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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第379回:「写真動画」の夢を切り開くNikon D90
〜 写真用レンズでハイビジョンを撮る 〜



■ 動画に注目が集まるデジタル一眼

 写真では以前から当たり前に言われてきたことだが、やはり絵心というのはレンズで決まるのである。ところがビデオカメラの場合は圧縮という工程が入るために、エンコード品質も含めた「画質」というものが評価の中心になった。さらにレンズ交換ができるビデオカメラは、コンシューマとはグレードが違うことから、コンシューマ機でレンズの善し悪しを云々することは、むしろ無い物ねだりに近かった。

 これまでレンズのバリエーションを表に出してきたビデオカメラといえば、キヤノンのXLシリーズがある。EFアダプタを装着することで、EOS用レンズが使用できる。ただし画角が35mm判焦点距離の8倍相当ぐらいになってしまうので、どんなレンズも長ダマになってしまい、レンズ本来の持ち味が出せていなかった。

 以前からスチルカメラ用の単焦点レンズが直で付けられるビデオカメラを出しませんか、と各メーカーに陳情に上がっているのだが、どこからもかんばしい返事をいただいていない。いいと思うんだがなぁ。とそんな中、Nikonのデジタル一眼で720pの動画が撮影できる「D90」が発売された。

 元々デジタル一眼は筆者の範疇ではないが、動画機能が気になる人も多いようなので、取り上げることにした。静止画カメラとしての機能や評価などは僚誌デジカメWatchに任せるとして、デジタル一眼の動画撮影機能とはどういうものだろうか。その性能を検証してみよう。



■ オールドレンズも併用できるNikon

ライブビューにも対応した中級機D90

 すでに発売された機種であるので、細かいスペックはここで語る必要はないだろう。位置づけとしては、デジタル一眼の中級機としてヒットした「D80」の後継モデルで、今回新たにライブビュー機能を搭載、最高で720/24pの動画撮影が可能である。

 Nikonと言えば、フィルム時代は高級機作りは上手いが大衆機が下手、というのが一般的な認識であったろうと思う。Nikomatなどは結構いいカメラだと思うが、小型化・軽量化といった点が苦手、というより、そもそもそういうところに興味がないように思える。デジタル一眼時代になってもその傾向が強かったが、'06年に発売した入門機の「D40」が爆発的に売れ、一躍デジタル一眼のリーディングカンパニーに変貌した。

 D40のヒットの要因は、デジタル一眼にしては低価格であったという点だけではない。NikonのFマウントは、過去からマウント形状を変えていないので、ごく一部のレンズを除いて、ほとんどのレンズがそのまま装着できる。もちろん昔のレンズは電子接点など存在しないので、フルマニュアルになってしまうが、それでも名玉と言われたレンズで撮影した写真が、すぐに確認できる意義は大きかった。

 そしてD90では、レンズバリエーションのメリットそのままで、動画撮影に対応した。といっても動画撮影モードがあるわけではなく、新しく装備されたライブビューの映像をそのまま記録できる、といった意味合いが強い機能である。撮影中にライブビューモードにしたあと、背面に十字キー中央のOKボタンを押すと、動画が撮影できる。

動画はライブビューにしてセンターボタンを押すだけ ボディ横にminiHDMI端子を装備

 動画フォーマットはMotion JPEGのAVIで、解像度は1,280×720ピクセル(16:9)、640×424ピクセル(3:2)、320×216ピクセル(3:2)の3種類。音声はモノラルだ。なお最高解像度での連続撮影は、5分間という制限がある。

 今回は3種類あるレンズキットのうち、中堅の「AF-S DX 18-105 G VR」をお借りしている。名前のとおり18〜105mmだが、35mm換算では27〜157.5mmとなる。実際に撮ってみると、普通ビデオカメラで27mmなどという画角のものはまずないので、そのワイド感に圧倒される。その一方で157mmぐらいしか寄れないレンズもまたビデオカメラではあり得ないので、その寄り足り無さに違和感を覚える。


撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画(16:9)
27mm

157.5mm

 VRレンズの特徴は、レンズ内手ぶれ補正が効くということである。ビデオカメラで言うところの、光学式手ぶれ補正というわけだ。通常はシャッターボタン半押し時のみ動作する機能だが、常時動作に切り替えることで、動画時の手ぶれ補正としても使える。

 Fマウントレンズが使えるということで、レンズもいろいろ用意してみた。Fisheye Nikkor ED 10.5mm F2.8G、Nikkor 24mm F2.8、Nikkor 35mm F2、Nikkor-S Auto 50mm F1.4、AF Nikkor 85mm F1.4D、AF-S DX 18-105 G VR(レンズキット)、Nikkor-Q Auto 135mm F2.8で、フィルム用レンズは、筆者の私物である。

