【バックナンバーインデックス】



“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第370回:ついにAVCHDの限界まで到達、キヤノン「HF11」
~ コーデック戦争終結その先は…… ~



■ 規格上の頂点へ

 ビクターがハイブリッドながらAVCHDに対応したことで、事実上ハイビジョンのスタンダードフォーマットは、AVCHDであるという形で決着したと思っている。逆にAVCHDではないハイビジョンカメラは、三洋Xacti、日立BDCAMぐらいとなった。東芝も一応ビデオカメラはあるが、まあ次はないか、HD DVDが無くなった今、少なくとも今の路線からは変更しなければならないだろう。

 フォーマットがある程度固定化されれば、あとはその中でいかに画質を求めていくかということになる。AVCHDの規格上のビットレート上限は、DVD記録前提で発表された時点では18Mbpsだったが、その後HDDやメモリ用に拡張されて24Mbpsとなった。

 現在発売されているAVCHDカムコーダの最高画質モードは、DVDメディアとの互換を考えてビットレートが16~18Mbpsとなっている。しかし昨日発表されたキヤノン「iVIS HF11」と「iVIS HG21」は、最高画質モードで規格上の上限である24Mbpsを採用した。

 ビットレートに関しては、いずれどこかが上限を目指すだろうと予想していたが、記録時間が長い方がいいという単純化されたニーズもあるため、もう少し時間がかかるものと思っていた。しかしHF11では内蔵メモリを2倍にすることで、前モデルと同等以上の記録時間を確保した。今回は早くもHF11をお借りすることができた。

 これ以上はない規格上の限界まで攻め込んだキヤノンの新モデルの実力を、試してみよう。


■ デザインはほぼ同じ

 HF11は、ダブルメモリーでヒットしたHF10の上位モデルである。型番が前モデルのHF10と少ししか変わらないことから、今回はマイナーアップデートと考えてもいいだろう。デザイン的にもほとんど違いはなく、従来濃いシルバーだった部分が黒になっている程度である。なおHF10はこの秋も継続して販売される。


サイズ、デザインは同じ。左がHF11、右がHF10 パーツのカラーリングが異なる程度

ワイドコンバージョンレンズの新モデル「WD-H37II」

 レンズやセンサーなど光学部分も全く同じだ。ただ今回のタイミングで、ワイコンの新モデル「WD-H37II」が出た。以前よりも周辺部のキレが改善されているという。キヤノンのワイコンは評判が高く、他社メーカーのユーザーもワイコンだけはわざわざキヤノン純正品を使う人もある。フィルタ系が37mmなので、ほかのカメラでも付くものがあるだろう。

 HF11は外測センサーを採用しており、ワイコンを装着するとセンサー部が隠れてしまう。しかし外測センサーで距離が測れないときは自動的にノーマルAFになるので、切り替え操作などは必要ない。

 内蔵メモリは前モデルHF10が16GBだったのに対し、HF11は倍の32GBを搭載。新録画モードを含めた録画時間は以下のようになっている。もちろんSDカードにも同じレートで撮れるが、FXPモードとMXPモードで撮影するには、Class4以上のカードが必要となる。

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイコン使用 ワイド端 テレ端
動画(16:9)
30.03mm

42.9mm

514.8mm
静止画(4:3)
27.51mm

39.3mm

471.6mm


動画サンプル
モード ビットレート 解像度 内蔵メモリ
記録時間(32GB)
サンプル
MXP 約24Mbps 1,920×1,080ドット 約2時間55分
ezsm021.mts (31.4MB)
FXP 約17Mbps 約4時間10分
ezsm022.mts (25.0MB)
XP+ 約12Mbps 1,440×1,080ドット 約5時間40分
ezsm023.mts (19.1MB)
SP 約7Mbps 約9時間35分
ezsm024.mts (13.7MB)
LP 約5Mbps 約12時間15分
ezsm025.mts (9.50MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい



■ 余裕ある柔らかい絵作り

 では実際に24Mbpsでの撮影を試してみよう。カメラ操作そのものは、HF10となんら変わることはない。今回はあいにくの曇天に時々晴れ間が覗く程度の天気だったため、30PFだがシネマモードではなく、ノーマルで撮影している。

