■ サラウンドヘッドホンがリベンジ?
次世代DVDの登場により、画質は飛躍的に進化した。次に期待されるのは次世代オーディオだが、これがいつも後手に回るというのは、まあ仕方のないことだろう。特にサラウンド環境に関しては、デジタル放送でさえもなかなか番組が増えてこないこともあって、普通にテレビを見ている家庭にまで定着しているとは言い難い。 多くの人はステレオ2chで十分なのであろう。ただ、すでに5.1chソースを持っている人にとっては、これをサラウンドで聞かないのは、もったいない話である。 しかしそうは言っても、サラウンドは音を周りにふりまいちゃう代物なので、家族が増えてくるとなかなか自分一人の都合でリビングを占領するわけにはいかないというのもまた事実である。「書斎サラウンド」でもあれば別だが、普段家に居ないサラリーマンの方は、なかなか自分だけの書斎を持つということが難しかったりする。 そんなときに便利なのが、サラウンドが楽しめるヘッドホンの存在である。ドルビーヘッドホンなどはその手の技術であるが、バーチャルサラウンドがいいのか、ディスクリートのサラウンドがいいのかというのは、意見の分かれるところだ。 以前レビューしたオールエイの「AL-DP100」は、実際にハウジング内に複数のドライバを入れて、ディスクリートにサラウンド音場を聴かせるという製品であった。意欲的な試みは高く評価するところだが、いかんせん実物の出来が「アキバで見つけた珍品」みたいなことだったのが残念であった。 だが8月24日に発売された後継機の「VIBRAR(AL-DP100A)」(以下VIBRAR)は前作の反省からか、「ちょっとどうなの感」が大幅に減少し、製品としてかなり品質も向上させてきたようだ。店頭予想価格は17,800円前後と、前作よりも1,000円程度高くなっているが、実売はさほど変わらないだろう。 今回は生まれ変わったディスクリートサラウンドヘッドホン、VIBRARを試してみよう。
■ まずまずの質感
まずヘッドホン部分だが、前モデルが銀色の平たい、ちょっと日本では見かけないようなハウジングであったのに対し、逆三角形というかイチゴ型というか、一般的な形状のものを採用している。全体的にモロ樹脂製といった感じで高級感はないが、リーズナブルな価格に抑えるためにそのあたりは目をつぶったということだろう。 エンクロージャに余裕があり、またフィットラバーとドライバ部まで奥行きがあるため、今回は耳を押さえつけず、みみたぶがすっぽり中に入る程度のサイズだ。フィット感としては、ラバーも柔らかく、ベストとは言わないが、まずまず合格ラインとは言っていいだろう。
片側に入っているドライバは、フロント用、センター用、リア用、サブウーファ用の4つ。前モデルに搭載されていたバイブレータは、今回は入っていない。まあこれはギミックっぽい感じで効果のほどもビミョーだったので、なくてもかまわないだろう。
またエンクロージャは密閉型となっており、音漏れは非常に少ない。深夜の使用でも、家族に迷惑をかけることはまずないだろう。 ケーブルの途中には、フロント、リア、センター、サブウーファのバランスを取るためのボリュームがある。ボリュームに数字がなくなったのは残念だが、横一列に並んでおり、視認性はいい。
肝心のデコーダ部だが、光沢感の強い樹脂製で、電源ボタンやボリュームボタンもかなりしっかりした作りになった。前作はDRC(ダイナミックレンジ圧縮)、TD(時間遅延調整)などのボタンがあり、ある意味非常にマニアックな設定が可能であったが、今回はそれがなくなっている。よりイージーに使えるようになっているところから、ターゲット層が変わったのかもしれない。
今回の大きな特徴は、ドルビーデジタルに加えて、MPEG-2 AACとリニアPCM(44.1/48kHz)に対応したことだろう。特にAACの対応は、DVDユーザーだけでなく、テレビ放送のサラウンドにも対応したという点で、意義がある。相変わらずDTSに対応していないのは残念だが、まあDVD規格ではマンダトリではないため、仕方のないところか。 入力は光と同軸の切り替え式。出力は光のスルー出力と、アナログ5.1ch端子がある。これにより、既存のシステムの間に挟み込んで使うことも可能だろう。 ヘッドホン出力は2系統で、ヘッドホン部をもう一つ買って増設できるところは同じだ。ただ、実際に増設して2人で使っている人が、どれぐらいいるのだろうか。なにかこう、価格帯と製品の傾向に合わない機能のような気がする。
