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第224回:これがロシア版マトリックス!?
続編がエライことになってます「ナイト・ウォッチ」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 次はロシア映画なのか!?

ナイト・ウォッチ
2枚組特別編

(C)2006 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
All Rights Reserved.
価格:3,990円
発売日:2006年7月7日
品番:FXBA-30022
収録時間:約115分(本編)
画面サイズ:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:ロシア語(ドルビーデジタル 5.1ch)
   英語(ドルビーデジタル 5.1ch)
   日本語(ドルビーデジタル 5.1ch)
   コメンタリー
発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

 「ムトゥ 踊るマハラジャ」を発端に巻き起こったインド映画ブームや、「マッハ!」からのタイ・ムエタイ映画ブームなど、1本のヒット作をキッカケにして、これまであまり注目されなかったジャンルや国の映画が脚光を浴びることがある。最近では「冬のソナタ」以降の韓国ドラマブームもその1つと言っていいだろう。

 今回取り上げる「ナイト・ウォッチ」はロシア映画。ロシア映画と聞くと、文学的だけどお堅く、どこか湿っぽいイメージを抱きがちだったり、「ロシア映画は見たことがないのでイメージが無い」という人も多いかもしれない。

 だが、今回の1本はどうやら今までのものとは様子が異なる模様。予告を見てもトラックが宙を舞ったり、旅客機が墜落しかかったりと、CGをふんだんに使ったアクションが満載の娯楽映画のようだ。原作はロシアでベストセラーとなったセルゲイ・ルキヤネンコのダーク・ファンタジー小説3部作。映画も壮大な3部作構成となっており、「ナイト・ウォッチ」はその第1作目にあたるという。

 日本での知名度はイマイチだが、ロシアでは「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」や「スパイダーマン2」など、ハリウッド映画を抑え、No.1ヒットを記録。米国でも人気で、ロシア版「マトリックス」などと呼ばれているという。既にロシアでは第2作「デイ・ウォッチ」も公開され、興行収入の新記録を樹立。第3作「ダスク・ウォッチ」はハリウッドでの製作も予定されているという。

 ハリウッドの大作CG映画は見慣れてしまっており、近頃は車が飛ぼうが、ビルが倒れようが、映像的にはあまり驚かなくなってしまっている。そんな中、「ロシアのCGバリバリ映画」というのは新しい映像への興味をそそられるキーワードだ。

 DVDの発売日は7月7日。約1週間後である15日に家電量販店に赴いてみると、店内のセールスランキングでは戦闘機映画の「ナイト・オブ・ザ・スカイ」に次いで第2位となかなか好調な様子。韓国ドラマの次はロシア映画ブームが来るか!? さっそくレジに持って行った。


■ 一見するとハリウッド映画、その実体は……

 人間でありながら、特殊な超能力を持つ「異種」(アザーズ)。彼らは太古の昔から光と闇に分かれ、激しい戦争を続けていた。だが、双方の力は互角。このまま戦いを続ければ、どちらも破滅すると悟った光の王ゲッサーと、闇の将軍ザウロンは休戦協定を結ぶ。そして、光の戦士は“ナイト・ウォッチ(闇の監視人)”に、闇の戦士は“デイ・ウォッチ(光の監視人)”として、互いの行動を監視。光と闇の勢力バランスを千年に渡って保っていた。

 時は'92年のモスクワ。妻イリーナの浮気に絶望した青年アントンは、怪しげな呪術使いシュルツ夫人のもとを訪ねる。夫人は「妻の心を術で取り戻すことは簡単。だが、彼女が身篭っている胎児は流産させるしかない」と提案。アントンはその場の勢いでその罪を背負うことに同意し、恐ろしい呪いの儀式が開始される。しかし、シュルツ婦人は「異種」であり、彼女の行為は光と闇の協定違反を意味していた。

 光の戦士ナイト・ウォッチにより儀式は阻止され、その場にいたアントンは、実は自らも予知能力を持った異種であることを知らされる。異種であることを自覚した者は、光に属するか、闇に属するかを自らが決めなければならない。光に属することを選んだアントンは、12年後、ナイト・ウォッチのメンバーとして活動していた。

 設定としてはアニメや漫画でよくあるパターンで、それほど違和感なく受け入れられる。エフェクトを多様した映像や、バリバリのロックBGMに合わせて展開するテンポ良いシーン展開がスピーディーで気持ち良い。監督はロシア人のティムール・ベクマンベトフ。CMやミュージッククリップを多く手掛けている人物だけあり、映像だけ見ているとロシア映画とはとても思えない。ハリウッドの若手監督が作ったスタイリッシュ・ムービーのようだ。

