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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第274回: スポーツに注力したウォークマン「NW-S203F/205F」
〜 運動不足ライターではわからない!? スポーツタイプの真実 〜



■ スポーツの季節

 以前から、iPod対抗のポータブル音楽プレーヤーはスポーツに注力すべきという持論を展開してきたが、AppleとNikeのコラボレーションによって生まれた「Nike+iPod スポーツキット」の登場は、またもやAppleにしてやられたと思ったものだった。

 米国におけるスポーツ用品の充実度は、Nikeを中心にライフスタイル領域まで広がっている。つまり実際にスポーツする、しないに関わらず、日常のアパレルとしてスポーツタイプを選ぶ、ということなのである。もちろんそれは米国が肥満大国であり、健康に対するアピールが個人の魅力を引き立てるという考え方と密接な関係がある。

 今月23日より発売された新Walkman「NW-S203F」(以下S203F)は、元々米国向けに企画されたスポーツタイプの製品だ。米ソニーが展開する「S2 Sports」ラインナップという位置付けである。

 一方日本向けの発売に当たっては、スポーツ色を若干落とした仕様となっている。具体的には、1GBモデルのNW-S203Fでは3色のカラーバリエーションを用意し、クリップ式ホルダにインナーイヤー型イヤフォンという、ノーマルな使い方を想定したものだ。米国仕様のアームバンドや耳掛け型イヤフォンは、別途「NW-S205F」(以下S205F)という容量2GBのソニースタイル限定モデルとしてまとめられている。

 だが今回のモデルに注目している人の多くは、スポーツタイプとしての製品のあり方に興味があるのではないだろうか。すでに本誌や他誌でも一通り取り上げられているモデルではあるが、ここでは改めてスポーツ用としての真の姿を探ってみたい。



■ シンプルなデザインと軽さがスゴい

 今回お借りしているのは、S203Fの日本市販モデルと米国仕様モデルである。米国仕様のものをわざわざお借りしたのは、アームバンドなどのアクセサリ類が使いたかったからだ。実際にはこのブラックの2GB仕様のものがS205Fとして、ソニースタイルで販売されることになる。ここでは便宜的に今回のシリーズを総称して、Walkman Sと呼ぶことにする。

 詳しい仕様は弊誌レビューのほうを参考にしていただくとして、簡単にインプレッションを述べてみたい。

 今回はあまり男性には人気がないと思われる、すなわちあまりレビューされないであろうピンクをお借りしたわけだが、実物は写真で見るほど派手な色ではなく、浅いローズピンクといった風情で落ち着いた色である。これならば男性が持っていても違和感はなく、むしろワンポイントとしては気が利いている色味だ。


写真では濃い色だが、目視ではもう少し淡く渋い発色だ 底面にS2ロゴがある、ソニースタイルモデルと同等の米国モデル

 本体は26gと驚くほど軽く、新型iPod nanoの40gと比較しても十分軽い。太めのサインペン程度だと思えばいいだろう。3分充電3時間再生の急速充電機能搭載で、カジュアルな使い方に対応する。

 形状はMDウォークマンなどに付属していたスティック型のリモコンのような感じだが、操作系は違う。先端のリング部は曲またはアルバムのスキップに使用するためのもので、3段にスライドするようになっている。

 一番押し込んだ状態がホールドなのだが、そこから中段にセットするのは、単に上から引っ張っただけでは難しい。どうしても行きすぎて上段まで行ってしまうのである。本体を握った手の親指で押し上げるといった使い方を想定しているのかもしれない。

 再生停止ボタンとボリューム、メニューボタンが独立している。メニュー操作時は再生ボタンがEnter、メニューボタンがBack、リング部がメニュースクロールの機能を持つ。少ないボタンを兼用するため、操作には若干練習が必要だ。

