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富野由悠季の世界展開催。富野氏「“馬鹿な企画はやめろ”と言っていた」

「鉄腕アトム」から代表作「機動戦士ガンダム」を経て「ガンダム Gのレコンギスタ」まで、富野由悠季氏の55年間の業績を振り返る展覧会「富野由悠季の世界」の開催が決定。23日にその記者発表会が行なわれ、富野氏も参加した。展覧会は、6月22日の福岡市美術館を皮切りに、兵庫、島根、青森、富山を辿り、2020年9月から開催される静岡県立美術館まで、全国6会場を巡回予定。福岡市美術館での観覧料は一般1,400円、高大生700円、小中生500円。

富野由悠季氏
  • 福岡市美術館 2019年6月22日~9月1日
  • 兵庫県立美術館 2019年10月12日~12月22日
  • 島根県立石見美術館 2020年1月11日~3月23日
  • 青森県立美術館 2020年4月~6月予定
  • 富山会場 2020年7月~9月予定
  • 静岡県立美術館 2020年9月~11月予定
展覧会のポスター

展覧会のテーマは「旅立ちと帰還、対立と和解、生と死、破滅と再生」。展示自体は以下の6部構成で、初監督を務めた「海のトリトン」(1972年)から、最新作「ガンダムGのレコンギスタ」までを網羅するほか、富野氏の生い立ちなども紹介する。

  • 第1部 宇宙(そら)へあこがれて
    (海のトリトン/勇者ライディーン/無敵超人ザンボット3)
  • 第2部 人は変わってゆくのか?
    (機動戦士ガンダム/伝説巨神イデオン)
  • 第3部 空と大地の間で逞しく
    (無敵鋼人ダイターン3/戦闘メカ ザブングル/OVERMAN キングゲイナー/ラ・セーヌの星/しあわせの王子/闇夜の時代劇・正体を見る)
  • 第4部 魂の安息の地は何処に?
    (聖戦士ダンバイン/ガーゼィの翼/リーンの翼/重戦機エルガイム)
  • 第5部 刻の涙、流れゆくその先へ
    (機動戦士Zガンダム/ガンダムZZ/逆襲のシャア/F91/Vガンダム/ブレンパワード)
  • 第6部 大地への帰還
    (∀ガンダム/リング・オブ・ガンダム/ガンダムGのレコンギスタ)

展覧会の特徴は、富野氏の仕事である“演出“という概念を展示する事。富野氏はアニメーター出身ではなく、いわゆるアニメ的な絵を直接描いてきたわけではないため、一般的なアニメの展覧会で展示されるものとは趣向が異なる。

富野氏がこれまで監督してきた各作品の映像的な特質を、直筆の絵コンテや、一緒に仕事をしたクリエーター達のデザイン画、原画、撮影に使われたセル画などの原資料を元に検証。

さらに、自らの作品世界を掘り下げた小説、主題歌などの作詞、様々な分野の人々との対話など、マルチな活動と才能にも着目。富野氏がどのように物語を作っていくのか、“監督の仕事とはどのようなものなのかを”を示す展示を目指しているという。

展示の準備としては、各美術館の学芸員が、それぞれ「海のトリトン」や「機動戦士ガンダム」といった数作品を担当。作品を研究した上で、どのような展示にするかを決めていったという。

23日に開催された発表会には、担当学芸員である福岡市美術館の山口 洋三氏、兵庫県立美術館の小林公氏、島根県立石見美術館の川西 由里氏、青森県立美術館の工藤 健志氏、静岡県立美術館学芸員 村上 敬氏も登壇。それぞれが、“演出“という概念どのように展示するのかも、注目となっている。

学芸員達も登壇した

「“概念の展示”なんてできない、という意見を変えるつもりはない」

富野氏は発表会において、「この歳まで、大きな病気もしないで来れたので、現在こういう立場で、こういう場所にいさせてもらっていて、両親にありがたいと思っている。また、こういう形でご支援いただき、催し物をさせてもらえる事も、ありがたいと思っている」と感謝。

富野由悠季氏

その一方で富野氏は、美術館の学芸員達から企画の提案をされた当時は「展示するものなどはないのだからやめたほうがいい」、「馬鹿な企画をやめろ」と、何度も伝えたという。それでも学芸員達の熱意により、展覧会が決定したという経緯がある。

富野氏は「“こういう馬鹿な企画はやめろ”とハナから言っていた当事者としては、ありがたいと思いながらも、やはり“概念を展示するなんて事は到底できない”という意見を変えるつもりはありません」と語る。

その上で、「僕の立場からすると2回りくらい若い方が(展覧会を)企画し、その企画に(発表会に集まった記者を見ながら)注目していただいている。“時代が変わった”と感じる。動画が社会に一般化した事で、出てくる価値論、新しく生まれてくる“何か”があるのではないか、それがうっすらですが想像できる。だからこそ、旧来の考え方を振り回していて、“少しは年寄りの言うことを聞け”というのは、絶対にしてはいけないことだとしみじみと感じている。このような催し物の結果がどうなるかは想像がつかない。けれど、彼ら(学芸員達)は、信じてやってらっしゃるんだろうなということはわかる。それを目指していただいて、私は、ありがたい事にそれを“死に土産”にすればいいので、基本的には責任はないとして逃げ切ります(笑)」。

「逃げ切りますが、皆さん方は、まだ僕よりも不幸にして30年か50年か、長生きする。死ぬまでには、大変な事態が起こっているのだろうと思います。それもまた世の変転であるという意味では、富野由悠季がアニメで語ろうとしていた事を、皆さん方が体験なさっていくわけです。本当にご苦労だと思いますが、頑張ってください」と、富野氏ならではのエールを贈る。

学芸員達と撮影

さらに、「富野由悠季の世界」展にだけでなく、「アニメとか漫画からはじまったブームが、文化として認められるようになってきた潮流というものがあるならば、そういうものを、世の中に対してどういうふうに広めるのか、投下していくのか、それを皆さんでお考えていただきたい」とメッセージ。

「僕はリアリズムの世界に働きかける方法論を持っていなかったので、だからこそアニメの世界でこういうふうに生きながらさせてもらっている。だからこそ、今日まで生きてこられたという実感だけはある。ということは、全部が全部、絵空事ではない。そう思うようになればなるほど、メディアが果たすべき役割、コンセプト、メッセージをどう伝えるのか、どういうメッセージを伝えなければならないのか……。それを考える、課題みたいなものも、“富野由悠季の世界”に含んでいるのではないか。これは、おごり高ぶって、自分自身で語ることができる。アニメであっても、本来そういうメッセージ性、ドラマ性を含むことができるのだと、実験的ですが、自分なりにやってきたつもりです。そういうところを、こういう催し物にしてくださる方が、何か読み取っていただき、新しい生き方の方向性を、発見していただければありがたい。その礎になるような展示になってくれたらいいなと、富野由悠季の世界は望んでおります」と語った。