 だが、「ロシアの現実的な姿を再現した」という作品のトーンは薄暗くて退廃的。室内のシーンもどこか寒々しい。主人公のアントンは「ナイト・ウォッチ」や「光の戦士」というカッコイイイメージからはほど遠く、中年に片足を突っ込んで、ウオッカをあおりながらフラフラしている無職の男にしか見えない。悪との戦いとなると凄い力を発揮……することもなく、闇のヴァンパイア達にボコボコにされ、血だらけなシーンが多い。

 一応「未来予知」という能力は持っているのだが、時折断片的に見えるだけなのであまり役に立たないところがリアル。ナイト・ウォッチのメンバーにはフクロウに変身できる者や、タイガーに変身できる女など個性的な面々がそろっており、それらと比較すると主人公のキャラクターは弱い。ただし、物語中盤でヴァンパイアに狙われる少年が登場すると、彼を守るナイトという構図が成立。物語がグッと面白くなった。

 また、銃器が一切登場しないのも特徴的。ナイト・ウォッチは特製のライトを手に、文字通り「光」で闇と戦うのだが、映像的には懐中電灯を持った男が殴られるだけで、低予算ぶりが気になるシーンもチラホラ。ただ、一撃一撃の描写が爽快さよりも“痛み”を重視しており、アジア映画のような目を覆いたくなるような暴力シーンがかなり盛り込まれている。「ショットガンで胸を撃たれるよりも、ハサミで手の平を突き刺されるほうがリアルに痛そうなのでやめてください」という感じだ。

 さらに、闇の異種が登場したり、彼らが姿を隠す異界などが出現するシーンの前後には、ハエや蚊が飛び交う描写が入る。これがもう、観賞しながらモゾモゾと身をゆすってしまうほど気持ち悪く、体中をかきむしりたくなる。ゴキブリも結構登場するのでバイオレンス描写と虫が嫌いな人には正直お勧めできない。ただ、CGを使ったこれらの描き方は特徴的で、ハリウッド映画的な手法を使いながら、ロシア映画の味を加味し、新しい映像を作ろうとする姿勢が随所に見受けられる。エフェクトに凝りすぎて辟易する部分も若干あるが、成熟したハリウッド映画にはない、独特の“勢い”が感じられた。

 また、光は正義を、闇は悪を象徴してはいるのだが、勧善懲悪なストーリーではなく、「光と闇が均衡を保つことが平和」という設定が面白い。例えば闇のヴァンパイアは人間の血を吸う時、「あの人の血を吸いますんで、よろしく」とナイト・ウォッチに申請してから血を吸う。ナイト・ウォッチも相手が闇だからといって殺しまくっては協定に違反する。ヒーローである主人公が悪者から子供を守ってハッピーエンドだろうと安心している観客を、思考の渦に突き落とすようなラストもショッキング。映像こそ今風にお洒落をしているが、中身は骨太なロシア映画と言えるだろう。


■ 字幕を消してください

 本編ディスクは片面2層。DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは5.85Mbpsと低めだ。それもそのはず、本編の収録時間は115分だが、特典として45分程度あるドラマシリーズ「プリズン・ブレイク」の第1話をまるまる収録している。レンタルDVDに、売り出し中のドラマシリーズ第1話を収録するのは、最近よくある宣伝手法だが、セルDVDまで宣伝の道具にするのはいかがなものだろうか。ナイト・ウォッチの場合は特典ディスクとの2枚組なので、ビットレートの事も考えると、収録するなら特典ディスクの方にして欲しいものだ。

 映像は5.85Mbpsという数値を考えると健闘している。しかし、解像度、階調性には乏しい。とにかく暗いシーンの多い映画なので、AVファンとしては肌色の暗部が一色になってしまっている所や、ざわつく木々の輪郭描写などは残念。ただ、全体的に退廃的なムードが漂う映画なので、画質の悪さはそれほど気にならないだろう。

 1点だけ我慢できなかったのは、映像の下部に英語の字幕が焼き込まれていること。音声はもちろんロシア語。そのため、日本語字幕をONにすると、画面右側に縦書きで表示され、下部の英語字幕は残ったまま。2つの字幕が表示されたまま最後まで観賞しなければならない。日本語字幕を見ていても、つい癖で下の英語字幕に目がいってしまい、非常にイライラする。英語字幕だけで事足りる人ならばそれで良いのだが、英語が不得意だという人は日本語吹き替え音声にしてしまったほうがすんなり楽しめるだろう。

