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第316回:マルチトラック録音/編集ソフト「OPUS for Windows」を試す
~ MIDI関連が不要な人向けのマルチトラックレコーダ ~



「OPUS for Windows」パッケージ

 3月7日、「Singer Song Writer」(SSW)や「Sound It!」の開発元である株式会社インターネットから「OPUS for Windows」というマルチトラックのサウンド録音/編集ソフトウェアが発売される。

 最大の特徴は、簡易動画編集も可能なほど、動画との連携を重視していること。同社によれば「ビデオ編集でサウンドにこだわりたい」、「FLASHムービーのサウンドにこだわり、FLVファイルにも保存したい」、「拡張ポッドキャストデータを作りたい」、「動画ファイルの音声部分を音声ファイルやCDにしたい」といった人にお勧めとあるが、実際どんなソフトなのか使ってみた。



■ “DAW”ではなく“MTR”

メイン画面

 この製品を初めて知って、最初にふと疑問に思ったのは「Singer Song Writer」、「Singer Song Writer VS」といったDAWを持っているのに、なぜ新たなマルチトラックの音楽編集ソフトを開発したのか?」という点だ。実際に使ってみたら、すぐにわかった。これは音楽制作のためのいわゆるDAWではなく、マルチトラック・レコーダ(MTR)なのだ。

 音楽制作が目的でない人にとって、DAWの概念は非常に難しくてわかりにくいものだ。MIDIトラックとオーディオトラックが並列して存在し、ソフトシンセがあって、エフェクトがあって……というのは、音楽制作が目的であっても初めての人にはなかなか難しいだけに、MIDI関連の機能が不要な人にとっては無用の長物かもしれない。このソフトにはテンポやピッチという概念もないため、何の制限・制約なくマルチトラックのレコーディングができるのが特徴だ。

 そのためSSWで培ってきた技術は使いつつも、まったく別ソフトとしてOPUSが生まれたことが理解できた。標準価格も26,250円とSSWよりも低価格に抑えている。

 基本的なスペックでいうと、OPUSは最大256トラックが扱えるMTRで、MMEドライバのほかにASIOドライバにも対応して最高で24bit/96kHzまで扱える。使い方も一般的なMTRという感じで、各トラックのレコーディングトラックをオンにすれば、波形表示しながら録音できる。ただし、ASIOドライバを使っていたとしても複数トラックでの同時録音はできない。

MMEドライバのほかASIOドライバにも対応 波形表示しながら録音。複数トラックの同時録音は不可

 また、画面下側にエクスプローラ風にファイルを表示でき、そこで探したWAVファイルや、MP3ファイルなどをドラッグしてトラックに貼り付けていくことが可能だ。この際、画面右下で波形表示させて、必要な部分をトリミングすることも可能。なお、この波形表示はあくまでもトリミング用であって、ここで波形エディットすることはできない。

 トラックへ貼り付けられたオーディオクリップにマウスカーソルを持っていくと、その場所によってカーソルの形が変わり、各種操作ができるのはユニークかつ、便利なところだ。これをシチュエーションカーソルと呼んでいて、5種類の形がある。オーディオクリップの右上にカーソルを持っていくと、小さなスライダーが表示され、マウスを上下にドラッグすることでボリュームの調整が可能となる。また中央上では指差しアイコンとなり、ドラッグによってクリップの移動が可能となる。

ACID風操作でループ設定ができるが、テンポやピッチの異なる素材を並べると、そのままの状態でループする

 また、右上ではACID風にクリップを伸ばしてループさせていくことができる。そして、中央下ではリージョン選択によって編集範囲の指定ができ、左右の下ではオーディオクリップのトリミングが可能となるのだ。いろいろな操作ができるだけに、慣れるまでは分かりにくいという問題はあるが、結構便利に使える。

 ここで1つ気になったのが、そのACID風な機能。これは、あくまでもACID風な操作でループさせられるだけであって、いわゆるACIDループに対応しているわけではない。つまり、テンポの異なる素材を並べれば、テンポは違うままだし、ピッチが違えば違ったままなのだ。そもそも、OPUSにはテンポやピッチという概念がないだけに、仕方がないところではある。

 ただ「ビデオ用のサウンドトラックを生成するソフト」という意味では、うまく対応してくれれば簡単にBGM作りができてよかっただろう。だが、そうしたことは、やはりDAWを使うべき内容という判断なのかもしれない。


■ ミキシング機能はSSWと同等。エフェクトも充実

 一方ミキシングに関しては、DAWと変わらない機能を持っている。基本的にはSSWの機能を踏襲しているようで、各トラックのインスペクター表示ができ、ミキサーを表示させると、SSW風なミキサーコンソールが現れる。各トラックには2つのパラメトリックEQが搭載されているほか、プリフェーダー、ポストフェーダーが選択可能なセンドエフェクトも4つ搭載されている。このEQはローシェルビング、ハイシェルビング、ピーキングの3つのモードが選択可能となっている。

