~ ハード/ソフトのユニークな融合 ~ |
microX |
最近KORGは「RADIAS」、「X50」、「PadKONTROL」、「D888」などユニークな製品を続々と発表している。そんな中、DAWユーザーにとって魅力的な製品、「microX」がまもなく発売される。
microXは、TRITONの系統を引くハードウェアのシンセサイザでありながら、VST、Audio Units、RTASにも対応しているというもの。実際に使ってみたので、どんな製品なのか検証した。
6月にKORGから実売60,000円強で発売されるmicroXは25鍵のキーボード型シンセサイザ。音源システムはTRITONなどと同じPCMベースのHI(Hyper Integrated)シンセシス・システムとなっており、当然これ単独で使うことができる。
しかし、25鍵盤というあたりから想像できるとおり、単体で演奏して使うことが主眼のシンセサイザではない。やはりMIDIで外部からコントロールして鳴らすことを主な目的とした音源だ。とはいえ、5、6年前まで広く使われていたGS音源モジュールやXG音源モジュールなどとはちょっと意味合いが異なり、VSTやAudio Units、RTASといったプラグインを利用し、DAWとともに使う新世代の音源になっている。
コンピュータとの連携機能の前に、ハードウェア的な概要から紹介しておこう。フルサイズの25鍵盤が装備されるほか、フロントパネルには液晶ディスプレイ、ボタン類、つまみ、カーソル操作のためのクリッカブルポインター、バリューコントローラなどが装備されている。
また端子類としては標準ジャックでのステレオのメイン出力、それとは独立したステレオの出力、ペダル端子、スイッチ端子、ダンパー端子、そしてMIDIの入出力、USB端子などがある。このフロントパネルで、音色を切り替えたり、音色をエディットするなど、一通りのことができるようになっている。もちろんヘッドフォン端子も用意されているからスピーカーに接続しなくてもモニタリング可能となっている。
液晶ディスプレイと各種操作ボタン類を装備。音色切替やエディットなど一通りの操作が可能 | 背面端子 |
サンプリング周波数48kHz、最大同時発音数62ボイスという音源部は、64MBのPCM ROMに642個のマルチサンプル、929個のドラムサンプルが用意されている。電源を入れればかなり使える音色が即利用できるのはうれしいところ。エフェクト部も充実しており、1系統のインサートエフェクトに2系統のマスターエフェクト、そして3バンドマスターEQを同時に使うこともできる。
また、強力なアルペジエーターを搭載しているのもmicroXの大きな特徴のひとつ。アルペジオ・パターンには5個のプリセット・パターン、251個のユーザー・アルペジオ・パターンがあり、これらを利用することができる。また一般的なアルペジエーターに加え、鍵盤を弾いた音程やタイミングを基準にさまざまな和音展開やフレーズ展開が可能なポリフォニック・アルペジエーター機能を備えているのも面白いところだ。
MIDI音源として見た場合は、16トラックMIDIマルチティンバーの音源で、GM Level1のモードも持っているので、従来のMIDI音源と同様の使い方も可能だ。
USBを使ってパソコンと接続すると、単にMIDIでこの音源を鳴らすというだけでなく、かなり有機的につながった利用ができる。ドライバソフトとともにmicroX Editor、microX Plug-in EditorというソフトがWindows用、Mac用にバンドルされており、これらを使ってmicroXをコントロールできるようになっている。
本体の情報を吸い出し中 | 音色エディタソフト「microX Editor」 |
まずは、わかりやすいmicroX Editorから見てみよう。起動すると、自動的にmicroX本体の現在の情報を読み込んだ後、メイン画面が立ち上がる。かなり強力なエディタとなっており、ここでプリセット音色を俯瞰して選択できるのはもちろんのこと、オシレータやフィルタの設定をしたり、エフェクトの設定もできる。
プリセット音色を俯瞰して選択可能 | オシレータやフィルタ設定 |
さらには単音色での音色設定ができるだけでなく、音色を組み合わせたCombinationモードでの各種設定やマルチティンバー音源として見たMultiモードでの設定、さらにはアルペジエーターのパターンのエディット、ドラムキットの設定とmicroX単体ではできないすべての設定がPC側からできるようになっている。これを見ると、さすがハードウェアのシンセサイザと思える、かなり強力な音源である。
エフェクト設定 | 音色を組み合わせたCombinationモード | Multiモードの設定 |
アルペジエーターパターンのエディット | ドラムキットの設定 |
鍵盤上部の4つのノブがフィジカルコントローラとして動作 |
すごいのは、このエディタ画面を操作すれば、microXが連動して動くのはもちろんのこと、microX側を操作しても、そのまま画面に反映されること。鍵盤の上部に設けられた4つのノブなどがフィジカルコントローラとして機能し、フィルタやエフェクトなどを動かせるあたりはなかなか便利だ。
さらに、面白いのはプラグイン型のmicroX Plug-in Editor。基本的にはスタンドアロン版と同じ画面、同じ機能なのだが、VST、Audio Units、RTASのそれぞれのプラグインに対応しており、DAW側からはソフトシンセとして立ち上がるのだ。そして、ここで音色エディットができるだけでなく、一般のソフトシンセと同じ感覚で使うことができる。またmicroXのキーボードはUSB-MIDIキーボードとして機能するので、MIDI入力する際にも便利に使える。
VST、Audio Units、RTASプラグインに対応、ソフトシンセとして利用できる |
さらに、これはソフトシンセではなく、ハードシンセであって、音源を鳴らすのにCPUパワーを食わないことが強み。非力なマシンでもなんら問題なく、microXのフルの機能を発揮できる。また、ソフトシンセの場合はPC側のオーディオインターフェイスを経由して音が出るが、microXの場合、microXのアナログ出力から音が出る。そのため、ボーカルなどのオーディオトラックとミックスする場合には、外部のミキサーを通してミックスするか、microXの出力をオーディオとして録音してトラックに取り込んだ後に処理する必要が出てくる。
こうした利用を考えると、USBを経由してオーディオを取り込む機能を持つか、せめてS/PDIFなどのデジタル出力を備えておいてほしかったところだが、残念ながらアナログの出力しか持っていない。またUSB接続してもACアダプタを必要とするのも残念なところ。これ自体が単たるMIDIコントローラではなく、シンセサイザ音源であることを考えると、電力を食うのかもしれないが、USBバスパワーで電源供給ができたらさらに魅力的だった、と感じる。
一方、このmicroXを音源としてではなく、外部からPCをコントロールするフィジカルコントローラとして利用するための機能も用意されている。microX External Controlテンプレートというもので、これを利用することで「CubaseSX」や「Live」のコントローラとして機能するほか、NativeInstrumentsの各ソフトシンセのコントローラとして動いたり、PropellerheadsのReasonのコントローラとしてすぐに使うことができ、なかなか便利だ。
なお、このmicroXには標準で、プラスティック製のハードケースもついてくるので、持ち歩く際に利用できる。
microX External Controlテンプレートを利用し、他のソフトシンセなどのコントローラとして動作できる | 標準で、プラスティック製のハードケースが付属 |
□コルグのホームページ
http://www.korg.co.jp/
□製品情報
http://www.korg.co.jp/Product/Synthesizer/microX/
(2006年5月22日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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