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西田宗千佳の
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ようやく実現した「Vistaのネイティブ地デジサポート」
−「遅れた原因」と「狙い」から考える日本のテレビ事情


 6月13日、マイクロソフトはWindows VistaのMedia Center機能を使った、地デジのネイティブサポートに関する会見を行なった。5月のビル・ゲイツ氏来日の際に公開時期が明示され、期待も高まっていたことから、会見にはたくさんの報道関係者が集まった。

13日にマイクロソフトがVistaの地デジ対応を発表

 だが、会見後の会場の雰囲気は、期待半分、落胆半分、といった印象だった。理由は、Media Centerでの地デジ機能が提供されるのは「メーカーから出荷されるPCのみ」で、すでにVistaを持っているユーザーや自作ユーザーに対しては提供されないからである。

 時間はかかったものの、周辺機器による「地デジ拡張」は、すでに5月より解禁になっている。それにも関わらず、なぜ「Vistaで地デジ」は一歩遅れた形となったのか? そもそも、なぜここまで「パソコンでの地デジ」には困難がつきまとうのか?

 今回は、そのあたりの状況をまとめてみよう。なお、Vistaでのネイティブサポートの機能詳細や今後については、別途取材を予定しているため、ご期待いただきたい。



■ 地デジ視聴の「第三の道」。問題は「B-CAS」に

 現在、パソコンで地デジを見る方法は3つある。一つは、PCメーカーが独自に開発した「地デジ機能」を搭載したPCを購入すること。現在は、これが最もメジャーな方法だろう。

 二つ目は、周辺機器メーカーが販売する「地デジ対応チューナ」を購入、PCに増設することで視聴する方法だ。こちらは、今年5月からようやく解禁になったところで、まだまだ市場は広がっていない。

 今回マイクロソフトが発表したのは「第三の方法」。Windows Vista Home PremiumとUltimateに搭載されている「Media Center」に、日本の地デジへ対応するための追加パックである「Windows Media Center TV Pack」を追加し、対応チューナを組み込むことで実現されるものだ。

 第三の方法、と書いたが、実際には第一の方法に近い性質をもっている。すでに述べたように、ユーザーへの提供方法は、PCメーカーより「地デジ機能付きPC」として出荷する形のみ。第一の方法と違うのは、「PCメーカーが独自に開発するソリューション」なのか、「OSメーカーであるマイクロソフトが提供するもの」なのか、という部分だけである。

富士通の地デジ対応リビングPC「FMV-TEO/A90D バッファローのPC用地デジチューナ。USB 2.0接続型「DT-H30/U2」(左)、PCI接続型の「DT-H50/PCI」 Windows Media Center TV Packのメインメニュー

 と、ここまで書くと、PCでの地デジ視聴の「奇妙さ」がはっきりと見えてくるのではないだろうか。

 そもそも、ソフトとチューナカードを追加すれば見られるはずの「地デジ」が、なぜこんなにも回りくどいことをしないと見られないのか? 答えは「B-CAS」にある。


■ 複雑で明確でない「地デジ認証プロセス」
 日本的システムに阻まれたマイクロソフト

 ご存じのように、地デジにはB-CASカードを利用したDRMがかけられており、B-CASカードの発行を受けた機器でなければ、地デジの受信は出来ないことになっている。当然、PCも例外ではない。

 問題は、B-CASカード発行を受けるための条件と、その認証プロセスにある。B-CASカードを発行するのは、放送各社や家電メーカーが出資して設立した「株式会社ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ」(B-CAS)。この会社が発行基準とするのは、社団法人・デジタル放送推進協会(Dpa)の定めるガイドラインだ。そしてこのガイドラインにおける技術的用件・運用規定は、社団法人電波産業会(ARIB)が策定する。

 複雑でわけがわからなくなりそうだが、要はこういうことだ。ARIBが定めた運用規定を製品化する企業側が解釈、できあがった製品がガイドラインに則っているか、Dpaへお伺いを立てた上で、B-CASへとカード発行依頼をし、製品化に至る、という流れである。

 特に問題となるのが、「Dpaのガイドラインに適合させる」という点だ。こう書くと、いかにも「Dpaが地デジ受信機としてふさわしいか、機器を審査している」ように見えるが、決してそういうわけではない。Dpaはあくまで「ガイドラインを策定する団体」であって、認証機関ではないからだ。

 そもそも、ARIBの定めるものもあくまで「運用規定」に過ぎない。実装のための技術的条件を詳細に詰めたものではなく、多様な解釈が可能な曖昧さを残したものである。ガチガチの技術用件では自由度が失われ、各企業での工夫が難しくなる。コピーワンスの時代から、富士通のPCのみディスクへのダビングが実現されていたり、ソニーのレコーダでPSP/ウォークマンへの「おでかけ転送」が実現されていたりするのは、こういった事情に基づく。

 だが逆にいえば、「その実装でも問題ない」ことについて、誰かが責任をもつ必要も出てくる。簡単にいえば、現在は「その実装を行なった企業」が責任を持つ形になっている。

 自助努力で成り立っている、といえば聞こえはいいのだが、逆にいえば、ある程度の「根回し」がないと、他メーカーや権利者の理解を得にくい仕組みともいえる。

 こうした業界標準技術を規定する場合、第三者的な「認証機関」を設置し、そこのテストを通ればOK、とする例が多いが、日本のデジタル放送の場合、そうはなっていない。

2006年5月のWinHECで示された日本向けデジタル放送対応に必要なチャレンジ。技術用件よりも、権利/規格適合認証のハードルを強調

 これは、海外メーカーからすればきわめて不可解なシステムに見えるようだ。

 Windows Vistaが発売される半年前、2006年5月にマイクロソフトが主催し開かれた開発者会議「WinHEC2006」では、デジタルTV開発に関わる諸条件を説明する中で、特に日本の事情について、次のような説明が行なわれている。

