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映画館で“ながら聴き”イヤフォン。「ギルティ」体感上映で極限の臨場感

2月22日に全国公開される映画「THE GUILTY/ギルティ」の上映で、ユニークな試みが行なわれた。それは、映画を鑑賞する際にイヤフォンを着けて、上映に合わせてイヤフォンからも音を聴くというものだ。耳を塞がないソニーの「STH40D」を使うことで、劇場のスピーカーとイヤフォンの両方から聴こえ、臨場感を高めるという取り組み。20日に行なわれた試写で体験してきた。

「THE GUILTY/ギルティ」の体感型鑑賞会へ参加

「THE GUILTY/ギルティ」は、デンマーク発のサスペンス映画。「電話からの声と音だけで、誘拐事件を解決する」というシンプルな設定ながら、予測不可能な展開となることが注目され、第34回サンダンス映画祭で観客賞(ワールド・シネマ・ドラマ部門)を受賞。その後も第47回ロッテルダム国際映画祭観客賞/ユース審査員賞、第44回シアトル国際映画祭 監督賞などを受賞。第91回アカデミー賞®外国語映画賞 デンマーク代表にも選出されたほか、ジェイク・ギレンホールによるハリウッドリメイクも決定している。2月22日からの上映劇場は新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか。

THE GUILTY/ギルティ

この作品の世界観を、より臨場感と緊迫感を持って感じられるという「体感型鑑賞イベント」が、報道関係者と招待された一般来場者を対象に実施された。ソニーの“オープンイヤーステレオヘッドセット”「STH40D」を装着して映画を鑑賞。ヘッドセットからは電話先の声と音のみが出力され、「まるで映画の主人公と同じ緊急指令室のオペレーターになったような気分で映画を楽しめる」というもの。この体感型鑑賞は、一般興行での上映も調整中としており、決定次第案内される予定。

映画館でイヤフォンを着けて作品を鑑賞

STH40D(2018年6月発売/実売7,000円前後)は、ソニー独自の音導管設計により、耳をふさがない構造ながら、音導管を通して鼓膜へダイレクトに音を届けることで、周囲の音と再生している音楽をブレンドして楽しむ「デュアルリスニング」をコンセプトとしたイヤフォン。

「STH40D」は耳穴を塞がないオープンイヤー構造
耳の下側に装着

イヤフォンから聞こえる音が重要なカギに

主人公アスガーは、日本の110番のような緊急通報(デンマークでは112番)に対応するオペレーター。日常寄せられる数多くのトラブルや事件などの通報に応対している中で、ある時“普通ではない電話”を受ける。相手は詳細を話せない状況ながら、すぐに誘拐事件の被害者だと察知したアスガーは、緊迫した空気の中、電話のやり取りだけで解決の糸口を探っていく。

「THE GUILTY/ギルティ」予告編

今回の“体感型鑑賞”では、通報指令室の会話や電話のコール音などほとんどの音は劇場のスピーカーから流れているのに対し、アスガーが電話で話す相手の声は、イヤフォンのSTH40Dから聞こえてくる。仕組みとしては、劇場内で通話音声がFMで送信され、手元のポータブルFMラジオで受信、有線接続したSTH40Dで聞く形だ。

なお、通常の上映では全て劇場のスピーカーから音声が流れるが、今回の上映では通話音声だけ分離して耳に届く。そのため、指令室でヘッドセットから通話音声を聞くアスガーと同じように、電話相手の声が耳元へダイレクトに届く。緊張感が高まる中でのやりとりを、劇場でも共有している気分になってくる。

FMで送信される音声をSTH40Dで聞く

イヤフォンからの音をよく聞くと、通話の声だけではなく、その通話相手がいる場所の環境音も少しずつ聞こえてくるのがわかる。その人がどんな状況下にいるのか、観る側もついつい考えを巡らせるようになっていく。

登場人物の人柄などを説明するようなシーンはほとんどなく、あくまで今回の事件を中心にストーリが次々と展開。そうした中でも、とっさに機転を効かせ、時に大胆な指示を出すアスガーは、いかにも経験豊富で“普通のオペレーターではない”ことがだんだん伝わってくる。その背景も次第に明らかになっていく。

最初は怖がっていただけの通話相手も、次第にアスガーへの信頼が強まっていくのが、耳元へ届く声の調子からも伝わってくる。

カメラの長回しが多用され、BGMはほとんどない。しばらく無言で時間がただ流れるシーンも効果的に使われている。音が伝える情報とともに、あえて音を無くした静寂さも、ストーリーを伝えるのに重要な役割を果たしているのが面白い。解決に向けて順調に進んでいるように見えて、ちょっとした違和感を残すなど、いくつもの“引っかかり”があるせいで、背景が同じ場所のシーンが続いても、観る側に安易な予測や飽きを感じさせない巧妙な構成になっている。

最終的に事件は解決するのか、その行方は実際に劇場で確かめてほしいが、説明過多とならずに、途中で感じた引っかかりを「こういうことだったのか」と分からせてくれる展開が小気味よく、見ごたえを感じた。「ギルティ」というタイトルの意味も、観ていく中でだんだん分かってくる。

たとえ今回のようにイヤフォンを使った体感型鑑賞でなかったとしても、緻密に組み立てられた物語の展開で、十分に楽しめる作品なのは間違いない。ただ、“相手が見えない”電話がキーとなり、声にしっかり耳を傾けるこの作品は、「目的の音もその周りの音もまるごと聞ける」イヤフォンを使った上映がピッタリはまっていて、観終わった後に他の人とこの体験を共有して感想を語りたいと強く思えた。22日以降の一般公開で今回の上映方式の導入は興行関係者を含めて検討中とのことだが、音が重要なこの作品の良さを存分に味わうために、ぜひイヤフォンを使った上映を実現して、多くの人に体験してほしい。