ソニー、有機EL HMD「HMZ-T1」の発表・体験会を開催

-暗闇に浮かぶ有機ELの高画質3D。一般向け展示も


3D対応ヘッドマウントディスプレイ「HMZ-T1」

 ソニーは31日、HD解像度の有機ELパネルを採用した、3D対応ヘッドマウントディスプレイ「HMZ-T1」の発表会を開催。報道陣に向け、実際に体験できる機器を用意したほが、製品の狙いなども解説した。ここでは実際の装着感も含めてレポートする。

 「HMZ-T1」の発売日は11月11日で、価格はオープンプライス。店頭予想価格は6万円前後。スペックなどの詳細は別記事で掲載している。

 また、製品は銀座のソニーショールム、ソニーストア 名古屋、ソニーストア 大坂にて、9月10日から先行展示される。




■装着までの流れ

 製品はヘッドマントディスプレイ(以下HMD)と、プロセッサユニットの2つで構成されている。プロセッサユニットにはHDMIの入力端子を1系統装備。出力として、HMDに接続するためのHDMI出力1系統と、もう1つHDMIのスルー出力も備えている。HMD用出力は映像信号だけでなく、電力も供給されるようになっており、3.5mの付属ケーブル1本でプロセッサとHMDを接続する。スルー出力はテレビなどに接続するためのもので、HMDを使わない場合などに、ケーブルを繋ぎかえる手間を省く事ができる。

「HMZ-T1」はHMDとプロセッサユニットで構成されるプロセッサユニット。前面に備えているのがHMD接続用のHDMI出力プロセッサユニットの背面。スルー出力も備えている

 HMD部の重量は約420g。カラーがホワイトで見た目は大きく感じるが、手にすると意外に軽い。HMD本体と、それを頭部に固定するためのバンドで構成されており、HMDにおけるメガネの“つる”の部分の上側に、小さなボタンが設けられている。これを押すとロックが外れ、つるの部分に収納されていたバンドを後方へ引き出せる。

 バンドを長めに引き出した状態で、HMDを頭にかぶる。この時、メガネをかけている場合でも、そのまま装着可能だ。光学レンズが目の位置に合うよう調整したら、バンドを引き締めて頭部にシッカリと固定する。重量バランスがフロントヘビーであり、目と光学レンズの位置がずれないようにするため、キツめに固定するといいようだ。

HMD部分。重量は約420g背後のバンドは長さ調節が可能

 固定したら、耳の付近を指でさわるとスピーカーユニットがある。このユニットも前後に位置を調整できるほか、下向きに引き下げる事も可能で、耳掛け式ヘッドフォンのような感覚で、耳穴にユニットがかぶさるように位置を調整する。最後に、本体底部、頬の上あたりにあるスライドスイッチでレンズの位置を微調整し、視度を調整すると準備完了となる。

バンド部分自体の長さも調整できるスピーカーも前後にスライドさせたり、下向きに引き出したりと、位置調整ができる
底部にあるスライドスイッチでレンズを動かし、視度を調整



■強固なホールドと没入感を高めるライトシールド

 装着した状態では、人の最大視野(約200度)が全て覆われているため何も見えず、その暗闇の中に有機ELパネルによる映像が浮かびあがる感覚となる。この時、目玉を下に向けると、極めて狭い範囲だが、外の景色が見える。これは装着した状態でも、HMDと人間の頬の間に隙間があるためで、外が明るい場合は、暗闇の下部がうっすら光って見える事になってしまう。

 そこで、製品には柔らかい素材でできたライトシールド(遮光板)が付属している。これをHMDの下部に取り付ける事ができ、前述の隙間を無くす事ができる。実際に装着してみると、本当に“真っ暗”な空間に、大画面の映像が表示されている感覚が味わえる。

 逆に言えば、ライトシールドを外した状態であれば、手元をうっすら確認する事は可能。筆者はメガネをかけた上でHMDを装着しているが、個人的には、机の上に置いたゲームのコントローラーを探したり、飲み物を手に取る程度の事は可能だと感じた。