■ 上手くまとめられたサウンド
では実際に音を聞いてみよう。今回は今年1月にCESで配布されていた、ドルビーデジタルのサウンドデモディスクを引っ張り出して聴いてみた。 サウンドチェックプログラムでそれぞれの音を確認したところ、フロントとリアは、かなり意識して聴かないと定位感の違いに気がつかない。スピーカーの配置としては後ろに付いてはいるものの、極端に音が後ろに回り込むわけではなく、環境音としての存在を感じさせるサウンドフィールドとなる。もっともそれが本来のサラウンドの姿ではあるものの、ユーザーはもっと極端な効果を求めるものなのは、致し方ないところだろう。 映画の本編では、前作でもナチュラルなサラウンド感で視聴できたが、今回もその傾向は変わらない。ただドルビーヘッドホンのような、頭内定位を解消できるほどの劇的な広がり感はなく、後ろから音が来る感じが希薄な点も変わらない。 これはどうも、ディスクリートサラウンドヘッドホンという構造の限界のようで、多少は位相制御などをしないと、これ以上のサラウンド感は難しいということなのかもしれない。 ただ前作と大きく違うのは、音楽ソースを聴いたときの音質がずいぶん改善された点だ。テレビ放送のサラウンド放送は、スポーツ中継がほとんどだが、BSデジタルでは音楽ライブなどもサラウンドで放送している。またDVDでも音楽ライブものは、サラウンド収録されているわけで、こういうものも鑑賞に堪える音質であることが求められる。 このような音楽ソースに関しては、もちろんHi-Fiとまでは行かないものの、かなり聴ける音になった。やや中域が強い傾向はあるものの、イヤな感じのクセはない。ボーカルがキツい場合は、センターのボリュームを下げることで調整できる。またサラウンド感を大きくしたい場合は、フロントを下げることで相対的にリアが大きくなるため、それでカバーできる。自分で好きな音場にセットできる喜びは、このヘッドホンならではの特徴だろう。 少し気になるのが、どうも本体内でDRC(ダイナミックレンジ圧縮)が効いているのではないかという点である。映画ではそれほど気にならないが、音楽ではダイナミックレンジの変化は重要な要素だ。 イントロが終わってガッとバンド全体が出てきたときに、ガクッと音量が下がるガッカリ感が残る。前作ではDRCを手動でOFFにできたので、確実に効いていないことが確認できたのだが、今回のモデルでは設定自体がないので、そのあたりが確認できない。 一般に求められるサラウンドサウンドがどの辺なのかというのを決めるのは、難しいことだろうが、ヘッドホンという特性から、DRCはOFFでも良かったのではないかと思われる。
■ 総論
製品にまとまりが出てきたVIBRARだが、製品的な位置づけは結構難しいように思える。この製品がこれから必要という人は、サラウンドオーディオ、というかDVDなどの映像コンテンツに関しては、イノベータ理論から言えばレイトマジョリティからラガードに相当するタイプの人であろう。 だがこの人たちが買うような販路が確保できるかと言えば、そこが難しい。おそらくネットで通販もしないし、ヨドバシのような家電量販店に行っても、AV機器コーナーには尻込みするタイプの人たちだからである。 想定される販路としては、ドンキホーテに代表される生活雑貨量販店だったり、あるいはAEONやイトーヨーカドーのようなスーパーの電気製品売り場のようなところにフィットするかもしれない。前モデルに比べて使い方が簡単になったし、ケーブルに接続するだけで、デコーダは自動認識するあたりも、サラウンドビギナー向けにまとめたということだろう。 したがってこの製品は、従来のDVD視聴という領域で考えるのではなく、テレビのサラウンドを手軽に楽しむための機器としての需要が見込めるのではないだろうか。もちろん一番手軽なのはスピーカーで鳴らすことなのだが、深夜に番組を楽しむなどの用途としては、ステレオで聴くよりもサラウンドのほうが充実感はあるだろう。 だがまずそれには、サラウンド放送がもっと増えるという前提があっての話である。サラウンドという技術が当たり前になるまでには、意外に長い道のりがあるのかもしれない。
□オールエイのホームページ (2007年8月29日)
[Reported by 小寺信良]
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