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「シャープはIoTの会社になる」。戴社長がIoT、8K、賞与、東証一部復帰を語る

 シャープの戴正呉社長は、2017年3月13日、大阪府堺市の同社本社において記者会見を行ない、「これまでのシャープは家電メーカー。私は、シャープをIoTの企業にしたいと考えている」などとした。

シャープ 戴正呉社長
大阪府堺市のシャープ本社

 2016年8月13日の社長就任以来、公式な形で社長会見を行ったのは、今回が初めてことだ。また、本社機能が入っているビルに新設した「集会室」を会見に利用。「今回の会見が、こけら落としになる」と述べた。ここは、クルマが2台止まる車寄せだった部分を改装したもので、「ガラス窓とカーペットを張っただけで、大きなイベントができる場所を低コストで作ることができた」などとし、コストと効率性にこだわる鴻海流の経営手法の一端であることを強調してみせた。

集会室は今回の会見が「こけら落とし」となった
「集会室」に設置されたマルチディスプレイ

 戴社長は、これまでの7カ月間の経営を振り返り、「最初の1カ月で、経営基本方針を立案し、9月13日から経営基本方針を事業計画に反映した。抜本的構造改革の重点推進は、9月13日から実行し、それからちょうど6カ月を迎えた。この間、社員とはフェイス・トゥ・フェイスでの対話に加えて、7回に渡る社長メッセージを発信し、社長ページは月3万ページビューに達した。経営基本方針は、日々の活動や方針決定の際、繰り返して再確認を行なうものとなっている。構造改革においては、経営資源の最適化、責任ある事業推進体制、成果に報いる信賞必罰の人事制度の3点から取り組んでいる。投資の削減で300億円、鴻海のシナジー効果を含む費用削減で370億円の効果があり、和解金や事業譲渡などの一過性収益で183億円の効果が出ている」などと総括した。

7カ月間の経営の振り返り
構造改革の成果

ファーウェイ向け液晶で成功。鴻海の力で黒字化へ

 効果の一例としてあげたのが、ファーウェイのスマホ向けディスプレイの供給に関する手続きだ。

 戴社長は、「香港から深センのオフィスに報告して、そこから上海へ、そして、西田辺のオフィスを経由して、亀山に到達する。これをダイレクトにできればどれだけ効率化できるか。こうした構造改革に取り組んできた」とした。

 さらに、2016年度業績が、営業黒字、経常黒字の見通しであることについては、「業績の回復は問題にはしていない。株価も気にしていない。内部統制を重視すること、構造改革の推進を重視している。シャープには、優秀な技術者もいる。2017年度からは海外の構造改革と業績拡大に取り組む」と語り、野村勝明代表取締役副社長は、「過去には不平等な契約もあり、体質として回収ができず、赤字となっていた部分もあった。この半年でしっかりと見直し、コストダウン効果もあった。これが収益改善に寄与している」と述べた。

新生シャープの今後の方向性
技術への積極投資、グローバルでのブランド強化、新規事業の加速の3点から成長戦略に取り組む
技術や製品の広がりを示す

 また、戴社長は、「昨年4月2日の記者会見では、2~4年で黒字化するという目標を掲げたが、9月13日までの1カ月間にチェックをした結果、いろいろと手を打てば、黒字化できると考えた。資金力がなかったため、取引先が心配して値上げをしていた。だが、それが解消したため、コストダウンが図れた。また外部の情報を知らなかったために、ベンダーに言われるままの契約をしていたこともあった。施設に対してバラバラに投資したり、バラバラに契約していたといったこともあった。これからもまだまだやらなくてはならないことがある」と述べた。

 さらに「私は300万円以上のものはすべて決済する。最初の2カ月の合格率は20%以下。いまでは、7~8割に合格率が高まっている。この投資が必要なのか、プロセスはどうなのかということをみている。前経営陣のように、150億円の決済をちゃんと見ないで決済はしない」などとした。

「人に寄り添うIoT企業を目指す」。8Kエコシステムを構築

 また、今後の方向性として、「これまでのシャープは家電メーカーであったが、2017年から2019年にかけてトランスフォーメーションを行ない、今後は、『人に寄り添うIoT企業』を目指すことが私の使命」とコメント。「商品開発ばかりのビジネスモデルから転換し、事業という観点から全体のビジネスを考え、会社の将来、事業の将来までを考えるビジネスモデルにしていく。さらに、日本中心のビジネスから、グローバル全体でビジネスを捉え、グローバルの人材活用もしたい。液晶や太陽光発電に成長の原動力を置いていたビジネスから、IoTを原動力とし、スマートホーム、スマートオフィス、スマートファクトリー、スマートシティを対象にビジネスを成長させる。ここでは、鴻海の支援や、協力会社の活用なども想定し、ソフトウェアやコンテンツも活用したい」などと述べた。