 市販モデルに付属のクリップ式ホルダは、本体を上から差し込むようにしてセットする。ライトグレーの樹脂製で、若干弾力性のある素材で作られている。


国内市販モデルに付属のクリップ式ホルダ 背面のクリップはやや力が弱いか

 背面のクリップは、スプリングで噛みつくようになっている。ポケットに挟んで落ちるようなことはないが、あまり挟む力が強くないので、幅の太い布地、例えばスウェットパンツのウエスト部分などに挟むと、取れやすい。またリング部を上に動かそうとすると、ホルダごと外れてしまうので、このクリップでスポーツ時に使おうと思っている人は要注意だ。

 一方アームバンドのほうは、本体を上から滑り込ませる構造は同じだが、側面をすっぽり包み込む形で、しっかりホールドされる。こちらは腕に装着した状態でリング部を摘んで上にスライドさせようとすると、今度は本体がすっぽり抜けてしまう。


ソニースタイルモデル付属のアームバンド 先端部にS2ロゴ

CKA-NWS200

 しかし、オプションで購入できるアームバンド「CKA-NWS200」(実売2,000円前後)ではリング部を引っ張っても本体が抜けないよう、ホルダー部に滑り止めが付けられている。

 またベルトの素材も違っており、ワンタッチで巻き付けられるなど日本の製品らしい細かい工夫がなされている。リアルに走る用途で使う方には、別途こちらを購入することをお勧めしたい。



■ まずはキャリブレーションが必要

 ほぼ毎日、約7kmのジョギングを欠かさない生活を送っているが、これを始めたきっかけは持病ともいえるギックリ腰で、本コラムにもその苦闘の歴史が刻まれていたりするわけだが、医者に運動することを進められたこともあって、約1年半ほど続けている。

 普段はiPod nanoと専用アームバンドという組み合わせでジョギングしているので、今回のようなスポーツモデルには違和感がない。ただ、実際に走ってみないとわからないことが沢山あるのが、この手の製品だ。

 まず注目のスポーツモードだが、目標とする距離、時間、あるいは消費カロリーをセットしてスタートすると、目標値に達した段階で再生が止まる、というのがメイン機能だ。これはどのようにして実現しているのだろうか。

 基本的には内部にGセンサーを内蔵し、歩数計的な機能が実装されていると思ってもらって間違いない。あとは設定で、走ったときの歩幅、歩いたときの歩幅を手動で入力する必要がある。つまり、歩幅×歩数で距離を出しているというわけである。カロリーのほうは、身長と体重を入力することで、想定される値を表示する構造のようだ。

 走ったときと歩いたときの歩幅は、身長を入力した時点で平均値がセットされるようになってはいるが、距離を正確に出したい場合は、やはりちゃんと計った方がいい。今回は、とりあえず200mの距離で、走った場合と歩いた場合の歩数を測定し、割り算して歩幅を出してみた。

 どこか学校のグラウンドに勝手に入るわけにも行かないし、200mとかキッチリした距離が測れない、という方も多いだろう。だがそこそこ大きな公園には遊歩道が設けてあり、地面にジョギング用の距離が書いてあるところは意外に多い。そういうところを探してみるといいだろう。

 歩数の測定は自分で数えなくても、Walkman Sの歩数計を使って計測することができる。筆者の場合は、徒歩が79cm、走ったときが96cmであった。

 続いてはプレイリストの作成である。Walkman Sには、Gセンサーが走っているか歩いているかを自動的に判断してプレイリストを切り替えるという、Music Pacer機能がある。実質的にWalkman Sをスポーツモデルたらしめている、メインフィーチャーだ。

 プレイリストの作成は、音楽管理ソフトのSonicStage CPで行なう。「歩く用」にはスローテンポ、「走る用」にはアップテンポの曲を登録しておくというのが、一般的だろう。どのプレイリストを「走る用」にするかは、楽曲とプレイリスト転送後、本体で割り付けられる。



■ 走ってみたら気がついた

 では実際に走ってみよう。本体にはディスプレイの上下を反転する機能が付いているが、多くのレビュアーはこの機能の意味がわからなかったのか、これに言及している記事はほとんどない。これはアームバンドを左腕に着けて覗き込むと、本体ディスプレイが上下逆になってしまうからである。

