■ サム・メンデスが描く戦争映画 ジャーヘッドは、'91年の湾岸戦争を描いた戦争映画。監督はサム・メンデス。原作はアンソニー・スウォフォードの同名の回願録。出演は、ジェイク・ギレンホール、ピーター・サースガード、クリス・クーパー、ジェイミー・フォックスなど。 サム・メンデス監督といえば、個人的には、郊外の街の倦怠感を見事に描いていた「アメリカン・ビューティ」が印象深く、戦争映画のイメージは全くない。そのため次作が戦争映画と聞いて、驚くと同時に興味を持った。実際に、公開時にも一風変わった戦争映画として一部では話題になっていたようだが、さほど大々的なプロモーションも行なわれなかったようで、ヒットには至らなかったようだ。 個人的にも気になっていたものの、劇場には足を運ばなかった。しかし、DVDの発売を知るや購入リストにいれて発売を待っていた作品。 DVDは2枚組のプレミアム・エディションのみの発売で、価格は3,990円。洋画としては若干高価に感じなくもないが、2枚組なのでまあ許容範囲といったところだろうか。ただ、プレミアム・エディションの割には、通常のトールケースで封入品もアンケート程度と寂しいので、なんとなく3,990円は割高に感じてしまった。
■ 退屈な戦場の日常。軍隊ジョークが面白い
舞台は'91年の湾岸戦争。「砂漠の嵐」作戦に参加した海兵隊員の模様を描いた作品だ。ジャーヘッドとは、海兵隊員を表わす隠語。海兵隊員の刈上げた頭が、お湯を入れるジャーの形に見えることに由来している。 スウォフォード(ジェイク・ギレンホール)は、ベトナム戦争に従軍した父を持つ若者。しかし、家庭は荒れ、父も酒を飲んだくれる日々。希望の無い、故郷の暮らしを捨て、海兵隊に入隊した。 しかし、新兵訓練は単なる虐めに終始。希望を抱いて入隊したスウォフォードは、すぐに自らの決断を後悔し始める。厳しい訓練に加え、理不尽きわまりない上官の命令、プライバシーの無い生活など、後悔の日々は続く。そんな日々の唯一の支えが、彼女の写真と手紙、電話。彼女の存在がスウォフォードを正気に戻してくれると同時に、他の男とつきあっているのではないか? という不安の種でもある。 そんなとき、訓練に取り組む姿が、サイクス三等曹長(ジェイミー・フォックス)の目にとまる。かくして、曹長指揮下の偵察狙撃隊STAの斥候狙撃隊に配属される。“チャンスをつかんだ”スウォフォード、海兵隊員としての順調なキャリアを積み始めた矢先に、湾岸戦争が開戦する。 「いつ帰れる。2週間か?」、「明日だろ」と、気軽に戦地に赴く若き海兵隊員。しかし、彼らの進む先には、サウジアラビアの厳しい気候、そして初めて体験する戦争の厳しさが待ち受けていた。 本作の中心となるのは、スウォフォードとその周囲の海兵隊員の戦場における日常。一見して、普通の戦争映画と異なっているのは、ほとんど敵と戦わないことだろう。海兵隊員の誇りと、決起あふれる若さが、敵を求めているのに、砂漠の宿営地で行なわれるのは見張りと訓練ばかり。ようやく、イラクに進入した斥候狙撃隊。しかし、砂漠を這いながら進む彼らの行く先々で、空軍が圧倒的な戦力を元に敵を制圧。残るのは敵の死体だけだった……。 本作で描かれるのは、傍目から見ると馬鹿げた軍隊独特の規律と命令、暇をもてあました若者の倦怠感に満ちあふれた日常。そして、馬鹿げた乱痴気騒ぎだ。冒頭の上官との問答から、上官「おまえはゲイか? 」、スウォフ「ゲイではありません」、上官「彼女はいるか?」、スウォフ「はい。います」、上官「隣のジョディとヤッている。彼女が一発ヤルたびに、おまえは腕立て25回だ。やれ!」といった具合。 ついには、「何しにここにきた? 」と問い詰められ、「大学にいっている間に迷いました」とキレてしまうことも……。こうした軍隊ジョークが楽しめる人には、非常に笑いどころの多い映画なのは間違いない。 また、テレビの撮影隊が部隊に入った時には、防護服/マスクの能力をアピールしたい上官の指令で防護服を着たまま45度を超える灼熱の砂漠でフットボールに興じさせられる。こうした、理不尽な要求を如何にやりくりしていくか。若き海兵隊員の知恵にも注目したい。 興味深いのは、イラクのクウェート進行直後、サウジアラビアへの派遣直前に皆で「地獄の黙示録」の空爆シーンを鑑賞するシーン。フットボールでも見ているかのような盛り上がりで、皆がワーグナーの「ワルキューレの騎行」を大合唱しながら、ヘリの隊列で総立ち。「早く撃て」、「殺せ」を連呼する血気盛んな若者達のシーンは一つの見所だろう。彼らの緊張を極限まで高め、そしてその先の戦場での彼らの見た現実。そのコントラストが巧みに描かれている。 ■ 画質は良好。充実の特典