 ビットレートが十分使えるようになったことで、圧縮に起因する破綻はほとんど感じられない。もっとも従来機でも圧縮に関しては問題は少なかった。FXPモードでも、かなり限定されたシーン、例えば砂浜と打ち寄せる波とか、ディテールが細かくほぼ全画面で動きがあるような場合で、ちょっと厳しい感じがした程度である。

動画サンプル

sample.mpg (366MB)
Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2 50Mbpsで出力した
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 しかし今回のMXPモードでは、ビットレートが一気に7Mbpsもアップしたこともあって、そのあたりで押さえ込まなければならなかった部分も楽に表現できる。むしろこれまで若干ギスギスしていたエッジ部分もやわらかくなり、キヤノンレンズらしい味が表現できるまでになってきた。被写界深度外のわずかなボケ、空の抜けなど、漠然とした部分の表現もぼこぼこした感じがなく、非常になめらかだ。さらに夏の曇天特有の、ねっとりとした空気感まで伝わってくるようだ。

しっとりした空気感も十分に表現可能 ボケの表現もなめらかだ

 微細な表現が可能になったぶん、逆にフォーカスの決め所が気になるシーンもあった。いや撮影時にファインダで見た限りでは、そこまで深度は浅くないだろうと思っていた部分が、実は微妙にフォーカスの芯から外れていたのを、あとで大画面テレビで見て初めて気づくケースが多くなった。やわらかさを出そうと絞り優先で開け気味で撮っていたのだが、現場での正確なモニタリングが難しい現状では、素直にプログラムモードで撮るのが無難かもしれない。

液晶モニタでは手前の花も深度に入っているように見えたのだが…

 AFに関してもう少し言及すると、外測センサーを用いたAFはナチュラルな追従をするため、ビデオでの撮影では問題は少ない。しかし静止画モードでは、シャッターの半押しでマルチ測距したときに、全然違うところにフォーカスが合ったりする。半押しする前のほうが正確というのは、今後の課題だろう。簡単にフォーカスロックできるショートカットか、半押しせず一気にシャッターを押しきったらそのまま撮れるといったファンクションが欲しい。


外測センサーではうまく撮れていたのだが 静止画モードのAFでは背景にフォーカスが合ってしまう

 また今回新しく登場したアクセサリに、ビデオライト「VL-5」がある。HF11にも内蔵のLEDライトがあるが、VL-5のほうは色温度が低く、拡散光である。電源はアクセサリーシュー経由で取るので不要だ。またAUTOモードにしておけば、暗所で自動的に点灯する。9月発売で、予価9,000円。


室内でもナチュラルに撮影可能なビデオライト「VL-5」 背面にモード切替スイッチがある

 実際にろうそくのみの明かりでテストしてみたが、本体のLEDライトを使うと、色温度の低いろうそくと色温度の高いLEDの光が混じって、変なバランスとなってしまう。だがVL-5ではナチュラルなライティングとなっている。

動画サンプル

room.mpg (60.8MB)

light.mpg (91.2MB)
通常の室内サンプル。ライティングなし ろうそくの明かりで撮影。順にライティングなし、内蔵LED、VL-5
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 写真では暗ければ当たり前にフラッシュを焚いて撮影する一方で、ビデオではライトなしで暗いの汚いのと言われるのは、メーカーにはなんとも気の毒な話である。プロフェッショナルならば、室内撮りではライティングするのが当然なのであるが、なかなかそういう現場を一般の人が遭遇する機会がないというのも、一つの原因かもしれない。VL-5のような廉価で小型のビデオライトは、コンシューマでも動画撮影のライティングに対する意識を高めるいい機会となるだろう。

 ただ残念ながらVL-5は、アクセサリーシューが特殊なので、他メーカーのカメラには付かない。


■ 保存・再生はBD対応に

 ビットレートが上がったことで気になるのが、DVDへの保存と再生互換である。DVDへの書き込みは別にリアルタイムでなくても構わないわけだが、再生規格としての24Mbpsは、これまでAVCHD規格でも想定されていない。したがって今回のHF11のMXPモードでの保存は、若干変則的となる。