 そして各トラックの出力先は通常のマスター出力のほかに、AUX1~7への出力を選択することができる。もちろん、AUXはASIOドライバを利用した場合ということになるのだが、AUXという表現からもわかるとおり、サラウンド対応のソフトというわけではないようだ。

 また各トラックのWボタンを押してから再生操作をすると、フェーダーやパン、EQなどを動かした結果がオートメーションとして記録される。このオートメーション情報は、グラフィカルに表示させることもでき、それをエディットしていくことも可能だ。

SSW風のミキサーコンソールを表示 操作情報をオートメーション情報として記録できる

DAWと同様、3種類のエフェクトを用意。それぞれにラックも用意される

 またエフェクトに関する機能も一通りそろっている。エフェクトの使い方は一般のDAWと同様に3つある。つまりトラックでのインサーションエフェクト、センド・リターンによるシステムエフェクト、そしてマスタリングエフェクトの3種類あり、それぞれにラックも用意されている。

 いずれも同じエフェクトが利用できるのだが、OPUSにあらかじめ用意されているのは、リバーブ、コーラス、イコライザ、グラフィックイコライザ、ディレイ、コンプレッサ?リミッタ、ディストーション、オートパン、エンハンサ、ノイズゲート、ディメンジョン、ハイパスフィルター、ローパスフィルターの計13種類だ。

 ただし、これとは別にVSTエフェクトのプラグインも利用できるので、フリーウェアなどをダウンロードしてくれば、さらにいろいろなエフェクトが使えるようになる。


リバーブ グラフィックイコライザ エンハンサ

 エフェクトに関していうと、このようなリアルタイムでかけるエフェクトの使い方のほかに、オーディオクリップに対して処理する方法もある。この場合、上記にあげた13種類のほかに、タイムコンプレッション、ピッチシフト、ピッチトランスポーズ、さらにノイズリダクションといったものも用意されている。

タイムコンプレッション ノイズリダクション



■ ビデオ編集機能は最小限

 このように、オーディオ機能に関しては一通り装備したOPUSだが、その一番のアピールポイントともなっているビデオ機能のほうはどうだろうか?

ムービートラック上に配置した映像ファイルはサムネイル画像が表示される

 256あるオーディオトラックとは別に、ムービートラックというものが1つ用意されている。ここにはAVIファイル、MPEGファイル、WMVファイルのそれぞれを置くことができ、トラック上にはサムネイルが表示される。編集機能はカット/ペーストくらいで、ビデオのみを表示するムービービューワというウィンドウも用意されているという比較的シンプルなものだ。

 また、これらのビデオファイルをトラックへ置く際、映像のみとするか、オーディオも入力するかを選択することができ、オーディオを入力すると、これはムービートラックではなく通常のオーディオトラックに読み込まれ、あとはほかのオーディオクリップと同様に扱えるようになる。したがって、AVIファイルからオーディオ部分のみを抜き出し、それをEQやコンプでマスタリング処理してCDに焼くといったことも可能になるわけだ。

 さらに、このムービートラックにはビデオファイルだけでなくBMP、JPEGも置くことが可能。サイズ的には640×480ドットとなるため、デジカメ画像などの場合は、一度静止画の編集ソフトでリサイズしておく必要があるが、これによって静止画をつなぎ合わせた簡単なビデオを作成することが可能だ。せっかくなら、画像を切り替える際のエフェクト機能などがあれば、それなりにカッコイイビデオができるところだが、残念ながら、そうした気の利いた機能は用意されていないようだ。

 このようにして作ったOPUSのプロジェクトはオーディオのエクスポート機能によりWAVはもちろん、MP3、WMA、AAC、ATRACなど各種ファイル形式で書き出せるほか、前述のとおり、CDライティング機能も装備している。

 またビデオのエクスポート機能も装備されており、こちらは標準のAVI形式のほか、Flashムービー形式であるFLVでの書き出しも可能となっている。そのため、YouTubeへの投稿用の作品が作りたいというニーズには便利かもしれない。

WAV/MP3/WMA/AAC/ATRACなど各種音声ファイル形式で出力できる CDライティング機能も備える 映像のファイル出力はAVIとFLVに対応


□インターネットのホームページ
http://www.ssw.co.jp/index.html
□製品情報
http://www.ssw.co.jp/products/opus/index.html
□関連記事
【2月14日】インターネット、256トラック対応サウンド編集ソフト
-映像編集やAVI/FLV書き出しなどにも対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080214/internet.htm

(2008年3月3日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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