8K映像モニター「LV-85001」の前に立つ戴社長

 また、「このまま液晶テレビ事業をやっていても、シャープの液晶テレビは無くなる可能性がある。だが、業務用8Kディスプレイや8Kエコシステム、メンバーシップ、グローバル展開により成長させることができる。これも私の責任である」と語ったほか、会員制サービスのSHARP i CLUBの会員数が50万人規模であることに触れ、「ソニーは800~900万人の会員がおり、パナソニックにも1,000万人の会員がある。シャープはもっと会員を増やして、もっとうまく情報を発信できる」と語った。

採光フィルムはシャープ本社でも採用
社内ベンチャーの「テキオンラボ」で開発した独自蓄冷材
ハドルミーティングを可能にした40型「BIG PAD」
無人巡回を可能にする自動走行監視ロボット
戴社長自らが記者に対して自動走行監視ロボットを説明するシーンも
ホームアシスタント

 さらに、「ここ2~3年のシャープは守りが多かったが、攻めの戦略へと転換する。そのためには、既存領域に留まらず、技術への積極投資、グローバルでのブランド強化、新規事業の加速という3点から取り組むことになる」とし、「詳細については、5月中旬に発表予定の中期経営計画において説明する」と述べた。

 既存領域の製品として、白物家電、テレビ、国内スマホ、太陽電池、カメラモジュール、センサー、ルーターなどを位置づけ、技術投資領域として有機ELなど、ブランド強化領域として、UMCを傘下に収めた欧州市場や、米国市場および新・新興国をあげた。また、新規事業領域として、IoTやスマートファクトリー、半導体、ロボット、蓄冷材料、採光フィルム、ヘルスケア・メディカルをあげた。「たとえば、カメラモジュールは、鴻海が強い分野であり、鴻海の垂直統合モデルを活用すれば、今後、2、3年で、2倍にビジネスを拡大できる」と自信をみせた。

 今回の説明会では、製品や技術についても触れた。8K映像モニター「LV-85001」や、ヒューリック本社で採用している採光フィルム、社内ベンチャーの「テキオンラボ」で開発した独自蓄冷材料の特徴を、研究開発本部長の種谷元隆常務が説明したほか、70型マルチディスプレイやハドルミーティングを可能にした40型「BIG PAD」、無人巡回を可能にする自動走行監視ロボットをビジネスソリューション本部の中山藤一専務が説明。さらに、広島事業所と結んで、IoT通信事業本部長の長谷川祥典取締役専務が、ホームアシスタントやCOCORO VISONなどのAIoTソリューションを、福山事業所と結んだ電子デバイス事業本部長の森谷和弘常務が、マルチセンサーやマイクロ波センサー、環境センサーなどとクラウドと組み合わせたIoTとクラウドとの連携ソリューションをそれぞれ説明した。

COCORO VISON
シャープや鴻海が開発したセンサー群
コーナーRのスマートフォン向けディスプレイ
VR向けの高精細IGZOディスプレイ
8K-HDRモニターを参考展示した
フリーフォームディスプレイ
ヘルシオグリエやヘルシオホットクック
大ヒットとなった蚊取空清

 亀山事業所と結んだディスプレイデバイスカンパニーの桶谷大亥上席常務がスマートフォン向けやVR向けのIGZOディスプレイや、8K-HDR、フリーフォームディスプレイなどに活用されるIGZO技術について説明。中国・深センと結んだ健康・環境システム事業部長の沖津雅取締役常務が、蚊取空清やヘルシオグリエ、1.5kgの軽量ボディであるRACTIVE Airなどの白物家電について説明した。

 沖津取締役常務は、「IoTは、日本よりも、中国の方が先行している。ここを拠点として、新たな白物家電を開発し、グローバル展開していく」と述べた。

賞与格差は8倍に。東証一部復帰。元副社長は「職業道徳に反す」

 一方で、人事政策についても言及。年齢、性別、国籍に関係がなく、成果をあげた人にしっかりと報いる「信賞必罰」の人事制度を改めて強調。「優秀な人材や若手人材の活躍を後押しする仕組みへと改革し、年齢構成を是正する」と、シャープの橋本仁宏常務が説明した。

人事政策の基本方針
シャープの橋本仁宏常務

 現在、シャープの平均年齢は約50歳であり、「ソニーの47歳などよりも高い」と戴社長は指摘。「シャープには白髪の人が多かった。人材流出しているのは55歳以上である。去っていく人はかまわない。シャープの平均年齢を45~46歳程度に是正したい」と述べた。

 具体的な施策として、等級や給与制度の改革として、若手社員にやりがいがある仕事を与え、処遇を改善するとし、「入社まもない新入社員にも、やりがいがある仕事に挑戦する機会を提供し、優秀者には入社半年後でも大幅な給与引き上げを行う。能力と責任、貢献次第では、5万円昇給する場合もある」(橋本常務)という。

