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第311回:M-AUDIOのエントリー向けキーボード「KeyStudio 49i」
~ 直販29,820円で、手軽に使えるシンプル機能を搭載 ~



 最近、キーボード含んだエントリーユーザー向けのDTMセットがいくつか出てきている。年末にM-AUDIOが「KeyStudio 49i」というものを発売し、2月1日にはYAMAHAがUSBキーボードスタジオ「KXシリーズ」を発売する。

 今回は、まずM-AUDIOのKeyStudio 49iについて紹介する。



■ 手軽で面白いUSB-MIDIキーボード

 DTM用のUSB-MIDIキーボードというものは、いまさら珍しいものでもない。各メーカーからさまざまな製品が発売されており、最近はフィジカルコントローラ付が主流となっていて、DAWやソフトシンセなどとの連携が大きなウリとなっている。

 そんな中で年末に発売されたM-AudioのKeyStudio 49iは、これまでとはちょっと違うコンセプトのキーボード製品だ。その製品名からも分かるとおり、49鍵盤のこの製品は、M-Audioの直販価格で29,820円と、同種の製品の相場としては一般的な価格。また、USB-MIDIキーボード機能に加えて、USBオーディオインターフェイス機能も備えているのがひとつの特徴となっている。


KeyStudio 49i 背面

 見た目は至ってシンプルなキーボードだが、実はこの本体内にピアノ音源を搭載している。電源さえ入っていればPCとの接続とは無関係に、これ単体で演奏することが可能な電子ピアノとして使えるわけだ。「昔からあるMIDI端子付きの電子ピアノと何が違うの? 」という疑問も出てくるだろうが、これは明らかにUSB-MIDIキーボードから発展したものであって、さまざまなところで違うのだ。

 先に結論から言ってしまうと、これはプロのミュージシャンが音楽制作に使うとか、ハイエンドのDTMユーザーが高音質を求めて使うというタイプのものではない。DTMのライトユーザーであったり、音楽を軽く楽しむため、場合によっては子供の音楽教育用といった使い方がメインとなる製品だ。とはいえ、これが実に面白く、使い勝手が非常にいい。個人的にもこれは手元に置いておきたいと思うほど便利で、よくできている。これからその面白さをひとつずつ見ていこう。



■ Steinwayのピアノ音源を標準搭載

 まず、最大のウリであるピアノ音源だが、これは、Steinwayのグランドピアノをサンプリングしたという結構豪華なもの。ご存知のように現在M-AudioはDigidesignの一部門となっているが、そのDigidesignのソフトシンセ、「Advanced Instrument Research(A.I.R)」の開発に携わる専門デザイナーがステレオ・サンプリングしたものという。実際、聴いてみても、かなりいい音がする。もちろん、キーボードのタッチはごく一般のUSB-MIDIキーボードなので、ピアノ練習用というわけにはいかないが、これだけでも29,820円の価値がありそうだ。

 使い方はいたって簡単。本体の中央付近にあるPiano ControlsのPiano Volを回せばすぐにSteinwayの音が鳴る。また、その右にはリバーブのON/OFFボタンがあり、これをONにすると青いLEDが点灯するとともに、あまり派手でない感じでリバーブが効く。そして、リアパネルには、サスティンペダルをつなぐための端子も用意されている。

 本体左のピッチベンドなどの下にヘッドフォン端子が2つ用意されているので、ここにヘッドフォンをつなげばすぐに聴くことができる。2つあるから、親子で鍵盤の練習用として使ってみるのもいいかもしれない。もちろんリアにある出力端子からアンプにつないで鳴らすことも可能だ。


ピアノのボリュームを上げるだけで音が鳴る リアパネルにはサスティンペダル用の端子などを備える ピッチベンド下にヘッドフォン出力を2系統備える。

 ちなみに、このピアノとして動作させる際、オプションのACアダプタを使うこともできるが、USBバスパワーでも動作するのが面白いところ。個人的にACアダプタというものがあまり好きでないため、この点は気に入っている。これは単に電源供給だけなので、ドライバのインストールといったことも一切不要である。



■ USB接続でPC連携も。ソフトシンセ「GM Module」を同梱

 ドライバについてだが、マニュアルを見ると「KeyStudio 49iはクラスコンプライアントであるため、本体をコンピュータに接続するとコンピュータがKeyStudio 49iを自動認識し、ドライバを別途インストールする必要もなく、すべてのオーディオ入出力や搭載されているMIDIインターフェイスにも即座にアクセスすることができます」とある。


ドライバインストールで正常に動作

 KeyStudio 49iはWindowsでもMacでも使えるようになっているが、Windows Vistaで試したところ、どうもうまくいかなかった。またXPで試すとUSBオーディオとしては認識したが、MIDIのほうはうまく使えなかった。

 なんらかの環境設定が必要だったのかもしれないが、「KeyStudio 49iを使いこなすためにはドライバをインストールする必要がある」とも書かれていたので、あまり深く追求せずドライバを入れたところ問題なく動作してくれた。

 まず使ってみたのが、本来の機能であるUSB-MIDIキーボードとしての機能。SONAR7に接続してみたところ、当然といえば当然だが、何の問題もなくキーボードとして使うことができた。

 また、KeySudio 49iには「GM Module」というGMのソフトシンセが同梱されており、これがVSTiやRTASなどのプラグインとして動作するとともに、スタンドアロンでも動作するから、SONARやCubaseなどのDAWを用意しなくても、すぐにマルチ音源として利用することが可能。また、その音もKeyStudio 49iから出力される。