「日本向けのデジタルテレビ実装においてのチャレンジは、技術的な用件以上に権利・規格適合認証のハードルが高い」

 当時のプレゼンテーションでは、なによりも最初にそれが説明された。

 当時は、2007年中にもVistaで地デジ対応を行なう、という計画であったが、技術仕様などが二転三転し、結局1年以上遅れ、ようやく形となった。技術的な難易度も高かったようだが、それ以上に、マイクロソフトという企業が、信頼を得た上で「日本的ルールの枠組に入っていく」ことそのものに、多大なエネルギーが必要であったのは間違いないようだ。


□関連記事
【2006年5月25日】2007年中にWindows Vistaで地デジ対応に
海外から見た“不思議の国”日本の「デジタルテレビ」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060525/winhec2.htm


■ OSメーカーという立場から中小メーカーと組んで「地デジ」を後押し

 残る疑問は一つ。なぜ今回、「PCとしての出荷」のみが認められ、既存ユーザーへの機能解放が認められなかったのか、ということである。

 会見にて、マイクロソフト デジタルエンターテイメントパートナー統括本部の笠原健司部長は、「マイクロソフトとして初めての地上デジタル対応であり、まずはコンテンツ保護に注力し、放送局や関連団体に取り組みを理解してもらうことが大切と考えた」と説明した。これはすなわち、前出の枠組みの中では、まだ今回のソリューションが「周辺機器として出荷した際の用件を満たしている」とのコンセンサスを得られていない、ということを示している。

 そもそも、元々地デジ関連機能が「PC製品としてのみの出荷」にとどまっていた理由は、万が一コンテンツが流出した際、誰が責任をとるのか、という部分が明確でなかったから、という事情がある。

 PCとしてメーカーから出荷する場合には、DVDレコーダーなどを出荷する場合と同じく、責任を出荷したメーカーが負う。周辺機器の場合には、周辺機器メーカーが主に責任を負うことになる。

 では、OSネイティブで地デジに対応するVistaの場合にはどうなるのか?

13日に開催された会見における、Vista対応のパートナー企業一覧

 会見にて、マイクロソフトは「地デジ搭載Vista」がいつ出るのか明言を避けている。理由は、製品を出荷するのはあくまでメーカー側であり、マイクロソフトはその機器に「一部品」であるOSを提供する側、という立場であるからだ。

 B-CASカードの配布を受けるのは、あくまでPCとして出荷するメーカー側である。さきほどの「責任論」でいえば、責任はPCメーカーにある。

 だが、これまでの地デジPCと、今回のVistaによる地デジPCとでは、大きな違いが一つある。

 マイクロソフトの関係者は、今回の機能の本質を、「大手メーカーでなくとも、地デジ対応PCを出荷できるようになったこと」と話す。

 これまで地デジ対応PCを出荷していたのは、家電も手がける大手PCメーカーと、チューナカードのOEMを行うピクセラのような企業が主体だった。彼らは日本の「テレビ産業」に詳しく、どのようにコンセンサスを得て、製品化に向かえばいいかをよく知っている。また、他社から見ても「仲間内」であり、お互い様、という「空気」がある。

 だが、BTOを中心としたPCメーカーにとっては、日本の「テレビ産業」は別世界。商品化へのハードルは、技術やコスト以外の点で大きかった。

 だが、今回マイクロソフトが音頭をとったことで、そのようなメーカーでも、マイクロソフトと組んで地デジへの参入が可能となる。参入可能なメーカーが増えれば「パソコンでの地デジ」が市民権を得て、市場が広がり、ひいては地デジの普及にも貢献できる、と考えたわけである。

 この流れから考えれば、現時点では「PC製品として」のみ出荷が許されているものが、チューナカードとともに「既存ユーザー向け」に出荷できるよう、段階的に門戸が開かれて行く可能性は高い。ただしその際、技術的により厳密な著作権保護の仕組みが要求される可能性もある。

 現在のVistaによる地デジPCでは、ダビング10に代表される「ディスクへのライブラリ化」に関する機能が欠けている。そのため、あまり魅力的に感じない人もいるかも知れない。

 だが、「見て消し」を中心としたソリューションと考えれば、Vista+Media Centerという形はかなり魅力的なものだ。なにより、家電では味わえない、「羽の生えたような」快速な操作は、サクサク感を重視するPCユーザーの生理に合っているはずだ。

 Vistaでの地デジ対応は、「現象面」だけを見れば小さな一歩かも知れない。だが、数年後の「テレビライフ」を考える上では、非常に重要で、大切なブレイクスルーだといえるのではないだろうか。



□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=3467
□関連記事
【6月13日】MS、Windows Vistaを地デジ対応に
−パッケージ販売やWindows Update提供の予定無し
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080613/ms.htm
【2006年5月25日】2007年中にWindows Vistaで地デジ対応に
海外から見た“不思議の国”日本の「デジタルテレビ」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060525/winhec2.htm

(2008年6月20日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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