東芝、'11年度経営方針説明。TV/PC融合など

-SmartX採用タブレットも。原発は「各国動向注視」


佐々木則夫代表取締役社長

 東芝は24日、2011年度経営方針説明会を開催。同社の佐々木則夫代表取締役社長が東日本大震災の影響や福島第一原発の事故への対応を説明したほか、2011年度以降の成長戦略を発表した。

 テレビを始めとするデジタルプロダクツ事業は、TV/PCの事業融合による競争力強化を軸に事業を拡大。新プラットフォーム「SmartX」によるモバイルからPC、TVのシナジー創出を図る。また、重点事業としてNANDフラッシュメモリや、スマートコミュニティ、パワーエレクトロニクス/EV、再生可能エネルギー、ヘルスケアなどを強化していく。

 なお、これまで重点事業に位置付けていた原子力については、「福島第一を解決しないと、ひとつ先には進めない」とし、安定化に協力するとともに、各国の動向を注視。「2015年度に39基受注、売上高1兆円という目標は数年シフトする可能性がある」とした。

 


■ 業績はリーマンショック前に回復。震災の影響も

2010年度トピックス2010年度実績

 2010年度の実績は、売上高が前年比1,073億円増の6兆3,985億円、営業利益は2,403億円で、純利益は1,378億円。各事業が黒字化し、「リーマンショック前に回復し、まだ十分ではないが、経営体質、財務体質が改善した」とする。

 デジタルプロダクツは、ノートPCが2年連続国内一位になったほか、テレビが7半期連続黒字で、国内シェアは24%に拡大。SSDも好調で「緒に就いた」という。半導体については、メモリ事業が過去最高益を記録し、四日市のFab 5の量産も開始。「長年の懸案」という液晶事業も黒字化した。


東芝の東日本大震災復興思念

 佐々木社長は、3月11日に発生した東日本大震災の影響について言及。まず「復興支援に全力投球しているが、最大の関心事は福島第一発電所の問題だろう。冷温停止に向けた汚染水処理などで厳しい状況は続いているが、東京電力への支援を続けている」とし、ウェスティンハウスなどのパートナー企業を含めて、1,900名体制で技術支援を行なっていることを説明。そのうち400名、累計1,200名の技術者、作業員を現地に派遣し、東京電力に総合マネジメントプランを提出しているという。

 また、100名体制で、被災、定期検査中火力発電所の早期復旧、運転再開支援を実施し、今夏までの約1,000万kW復旧をほぼ達成。変電所の復旧も120名体制を構築して行なったという。


震災の東芝への影響

 支援活動については、10億円の義援金支援のほか、食料品や家電製品などの提供、仮設住宅向けの太陽光発電システムを提供したほか、寮や社宅における風呂提供などに取り組んだ。さらに、「一番大切なのは被災地での雇用。仕事なければ復興無し」とし、地元の被災電気店のための共同店舗や、車両、人員への支援や、コールセンターの増員、漁船提供などを行なっている。

 また、同社では15%以上の節電対応も行なっており、製造夜間/休日シフト、本社夏季集中休暇、空調/照明設定変更、自家発電活用などの取り組みを紹介。生産設備については、主に岩手東芝エレクトロニクスや栃木の東芝モバイルディスプレイ(TMD)が被災したものの、岩手は4月18日に、TMDは3月28日に生産を再開した。

 


■ TVやモバイル基盤「SmartX」に着手。大型裸眼3Dや携帯ビューワも

デジタルプロダクツの事業戦略

 2011年度は、同社の中長期ビジョンに基づく事業構造転換を推進。グローバル競争力を持ったトップレベルの複合電機メーカーへの構造転換を図るという。

 デジタルプロダクツ事業については、4月にテレビとパソコンの事業を統合し、商品/サービス融合を進めるとともに、地域別体制で新興国展開を加速。効率化を進め、2013年度に液晶テレビ/ノートPCで世界シェア10%、6,000万台を目指す。内訳はテレビが2,500万台、ノートPCが3,500万台。

 世界初No.1製品を投入し、グラスレス3D大型テレビを11月下旬に発売するほか、2D/3D同時表示のグラスレス3Dパソコンも7月に発売。加えて、地域に最適化した製品を強化し、インドネシアやベトナム、インドなどに地域デザイン部門を設置。バッテリ内蔵のPower TVの強化や、防塵機能搭載PCなどを強化する。

 また、新興国の強化にも取り組み、4月にフィリピンに現地法人を設立したほか、南米/アフリカに拠点を新設。インドネシアやベトナム、中国で重点的に広告を投下し、ブランドイメージの向上を図る。2013年度の目標は売上高3兆1,000億円。

