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本田雅一のAVTrends

音楽/オーディオファンへ、ネットワークオーディオの勧め
【その1】ハイエンドからゲーム機まで“選べる”状況に




 昨年、PLAYSTATION 3がDLNAクライアント機能をサポートしたことをきっかけに、日本でもDLNAへの注目が集まってきている。もちろん、日本ではマイナーな存在ではあるが、Xbox 360もDLNAクライアントとして利用できる。AV機器よりも圧倒的に数が多く、操作レスポンスも良いゲーム機がDLNAをサポートしたことは、DLNAサーバーの充実という形で市場に変化を与えているようだ。

 加えてPCとデジタルAV家電の境目が曖昧になり、データの多くが両者で共有でき、さらには大容量ストレージの一般化で、自宅のメディアデータを一括管理しやすい時代背景になってきたことも、なかなか浮揚して来なかったDLNA環境の充実へと繋がっているのかもしれない。

 いずれにしろ、すでに動画や画像、音楽をネットワーク越しに楽しんでいる人も少なくないと思うが、今回のコラムでは特に音楽を便利に、そして高音質に楽しもうというコンセプトで話を進めたい。


■ “選べる”ようになってきたネットワークオーディオ機器

 ネットワークでの音楽共有というと、どうしても利便性を追求することばかりに目が行きがちだ。もちろん、便利なことは間違いないのだが、良い音で音楽を楽しみたいという人にも、とても有効な手段ということはあまり認知されてこなかった。

 これはネットワークオーディオに、いわゆる純粋に音質を追求して開発された製品がほとんど無かったことも一因だろう。オーディオファンでコンピュータの知識にも長けているという人でも、パソコンはノイズ源として嫌われがちという側面もある。しかし状況は変化してきた。ネットワークオーディオも、望むオーディオ品質のレベルによって機材を選べる状況になってきたからだ。

・ハイエンドオーディオ

LINN「Kilimax DS」

 ハイエンドのオーディオメーカーでネットワークオーディオ製品を出しているメーカーは少ないが、昨年、スコットランドのLINN Productsが「Klimax DS」を発表、発売したことで状況が変化した。

 Klimax DSはLANインターフェイスやデコード処理やネットワーク処理を行なうプロセッサ部が、オーディオ回路に影響を与えることを嫌い、アルミブロックを個々の機能部分ごとの部屋に分けて切削。その間をカード電線でつなぐ構成になっており、ネットワークの利便性とハイエンドオーディオ品質の両立を実現した。

 Klimax DSは294万円とハイエンドCDプレーヤーと同程度の高価な製品だが、LINNはその後、89万2,500円の「Akurate DS」(こちらは一般的な上級機ライン)も発売。DLNAに対応し、ロスレス圧縮オーディオのFLACに対応している。内部回路はほぼ同じで、筐体構成の違いからノイズ対策が少し違う(ライン出力フィルタの構成がやや違うそうだ)だけという製品を出している。

Kilimax DS。各種NASなどと組み合わせてネットワークオーディオを実現 Kilimax DSの操作画面

 なお両者にほんの少しだけ違いがあり、Klimax DSの方が若干、S/N感が良く見通しの良い音がするが、価格差を考えるとハイエンド機器としてはAkurate DSの方がお勧めだ。両者に共通するのは情報量の多さと透明感、定位や音像の明瞭さで、基本的な音のレベルの違いこそあれ、これらはネットワークオーディオ機器に共通した特徴だ。

Akurate DS Akurate DSの背面

LINN「Sneaky Music DS」

 本来なら両者に圧倒的な差があってもおかしくない筐体構成の違いだが、メカニカルなCDドライブが廃されているため、大きな違いにならなかったのかもしれない。CDドライブから直接読み出す場合は、筐体構成による振動の影響に違いが出るハズだが、ネットワークオーディオ機器では、それらはあまり関係ないからだ。

 なお、LINNはSneaky Music DSという、20×2Wのステレオアンプやデジタル出力端子を備えた普及型製品(従来機はいずれもデジタル出力を備えていない)も近く出荷する。こちらは日本での価格が決まっていないが、30万円程度になるとのことだ。


□製品情報(LINN Klimax DS)
http://www.linn.jp/products/new/klimax_ds.html
□製品情報(LINN Akurate DS)
http://www.linn.jp/products/detail/ds.html