 また、賞与の改革として、2017年度の賞与を、年間4カ月分を原資として設定。これを分配する形で、業績貢献に応じた信賞必罰の査定で支給。最大8カ月から最低で1カ月までのメリハリがある賞与を支給することになるという。そのほか、特別な貢献が認められる社員には、1月に続いて、3月24日には、2回目となる社長特別賞を支給。金額は明らかにしなかったが、「1、2万円程度のレベルのものではない。もらってびっくりした額だ。これが信賞必罰である」(戴社長)という。

等級制度および給与制度の改革
賞与の改革。最大で8倍の差がつく。社長特別賞も用意

 戴社長は、「新たなシャープでは、給与だけでなく、賞与やストックオプションなどの様々な保証ができる。給与は大きなものではない。鴻海での私の給与は一元だけ。それは社員であるからもらっているものである。給与だけでない部分で、社員にフィードバックすることが大切であると考えている」などとした。

 さらに採用戦略として、通年採用や第2新卒の拡大で、人材の採用を強化。「2018年4月の採用者は、2017年4月に比べて倍増を計画している」(橋本常務)とした。

 戴社長はさらに、「シャープは3年間に渡って、研修を行なってこなかった。これからは細かくやっていきたい」と述べた。

 なお、鴻海による東芝の買収については、「私は、昨年8月以降、鴻海のオフィスには合計で1週間も出ていない。あとはシャープにいるか、出張である。独立性のために鴻海のことには関与していない。東芝のことについても、シャープとは関係がない。なにも聞いていない」とした。

 また、鴻海による買収後の液晶技術の流出については、桶谷上席常務が説明。「いまの液晶技術はどこの企業が進んでいるというものはない。適材適所に技術を活用し、一緒に力をあわせて、新たな技術を作っていくところであり、それによって将来に貢献したい。技術流出の心配はない」とした。

 米国の液晶工場の建設計画については、「競争力がつくと考えればやり、進出する際にインセンティブがあればやる。どこの国か、というのは関係ない。条件による」と回答した。

 さらに、亀山工場については、「2017年に、亀山工場は黒字化させたい。1月から250人の新たな技術者を募集しており、さらに250人を加えて、亀山工場だけで500人ぐらいの技術者を増やしたい」とした。

 東証一部への復帰については、「東証一部に向けたプロセスに取り組んでいる。どうなるかはわからないが、早めに申請を行っている」と答えた。

 今回の会見では、新たなニュースとして、「AQUOS & RoBoHoN キャッシュバックキャンペーン」を、2017年3月15日~31日に実施することを発表した。「これまでも、これからもという感謝の気持ちを込めたもの。これまでもいう点では、液晶カラーテレビを1987年に発売してから、今年でちょうど市販30周年を記念して、LC-60US40とLC-40H40の購入者に対して2万円のキャッシュバックを行い、これからもという点では、RoBoHoNの購入者を対象に、2万円のキャッシュバックを行なう」(シャープエレクトロニクスマーケティング総合プロモーション部の戸祭正真部長)とした。同社直販サイトだけでなく、量販店で購入した場合もキャッシュバックの対象になるが、SHARP i CLUBへの加入(無償)が必要だ。また、RoBoHoNでは、同キャンペーンによって、月額980円(税別)のココロプランが1年間無料になるという。

「AQUOS & RoBoHoN キャッシュバックキャンペーン」を実施
液晶テレビはLC-60US40とLC-40H40の購入が対象
RoBoHoNの購入者も対象に、2万円のキャッシュバックを行う

 なお、会見では、シャープの副社長を退任し、日本電産入りした大西徹夫元シャープ副社長が退職する際に記名した「誓約書」を持ち出し、「ここには、信義則や公序良俗に反して、従業員に対する引き抜き行為を行なわないことと書いてある。違反することは不正競争防止の罰則に当たると書いてある。一人一人の個人のキャリアは尊重するが、職業道徳に違反している。しかし、私は追及しない。新生シャープは新たな道徳を作り、新たなルールを作りたい」などとした。

大西徹夫元シャープ副社長の「誓約書」を持ち出して言及するシーンも

 また、シャープの過去の経営陣が結んだ不平等な契約が多いことにも言及し、「大規模な減損を出さなくてならないような契約を結んだ人たちに責任がないのはおかしい。サインはルールではなく、責任である」などと厳しい口調で語った。

 一方で、「毎日、創業者である早川徳次氏の銅像の前で一礼し、いろいろなことを反省する。また、創業者の娘とも2カ月に一度は一緒に会食して、すべてを報告をする。娘からは、創業者に対してこれほど尊敬している社長は、これまでにいなかったと言われた」とした。

戴社長が一礼する創業者である早川徳次氏の銅像