TVとPCの融合でシナジー創出。新プラットフォームSmartXでタブレットなどに展開

 さらに、テレビとパソコンのカンパニー統合の意味として、「いずれ、TV、PCモバイルの仕切りがあいまいになる。一部はすでにそうなっている」とし、共通プラットフォーム「SmartX」を導入することを紹介。技術や部品、製品、サービスなどを共通化することで、テレビやパソコン、モバイルなどのスクリーンサイズに依存せずに、ユーザーのシーンに合わせてデバイス展開を可能にすることがSmartXの狙いという。

 これに、REGZA Apps Connectや集合知処理、音声合成などのクラウドサービスとの連携を加えることで差別化していく方針。この成果を活かした製品として、7月以降にモバイルコンテンンツビューワーを発売する予定。さらに、「スマートタイムシフトマシン」、「グラスレス3D PC」、「フルセグタブレット」などに取り組むという。また、こうした融合製品を次世代POSやKIOSK端末、デジタルサイネージなどのBtoBビジネスにも展開していく計画で、2015年度売上高8,000億円を目指す。

 なお、タブレットについては、「ノートPCに集中した過去の成功体験から、出遅れたことは認めざるをえない」としながらもクラウド活用などで強化を図る。東芝の携帯電話事業は、富士通と合弁の富士通東芝モバイルコミュニケーションズで展開しており、スマートフォンは同合弁会社が担当する。そのため、SmartXを使ったタブレットについては、「普通のモバイルのスマートフォンより大きいところは、われわれ(東芝)ができるので、そこをしっかりやっていく」とした。

 


■ NAND、スマートコミュニティ、パワーエレなど強化

成長性、収益性向上に向けた体制最適化

 事業体制最適化として、デジタルプロダクツでのテレビとPCの事業統合だけでなく、家電と連携した地域別体制の構築により新興国展開を加速し効率化。電子デバイスではシステムLSI事業の改編によるファブレス/ファブライト化の加速とともに、アナログとイメージセンサに経営資源を集中。先端SoCファウンダリへの委託拡大などを行なう。社会インフラについては、スマートコミュニティやパワーエレクトロニクス体制強化を行なっていく。

NANDフラッシュメモリ事業の構造転換

 NANDフラッシュメモリ事業については、微細化を進め19nm品のサンプル出荷を4月に開始、7月に量産。ポストNANDもBiCSや次世代3Dメモリの開発を進める。また、SSDも強化し、HDD事業部隊と一体で開発、ノウハウを集結することで、競争力を高めていく方針。2015年度売上高目標は1兆1,000億円。

 IT化された電力網による「スマートコミュニティ」事業については、発電から末端まで垂直統合できるという東芝の強みを強調。また、買収したLandis+Gyrによるスマートメーター事業などの強みを生かして、拡大を図る。2015年度売上高目標は9,000億円。

 「パワーエレクトロニクス・EV」は、二次電池のSCiBや、高効率モーター、高効率インバーターなどを強化。定置型蓄電池装置やEVパワートレイン、太陽光発電用PCS、ハイブリッド機関車などでの2015年度売上高目標は8,000億円。

 ヘルスケアは、米バイタルイメージのTOBで、画像診断解析ソリューションを強化。診断、治療領域のほか、DNAチップなどの強化を図り、2015年度目標は売上高1兆円。

スマートコミュニティパワーエレクトロニクスヘルスケア
再生可能エネルギー

 再生可能エネルギーについては、2015年度目標売上高3,500億円。太陽光については、世界最高クラスの効率98.1%(500kW)というPCS(Power Conditioning System)などを活かし、スマートグリッドと連携したグローバル事業拡大や、メガソーラーの産業分野拡大などを目指す。

 水力は、中国製造拠点から各国に出荷し、旺盛な新興国需要に対応。低落差大容量型戦略製品などを手掛ける。地熱については世界No.1シェアを活かして、新興国へ拡販。タービン技術の太陽熱への展開も行なう。風力についても、韓国の風車メーカUnisonと業務提携し、強化を図る。

 なお、前年の経営方針説明では、再生エネルギーにはさほど言及されなかったが、「風力(Unisonとの提携)も2010年7月から探していたので、3月11日があったからというわけではない。地熱ではナンバーワンで、太陽光はこれまでもメガソーラを手掛けている。FIT(電力の固定価格買い取り制)が残る国や、これから始まる国もある。補助金無しでは難しくても、まだ広がるだろうという考え。また、福島第一の後で再生可能エネルギーを強化したい、移りたいと思う国もあるだろう。しっかりと東芝が対応できるということを宣言していかないといけない」と説明した。