・インストーラ向けシステム

 日本ではあまり見かけないが、欧米では各部屋にオーディオ機器を埋め込んでおき、各部屋に音や映像を配信するシステムが以前から使われていた。以前は音楽を集中管理しつつも、配信は長距離接続を意識したアナログ技術で行なっていたが、最近はEthernetを使うことが多くなっている。

 米国のEscientの製品が広く知られており、中でもMXシリーズはDVDドライブとHDDを内蔵し、CD再生、DVD再生、CDリッピングを備え、大容量DVDチェンジャーとの連携機能でチェンジャーに収めているDVDのカタログ情報を見ることができる。CD、DVDプレーヤー+CDリッパー&ネットワークオーディオサーバー/クライアントという製品である。CDリッピングはWAVやMP3の他、FLACを用いることができる。

 とても便利な製品なのだが、クライアントとして使う場合はDLNAではなく、独自プロトコルのサーバーとしか繋がらない。一方、サーバー機能はDLNAにも対応しており、他のDLNAオーディオ機器のサーバーとして使うことも可能だ。また、Escient製クライアントとの接続では、暗号化された通信を行なうことでDVDのネットワーク配信も実現している。

 ただし音質は今ひとつ。決して悪くはないのだが、同等価格のCDプレーヤーと比較すると、仕組みからすれば有利なはずにもかかわらず、あまりパッとしない。現在はD&Mホールディンググループの一員であり、日本でもマランツが販売し ている。

・ネットワークオーディオ専業メーカー

 代表的な製品にはROKU Labs.のSound Bridgeや、Slim DeviceのSqueeze Boxがある。前者は未試聴だが、後者には音質重視のTransporterという製品もある。ただしアナログ出力は音像が甘くS/Nや歪み感も並。同種の製品の中では高音質だが、オーディオファンは、別途DAコンバータを用意する方がいい。デジタル出力の質はかなり高い。

Sound Bridge M2000(左)、M1001(右) Squeezebox Duet

 インストーラ向けシステムも独自プロトコル(といってもUPnPベースであることは同じで、制御手順などが異なる)を採用して機能的な差異化を図っていたが、これらの製品の中にも、そうした手法を採用しているものが少なくない。

 特にSlim Deviceのサーバーは非常に高機能で、サーバー機能を強化するプラグインも数多く開発されている。これはSlim Deviceのサーバーがプログラムが書きやすく、改変/拡張もしやすいPerl言語で開発されているからだ。オープンソースでの開発になっており、ユーザー自身による拡張やプラグイン開発が活発。単なる音楽配信サーバーを超えて、面白い機能が多い。部分的にだが日本語化も進められている。

 ちなみにSlim Deviceは米Logitech(日本でのロジクール)が親会社となっており、日本での発売も期待されるところだが、現時点では検討中ではあるものの、具体的な事業計画はない。

 このほかDLNA対応オーディオクライアントは多数あるが、あまりに数が多いのでここでは割愛したい。

□Slimdevicesのホームページ(英文)
http://www.slimdevices.com/
□関連記事
【2005年8月23日】アスク、無線LAN対応のネットワークオーディオプレーヤー
-ドルビーデジタル/DTSの5.1ch出力もサポート
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050823/ask.htm

・ゲーム機

 Xbox 360とPS3が、DLNAサーバー上メディアを再生する機能を持っている。Xbox 360の位置付けはWindows Media Centerのクライアントという位置付けで、Media Centerとともに利用する場合には使いやすい。

 PS3のDLNAクライアント機能は、サーバー側の対応も必要だが、メディアに埋め込まれたジャケット写真などの表示にも対応しており、何よりスピードが速いのが特徴だ。大量のメディアリストも一気に読んで、ビュンビュンとスクロールしながら選べる。

 現在のところ、PS3でのDLNA音楽再生はCD再生時のようなアップサンプリング処理は行なえないが、SCEによると「BDプレーヤー機能の改善に力を入れていたため、単純にそこまで開発が回っていなかっただけ」とのこと。内部ではHDD上、USBメモリ上、DLNAサーバー上のメディアファイルを、DVDやCD再生と同等の品質で再生するモジュールが動いているとのことなので、時間の問題でそのうちアップサンプリング対応するだろう。