レンズ側に「VR」スイッチがある 今回使用したレンズ群。一番前がFisheye Nikkor ED 10.5mm F2.8G、中段左からNikkor 24mm F2.8、Nikkor 35mm F2、Nikkor-S Auto 50mm F1.4、後列左からAF Nikkor 85mm F1.4D、AF-S DX 18-105 G VR(レンズキット)、Nikkor-Q Auto 135mm F2.8



■ 「夢のようにボケる」動画撮影が実現

 まずは標準とも言えるAF-S DX 18-105 G VRから試してみた。レンズキットを使用する場合は、当たり前だがD90のフル機能が使える。すなわちオートフォーカス、手ぶれ補正、プログラムAEなどだ。AFに関しては、写真撮影時にシャッターボタンを半押しすることで機能するわけだが、動画撮影時は常時AF状態にはならない。

 動画撮影前にシャッターボタンを半押しして動画撮影を行なうことで、一応AFが使えないこともないが、被写体との距離が変わるものに関しては使えない。またビデオのズームレンズと違って、オートズームがあるわけでもない。基本的には写真のように、Fixの映像を撮っていくだけ、ということになる。

 しかしそれでも、これだけワイドで動画が撮れるインパクトというのは大きい。ただ画質面では、圧縮効率はあまり良くないのが残念だ。広角でF5.6程度まで絞ると、ほぼ全域でフォーカスが合うことになるが、周囲の細々とした木々のディテールにビットレートが取られてしまって、圧縮ノイズが結構出る。
【動画からの静止画切り出し】
これだけの広角の動画はインパクトが大きい 適度に背景をぼかした方が圧縮ノイズが目立たない

 これを避けるためには、開放めで深度を浅くして、背景はぼかしてしまった方が画質としては有利になる。元々デジタル一眼で動画を撮るということはそれを期待してのことなので、本来の目的とも合致する。

 ただISO感度やシャッタースピードは、動画撮影の場合どうも設定値通りに動かない。絞りは、ライブビューに切り替わったときの値で固定される。可変範囲は開放からF8までだ。絞りを変更した場合、一旦ライブビューを切って再びONにするという動作で、初めて絞りが動く。これは面倒くさい。

 露出はCMOS側のローリングシャッターと、ISO感度を可変させて自動追従する。要するにライブビューで出ているそのまんまを、ただ撮るだけということだ。ローリングシャッターとは、テレビのブラウン管のように上から下に順次シャッターを切る方式だ。静止画ではあまり問題にならないのかもしれないが、動画では横方向の動きに関して影響が出る。例えば横に素早くPANした場合は、上から下までで微妙にシャッターのタイミングが違うので、形状が歪んでしまう。

 VRレンズの特徴である手ぶれ補正は、手持ちでの撮影では必須だ。ワイド端ではそもそも効果は薄いが、テレ端での効果は高い。


dsc.avi (12.5MB)

vr.mpg (31MB)
ローリングシャッターでは、早い動きで形が歪む テレ端で手持ち撮影によるVR効果サンプル
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 続いてオールドレンズを試してみた。もちろんこの場合はマニュアルオンリーで絞りは物理的に閉じられるので、結果的に絞り優先となる。シャッタースピードが調整できないので露出は成り行き任せとなるが、それでも絞り開放でのボケの美しさは、これまでのビデオカメラではまず見たことがない表現だ。「映画並み」と言っても過言ではないだろう。

【動画からの静止画切り出し】
レンズキットでワイド端撮影。F5.6単焦点レンズ28mm/F2.8 単焦点レンズ35mm/F2.0
単焦点レンズ50mm/F1.4この完成度で動画が撮れるのはすごい ボケの美しさは、ビデオカメラではまず体験できない

 単焦点の明るいレンズでは、露出補正が追いつかず、飛び気味となったのが残念だ。晴天の撮影では、NDフィルタを使って調整した方がいいだろう。難点は、フルマニュアルでもライブビューとしては自動で露出補正しようとするので、撮影中に露出が変動することである。

 もっと自然に変えてくれればそれはそれでよかったのだが、段階が見えるのはあまりよろしくない。元々動画撮影はオマケのような機能なので、あまり贅沢は言えないが、せめて感度を固定できたら、もっと完成度の高い動画が撮れただろう。

 フォーカスに関しては、液晶モニタ上で拡大表示ができるので、それを頼りにマニュアルで合わせることになる。ただ、大きめの液晶モニタではあるが、長玉でシビアなフォーカスの場合は、ちゃんと合わせたつもりでも、あとでテレビで見ると微妙に外していることが結構あった。

