【バックナンバーインデックス】



大河原克行のデジタル家電 -最前線-
薄型TV販売計画を上方修正するシャープの事業方針とは
-収益拡大を薄型TVとBDに求め、携帯電話の落ち込みをカバー




片山幹雄社長

 シャープが発表した2008年度第1四半期連結決算は、減収減益の厳しい内容となった。

 片山幹雄社長は、「多くの投資をしながら、業績が減収減益。関西風にいうならば、『なにしとんねん』といわれかねない状況」と、自らの言葉で語る。

 売上高は前年同期比6.0%減の7,478億円、営業利益は13.8%減の364億円、経常利益は22.8%減の293億円、当期純利益は2.8%増の248億円となった。第1四半期の減収および営業減益は、2002年度から四半期ごとの業績を開示して以来初めてだ。



■ 大きな転換期を迎える携帯電話事業

 減収減益の最大の理由は、携帯電話事業の売り上げの落ち込みだ。これだけで、795億円が影響しているという。

 国内携帯電話キャリア各社が、端末価格と通信料金価格が分離した新販売制度を相次いで導入。これにより、端末の実売価格が上昇したこと、2年間の長期契約が増加したことで、端末の販売台数が減少傾向にある。

同社の携帯電話2008年夏モデル

 「シェアで8掛け、販売台数で8掛け。売り上げは、8×8で、約65%の実績に留まっている」と、想定以上に落ち込んだことを示す。

 新たに中国市場向けに端末販売事業を開始したが、これが貢献するにはもう少し時間がかかる。さらに、今後は機種数の絞り込みなども視野に入れなくてはならず、事業構造の転換が求められている段階にある。

 シャープ製端末を積極的に採用してきたソフトバンクの孫正義社長は、「携帯電話端末メーカーの多くは、構造転換を迫られることになる」と指摘する。

 また、シャープの町田勝彦会長は、「端末台数が減れば、市場自体に魅力がなくなり、部品メーカーも積極的な開発投資をしなくなる。日本の部品メーカーの競争力がなくなり、日本の携帯電話から魅力的なものが登場しなくなる可能性もある」と危機感を募らせる。

 国内トップシェアを誇るシャープの携帯電話事業は、いま大きな転換期を迎えているのは明らかだ。



■ 携帯電話事業をカバーする薄型テレビ

5月に発表された液晶「AQUOS Rシリーズ」

 携帯電話事業の落ち込みを埋めるのは、やはり薄型テレビということになる。

 第1四半期決算における液晶テレビの販売金額は、前年同期比3.8%増の1,762億円。出荷台数は32%増の205万台。主な地域別の出荷台数は、国内が前年同期比24.4%増の90万4,000台、北米では前年同期比30.7%増の59万2,000台、中国は196%増の18万6,000台になった。

 「北米では大画面化が着実に進んでいる。65インチの液晶を出しているのは、当社だけ。リアプロテレビの置き換え用としても、大画面テレビが売れている。また、中国では、いよいよシャープが、ソニー、サムソンを抜いて、トップシェアを獲得した。中国においても、亀山製の品質の高さが浸透しはじめている」と語る。

 課題は欧州市場だ。第1四半期における欧州の薄型テレビの販売実績は、6.2%増の27万5,000台。

 「販売網が構築しきれていない。欧州におけるシャープの力はまだこの程度。今後は、東欧、ロシアでの地盤づくりも強化していかなくてはならない」とする。

 欧州向けには、ポーランドで液晶モジュールの生産拠点を稼働させているものの、営業、マーケティング戦略では、北米に遅れてスタートしたこともあり、体制強化は今後の課題ともいえよう。



■ 薄型テレビは1,100万台へ明確に上方修正

 シャープは、今年度通期の業績見通しを、売上高で前年比5.3%増の3億6,000億円、営業利益は6.2%増の1,950億円、経常利益は3.9%増の1,750億円、当期純利益は3.0%増の1,050億円と、増収増益を見込む。

 携帯電話事業の不振、為替の影響が大きく見込まれるなかで、この業績を達成するには、薄型テレビに頼らざるを得ない。

 第1四半期の決算会見では、大西徹夫取締役経理本部長が、「薄型テレビの通期計画は、1割以上、上振れする可能性がある」と、上方修正の可能性を示唆したに過ぎなかったが、先頃、片山社長は明確に、「1,100万台は行けると考えている。場合によっては、それを上回る可能性もある」と具体的な数字を示しながら、上方修正に言及した。

 上振れの原動力は、日本での安定した成長と、北米市場での好調ぶり。そして、中国市場における3倍増という高い成長率だ。だが、価格下落の激しい北米市場においては、シャープ自身も、その流れを避けては通れない。

 ノーブランドメーカーの勢力拡大や、米国におけるブランド力で圧倒的強さを誇るソニーとの差に加えて、サムスンなどの韓国勢は、ドル高ウォン安を背景に、価格戦略で優位に立てる点も、シャープにとっては厳しい状況といわざるを得ない。