ライトシールドが付属するHMDの底部には操作ボタンも備えている

 また、バンドによるホールドは強固で、ゆっくり首を左右に振った程度では光学レンズと目の位置がズレる事は無い。しかし、フロントヘビーであるため、急に首を素早くひねったり、上下に首を強く振るなどするとズレてしまうだろう。

 短い時間の試用では、HMD自体の重さで下向きにズレてきたり、首に負担を感じる事は無かったが、映画やゲームなど、長時間の使用時にはリクライニングチェアやソファなど、顔が若干上に向けられ、HMDの重量を顔である程度受け止められるような姿勢できるとズレや体への負担が少なそうだと感じた。



■気になる映像は?

大型の映画館で750型のスクリーンを、20m(映画館中央の特等席)から見た感覚を実現

 表示される映像の水平視野角は45度で、大型の映画館で750型のスクリーンを、20m(映画館中央の特等席)から見た特の感覚に近いという。実際に装着してみると、周囲が暗い事もあり、確かに映画館で大画面と正対している感覚が味わえる。視界を覆う映像の広さも、一般的なリビングで、大画面テレビを離れて見ている状態よりも広く、没入感が高い。

 コントラストの高さは有機ELならではで、映像の暗い部分は周囲の暗闇と同レベルまで沈み込みつつ、明るい部分はパワーのある発色が体験できる。本体のメニュー画面や、ゲームを表示した時の細かな文字もしっかり認識できる。また、0.01msという高速応答性を活かし、レースゲームではキレの良い描写が確認できた。


内部のイメージ図採用された0.7型有機ELパネル光学レンズにより、45度の水平視野角を実現している

 また、3D映像ではクロストークが無く、輝度の低下も無いため、明るく自然で、極めてクリアな立体視映像が体験できる。クロストークが無いため、立体像がブレたり、目の焦点に違和感を感じる感覚も無く、負荷の少ない、気軽に長時間視聴できる3D映像だと感じた。

 搭載している有機ELパネルは、0.7型と小型ながら、1,280×720ドットの解像度を実現。小型高精細を実現するため、白色有機EL層上にカラーフィルターを重ねる色分離方式を採用したという。画素サイズを小さくするほど、狭くなった画素間で適切な色情報を再現しにくくなるが、半導体シリコン駆動技術なども組み合わせる事で克服したとする。

 また、駆動に必要なDAコンバータなどの機能は、シリコン駆動基板に内蔵。HMD本体の基板スペース削減にも貢献したという。



■「ニーズとシーズを同時にかなえる」

 コンスーマープロダクツ&サービスグループ ホームエンタテインメント事業本部 第2事業部の加藤滋事業部長は、「世の中にはニーズによって生み出される製品と、新技術を活かしたシーズによって生まれる製品の2種類があるが、その2つを同時にかなえられる製品」として「HMZ-T1」を紹介。ニーズとして、3D映画の広まりに合わせ、家庭で3D映像を楽しみたいという要望が増えている事、シーズとしては、超小型で高精細な有機ELパネルを実現した事や、プロジェクタ開発で培われた光学技術など、ソニーの技術を結集して実現した製品であることをアピールした。

コンスーマープロダクツ&サービスグループ ホームエンタテインメント事業本部 第2事業部の加藤滋事業部長コンセプトは「そこが、映画館になる」実際の視界を再現したイメージビデオも上映された

 製品のターゲット層としては、「大きな画面を皆で楽しむのがテレビだが、映画やゲームを、パーソナルで、しかも大画面を楽しみたいという人。家族がそれぞれ、好きなことをしている時間帯に向けた製品」と説明。

 また、AR技術などとの連携の可能性を聞かれると、「HMZ-T1に使われている技術は、色々な応用が可能だと考え、様々な検討をしている。ARなどのアイデアも出ているが、具体的な製品や技術という段階にはまだきていない」と語った。


(2011年 8月 31日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]