 動画撮影時の細かい不便を上げたらきりがないのだが、あまりライブビューばかり使っていると、熱がこもって自動解除されてしまうのにはまいった。カメラ内部の温度が上昇すると、高温によるカメラのダメージを抑えるため、自動的に30秒のカウントダウンが始まり、30秒後に自動解除されるのだ。動画の撮影中でも、30秒すぎたら強制終了なのである。せっかくの動画撮影機能だが、やはり本気の動画撮影はちょっと厳しい設計のようだ。


sample.mpg (189.2MB)

room.mpg (62MB)
動画サンプル。全カットともオールドレンズによるマニュアル撮影 室内サンプル。レンズキットのAF-S DX 18-105 G VRで撮影
編集部注:Canopus EDIUS PRO 5で編集後、MPEG-2 25Mbps VBRで出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ せっかくのHDMIだが…

 続いて再生まわりを見ていこう。本機にはmini HDMI端子があり、動画をハイビジョンテレビに表示することが可能だ。しかしHDMI-CECには対応していないので、接続しただけでどうにかなったりするわけではない。これがビデオカメラならば、例えCECに対応していなくても、テレビ画面にサムネイル表示などが出続けるものだが、本機の場合は真っ暗である。再生画面を押すとサムネイルの再生待機画面が表示されるが、最初の2秒ぐらいは切れて表示される。全体的に表示動作は緩慢だ。

 動画を再生した後、ちょっと油断しているとまた真っ暗に戻る。つまり、撮影モードにすぐ戻ってしまうのである。カメラ本体のモニタ画面も真っ暗なままなので、再生作業はなんだか暗中模索状態だ。せめてHDMI接続中はカメラモードに戻らず、再生画面のままでいて欲しかった。ただまあこれも別の考え方をすれば、撮影中でもライブビューを使えば、HDMI経由で大きなテレビでモニタができる。関係者を集めての商品撮りとかには便利かもしれない。まあカメラマンはイヤかもしれないが。

 本機は写真のレタッチ機能を数多く搭載しているが、動画ファイルに対しては全く使えない。撮影後の処理は、ビデオカメラでも搭載していないのだが、もし動画でレタッチが可能になるなら、それはそれで新しいヒントになるだろう。

 動画の編集に関しては、ハイビジョンとはいっても720pのMotionJPEGなので、多くのアプリケーションでネイティブに扱えるはずだ。ただ24p対応という点は、編集結果の出力設定で注意が必要である。今回はCanopus Edius Pro 5を使って編集してみたが、ネイティブファイルのままでもストレスなく編集することができた。



■ 総論

 元々スチルカメラなので、そもそも動画撮影機能に過剰な期待は禁物なのだが、露出がマニュアルモードでも制御できないというのは、いささかがっかりだった。確かに、露出補正や、AEロックは使えるので、なんとか露出をコントロールできなくはないが、動画撮影中にそれらを活用しながら動画として成立させるのは至難の業だ。

 ただそれでも、絞りの綺麗なレンズを使えば、これだけの表現が動画でできるという可能性を見せたことは、大きな意義がある。また構造がシンプルで明るい単焦点レンズで撮れば、これだけ世界観が変わるのだということも、多くのユーザーには衝撃的な事実だろう。

 コンシューマのビデオカメラは、どうしても運動会がターゲットで、簡単、小型、軽量ということに注力してきた。その反動として、趣味として撮影を楽しむためのビデオカメラという製品が、皆無である。写真の世界では根強いこれらのユーザーを満足させるビデオカメラというのは、コンシューマレベルでは存在しないのだ。

 少なくとも本体だけなら10万以下で買えるD90は、「10万以上出してもこのボケの汚さはなんなの?」というビデオカメラのあり方に、波紋を投げかけた。さらに「圧縮は汚いけど、こっちの絵のほうがいいんじゃないの?」という評価が、現在のビデオカメラの開発者から出てくるかどうか、本気で心配になってくる。

 もし答えがあるとするならば、それはビデオカメラというジャンルではなく、デジタル一眼からしかありえないのかもしれない。それはそれでビデオ屋としては悲しいことだが、もはやデジタル一眼の進化が、単に写真機ではなくなっていく、というファーストステップを迎えたということなのだろう。



□ニコンのホームページ
http://www.nikon.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.nikon.co.jp/main/jpn/whatsnew/2008/0827_d90_01.htm
□製品情報
http://www.nikon-image.com/jpn/products/camera/slr/digital/d90/index.htm
□関連記事
【8月27日】ニコン、世界初の720p動画撮影可能なデジタル一眼レフ「D90」
−ボケと交換レンズを活かした撮影が可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080724/hitachi.htm

(2008年10月1日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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