 ではアームバンドを右腕に着ければいいと思われるかもしれないが、多くのイヤフォンは右側が長い「片出し型」になっている。イヤフォンの便宜を考えると、右腕に付けるという選択はあり得ないのである。

 スポーツモードをスタートさせると、3秒前からカウントダウンが始まり、計測が開始される。最初は「歩く用」プレイリストからランダムに再生されるが、走り出すと曲が素早くフェードアウトして、「Please Enjoy, Running Music」というナレーションののち、「走る用」のプレイリストから再生が始まる。

 逆に走っていて歩きに変わったときには、「Please Enjoy, Walking Music」というナレーションののち、「歩く用」プレイリストに切り替わる。この英語のナレーションだが、どうもスポーツをするには気合いが抜けた発音なのが気にかかる。

 ここはやはり日本向けにはきちんとナレーションを取り直して、クールな女性の声で「走行モード、起動しました」ぐらいのことは言って欲しい。できればそのあとにオプションで「べっ、べつに応援なんかしてないんだからね! 」とか付け加えられるようになると、想定売り上げ+50万セットぐらいは行けるのではないかと。

 現実問題として、街を走るという行為は、意外に連続して走れないことが多い。というのも、信号待ちで止まらざるを得ない箇所があるからである。このときに、まだ走る気満々なのに歩くモードに切り替わってしまう。

 ただでさえ不可抗力で止まらざるを得ないというのは、モチベーションが下がるのである。「走る」から「歩く」のモードチェンジは多少鈍くしてあるということだが、こういう状況を考えると、せめて再生中の1曲はそのままキープするぐらいでも良かっただろう。

 ソニースタイルモデル付属アームバンドは、巻き付け部分が布ゴム製となっている。吸湿・速乾素材を使用しているとあるが、ちょっと野球のグローブのような匂いがするのが難点だ。これで汗にまみれて数カ月経ったら、野球部の部室みたいな匂いがするんじゃないかと心配である。吸湿性よりも、むしろ撥水性のあるサラッとした感触が長く続く素材のほうが良かった。

 またこれも実際に走ると気がつくわけだが、実は夜走る人が、意外に多いのである。特に女性ランナーは、日が暮れてから走るケースが多いようだ。理由はいろいろあるだろうが、日焼けしたくない、走ってる姿を見られたくないといったところではないだろうか。

 夜とはいってもそれなりに街灯もあるので、田舎のたんぼ道のような真っ暗闇ではないものの、無灯火の自転車などと出くわしてお互いビックリするケースもある。安全のために、バンド部に蓄光型の反射素材で、なにか目に付くアクセントのようなものがあると良かったかもしれない。また女性向けに防犯ブザーも内蔵したらどうかなど、リアルに走ることにフォーカスしたら、アイデアはいろいろありそうだ。

 付属のイヤフォンについても言及しておこう。市販モデルに付属の「MDR-E0931」は、音質的にノーマルだが、ジョギングには向かない。なぜならばこの手のインナーイヤー型は、走っていると耳から落ちるのである。


市販モデル付属のイヤフォン。これは防滴仕様ではない ソニースタイルモデルに付属のイヤフォン。実はこちらも防滴仕様ではない

 一方ソニースタイルモデルに付属の耳かけ型のほうは、さすがにフックがあるのでランニング中に落ちることはない。だが音が酷い。低音が全く出ないので、ベース抜きのマイナスワントラックを聞いてるかのようだ。

 またこのイヤフォンは、コネクタから左右の分岐点までのケーブル長が1mもあるので、腕からだとケーブルが余りまくる。アームバンドとセットにして売るのであれば、それで不自由のない長さであるべきだ。このおおざっぱ感が、アメリカ仕様なのかもしれない。

