の漫画よりもイメージのギャップが少ないという特徴もあるだろう。

 日本でも「キューティー・ハニー」、「デビルマン」、「キャシャーン」、「忍者ハットリくん」、「鉄人28号」、「最終兵器彼女」など、漫画を原作とした映画化が連続しているが、こちらはいかんせんパッとしない。日本アカデミー賞を総なめにした「ALWAYS 三丁目の夕日」も原作は漫画なので、全てが失敗とは言えないのだが……。

 今回取り上げる「ファンタスティック・フォー」は、マーベル・コミックで連載されている作品。マーベル・コミックは日本での知名度も高く、DCコミックと並ぶ、2大アメコミ出版社の1つだ。

 同社の漫画は「超人ハルク」や「デアデビル」など、映像化も盛んに行なわれており、「スパイダーマン」と「X-メン」の大ヒットも記憶に新しい。実際観ても爽快なアクションと、ヒーローの裏側にある人間的な苦悩を描くストーリー性のバランスが良く、面白い作品が多い。今回の作品にも期待が持てそうだ。

 「ファンタスティック・フォー」の連載開始は‘61年と古く、現在もマーベル・コミックの看板作品として愛されている。しかし、「スパイダーマン」などと比べると作品としての知名度は今ひとつ。今回の映画化で初めて作品自体を知ったという人も多いだろう。「コミック版を知らなくても楽しめるか?」という点も重要だ。

 DVDは本編ディスクのみの通常版(FXBA-28667/3,129円)と、特典ディスクをセットにした2枚組み特別版の2種類(FXBF-28667/4,179円)を用意。発売日は3月3日、約1週間後となる3月11日に新宿の量販店に向かったところ、まだ特設コーナーが設けられており、特別版も在庫が豊富に用意されていた。


■ なんで俺だけ岩男なんだ

 舞台は宇宙への旅が今より少し身近になった近未来。天才発明家であり宇宙飛行士であり、科学者でもあるリードは、人間の進化に影響を与えると言われる「宇宙嵐」が地球に接近していることを突き止める。「宇宙嵐の中心に迫れば、人間の遺伝子情報の秘密を解明でき、人類に貢献できる」と考えたリード。しかし、実験には莫大な費用が必要だった。

 リードは相棒のベンと共に、大学時代のライバルで、億万長者の実業家・ビクターの元を訪れる。ビクターは性格の悪いリアリストであり、リードの実験が金になると考え、承諾。さらにビクターは、リードの元恋人・スーにも目をつけていた。

 かくしてリードとベン、ビクター、スー、彼女の弟でパイロット・ジョニーの5人は、各々が複雑な思いを抱きながら宇宙ステーションへ。だが、予定よりも早く宇宙嵐が発生。全員がそれに飲み込まれてしまう。

 命に別状は無かったが、彼らのDNAに変化が発生。リードはゴムのように自在に伸びる体に、スーは自分の体を透明化してバリアも発生できるように、ジョニーは体から太陽にも負けない炎を発火させて空が飛べるようになる。そしてベンは怪力と鉄壁の防御を誇る岩男になってしまった。元に戻る方法を模索しながら、その能力で人助けをした彼らはヒーロー「ファンタスティック・フォー」として注目されるのだが……。

 場面展開がスピーディーで、テンポ良く楽しめる。特殊能力を使ったアクションシーンが随所に織り込まれているのでダレることなく観賞できるだろう。また、セリフの端々に織り込まれるギャグのセンスも良く、ともすると凍えそうなアメリカンジョークは無い。人間が消えたり伸びたりする非現実的なアクションの面白さと合わせて、思わず声をあげて笑ってしまうシーンがいくつもあった。

 物語の最大のミソは、ジョニーを除く全員が「大人」だということだ。いずれも科学者としてある程度成功しており、それほど豪華な暮らしがしたいとか、有名になりたいとかいう気持ちが無い。そんな彼らが望んでもいないのに突然超能力を得てしまう。そのため「これで人助けをしよう!!」と叫ぶのではなく、「まいったな、普通に暮らせないよ」と「治す方法を探そう」、「しばらく出歩かないでおこう」と、非常に常識的なリアクションをする。それが主人公達に強い親近感を覚えさせて面白い。突拍子もない設定の映画だが、ストーリーは妙にリアルだ。