本編ディスクは片面2層。DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは6.56Mbpsと標準的だ。本編の収録時間は123分。 圧縮ノイズなどは感じさせせず、画質も良好。コントラストはやや抑え気味で、解像感も際だっているわけではなく、特に昼の砂漠においては、意図的な白飛びも多い。しかし、砂漠の灼熱に揺れる空気など、どことなく霞のかかったようなシーンは、戦場の雰囲気は良くでている。 音声はドルビーデジタル 5.1chを英語/日本語で収録。ビットレートはいずれも384kbps。戦争映画ということで、派手なサラウンド音源を期待されるかもしれないが、前述の通り、戦闘シーンはほとんど無いので、それほど聞かせどころがあるわけではない。ただし、挿入されるBGMの聞かせどころがうまく、映像に引き込んでくれる。
本編ディスクには、特典として未公開シーンや、スウォフの妄想を映像化した「スウォフの妄想」、本編で利用するテレビ局のインタビューを収録した「ニュース・インタビュー」など収録。監督と脚本のウィリアム・ブロイルズ Jr、原作のアンソニー・スウォフォードによる音声解説も収録している。 「スウォフの妄想」は、スウォフが上官らの抑圧を受けた際に本当に思っていた、反抗や、不満を映像化したというもの。ちょっとした遊びコンテンツだが、糞尿掃除時の惨めな気持ちなどがよりいっそう理解できるようになるかもしれない。 「ニュース・インタビュー」は、本編内で利用される各兵士へのインタビューを収録したもの。監督によれば、いくつかの基本的な質問以外は、俳優に考えさせたとのことで、それぞれの役を演じながらも、確かにそれぞれの俳優の個性がかなり全面に出たインタビューになっている。、 特典ディスクには、「ジャーヘッド日記」、「撮影の舞台裏」、「SEMPER FI:常に忠実に -帰還後の海兵隊員たち」の3コンテンツを収録。いずれも20~30分程度の収録時間となっている。 もっとも興味深いのは「ジャーヘッド日記」。メイキング用の撮影隊を入れたくなかったという監督が、各俳優にカメラを渡し、それを編集したものとなっている。集まれば皆でキャッチボールやボクシングをしたりと、最初は普通のアメリカの若者達。基地を訪ねて「おい、やばそうだぜ!」と叫んで盛り上がるなど、軍隊らしさのかけらもない。 その後、徐々に訓練を経るにつれ、無駄口も減ってくる。教官が「真の疲労を知ってもらいたかった。本物の海兵隊の比較にならないが」と語る特訓を経て、徐々に顔つきが変わってくる。さらに、砂漠での撮影にはいると、「いつも、同じ太陽。ホテルにいようがどこにいようが毎日が同じに感じる」などと、本編の倦怠感に近い雰囲気が出てきて、「砂漠でやることといったら腕立て伏せぐらいだ」という境地に至る。ある意味、もう一つのジャーヘッド達を描いたドキュメンタリーになっている。 また、撮影の舞台裏では、200人を超えるエキストラの姿などが描かれる。「SEMPER FI」は、撮影がイラク戦争に重なったこともあり、その復員兵達のドキュメンタリーになっている。4人の復員兵の姿を追ったものだが、「救急車の音が、RPGに聞こえる」など、戦場の緊張感を日常にうまくとけこませられない、いらだちなどが伝わってくる。そうした悩みを抱えつつも、「復員相談局があるのだけれど……。プライドが許さずなかなか相談できなかった」という告白は、考えさせられるものがあった。
■ 戦争映画にとどまらない深みが魅力
戦争とはいえ特別な日常が続くわけではない。そうした、平板かつ、ある意味本国よりも退屈な日常と、突如訪れる非日常的な戦闘。しかし、一度踏み入れた非日常にとらわれ続ける人たちも多い。そしてその中で命を失う多くの人々と、相変わらず平板な日常というコントラストがしっかり描かれる。 グロテスクなシーンもあるので、誰にでもお勧めできるわけではないが、それでも、ある種のコメディとしても楽しめるし、ヒューマンドラマとしても非常に良くて来ている。3,990円という価格は、本編ディスク付きであれば標準的だろう。本編のみでも十分楽しめるので、より安価なバージョンも用意して欲しかったところだ。しかし、特典のメイキング、ドキュメンタリーも良くできており、戦争映画好きのみならず、多くの人に楽しんで欲しい作品だ。
□ユニバーサルピクチャーズのホームページ (2006年8月1日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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