 システムLSIは事業構造改革を進め、300mmSoCでアウトソース比率を2011年の50%から2013年には80%まで拡大。BSI(裏面照射型)CMOSも300mmの量産先行で'13年のシェア30%を目指す。また、6月には中国でカメラモジュールの新ジョイントベンチャーを立ち上げる予定。

 


■ 2013年度営業利益5,000億円に

事業グループ別計画

 これらの重点事業強化により、2013年度の売上高8兆5,000億円、営業利益5,000億円の実現を目指す。デジタルプロダクツの売上高目標は前述のとおり3兆1,000億円で、営業利益400億円。

 電子デバイス事業の2013年度売上高目標は1兆8,500億円。営業利益は2,700億円。高電源効率のパワーデバイスでシェアトップを狙うとともに、SiCはエコ・インバーターで鉄道、車載市場に参入するなどで拡大。液晶は2012年に香川県のスマートフォン向け5.5世代工場を稼働。400ppiの高精細化や薄型のインセルタッチパネル内蔵など、世界最高水準のモバイル向け低温ポリシリコン液晶を手掛ける。

 社会インフラ事業の2013年度目標は売上高3兆円、営業利益2,000億円。火力発電では、高効率石炭火力を拡大するほか、最新のガスタービンや高性能蒸気タービン発電機を組み合わせたコンバインドサイクル発電設備の拡販に取り組む。また、3月に買収したイタリアの送変電・太陽光発電エンジニアリング会社T&Dの事業を拡大し、欧州や北アフリカでの事業を強化。ブラジルやマレーシア、インドなどにも拠点を設け、拡大を図る。

 家電事業の2013年度目標は売上高7,000億円、営業利益150億円。国内では白物家電で6%の伸長、LED照明の強化などを図る。海外でも中国、タイなどの生産を強化するほか、デジタルプロダクツとの新興国総合販社の拡大などに注力。また、中国やシンガポールにデザイン/マーケティング拠点を設け、各地のニーズに最適化した仕様の商品創出を目指すという。

電子デバイス事業社会インフラ事業家電事業

 一方、従来NANDフラッシュと並ぶ、成長事業に位置付けてきた原子力については、「福島第一を解決しないと、ひとつ先には進めないのが今の状況。まずは安定化。その先はグリーンフィールド化に向けた継続的な取り組みが必要」とし、至近では冷却システム構築や対流水処理などで協力。中長期的には燃料取出しや廃炉、廃棄物保管などに取り組む方針。また、既設プラントの安全性対策についても、緊急時の電源、冷却確保、地震、津波対策などで緊急的なものから恒久的なものまで協力。さらに、今回の事故を踏まえて「レギュレーションにどう反映していくか。それを踏まえて、さらに安全性の高い次世代原子炉の開発をしていく」とした。

 世界的には電力需要が拡大しているが、原発の新規建設には福島第一の事故を受けた安全基準見直しなどで一定期間の遅れが見込まれるという。顧客の意向確認ではほぼ計画通りとのことだが、「福島の安全を確保したうえで、分析をしっかりやっていくしかない」とし、「世界の情勢にどうなるかを考えていく」とし、同社が目標に掲げてきた2015年度目標39基受注、売上高1兆円は数年ずれる可能性があるという。

原子力事業について。完全性向上に向けた取り組み各国の状況を注視

 また、「今後も原発は柱か?」との質問には、「それが認められるか環境かどうかを見ていかないといけない。例えば、世界中で原発反対となったら、東芝がやるといっても成り立たない。昨年の(重点事業)説明ではNANDの次に原子力を挙げていたが、いまはそういう不透明感がある。いまある原子力は即止めるわけにはいかない中、できることを最大限やっていくというのが今の位置づけ」と説明した。

 原子力発電所の廃炉については、「東海のガス炉など、すでにいくつか動いている。ノウハウを仕入れ、いろいろな技術をもっている。また、すでに米国では廃炉が進んでおり、ウェスティングハウスやショーなどパートナが実際に何年で収めたという実績がある。彼らのノウハウが日本で有利に働くのは間違いない」と説明。廃炉ビジネスの収益性については、「東芝のやっているものはあまりよくない。ただ、海外の子会社などの収益性はそれなりにしっかりしている」とした。

 また、人材のグローバル/ダイバーシティ(多様化)なども進めるとともに、グラスレス3D液晶のようなマーケットに先駆けた商品投入も強化。環境経営を通じた事業拡大をめざす。佐々木社長は「日本の復興に寄与、海外事業展開を加速しグローバルトップを目指す」と意気込みを語った。


(2011年 5月 24日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]