 「いつまでも円高が続くわけではない。シャープにとっては、我慢の時期」(片山社長)というのは本音だろう。この厳しい時期を越えない限り、今後の薄型テレビにおける事業拡大、収益確保は見込めない。

夏商戦の液晶テレビラインナップ

 だが、パネル生産の効率化など、シャープの積極的なコストダウンの成果も見逃せない。

 例えば、価格競争が激しい32インチのテレビにおいては、亀山第2工場において、当初、15面取りとしていたものを、18面取りに拡大するなど、技術的進化を遂げている。この技術は、建設中の堺工場でも採用されることになり、これにより効率性が向上。堺の第10世代パネルでは、これまでシャープが弱かった42インチでのコスト競争力や、65インチなどの大画面モデルでのコストダウンが図られる。

 シャープでは、「パネルの端の部分まで効率的に活用できる技術を開発したことで、面取りできる枚数を増やすことができた。本来、端の部分は、歩留まり率が悪くなるために使用していなかったが、これを改善することで実現できたもの。単純計算で、32インチパネルの生産コストは、約2割のコスト削減が可能になった」とする。



■ 世界戦略はダブルスタンダードで

 一方、中国市場向けには、これまでは大画面モデルによって、着実にシェアを拡大。最新データでは、サムスン、ソニーをかわし、トップシェアを獲得した。さらに、今後は、20インチ台の中小型液晶テレビを、シェア拡大の切り札に据える戦略を打ち出すとともに、環境の観点からの訴求も行なっていくことになるという。

 いわば先進国と新興国との「ダブルスタンダード」戦略を展開する考えだ。

 「中国市場には、4億台のブラウン管テレビがある。これを液晶テレビに置き換えただけでも、火力発電所を5個から10個減らすことができる。沿岸部の富裕層を狙った施策に加えて、さらに顧客ターゲットを広げることで、中国における液晶テレビの拡販に乗り出していく」とする。

 20インチ台の液晶テレビのラインアップを強化したのも、中国市場におけるダブルスタンダード戦略への足がかりといえる。



■ 利益確保の切り札となるBlu-ray

7月発売の「BD-HDW30」

 一方で、利益確保の切り札となるのが、Blu-ray Discである。シャープでは、BD用の光ピックアップ、チップなどを内製しており、部品調達における優位性とともに、これが収益率の拡大にも寄与することになる。

 「これまでは、あまりBDのことについては触れてこなかったが、今後は積極的に、BDの訴求を開始したい」と片山社長は語る。

 AQUOSとのリンク機能を背景に、DVD市場におけるシェア拡大を実現してきた実績は、そのまま、BD市場においても、シェア拡大に向けた施策として活用できる。AQUOSとのセット提案が、BD市場でのシェア拡大につながり、それがシャープの収益性向上にもつながるというわけだ。



■ 薄膜太陽電池の生産規模拡大も寄与へ

 そして、収益性という点では、太陽電池ビジネスも見逃せない。第1四半期における太陽電池事業の売上高は、前年同期比38.2%増の420億円。そして、営業利益は、前年同期には16億円だった赤字を、4億円の黒字へと転換することに成功した。

薄膜太陽電池

 欧州をはじとめする海外市場における旺盛な需要を背景にするとともに、戦略的製品と位置づける薄膜太陽電池の生産規模を、現在の葛城工場における15MWを、今年10月には160MWと、10倍以上に引き上げるとともに、この生産技術を2009年度に稼働する堺の新工場に展開し、2010年には年間1GWの生産体制を確立することになる。

 結晶型に比べて、シリコンの使用量が100分の1で済む薄膜太陽電池事業を柱に据える一方、品薄となっているシリコンの外部調達体制を強化しながら、シリコンの自製化を推進。安定的な生産体制を確立しようとしている。

 「第1四半期は、太陽電池の出荷台数が見通しよりも上振れしており、同時に、収益性も回復している。太陽電池の売り上げ拡大、利益拡大に乗り出せる体制にある」とする。



■ 第2四半期以降の巻き返しはどうなるか

 シャープの第1四半期の決算を見る限り、減収減益の厳しい内容となったが、社内には、明るい材料がいくつかある。

 だが、携帯電話事業の落ち込みや、為替の影響は同社の業績に重くのしかかるのは確実だ。第2四半期以降、どんな業績になるのか。通期計画達成に向けての巻き返し策が注目される。


□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□決算資料
http://www.sharp.co.jp/corporate/ir/library/financial/index.html
□関連記事
【7月31日】シャープ、第1四半期は液晶TV売上増も、減収減益に
-液晶TVは通期出荷台数の上方修正も視野
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080731/sharp.htm

(2008年8月13日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島(宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。

[Reported by 大河原克行]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.