 英語字幕が焼き込まれている理由は、監督によるオーディオコメンタリで語られている。「この映画にとって(英語)字幕は特別な存在で、映画の一部だ。字幕そのものが映画を表現するシーンもあるんだ」という。その言葉通り、例えばヴァンパイアが少年の心を惑わす特殊な声には赤字の字幕がつき、それがまるで鼻血のように少年の鼻から出たり吸い込まれたりする。それ以外にも、画面の中央など、通常の定位置を離れて自己主張を繰り返す。斬新で面白い表現だとは思うのだが、はっきり言ってウザったい。というか、それだけ字幕にこだわっているのなら、同じ手法の日本語字幕版を作って収録するのが筋というものではないだろうか。

 音声はロシア語、英語、日本語の3種類で、いずれもドルビーデジタル5.1chで収録。ビットレートも448kbpsで共通だ。サウンドデザインは密度よりも音場を重視しており、BGMや環境音がよく広がる。分厚い音が押し寄せることはないが、冷たさを表現するBGMが寂しく響き渡る。ホラー調のサウンドだ。また、前述の通りハエや蚊が飛び交うシーンではブンブン、ウィーンウィーンと羽音が部屋中を移動して背筋がゾワゾワしてくる。あまり良い音素材とは言えないが、サラウンド効果自体は絶大だ。

DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート

 前述の通り、本編ディスクには「プリズン・ブレイク」の第1話を収録。特典ディスク には未公開シーン集、メイキング、コミック版やポスターのギャラリーなどを収めている。構成としては標準的だが、内容はロシア映画ならではのものが多くて面白い。

 てっきりダークな雰囲気のファンタジー・アクション映画だと思って観賞していたのだが、監督のインタビューによれば「ロシアのホラー系映画の先駆け」なのだという。そう言われると確かに、ホラー要素が強い気もするが、映像とBGMのノリとテンポでおどろおどろしさは軽減されている。

 ホラー映画が作られなかった理由について監督は、「ロシアでは現実がホラーなので、怖い映画を見たがる人はいない。僕らは実際に恐ろしい過去を体験しているからね」と笑う。ロシアらしい理由と言えるが、なんだかあまり笑えない話だ。

 また、プロデューサーは「主人公のアントンは、ロシア人が共感できるキャラなんだ。どう見ても無職だろ? ロシアでは(ソ連が崩壊した)'90年代初頭に国や社会が保証していた仕事が無くなり、多くの人が路頭に迷い、男のモラルが堕落。人々は主人公と同じように戦わねばならなくなったんだ」と語る。インタビュー1つとっても、ハリウッド映画ではまずお目にかかれないコメントがテンコ盛りで興味深い。

 さらに監督は、「この映画では、今までやったことのない事にチャレンジしたんだ。それはCGを沢山使い、脚本に忠実に映画を作ることなんだ」と得意げ。「というか、今時それは普通なんじゃないんですか」とツッコミを入れたくなるが、ロシアでは革新的な事なのだろう。アントン役のコンスタンチン・ハベンスキーも「少なくともロシアでは新しいジャンルを開拓したね」と、胸を張っていた。


■ 続編がエライことになってます

 バイオレンスや虫の描写に好き嫌いはあるだろうが、ハリウッド映画の手法で、ロシア独特の美を映像化したことは高く評価できる。「新しい映像が見たい」という欲求に応えるてくれるだろう。エフェクトなどの映像表現に凝るあまり、中だるみする部分もあるのだが、3部作のスタートとして今後が気になる作品だ。

 第1作目では光と闇の対決にはあまりこだわらず、アントン・ゴロデツキーという男が、これまでの常識では考えられない世界に踏み込み、闇と対峙しながら生きていくことを覚悟するまでの物語と言えるだろう。

 そして、ある意味でこのDVD最大の見所は、特典ディスクに含まれた続編「デイ・ウォッチ」の先行映像である。崩れ落ちる観覧車、巨大タワーの崩壊、人間どころかビルまで蜂の巣にする散弾銃風ボール(?)、逃げまどう群衆など、第1作目を遥かに上回るド派手な映像の連続。マツダのRX-8がホテルの壁面を走るのを見てから第1作目を見直すと、あまりの映像クオリティの落差に「ヒットしてお金が入るとエライことになるな」と笑ってしまった。

 ただ、こうした売りのシーンをこれでもかと見せてくれるため、途中で「第2作目の見所が全部出てしまうのではないか」と不安になってしまう。面白いシーンの連続なのだが、これからのシリーズを楽しみたい人は、はっきりいって観ないほうが良いだろう。

 続編のプレビューを観る限り、第2作、第3作と公開されるにつれ、日本でも大きな話題となりそうだ。シリーズを最初からじっくり楽しむためだけでなく、今後来るであろうロシア映画ブームを先取りするためにも、とりあえず観ておいて損はない作品だ。

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(2006年7月18日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp
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