 特に親近感が沸きすぎて泣けてくるのが岩男「ザ・シング」に変身したベンだ。怪物になる前の彼は、親友リードの支えとなる、さっぱりした性格の実に良い男なのだが、岩男になった後の扱いが酷すぎる。まず、岩男になったまま元の姿に戻れない。他の3人は自分の意思で能力を発揮できるのだが、なぜかベンだけが醜い岩男状態のままなのだ。

 気軽に外も歩けず、行きつけのバーに行っても椅子が体重に耐えられずに潰れ、岩の手でグラスは持てず、エレベーターに乗れば重量オーバーのブザー。やりきれなくなって妻の待つ家に戻ると、奥さんは悲鳴をあげて逃げ出す。仲間にはげまされても「俺も透明人間だったらどんなに良かったか……」とポツリ。彼がいった何をしたというのか。

 そんな状況なのに、ベンは困った人を見過ごせず、怪力を活かして人助けをする。一躍ヒーローとなり、群集に囲まれ、拍手喝采を受けるベン。そこに逃げた妻が登場。当然「姿は変わっても中身は私が愛するあなたのままなのね!!」と仲直りする感動シーンと思いきや、妻は結婚指輪を地面に置いて「さよなら」と消えてしまう。道に落ちた結婚指輪が小さくて、岩の手でつかめない。あまりに気の毒で泣けてきた。

 そんな彼を見かねて(?)、リード達は普通の人間に戻るための研究を開始。しかし、思いがけない敵が登場し、彼らはその能力ゆえ、壮絶な戦いに巻き込まれていく。戦闘シーンを含む映像のクオリティは高く、CGにも違和感は少ない。特に発火能力者・ジョニーの炎の表現は素晴らしく、まるでミサイルのように爆音と炎を撒き散らしながらの飛行シーンは必見。ゴム人間・リードは腕が際限なく伸びてハッキリ言って気持ちが悪いが、顔の皮も伸びるので、ひげ剃りがやりやすそうだ。

 ヒーローの栄光とその裏側をコミカルに描くという意味では、ピクサーの名作「Mr.インクレディブル」に近いイメージの作品だ。また、全体を通して感じるのは、今回の映画は「ファンタスティック・フォー誕生の巻!!」だなと言う事。続編の存在を強く意識させる内容で、それもそのはず、既に制作は決定しているそうだ。米国では2007年7月頃公開という噂が濃厚らしい。それゆえ、今回の映画は各キャラクターの性格や能力を丁寧に描いており、コミック版を知らない人でもすんなり楽しめるだろう。いつまでも庶民感覚を忘れない、ちょっと変わった4人のヒーローが今後どのような活躍を見せてくれるか。また一つ楽しみなシリーズが登場した。


■ 大満足の低音、特典も豪華

 DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは7.49Mbps。映画本編は106分。特典映像も収録していることを考えると高レートと言って良いだろう。 映像はクリアで、輪郭がはっきりしており、彩度が高い。ブロック/モスキートノイズといった圧縮ノイズも見あたらず、高画質ソフトだ。ただ、彩度とコントラストが強いため、画面全体が安っぽく見えるきらいがある。特に宇宙船内のシーンなどは、セット然とした雰囲気を感じてしまう。内容的にこのくらい明るい映像のほうが合っているとは思うが、若干輝度や彩度を落としたり、表示機器の「シネマモード」などを活用しても良いだろう。

 音声は英語をDTSとドルビーデジタル5.1chで、日本語をドルビーデジタル5.1chで収録する。ビットレートはDTSが768kbps、ドルビーデジタルが448kbps。主にDTSで試聴したが、特筆すべきは低音の量感と迫力だ。特に発火男・ジョニーの飛行シーンは、炎が燃焼するゴオオオという低い連続音と、ジリジリ、チリチリとはぜる炎の高い音が一体となってスピーカー間を飛び回る。低音の量がとにかく豊富で過剰とも言えるほど溢れ出す。迫力満点だが、フロント/サラウンドにブックシェルフスピーカーなどを使っている場合、低音と中音以上で量感の差が発生しそうだ。サブウーファのボリュームやセッティングなどを調整し、繋がりの良い音を目指したい。

DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート

 特典は、本編ディスクに出演者によるオーディオコメンタリーと、キャストが来日した際の映像を収録している。コメンタリーにはリード役のヨアン・グリフィズと、スーザン役のジェシカ・アルバ、ベン役のマイケル・チクリスの3人が登場。監督やCGスタッフが登場しないので、映像の裏側などの話はない。

 そのため、「見ろよ、凄い映像だぜ」、「優秀なスタッフにまかせておけば安心だったわ」、「合成するとこういう風になるんだな」などと、他人事な感じのトークが面白い。また、「あのヘアメークだと髪型が自然になるよね」とか、「このシーンは靴が合わなくて足が痛かった」など、細かい話が多い。真剣な演技の裏側でそんなことを考えていたのかと思って観賞すると、違った面白さがあった。

 来日映像は、プロモーション活動に丸々一日密着した内容となっており、まさに分刻みのスケジュールが展開。インタビューに記者会見、サイン会、試写会の挨拶と、早回し映像を多様し、いかにハードなスケジュールをこなしているかがわかるコンテンツだ。なお、記憶では関西地区の宣伝担当にレイザーラモンHGが起用され、「ファンタスティック・フォーゥ!!」を連発しており「波に乗るって凄いなぁ」と関心した記憶があるのだが、残念ながら特典にはその模様が入っていなかった。

 特典ディスクには、「ヒーローたちの誕生」と題したメイキング、未公開シーンなどを収録。メイキングで印象的なのはブルックリン橋のシーン。本物の橋でロケを行なったのだとばかり思っていたが、実際は昼間に橋を通行止めにする予算が無かったため、別の場所に橋の模型を作り、実際の橋の映像と合成。橋から見える街並みなどはCGで再現しているとのこと。あまりに違和感がないCG合成だったため、まったくわからなかった。

 インタビューではベン役のマイケル・チクリスの話が面白い。岩男「ザ・シング」は子供の頃から大好きなキャラクターだったそうで、「伝説のキャラクターを演じられるなんて、夢のようで、同時に身が引き締まる思いだ」と話す。ちなみに岩男の衣装はラテックス製で、重さは30kgもあるという。それでも「やったぜ母ちゃん」と言いながら、嬉しそうに撮影に望む彼の姿が可愛い。衣装は重くて暑くて大変だったようだが、もしCGで全てザ・シングを作っていたら、あの人間味と哀愁は表現できなかったろう。着ぐるみの良さを再確認させてくれる作品でもある。

 付属のブックレットも必見。なんと、マーベルで活躍する日本の漫画家/イラストレーターによるファンタスティック・フォーのコミックを抜粋して掲載している。アメコミでは同じ作品を違う作家が描くのは当たり前だが、日本ではそういうタイプの作品は少ないので新鮮に感じることだろう。絵柄は日本人作家だけあり、アメコミ調だがデフォルメの仕方が日本のセンスに近く、読みやすく感じるはずだ。

 また、これらの作品は既刊行のコミックから抜粋したものだが、ブックレットの冒頭にはなんと、日本のSF漫画界の重鎮・松本零士による描き下ろしのオリジナルピンナップを収録している。描かれているのはもちろんファンタスティック・フォーのメンバー。松本零士がどんなヒーローを描いたのか、これは買ってみてのお楽しみにしておこう。


■ 気軽に楽しめる良作

 センスの良いギャグと、テンポの速い展開の調和が取れており、観客を楽しませようという努力が伝わってくるような作品だ。ポップコーンムービーと言われればその通りだが、DVDの購入代金分は楽しませてくれるだろう。

 特別版と通常版の価格差は約1,000円だが、特典ディスクはボリュームがあるので、財布が許せば特別版をお勧めしたい。できれば各バージョンがあと1,000円程低価格ならばうれしいのだが。

 また、単なるエンターテイメント要素だけでなく、大きなメッセージを感じさせてくれるのも好印象。岩男「ザ・シング」の不幸からは「いかに人間は外観によるイメージで、人を判断しているか」が伝わってくる。

 また、「巨大な能力を獲得した者は、それを正しい方向に使うべきなのか?」というメッセージも投げかけられる。心の弱い人間が強い力を獲得するとどうなるのか、悪の道へと転がり落ちることがいかに簡単かなど、シリアスな要素も外さない。家族で観賞する作品としても非常にクオリティが高いと感じた。

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□映画の公式サイト
http://www.foxjapan.com/movies/f4/
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051122/newdvd.htm

(2006年3月14日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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