 PS3のDLNAクライアント機能が、日本だけでなく、世界的に受けるのは、ひとつにはHD映像を軽々デコードできるパワーや操作レスポンスの速さが魅力ということなのだろうが、先日のアップデートでPSPをリモコンとしてDLNAクライアント機能を利用できるようになったことも理由の一つになっているようだ。

PLAYSTATION 3 Xbox 360


■ トランスコード機能付きDLNAサーバーを使うと……

 このようにネットワークオーディオは、幅広いレンジに製品画登場し始めているところだが、もうひとつサーバーの方も高機能化し、また選択肢の幅も広がってきており、これまでより柔軟な環境を構築できるようになってきた。

 たとえば筆者の場合、CDを購入すると……

  • Mac OS X Serverをインストールした旧Mac mini上のiTunesを用いてApple Losslessで録音(配信とマスター保管用)
  • 普段使っているMac ProのiTunesを用いてAAC 192kbpsで録音(iPodとの同期用)

という作業を行なう。購入したCDは棚に一応置くのだが、SACD層を持つもの以外は、自宅外でメーカーや雑誌社の視聴室でテストを行なうとき以外、ほとんど使うことはない。

 OS X ServerにはリニアPCMへのトランスコード機能を持つDLNAサーバーとSqueeze Centerをインストールしてあり、クライアントとしてTransporterと、DiXiM内蔵のAVアンプ「SC-LX90」、PS3をネットワーク上に配置している。

パイオニア「SC-LX90」 Transporter Squeeze Center

 Apple LosslessコーデックをデコードできるのはTransporterだけだが、他のデバイスに配信するDLNAサーバーにリニアPCMへのトランスコード機能付きのものを使っているため、LX90やPS3でも問題なく再生することができる。

 このような2重構成になっているのは、Apple Losslessのデータだけをバックアップしておけば、いつでもiPod用ライブラリを復活させることができること。そして、iPod側の容量が不足気味になってくると、DRM付き以外のファイルをすべて消してしまい、Apple Losslessデータから変換して復帰させるのが容易だからだ。

 このあたりは利用しているツールや環境でも異なる。Mac OS XではiTunesが一番便利なので使っているが、Windows環境ならばFLACの方がツールが多いので都合が良い。

 なお、データ変換にはMac OS X上ではXLD、Windows上ではdBpoweramp Music Converterを使用している。大量のデータを変換するなら、複数のサブフォルダを一気に変換できる後者の方が便利なので、Mac OS Xユーザーでも後者を使った方が作業は楽だろう。XLDにはコマンドライン版もあるので、コマンドライン上でバッチ処理できる人は、そちらを使うのもいい。

 この両者は、いずれもメタ情報を可能な限り継承してくれ、ジャケット写真もコンバートしてくれる。ただし埋め込まれているデータのみ。iTunes内部で管理されているデータはコンバートしてくれないので、ツールで再埋め込みしておく必要がある。


■ 各プラットフォームで使えるDLNAサーバーは?

 DLNAサーバーを構築するための選択肢についても、簡単にトランスコードが必要な場合と、不要な場合に分けて紹介する。

・オーディオトランスコードが不要な場合

 FLACやApple Losslessで圧縮保存したいが、クライアントはこれらフォーマットをサポートしていない場合はトランスコードが必要だが、そうじゃない場合はトランスコードにこだわる必要はない。

 トランスコードが不要な場合は、必ずしもパソコンの強大なパワーは必要ないので、一般的に販売されているDLNAサーバー機能付きのNASを購入するというのが、一番、手軽な手法だ。この際、注意したいのが、サーバーが音楽ファイルとして認識するファイル種別を考えておくこと。

 たとえば日本で最も多く使われているだろうDLNAソフトウェアのデジオン「DiXiM」は安定志向で、接続の互換性や製品に組み込まれている時の安定性が高いのだが、音声フォーマットはWAV、MP3、WMAなどDLNA標準フォーマットのみで、ロスレス圧縮の形式は音楽ファイルとして認識しない。タグ情報を読まないので、ジャンルやアルバムなどのリストに現れない。

Twonky Media バッファロー「Linkstation mini」

 個人的には有償ではあるが、Twonky Mediaというサーバーが利用メモリサイズも小さく動作が軽く、比較的安定していてインストールしやすいのでお勧め。FLACのタグを認識するほか、日本語にも対応している。バッファローのLinkstation miniがNAS機能の一部としてTwonky Mediaを使用している。