 今年3月に発売されたDVDライター「DW-100」を使えば、MXPモードそのままのビットレートで記録が可能だ。この場合DVDメディア1枚に、約25分収録できる。

 ただしこのメディアの再生は、DW-100とHF11の組み合わせのみ可能となる。つまりMXPモードで記録したAVCHDのDVDは、BDレコーダなどでは今のところ再生できない。もっともSONYやPanasonicが24Mbpsを採用すれば、両社のBDレコーダなどで再生できるようになる可能性がないわけではないが、現時点ではできないと考えておいた方がいいだろう。

【8月11日追記】
 キヤノン株式会社は8月8日に、「iVIS HF11/HG21」において、24Mbpsの「MXPモード」で撮影した映像を別売DVDライター「DW-100」で書き出す機能を搭載しないと、仕様変更を発表しています。(編集部)

 PCを使ったバックアップでは、付属の「ImageMixer 3 SE Ver.3」が対応する。今回は新しいImageMixerは残念ながら入手できなかったが、資料によればDVDメディアへの保存時には24Mbpsのままでは書き込みできず、自動的に18Mbpsにトランスコードされる。つまりAVCHDメディアとして再生互換のあるDVDが焼けるというわけだ。

 だが今回のImageMixerは、Blu-rayの書き込みにも対応している。Blu-rayであれば、24Mbpsの画質そのままで保存が可能だ。またSDカードに記録/コピーしたMXPモードの映像は、VIERAのようなSDカード再生機能付きテレビで再生可能となっている。


■ 総論

 HDVフォーマットは25Mbps CBRのMPEG-2なわけだが、AVCHDもビットレートでほぼそれに匹敵するようになった。一般的にMPEG-4はMPEG-2より2倍の圧縮効率を誇るわけだから、解像度の問題を別にしても、MPEG-2で換算すれば約48Mbps相当の画質が出る可能性があるということになる。

 もっとも圧縮効率で2倍あるからと言って、単純にHDVに比べて画質が2倍いい、とはなかなか言い切れない。画質というのは多分に感覚的な部分も多く、ビットレートに対してリニアに推移しないものである。またこの24Mbpsという空間をどのように使うかというのも、今後の課題だろう。例えば現時点のAVCHDは4:2:0だが、余裕があるなら4:2:2にすべきという考え方もあっていい。

 AVCHDは、メモリーモデルで十分な容量と価格競争力、そして高画質を持つに至った。今後はHDD搭載モデルをいかに特徴付けていくかが課題となるだろう。大容量のHDD搭載モデルであれば、そもそも残量を気にすることなく高ビットレートで撮影できる。それならばいっそAVCHDフォーマットを飛び出してBlu-rayフォーマット準拠にすれば、54Mbpsぐらいまで拡張可能なはずである。

 PCでの編集や再生を考えると、AVCHDは高圧縮過ぎて再生すらままならないというジレンマもある。今年から展開が始まるIntel Centrino 2搭載マシンでは、ノートPCでもBlu-rayの再生が可能と言う。その一方で、プロフェッショナルユースのCanopus HQ CodecやApple ProRes422は、元素材の約10倍ぐらいの低圧縮ファイルに展開するから、そこそこのマシンでもマルチレイヤーであのアクセススピードが実現できるわけである。

 もちろんこれ以上いらないよ、という人もいるだろう。コストバランスを考えてそこで立ち止まれるのも、コンシューマの面白いところだ。これ以上やるかやらないかは、コンシューマでいるか、プロの領域に踏み込むかの問題になってくるだろう。ある意味キヤノンは、この秋モデルでまたカメラ業界に新たな爆弾を投げ入れたということかもしれない。

□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□ニュースリリース
http://cweb.canon.jp/newsrelease/2008-07/pr-hf11.html
□製品情報
http://cweb.canon.jp/ivis/lineup/hivision/hf11/index.html
□関連記事
【7月22日】キヤノン、AVCHD規格上限24Mbps対応ハイビジョンカメラ
-内蔵32GB+SD/SDHCモデルと、120GB+SD/SDHCモデル
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080722/canon.htm
【2月6日】【EZ】メモリ内蔵の新機軸、キヤノン「iVIS HF10」
~ フルHD読み出し、フルHD記録の実力は? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080206/zooma344.htm
【1月29日】キヤノン、同社初のフルHD/フラッシュメモリ型AVCHDカム
-内蔵16GBメモリとSDカード併用など。HDV後継機も
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080129/canon1.htm

(2008年7月23日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.