 毎日使うことを考えると、イヤフォンも防滴タイプのほうが望ましい。頭部の汗が髪を伝って耳に落ちてくることも多いし、水道で顔を洗ったりするときに首にかけておくと、ザブザブ濡れたりするからである。ただ、防滴と音質はなかなか両立が難しいのが、現状の課題と言えるだろう。

 ちなみに本日の成果は、7.1km、7,583step、495kcalであった。Mapionの「キョリ測」というサービスを使えば、走行コースの距離が地図上で計測できる。人間の歩幅は、坂道や草むらなど路面の変化に対して臨機応変に追従するため、多少の誤差は生じるのは仕方がない。ただWalkman Sの計測値と大幅にずれているようであれば、歩幅の設定を見直したほうがいいだろう。



■ 総論

 アメリカ向けのスポーツタイプWalkman Sだが、日本でも走るという用途にきちんとフォーカスすれば、マーケットはあるはずだ。それでは市販品として広く売りにくいという意見もあるだろうが、プロ用品、専用品を日常で使う楽しみが存在するのが、日本のマーケットなのである。

 本体を防滴仕様にするなどタフな部分は、日常的な使用でも安心感がある。しかし日中の屋外ではディスプレイがほとんど見えないなど、以前からのウォークマンの弱点がそのまま残っている。引き出し式リングが堅く、アームバンドなどに固定した状態で引き出せないなど、走りながら使う場合に不便な点も散見される。

 また目標値に達したときに、電源が落ちたかのように音楽がバサッと終わってしまうのもどうか。達成感が希薄なのである。思わず「ソニータイマーかよ! 」とツッコミを入れたくなってしまう。

 まあある意味正しいソニー製タイマーではあるのだが、目標値を達成した時点でお疲れ様でしたの一言ぐらいは欲しい。あるいはそこから歩く用のプレイリストになってクールダウンを促すなどの工夫も、あってしかるべきだろう。

 製品の性格上、スポーツ全般で役に立つと捉えられがちだが、走る、歩く以外の用途は難しいだろう。電車に乗っていても歩数カウントが進むぐらいであるから、自転車などのスポーツでは正確な動作は期待できない。だがこれはこれで別途きちんと機能を考えていけば、需要はあるはずだ。

 米国の反響は知らないが、自分でも毎日走る人が企画なり設計したという、納得のポイントが感じられないのが残念だ。ソニーの役員クラスにもジョギングを欠かさないという方は居るだろうに、そういう実際に走る人がトップダウンでちゃんと物づくりを見ていくというのが、ソニー製品の差別化ではなかったか。もともとウォークマンそのものも、井深大氏が自分で使いたいから、と作らせたのが発端なのは有名な話だ。

 かといって「QUALIA(クオリア)」みたいなものでも困る。目玉が飛び出るほどの高級品ではなく、かといって凡庸でもなく、ああよく考えてあるなぁ、というものが欲しいのである。そしてそれの違った使い方を発見する、というユーザ側の楽しみが加わって、勝ち組のスパイラルが回転し始めるのだ。

 日本人の持ち味として、しつこく改良を続けていくというところは、美点であると思っている。街を走るランナーに注目したスポーツタイプの音楽プレーヤーとして、ぜひ日本でも改良を続けていって欲しいモデルだ。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200608/06-0831/
□ニュースリリース(ソニースタイルモデル)
http://www.jp.sonystyle.com/Company/Press/060831.html
□製品情報
http://www.walkman.sony.co.jp/products/Sseries.html
□関連記事
【9月8日】【デバ】ウォークマンで「走る」
日本でもスポーツ仕様プレーヤーの時代? ソニー「NW-S203F」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060908/dev162.htm
【8月31日】ソニー、スポーツ仕様のスティック型ウォークマン
−アルミ/円筒形の防滴仕様。消費カロリーを確認
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060831/sony.htm
【8月9日】米Sony、“リップスティックサイズ”の新ウォークマン
−3回振って「シャッフル」のスポーツ仕様
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060809/sony1.htm

(2006年9月27日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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