 Twonky Mediaを勧める理由は、FLACを認識するだけでなく、iTunesライブラリのデータ(XMLファイルで保存されているタグ情報)から音楽ライブラリを構築できるので、タグを埋め込むことができないWAVでの管理がしやすいから。ただし圧縮しないので、当然、ファイルサイズは1.8倍ぐらいになる。

 またデータをユーザーに見せる際の仮想フォルダツリーの構造を、簡単にカスタマイズできる点も使いやすい。大量の楽曲から目的のファイルへと絞り込んでいく際の思考の流れを、自分の好みに合わせて簡単にカスタマイズできるわけだ。

 なお、Windows、Mac OS X、Linuxなど各種プラットフォームに対応しているが、ソフトウェアとして単体購入する場合は有償(試用期間あり)となる。もし無料で使いたいとなると、後述するTVersityやMediaTombといった選択肢もあるが、前者はWindows専用、後者はインストール手順がやや煩雑になる。

 また、Mac OS Xをサーバーにする場合で、実際に自分で使っているMacのiPhotoアルバムデータを活用したいというのなら、MediaLinkというサーバーもある。動作が軽くインストールも至極簡単で設定項目も少ないが、対応する音声フォーマットはMP3、AAC、WMA、WAVのみ。トランスコードも行なわないので、前記のファイル形式で音楽管理している人向き。ただし、トランスコードが必要ないのなら、PS3との相性は良好だった。

□関連記事
【3月5日】バッファロー、小型の1TB LAN HDD「LinkStation Mini」
-外出先からのアクセスやDLNAに対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080305/buffalo3.htm

・オーディオトランスコードが必要な場合

 トランスコードが必要となると、基本的にはNASではなく、PC上でDLNAサーバーソフトを動かすことになる。一部のNAS(といいつつ、中身はLinuxサーバー)はトランスコードが可能なものもあるようだが、一般的にネットワークハードディスクとして販売されているものの多くは、トランスコードを利用できないと考えておこう。

TVersity

 ということで、パソコン上で動作するトランスコード付きサーバーを探すことになるが、もしWindowsマシンをサーバーにするならば、前述したTVersityを最初に試してみるといいだろう。どちらかといえば動画のトランスコードを自在にできることが売りのサーバーだが、無料で利用できることや、DirectShowフィルタを用いて自在にトランスコードが可能な柔軟性が魅力。クライアント機能もあるので、各パソコンで相互に映像を配信しあう使い方もできる。

 DirectShowフィルタには多くの動画コーデックに混じり、FLACやApple Losslessに対応するものもネット上で入手できるので、保存フォーマットの形式で悩む必要はない。インストーラには最新のffdshowをダウンロードしてインストールする機能も備わっている。ただし、Apple Losslessに関しては別途、コーデックをインストールしなければならない。

 一方、Mac OS X上で動くものだが、つい最近までは選択肢の幅は大変に狭かった。有償の製品にはMac OS Xをサポートしたものも多いが、オーディオのトランスコードもできるものとなるとほとんどなかった。


eyeconnect

 しかしここ数カ月でずいぶん状況が変化してきた。最近使っているのはeyeconnectというもので、もともとはMacにテレビ機能を付加するeyetvという製品の映像をネットワーク越しに見るためのものだ。iPhotoで管理しているアルバムをDLNAサーバーとして、サイズの大きなものは自動的にリサイズして転送してくれる他、iTunesで管理しているライブラリをそのまま配信できる。しかも、スペックシート上ではサポートが明記されていないが、Apple LosslessもリニアPCMに変換して配信してくれる。どうやらQuickTimeを使ってデコードを行なっているようで、メタ情報さえ読めれば(Apple LosslessはM4A形式のコンテナを使っている)対応できるようだ。

 以前は不安定でインストーラもうまく動作しないケースがあったが、現在は日本語版も存在し、インストールも管理も簡単。短所はPS3で利用する際、楽曲のアイコンにジャケット写真が出ないことと、ライセンス料金がやや高い(49.95ドル)こと。ただし、音楽だけの配信サーバーとしてならば、試用版を継続して利用できるとマニュアルには記載されている。

 さて初回はかなり長くなってしまったが、次回は非DLNA対応製品のSlim Deviceの製品について、我が家での利用事例も含めて紹介したい。


(2008年5月1日)


= 本田雅一 =
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]


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