SONAR7上からもMIDIキーボードとして認識された スタンドアロンでも動作するソフトシンセ「GM Module」が同梱される

 GM Moduleは、ソフト的には非常にシンプルなGM音源で、単純に音色を選択して鳴らすだけ。一応、各チャンネルごとにボリュームやパンなどの設定ができるほか、コーラス、リバーブの設定もできるが、まあ、それだけ。逆にいえば、本当の初心者でも何もトラブルはなく、すぐに使える音源なので、便利なのだ。ピアノ音質を比較すると、当然、Steinwayのほうが上だが、GM音源ならピアノに限らずさまざまな音色が鳴らせるので、Steinwayの音に飽きたら、こちらを使ってみるのもいいだろう。ユーザーは、MIDIやオーディオといったことを意識せず、シームレスにSteinwayのピアノからGM Moduleへ切り替えて使うことができるのが便利なところでもある。

 このように非常にシンプルなキーボードなのだが、KeySudio 49iには「Edit Mode」というものがあり、このボタンを押すと、鍵盤が音程ではなく、図のようなさまざまな機能が割り当てられるようになっている。さらに、先ほどのSteinwayのピアノ用のボリュームやスイッチなどは、コントロールチェンジの調整用としての設定もできるため、つまみの数は少ないものの、フィジカルコントローラとしても、ある程度は使えるというわけだ。


本体のボタンから「Edit Mode」を起動 Edit Modeでは、鍵盤を利用して、様々な機能が設定できる



■ 気楽に使えるオーディオインターフェイス機能。音質も良好

 KeyStudio 49iに用意されたもうひとつの機能が、オーディオインターフェイス機能だ。GM Moduleもこのオーディオインターフェイス機能を使って音を出している。きちんとASIO対応となっており、レイテンシーの調整も可能。

 デフォルトではバッファサイズが256となっていたが、Core 2 Duoの2.16GHzのVista環境では、ややノイズが入る場合があったので、386に設定したところ安定した。SONARで見たところ、これでレイテンシーが8.7msecと表示されたが、聴感上はほとんど気にならなかった。ただ、Steinwayの音とユニゾンで鳴らすと、微妙に音の頭がズレているのは認識できた。


オーディオインターフェイス機能も備える レイテンシーは8.7msecだったが、聴感上は気にならなかった

 といっても、このオーディオインターフェイス機能は、そう大げさなものではなく、入出力ともに16bit/44.1kHzでの使用に限定されている。その意味でも、高音質なレコーディング機材になり得るものではないのだが、これも一般のユーザーにとっては、非常に使いやすいものに仕上がっている。

 入出力を確認すると、まず入力にはRCAピンのステレオ入力と、XLRキャノンのマイク入力が1つ、Hi-Zにも対応したギターなどを接続するTSフォンジャックが1つある。また出力は、先ほどのヘッドフォンジャックが2つあるほか、TSフォンジャックによるLとRの出力が用意されている。


入力ごとにそれぞれプリアンプのレベル設定が行なえる

 DAWと組み合わせて使うことも可能ではあるが、本体にDirectMonitorというノブがあるので、これを右に回せば、各入力の音をすぐにヘッドフォンでモニタできる。たとえばCDプレーヤーやiPodの出力をRCAに接続しておけば、すぐにヘッドフォンで聴けるから、それを聴きながらピアノなどの練習をするのにもいいかもしれない。

 また、マイクを接続して歌ってみたり、ギターを接続して鳴らしてみるのもひとつの手だ。それぞれの入力用のプリアンプのレベル設定もできるから、うまくバランスをとるのも簡単だ。

 デフォルトではマイクが左チャンネル、ギターが右チャンネルから出る、各モノラルとなっているのだが、Monoボタンを押せば、左右のチャンネルから聞こえてくる。単純ではあるが、こうした機能が音楽を遊びたいユーザーにとっては、すごく便利に使えるのである。


入力レベルが足らず、RMAAでの音質チェックは断念したが、音質は良好だった

 16bit/44.1kHz固定なので、調べるだけ無駄かなとも思いつつ、ASIOドライバも搭載しているから、RMAA6 Proで音質チェックをしてみようと試してみた。しかし、出力がTSフォンで入力がRCAだったためか、入力レベルが足りず、結果として実験することはできなかった。

 ただし、聴いた感じで気になることもなく、音質的にも良好。楽器の練習用、ホビー用のオーディオインターフェイス機能としては十分すぎるものだといっていいだろう。

 ここまで、まったく触れなかったが、実はKeyStudio 49iにはAbletonの「Live Lite 6.0」のM-Audio版がバンドルされている。

 KeyStudio 49iのコンセプトからすると、多少色合いの違うソフトのような気もするが、これをDAWとして、ちょっとしたレコーディングに用いてみたり、たまにはDJ用として使ってみるのもいいかもしれない。とにかくエントリーユーザー用の機材として、とても充実した製品といえそうだ。


Abletonの「Live Lite 6.0」M-Audio版がバンドル Live Lite 6.0 メイン画面


□M-AUDIOのホームページ
http://www.m-audio.jp/index.php
□ニュースリリース
http://www.m-audio.jp/news/jp_jp-1095.html
□製品情報
http://www.m-audio.jp/products/jp_jp/KeyStudio49i-main.html

(2008年1月28日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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